さようなら、また会う日まで
高山小石
なにかを成し遂げるためというよりも体感するために
口の中が砂混じりなのはいつものことだ。
汚れた髪が汗で肌にはりつくのも、服の中がじゃりじゃりして気持ち悪いのも。
銃を抱えて身を隠す兵士の日常だ。
なんで戦ってるのかなんて、実際のところよくわからない。
上から言われて、それしか生きようがないから。
火薬の匂いが立ちこめる中で、生き残るために必死なだけだ。
もし、女だったら違ってたのかな。
自分が男じゃなくて女だったら、こんな場所にいなかったんじゃないか。
埒もないことを考えていたら、聞き慣れたミサイルの接近音がして、意識が途切れた。
☆
あれ?
今なんだか、へんなユメを見ていた気がする。
でも、もう、思い出せないから、きっと気のせい。
おやつを買いに歩いてたんだから、ユメなんか見るはずないもん。
「あぁ、よく来たね」
だがしやのおばぁちゃんはチョロ過ぎると思う。
わたしが小さい女の子だからって油断しすぎ。
いっつも値段以上分のおかしを渡しているのに気がついてもいない。
そんなんで大丈夫なのか。
なんてノンキな国なんだろう。
国ってなんだ?
まぁいいや。はやく友達と合流しないと。
男の子と一緒に木のぼりやスカートめくりをしていたら、「女の子はそんなことしちゃダメ」って言われた。
女もキュウクツなんだなって思った。
国が平和なのはいいけど、男の意向にそわなくちゃならなくて、思ってたほど自由じゃない。
わたしは女になりたかったはずなんだけど。
なりたかったってなんだ?
☆
見慣れた青い夕焼けに不思議な感じがして、じっと見ていた。
久方ぶりに会う友と、ゆっくり語り合うにふさわしい時間。
透明で暗いのに明るい青い夕焼けは、私も友人もお気に入りだ。
でも、夕焼けって青かったかと思う自分がいる。
建物や車のカタチさえ違っていたような。
意識すると、小さな違和感がいくつも上がってくるが、今はそれを検証する時間じゃない。
長年の友と100年ぶりに会えるのだから。
☆
この人と友達になりたい!
ドキドキして、同性のクラスメイトに声をかけるのすら緊張した。
良かった。また仲良くなれた。
また? またってなんだ?
この学校で初めて出会ったクラスメイトなのに。
でも、この人とは、どれだけ離れていたって、また会えた時には、いつもみたいに、なんでも飾らないで話せるって妙な確信がある。
だから顔を見た瞬間、どうしても友達になりたいって思ったんだ。
☆
いくつもの自分が、いくつもの世界の、いくつもの時代に降り立つ。
降り立つ前に、いくつもの私が、いつかの家族や友達、いつかの敵や味方、初めて出会う人、たまたま通りかかった人、手の空いてた人と約束をする。
細かくてとても作れないような、精密な織物のような約束をする。
みんな、なにかを学んだり学び損なったりして戻っていく。
そしてまた、約束をして降り立つ。
ひとつではわからないことを体感するために。
出会いと別れを繰り返しに行く。
さようなら、また会う日まで 高山小石 @takayama_koishi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます