人生でたった一度だけ。あるとしたら誰に使う
『ツナグ』辻村深月 新潮文庫
一生のお願いなどは子供の時に何度も使った記憶があるが、死者に会うことなどはさすがに考えたこともない。あまりに非現実的。だが、有り得るとしたらいったい誰を選ぶか苦悩に苦悩を重ねるに違いない。
使者と書いてツナグ。
それは死者と生者との再会を仲介する特殊な能力を持った人間で、その秘められた方法は人から人へと受け継がれてきた。会えるのは人生でたった一度だけ。それも互いに望まないと成立しないのである。
本書は五章に分かれていて短編集にも思えるが、それぞれの話が最終章でうまく繋がりを見せる。もちろんツナグという仕組みについてもだ。それぞれに味わいがあって心を揺さぶられるが、前回読んだときは待ち人に心打たれ、今回は親友に涙腺が緩んだ。ストーリーの見せ方もうまいが、時折現れる詩人を思わせる文章にも注目されたい。
こんな文章が書けたらと趣味で書き物をしてる方なら一度や二度はため息が漏れるのではないだろうか。
読了と共に思ったのは、やはり誰に会いたいかと言うことで、あれこれ考えてはみたが、実際のところ答えには窮してしまう。簡単そうで意外とこれは難しい。安易に使って良いものか、これから使うべき人がいるのではないか。これは歳を重ねるほどに難しくなる一方かもしれない。
しかし、仮に可能だとしたら大枚を払う価値は十分にある。もっともツナグはあくまでボランティアなので一切お金は掛からないというから、依頼人が戸惑うのは無理もない話だ。
いつの日か、何かの縁でツナグに会って、何物にも代えがたい時間を味わってみたい気もする。
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