見捨てられた俺と追放者を集める女神さま 謎スキル回転砂の真価を見つけだし、リベンジ果たして成りあがる

第25話 隠し事

　目を見開いて驚いたサーシャが俺に尋ねてきた。

「もしかして、アクアさん達とのやりとりを見ていたの？」

「ああ、すまないが見させてもらった。サーシャの表情が暗かったことに加えて、姉妹の雰囲気が険悪に思えてな。サーシャが何かされるんじゃないかと心配になって、隠れて覗かせてもらったんだ。リリスのスキルで真上の樹に移動して隠れてからな」

「そうだったんだ……恥ずかしいところを見られちゃったね。リリスさんの能力ってやっぱり瞬間移動か何かなの？」

　リリスはサーシャの問いに頷き、自身のスキルの説明を始めたので、俺もついでに説明しておくことにした。

　説明を聞いたサーシャは俺達がいきなりドラゴンニュートの背後に現れて助けたことや、ワイルドボアの死体を高所から落として攻撃できた理由を理解できたようで、納得の表情を見せてくれた。

「二人とも凄い能力だね、こんなに強くて汎用性のあるスキルなら次のコロシアムに出場すれば上位に食い込めるかもね」

　サーシャは意図的に虐めから話題を逸らそうとしているように見えた。正直、詳細を聞きたいところではあるが、サーシャにとって負担になる可能性があるから、コロシアムの話題に乗ることにした。

「コロシアム？　聞いたことがないな、どういったものなんだ？」

「簡単に言うと一対一で戦う武術トーナメントだね、毎年この時期に開かれていて、去年も参加者が百人を超える大人数だったんだよ。上位に入れば賞金も出るからパープルズからもフレイムさんとブレイズさんが出るの」

「なるほど、金が出るなら興味はあるな。サーシャは出ないのか？」

「うん、流石にサーシャのスキル忌み黒猫の（ブラック　）拒絶（リジェクションズ）は一対一の戦いには向かないよ、黒猫は色々な能力があるけど基本的に触れなくちゃ発動できないし、黒猫を発動している間はサーシャ自身の動きが疎かになっちゃうから、サポート寄りの能力なの」

「そうか、ちなみにフレイムとブレイズは強い方なのか？」

「うん、確か去年は二人ともベスト１６に残っていたし、今もドンドン成長しているって言ってたから今年は上位に食い込めるかも。サーシャも戦士的な戦い方が出来たらなぁ……そしたら賞金を得て取り戻せる…………あっ……」

　サーシャは何か言ってはいけない事を言ったのか、両手で口を抑えて驚きの声をあげた。視線を下にして顔もどこか引きつっている。

　恐らく『賞金を得て取り戻せる』というワードが言いたくなかった部分だろう。何かお金が必要な状態なのだろうか？　妙な沈黙が数秒流れたあと、サーシャはやや強引に話を終わらせた。

「さあ、水汲みも薬草取りも終わったことだし、一足先にサーシャはフレイムさん達のところへ戻るね、それじゃあ！」

　そう言って、サーシャは逃げる様にこの場を去っていった。

　俺はリリスにサーシャの事情が気にならないかと問いかけた。

「サーシャの言動が色々と気になるな、リリスはどうだ？」

「もちろん気になりますし、何とかしてあげたいとも思いますよ。ですが、サーシャさんの心の闇は相当深いと思うので、どう触れればいいのか分からないんですよね」

「心の闇？　確かに現状色々と大変そうなのは分かるが、心の闇ってどういうことだ？」

「実は私、アイ・テレポートで消耗した体力をサーシャさんのスキルで回復してもらっている最中に、黙ってサーシャさんのスキル鑑定をしたんです。あの場では息切れしていて説明する余裕も無かったうえに、直ぐにサーシャさんのスキルを理解して連携をとる必要があると思ったので」

　そう打ち明けると、リリスは女神族が使えるという『スキル鑑定』の秘術について教えてくれた。

　どうやら二級や一級の女神族でもスキル鑑定が出来るとのことだ。女神長サキエルと比べると大きく劣るものの、リリスも一応スキル鑑定ができるようだ。

　女神長サキエルの場合はものの数秒で先天スキル・後天スキル・魔術適性の三つを鑑定し、それを明記した石版を出現させることが出来るらしく、神託の森で俺がやってもらったスキル鑑定もそれに該当するらしい。

　一方、二級女神のリリスの場合だと、スキル鑑定したい相手の手を十五秒以上触れ続けてようやく石版が出現して分かるらしい。しかも分かるのは後天スキル・先天スキルのどちらか一方だけで、リリス自身も判明したスキルが先天・後天どちらなのか分からないらしい。

　「二級の私はこの程度です」と自虐するリリスだったが、町の神官が大勢集まって長時間かけて行うのが一般的なスキル鑑定なのだから、リリスだって十分凄いわけなのだが。

「こちらがサーシャさんのスキル鑑定をした時に出た石版です。ガラルドさんは古代語が苦手と言っていましたので私が読み上げますね」

「すまん、よろしく頼む」

「スキル使用者　『サーシャ・ラナンキュラ』　スキル名　『忌み黒猫の（ブラック　）拒絶（リジェクションズ）』　使用者が人生の中で積み上げてきた苦痛や大きな傷を起因とした、受け入れたくない気持ちを力に変えるスキルとなる。現在使える能力は五つあり『近づいてほしくない者への重力・斥力の付与』『感じたくない痛み・苦痛を早送りする力』『受けた苦痛を……」

「ちょっと待ってくれリリス！　それはどう見ても人生が反映された結果発現した後天スキルだよな？　だとしたらサーシャはずっと大変な人生を歩んできただろうし、その過去を簡単に他人へ知られたくないはずだ。だったら俺がこれ以上詳細を知るわけにはいかない。サーシャ自ら打ち明けてもらえる、その時まではな」

「打ち明けてもらえるその時まで……ですか？　ってことはこれからもサーシャさんと関りを持ち続けるという意味ですよね？　つまりガラルドさんはサーシャさんを私達のパーティーに勧誘する気ですか？」

「サーシャに色々と事情を聞いたうえで、なおかつサーシャが入りたいと思ってくれたらの話だがな。リリスは反対か？」

「いいえ、我慢強くて人間的にも立派な方ですし、戦力的にも優秀ですから、私も誘うのは賛成ですよ。コイノ　ライバルニ　ナッタラ　イヤデスケド」

「良かった、後半が妙にカタコトだったから聞き取れなかったけど、まあいいや。これで勧誘できるな」

「まずは街に戻ってからサーシャさんとゆっくり話したいところですね」

「ああ、とりあえず俺達もフレイム達のところへ戻るか」

　きっとサーシャは今だけじゃなくて過去にも色々あったのだろう。

もし、サーシャが自分ではどうにもならないことで苦しんでいるなら絶対に助けてやりたいと思っている、俺がリリスに救われたように。そんなことを考えながら俺とリリスはフレイムのところへ戻った。

　フレイムとブレイズは栄養と水分を補給し、歩けるレベルまで体力が回復したようだ。そのまま七人で森を脱出し、シンバードへと戻った。

　今回は俺達がパープルズを救出した形となるので、ギルドからの報酬金にプラスして、パープルズからも少しお礼金を貰えるらしい。明日お金を持ってきてくれると約束してくれたので、日時を決めて今日は解散した。

　明日サーシャと話を出来ればいいなと願いながら、俺は宿で眠りについた。