第64話 雲なき雷雨(その4、必殺の一撃)
「シグレッタ、やってくれ!」
「はい」
シグレッタがその両手を明るい空に向けてかかげた。まるで元気の玉を作る為に両手の平を天に向ける超有名バトル漫画の主人公のようだ。左手にした指輪、それにつながる水の入った球体がダンジョン内の光に照らされてキラキラと輝いている。そして彼女はゆっくりとその手を下ろしていく。
僕がその様子を見ていると…。
ぱら…。
「ん…」
僕は環境の変化に気がついた。
「雨…?」
空は明るい、それこそ雲ひとつない。
ぱら…ぱらぱら…。さらさら…。
それなのに霧雨が降り始めた。
「雨…だ…」
そう言えば誰かがシグレッタを雨女と呼んでいた。僕はそれを日本でよく使われるこの人と一緒にいると雨になる事が多いぐらいに思っていた。だが、それはどうやら違う。
「か、彼女は雨が呼べるのか?」
見れば布陣の先頭にいるライとシグレッタの姿が雨に霞んでいる。きっとここよりもう少し、向こうは雨量が多いのだろう。シグレッタ、雨を降らせる能力の持ち主…?
「仕掛けるわ…」
ライに代わり馭者席で隣に座るルイルイさんが呟く。僕にはそのへんはサッパリ分からない、おそらくこれが戦いのカンというやつなんだろう。そしてライが愛用の…、サリナスさんを真似て使っているという槍を空高く掲げた。きっと雷の力を集めようというのだろう。
戦いが始まろうとしていた。
……………。
………。
…。
「雷神よ…、我に力を貸し与え給え。ぬううううッ!!!!」
ライが魔力を込める、その槍が輝きを増した。そこに豪雷が落ちる、先日より強い
「頃合いだ…。この雨、敵の体をしかと濡らしたであろう。我が渾身の雷…、敵の隅々まで駆け巡る…。シグレッタ、もう一働きしてもらうぞ。我が道を示せ」
シグレッタは
かしゃん…。
静かな音を響かせる弩、それをシグレッタは片膝を着き静かに構えた。座射の姿勢である。そしてその弩の台尻に右頬を当てた、ここまでくれば子供でも次に何をするのか分かるだろう。そう、狙撃である。
「中が中空の
落ち着きはらった声でシグレッタは
「薄くした鉄の板を筒状にして作るもの…。錆止めを兼ねたその塗装は色により意味を伝える、手紙すら書けぬ危急の際の矢文として…」
シグレッタは右手の人差し指を引き金にかけた。
「その色が今、雨中でも目立つ導きとなる」
ちらり…。
弩を支える左手の親指と人差し指と中指の三本、残りの二本のうち一本…薬指から下がる球体をシグレッタは確認する。
「敵の中心、すなわち核となる一匹ッ!見える…、そこッ!!」
そう呟くと息を止め、シグレッタゆっくりと絞るように引き金を引いた。
びぃんっ!!
ぶすっ!
ウラデミィー達が残していった肉を
そのうちの一匹、ちょうど中心に位置する個体の口に矢が突き刺さり紫色の体液が飛び散った。
「キシャアアアアアッッッッッッ!!!!」
食事を邪魔されリンクキャタピラーが怒りの声を上げる。
グワッ!!
リンクキャタピラーは頭部を高く振り上げると次の瞬間、一直線にライとシグレッタに首を伸ばした。
「待っていたぞ、その体勢ッ!!一直線に伸びたきったその状態ッ!お前はもはや死地にいる!貫け雷、輝ける槍となりてッ!!」
ライは空高く掲げていた槍を振りかざした。穂先から
「
放たれた
「鉄でできたその太矢は当然雷をよく通す、それに雷はまっすぐ伸びる。その伸び切った長蛇の如き体勢…、雷撃が貫いていく。徹頭徹尾…、まして雨に濡れたその状態…。駆け巡る雷撃から逃れる術は無い」
片膝の状態からシグレッタが立ち上がりながら言った。
「敵に時を与えるな、残敵を速やかに殲滅する!特殊な個体だ、逃してはためにならん!」
部下達に指示を飛ばしながらサリナスさんが連動して仕掛けた。女性騎士達が遅れるなとばかりに続く。すでにリンクキャタピラーの集合体は雷撃により壊滅状態だ。しかしなんとか生き延び、この場から逃げようとする動きをしているものもいる。それを残さずに討伐しようというのだ。
既に大勢は決していた。ほとんどのリンクキャタピラーは雷撃によって息絶えており、残ったものも死んではいないものの重傷、あるいは感電してノロノロとしか動けなかったりとまともに戦える状態ではなかった。だが、ここで見逃して回復してしまえば今回の経験を学んだより手強い敵になる。見逃せるはずがなかった。
「掃討完了」
時間にして二十分か、三十分くらいか。一匹残らずリンクキャタピラーを倒したサリナスさん達。
強敵と思われたリンクキャタピラーだが、サリナスさん達に怪我一つなく終わってみれば完勝という形で戦いは終わったのである。
□
次回内容、考え中です。
ちなみにこの物語に今まで出てきたキャラだと誰の人気が高いんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます