綴られる言葉に崩れ落ちる勝手に作り上げたイメージ

『蒼い時』山口百恵(集英社文庫)  


 どのくらいの年代の人が山口百恵という歌手をご存じなのだろうか。現在では三浦百恵とその名を変えているが、恥ずかしながら発売から1か月で100万部を超え、12月までに200万部を超える大ベストセラーになった自叙伝をまったく知らなかった。


 本の帯にはナミにのってすいすいとあるように、飾らず自然な文章はとにかく読みやすくその言葉通りスイスイ読み進めていける。ただ、ヒットした歌の数々、TVなどで見た華やかな印象とは異なって、複雑な生い立ちを始め、芸能人としての生活の裏面、さらには恋愛や三浦との初体験までが赤裸々にエッセー形式で綴られている。


 どのような思いでこれを書き出版しようと思ったのかとついつい余分なことを想像してしまったりもする。ファイナルコンサートが1980年であるからかれこれ24年前ということになる。


 本作を刊行したのが引退直前の同年9月であるから彼女はまだ21歳。結婚、そして引退とこれを書くことによって何か区切りを付けたかったのかもしれない。あくまでこれは個人的な想像だ。


 私自身がいったい、いつ、どこで、どんなふうに生まれたのかを、私は知らない。


 出生で綴ったこんな一文からも華やかなスターであった彼女のイメージは脆く崩れていく。もちろんこれは勝手に作りあげたイメージに過ぎないのだが、さすがに驚かないわけにはいかない。


 しかし、それを目にしたところで女優でも歌手でも人に言えないことなどたくさんあるのだからよくぞ打ち明けたと称賛したい。笑い話ではないだけにこれは勇気のいる事だからだ。


 末永く幸せでいて欲しいと読み終えて静かに願った。

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