それゆけ! ソーイチローマン!
はるにひかる
「キャ―――――――!!!!!」
ビルの谷間に、女性の悲鳴が響く。
倒れた女性の
そう、引っ手繰りだ。
女性のヒールは折れ、追い掛けられそうに無い。
「誰かーー! その人捕まえてーーー!! 引っ手繰りですーーーーっ!!!」
悲痛な叫びが、更にコンクリートジャングルに響き渡った。
――そう、こんな時はあいつがやってくる。
ソ―イチロマンが!
♪ チャーラーチャッチャラッチャーー ♪
♪ チャッチャッチャーーーーチャラッ ♪
「……この曲! 来てくれたのね?! ソーイチローマン!」
不意に鳴り響いた音楽に足を止めた引っ手繰りの逃げ道を塞ぐ様に、1人の男が立ち塞がった。
シルバーヘアーにグレーのスーツ。
そう! 彼こそが! 米寿を迎えるソ―イチローマン!
「な、な、何だお前は!」
おっと! どうやらこの引っ手繰りは!
1987年から続くあの朝まで生でお届けされている討論番組を見ていないらしいぜっ!!
「へっ、お前みたいなやつ、全然――」
「ちょっとあなた!」
「ひっ!」
ソ―イチローマンは物凄い勢いで引っ手繰りに詰め寄った!
彼の得意技は突撃取材だ! どんな相手でもまずは懐に飛び込むぜ!
批判をするのはそれからだ!
「何でこんな事したんですか! あの女性に悪いとは思わないんですか!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ! まだ俺が喋ってんだろうが!」
「――でもあなたは今、あの女性のバッグを奪おうとしている! それが許されると思うんですか! どうですか!」
自分の話を遮られた上に無視されて、引っ手繰りは既にタジタジだ!
ニヤリといい顔をするソ―イチローマン!
論客に良いツッコミが出来た時のその顔を、俺達は見たいんだ!
ソ―イチローマンは、中学の時から教師が指導に使っている“虎の巻”を手に入れて、その中から意地悪な質問する様な子供だったらしいぞ!
「だから待てって!」
「ええっ! 何でしょう!」
今度は聞く体勢に入ったソ―イチローマン!
聞く時はちゃんと聞くぜ!
「ヒーロー物だって、悪の幹部が喋っている時に攻撃するのはタブーだろ!」
「何でですか! 何でダメなんですか! タブーなんですか! 僕バカなんで、バカでも分かる様に教えて下さい!」
引っ手繰りの言葉に食って被せるソ―イチローマン!
イカした男には、タブーなんて関係無いのだ!
「――ちっ、うっせーなー。わーったよ! 返すよ、こんなバッグ!」
引っ手繰りはソ―イチローマンにバッグをぶつけ、その隙に逃げてしまった!
「あっ――」
名残惜しそうに引っ手繰りに手を伸ばすソ―イチローマン……。
そう、奴はフェイストゥフェイスで会って話を聞いた人は、根本からは嫌いになれないんだ!
直ぐに引っ手繰りは見えなくなって、ソ―イチローマンは倒れた女性に手を差し伸べた!
「大丈夫ですか、お姉さん。バッグは無事ですよ」
「……は、はい、ありがとうございます……」
女性を起こしたソ―イチローマンは、
「あ、あのっ! お名前は!」
「……ただのしがないジャーナリストです……」
「宜しければ、この後食事でも――」
「申し訳ありません、今夜は、大事なバトルが有るんで」
そう言い残して、ソ―イチローマンはその場を後にした!
「……あ、今日は生テレビ、か……。見なきゃ……」
その背中を見詰めながら、呟く女性……。
――おっと、正体がバレてるぜ、ソ―イチローマン!
♪ チャーチャーチャッチャラッチャッチャッチャッ ♪
夜の帳が降りた街に、テーマ曲のラストの音と、女性の高鳴った鼓動が響き渡った!
ありがとう! ソーイチローマンッッッ!!!
✙✙✙✙✙
ソ―イチローマンは今日も行く! 言論統制なんて許さない!
頑張れ、ソ―イチローマン! それゆけ、ソ―イチローマン!
目の黒い内は表現の自由を守っていく!
俺達も一緒に戦うぜ!
それゆけ! ソーイチローマン! はるにひかる @Hika_Ru
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