偶然の出会いから始まる寄らず離れずの奇妙な関係

『神様がくれた指』佐藤多佳子(新潮文庫)  


 この話に出て来るどこかパッとしない、あるいは掴みどころのない女性に比べると、圧倒的に男性の心情が全編に染み渡っている。特に早々に展開される出来事はリアリティに富んでいて、生々しい描写がスリルを与えてくれる。まさかその手の仕事に就いてたわけでも、やられた側の体験談でもあるまいが、そう思わせるほどしっかり絵が見えて来る。


 とは言えタロットに関しては興味もないものとしては、入りが悪かったりもするので、この辺りの文面は刻まれる前に消えてしまう。つまりは空白な部分になってしまうらしく、結果ページの進みが悪くなる。


 出所した日に迎えに来てもらった知り合いの財布が電車内で抜かれるところを、スリである辻牧夫は目の当たりにする。見たところ若そうだがその手口は神業に近かった。誰が教え込んだのか、財布を取り戻そうと相手の後を追うも、最後は呆気なく倒され命よりも大切は利き手に怪我を負ってしまう。


 そこに偶然通りかかったのは別名、マルチェラと名乗るギャンブル好きのタロットの占い師。本名は昼間薫である。


 ここから二人の妙な関係が始まるのだが、全く繋がらないようで、実は密かに繋がっていたりもする。これはよく言う世間は狭い。あるいは人の縁の不思議な部分かもしれない。

 

 辻が借りを返すとばかりに犯人探しをする過程を前菜とするなら、犯人グループの一人を見つけたところからは宛らメインディッシュで、ハラハラさせられ読みごたえも満点。さてどうなる。恐らくこの辺りで水でも加えないと読者が沸騰してしまうと思ったのだろう。


 エピローグはまさにそれだ。

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