ねえ勇者様?

卯月

乙女が見た走馬灯

 ねえ勇者様、おぼえてますか?

 私と勇者様がはじめて会った時のこと。


 あの時私が住んでいた村はゴブリンの群れにおそわれて、いっぱい人が死んで。

 生き残った人たちみんなで教会に立てこもったんです。

 でもとびらが壊されて、ああもうダメだって思った時。

 颯爽さっそうとあなたが助けに来てくれたんですよね。


 すごかったなあ。

 数えきれないほどいたゴブリンたちをあっという間にやっつけちゃって。

 

「もう大丈夫だ!」


 って笑顔で言うんだもん。

 もう本当に物語の主人公みたいで。

 こんな人が本当にいるんだって、後にも先にもあんなに感動したことはありませんでしたよ。


 私もあなたみたいなキラキラした人間になりたくって、無理なわがままを言ってパーティに入れてもらったんですよね。


 でも、全然うまくいかなかった。

 キラキラした人たちの仲間になれたら自分もキラキラした人間になれるかもって、そう思っていたけれど甘かった。

 新人神官だった私が活躍できる場面なんて全然なくって、いつも後ろの方で見ているだけでしたもんね。

 回復魔法も勇者様のほうが私より上手だったし。


 冒険を続けているうちにすごい人がドンドン仲間になっていって。

 そのうちドラゴンとかデーモンとかロボットとか、冗談みたいなのも仲間になっちゃって。

 私は商人さんやスライムちゃんたちと一緒に第二軍のお世話役をするのがすっかり定番になっちゃった。


 大きな街にとどまって、ちょっとしたクエストなんかを仲間たちに手配するのが私のお役目。

 たまに小さなコインや魔法のタネなんかが見つかると、勇者様すっごく喜んでくれましたよね。

 

 ふと、商人さんに言ったことがあるんです。


「私たち、勇者パーティっていうより酒場のお姉さんですよね」


 って。そしたら。


「人にはそれぞれ得手えて不得手ふえてっていうものがあるのさ」


 って言われちゃった。

 あの時はなんか涙があふれちゃったな。なんでかな。


 でもね、私も何もしていなかったわけじゃないんですよ?

 いつか大変なことがあるかもって思って、自分一人でこっそり頑張っていたんです。

 だって私たち第二軍って、そもそも戦いにむいてない人とか、あとはケガ人や病人ばっかりじゃないですか。

 だからいざって時は私が、って。

 そう思っていたんです。




 だから、これでいいの。

 初めからそういうつもりだったから。




 戦士さん、魔法使いさん、あなたたちはこれからも勇者様をささえる、絶対に必要な人たち。

 ここで死なせるわけにはいかないんです。

 

 どうか泣かないで。

 私だって勇者パーティの一員なんだから、これくらいやらないと、ね?


 大丈夫ちゃんとやれる。

『この魔法』だけはレベルとか相性とか関係ない。

『この魔法』だけは上級魔族とかなんとかそういうの関係ないから……!


 商人さん、第二軍のことをよろしくね。

 スライムちゃん、商人さんのことをしっかりささえてあげてね。

 さようならみんな。

 さようなら勇者様。

 たまには私のことを思い出してほしいな。


 バイバイ。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 魔王が支配する領域にもっとも近い大都市ボーダー。

 ここを魔王軍に強襲されるという事件が起こった。

 ボーダーには当時勇者パーティの第二軍が常駐しており、これの迎撃にあたった。

『六英雄』とたたえられた戦士と魔法使いが現地にいたものの先の戦いにおいて重傷を負っており、戦闘には参加できず。

 古参メンバーの一人である若い女性神官がおのれの身を犠牲にして自爆魔法を使用、あわや大都市壊滅の危機を救った。


 戦後、帰還した勇者は女性神官の死を知り、


「君を傷つけたくなかったから後方にいてもらったのに……!」


 と落涙したという。 

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ねえ勇者様? 卯月 @hirouzu3889

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