第14話 ガラルドの特技
ヘカトンケイルの大襲撃を無事乗り越えた俺達は町を出て、北にあるシンバードへ向けて歩いていた。すると前方に大きな沼地が見えてきたところでリリスが提案する。
「ガラルドさん、沼地に入る前に近くの丘へ上がりましょう」
「そのままアイ・テレポートで直進しないのか?」
「はい、理由は後で説明しますね」
そしてリリスの指示に従い、俺達は小高い丘に到着した。周りを見渡すと一面に広がる沼地と所々に岩場や丘が目に入った、それを見て俺はリリスの狙いに気づくことができた。
「そうか、予め高い場所から全体を見て、通るルートを決めておくという事か」
「正解です。私たちは大まかな地図でしか地形を把握できていませんから、どこに視界を塞ぐ丘や岩場があるか分かりません。沼地という低くて足場の悪い場所を無鉄砲に直進してしまうと、アイ・テレポートで飛んだ先が視界の悪い場所になってしまう可能性もあります。体力の消耗が激しいスキルなので極力高さや視界の良さを優先して節約しながら進んでいきましょう」
「了解だ。アイ・テレポートの強みと弱みが結構分かってきた気がするよ」
それから、俺達はコツコツと高い場所を移動し続けて、足にほとんど泥を付ける事なく沼地を突破する事ができた。
普通に歩いて進んでいけば3~5日はかかると言われる沼地であったが、俺達は朝から夕方までの短い時間で抜けることができた。と言っても頑張っているのはアイ・テレポートを使っているリリスだけで俺は何もしていないのだが。
沼地を抜けたところで夕陽が沈んできたこともあり、俺達は川の近くでキャンプをすることにした。
アイ・テレポートを一回使っては10分休み、また使っては10分休みというサイクルで頑張ってくれたリリスは相当疲れているはずだ、ゆっくりと休んでほしいところだ。
俺はあまり器用には扱えない地属性魔術でキューブ型の土の家を作り、
「ありがとうございますガラルドさん、少しだけ休ませてもらったらわたしも……」
言葉を言い切る前にリリスは眠りについた、本当に疲れていたのだろう。自分一人でアイ・テレポートを使っていれば疲れも半分以下だっただろうに、リリスには頭が上がらない。
せめて起きたら美味しいご飯を食べてもらうおうと俺は川へ魚を取りに行き、近くの林でハーブを採取した。それらを使って魚のハーブ焼きとスープを作り、リリスが起きるのを待ち続けた。
二時間ほど待ち続けると、リリスがゆっくりと目を開き、目の前に広がる料理を確認すると飛び跳ねるように起きた。
「わぁ~、ガラルドさんが作ってくれたんですね、凄く美味しそうです、早速頂いてもいいですか?」
「ああ、魚は身がやや硬くて骨も硬いから気を付けて食べろよ」
「はい! では、いただきます!」
「あ、待ってくれ、リリスが食べるのはこっちの皿だ」
「え? 全く一緒のように見えますけど? まぁとにかく、いただきますね」
リリスは寝起きとは思えない程に勢いよく料理を食べきった。蕩けきった幸せそうな顔を見ているとこっちまで幸せになって作ったかいがある。リリスは食べ終わった後、俺がまだ食べている料理を何故か無言で見つめている。
「何だリリス、俺の分も奪う気か? でも今日は頑張ってくれたからちょっとぐらい分けてもいいぞ」
「違いますよ、そんなに食い意地張ってませんから。でも気になる事が少しあって……一口だけいただきますね」
そしてリリスは一口だけ俺の皿のスープを飲んだあとに呟いた。
「私のスープより味が薄くないですか?」
「あ~、今日のリリスはアイ・テレポートの連発で汗を沢山かいたと思ってな、リリスの食べる料理だけ少し塩分などの調味料を多くしておいたんだ」
「いや~~ん、ガラルドさんかっこいい~! いつもどこかぶっきらぼうなところがあるけど、そういう優しい心遣いが堪らないですぅ~」
リリスは急に身体をクネクネさせながら身悶えはじめた。陸に打ち上げられた魚みたいで少し気持ち悪い動きだったが、指摘すると怒られそうなので黙っておいた。
「ガラルドさんは、そんな微調整ができるぐらい料理上手なんですね、今食べた魚も図鑑でしか見た事がない生息地がかなり限られた『カレヒラ』という魚でしたし。そんな素材まで巧みに料理するなんて凄いですよ、私なんてレシピ通りにしか作れませんし」
「へー、そんな名前の魚だったのか知らなかったよ」
「ええ! 知らずに調理していたんですか?」
ギョッとした顔で見つめてきたリリスは恐らく『適当に料理しやがって……』と思っているのだろう。しかし俺は適当になんて作っていない、ちゃんと上手く作れた理由がある、それをリリスに説明してやった。
「これを言うと驚かれるんだが、実は俺、自分でもよく分かっていない記憶があるんだ。触ったことのない素材の味や特徴が分かったり、武具の加工でも素材の特徴が分かっていたりな。これが例えば記憶喪失とかなら理解できるんだが、俺は赤ん坊の頃からディアトイルに捨てられていて、ディアトイルの皆とずっと暮らしてきたから周りの人間も俺がどんな暮らしをしてきたのかを知っているから記憶が無くなっている事実なんてないんだ。だから、俺にある筈のない記憶……いや知識があることに周りの人達は心底驚いていたよ」
この話をすると故郷の人間ですら気味悪がる者もいたが、リリスはそんな顔をせず、むしろどういう経緯で記憶があるのかを推理してくれていた。
リリスは三十秒ほど唸り続けた後に、自分なりの考察を伝えてくれた。
「先天スキルと後天スキルを発現するのは各一個ずつというのは知っていますよね? その点を考慮すると『回転砂』が先天スキルというのは鑑定によって確定しているので、もしかしたら後天スキルなんじゃないですか? 例えば素材図鑑の内容がそのまま頭に入っているようなスキルとか」
「いや、素材情報が分かる時と分からない時があるからそれはないと思うけどな」
「ん~、そうですか。考えてみれば仮に後天スキルだとした場合、女神長サキエル様にスキル鑑定してもらった時点で判明しているはずですからね。とりあえず今後この能力を呼びやすくする為に『
「『
そして俺達は眠りについた。翌朝、沼の少し北から出発した俺達は第二の関門、山岳地帯を訪れていた。
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