城ケ崎先輩の役に立たない出会いのアイデア

タカば

城ケ崎先輩の役に立たない出会いのアイデア

 うちの大学には変な先輩がいる。


 名前は城ケ崎芽衣子。

 一年先輩の彼女は、そこそこの頻度で大学にやってくる、そこそこ不真面目な学生で、結構な頻度で俺についてきて、そこそこの時間まで俺の部屋にいりびたる。

 そして、毎回独自のアイデアを披露するが、だいたい役に立たない。


 実に面倒な先輩である。


「真尋くん、いいことを思い付いたぞ」

「……何ですか」


 そろそろ日も沈みかけようというころ。

 いつものように人の家のこたつでごろごろしていた城ケ崎先輩が、むくりと起き上がってそう言った。


「つまり、私は真尋くんと別れたらいいんだ」

「ほえ」


 変な声が出た。

 いつもいつも意図のわからない発言が多い城ケ崎先輩だが、今日のこの言葉はわけがわからなさすぎた。


 別れるってどういうことだ。

 城ケ崎先輩が俺の家に来なくなるっていうことなのか。

 うちのこたつでごろごろしたり、わけのわからない屁理屈をこねたり、俺の作る料理を食べたり、そこそこたわわな胸が揺れるのを鑑賞できなくなるということなのか。


 いや、問題はそこではなくて。


「今度は何を思い付いたんですか」

「先日、神社でおみくじを引いただろう」

「そんなこともありましたね」


 買い物帰りに、城ケ崎先輩の急な思い付きでふらりと立ち寄った神社。中吉だった俺に対し、先輩は見事凶を引き当てていた。


「おみくじには新たな出会いが福を呼ぶと書いてあった。しかし! 私のようにコミュニケーションが苦手なぼっちが、新たに人と出会うなど、これほど難しい課題はない」

「……はあ」


 俺の前では得意げに屁理屈をこねてるけど、基本的に人見知りの内弁慶なんだよな、この人。


「そこでだ!」


 ぐい、と城ケ崎先輩は顔をあげた。

 そこそこたわわな胸が、たゆんと揺れる。


「一旦真尋くんと別れて、新たに出会い直すというのはどうだろうか!」


 あまりにくだらない別れの理由にめまいがした。

 そんなしょーもないアイデアのせいで、俺は振り回されたのか。

 ほっとすると同時に、じわじわと怒りが沸いてくる。


 どうしてくれよう、このアホ。


 俺は城ケ崎先輩の手に触れた。

 なめらかな手の甲を指先でつうっとなぞる。


「別れる、ということは俺たちつきあってるんですよね?」

「ほえ」


 今度は城ケ崎先輩の口から変な声が出た。

 あわあわとおもしろいくらいに動揺すると、きょろきょろと辺りを見回す。俺の部屋の中に、先輩の助けになるようなものは、何もないと思うが。


「な、ナシ! 今のアイデアはナシで! この話はおしまいっ!!!」

「そうですか」


 俺は城ケ崎先輩の手を離した。


 今日も城ケ崎先輩のアイデアは、役に立たない。





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