神剣使いの異世界転生
あずま悠紀
【0】
「勇者よ、異世界への来訪を歓迎します」
女神はそう言って、俺は目が覚めていた。いつの間にか、白いコントラストを背景に、とても現実的とは思えない空間にいた。
もしかしたら夢でも見てるのではないかと思っていたが、明らかに現実世界であった。五感がはっきりしすぎている。
まるで仮想現実のような感覚である。だが、夢にしては意識や五体満足の現実すぎる。
(ここはどこなんだ?そして君は誰?)
俺の前に、美しい少女がいたのだ。彼女は微笑みながら言った。
「ようこそいらっしゃいました。私の名前はアリスティア・フォンティーヌです。以後お見知りおきを」
「えっ……?」
目の前に立っているのはどう見ても日本人ではない美少女だった。それもただの外国人ではなく、テレビの中でしか見られないような完璧な容姿の持ち主だったのだ。髪の色と瞳の色は銀色だ。彼女の着ている純白で上品な服と相まってまるでアニメのキャラクターみたいな感じだと思った。
そのあまりにも綺麗すぎる顔を見て、思わず固まってしまう。そして言葉を失う。なぜなら目の前にいるこの女の子から圧倒的な神性を感じたからだ。しかもこの少女の美しさは並外れていて、その美貌だけでも圧倒される。
そして同時に、彼女からは不思議な魔力のようなものを感じていた。まるでファンタジー小説に出て来る女神様そのもののような雰囲気を持っているのだ。それこそ、彼女が本当の意味での『女神』ではないかと疑ってしまうくらいに…… 俺は戸惑いながら思った。こんな可愛くて美人さんがどうして自分のことを"勇者様""異世界への来訪を歓迎します"などと言って来たのか理解できない。それに、そもそもここって何処なのかわからないんだよね……。
(ねえ君、ここってもしかして日本じゃないよね?それに異世界とか言ってるけど何のこと?)
「はい、貴方は今日から私が住んでいる世界――アースガルズへとご招待いたしました」
アースガ―ルズだと……!? アースガルドっていう名前は北欧神話に登場する国の名前で、そこに住んでいた巨人族は人間族によって滅ぼされてしまい、その後は巨人の死体から生まれたとされる小人だけが生き残り繁栄したという国らしい。ちなみに巨人族の生き残りはアース神として崇められているようだ。つまりは巨人たちの神であるオーディンが住む世界ということらしい。
そんなところに何故自分は連れてこられたんだろうか?
(どういうことなんだ……)
「詳しい話は後ほどさせていただきますね。まずは私の世界に転生していただけないでしょうか?」
俺が困惑して黙り込むと目の前の銀髪の少女は俺に向かってそう尋ねてきた。そして続けて俺に話しかけてくる。
その口調はとても優しく丁寧で、こちらのことを気遣ってくれているということがよく伝わって来た。だからだろう……つい彼女に言われるままに了承してしまった。それはもう反射的にである。俺は目の前の女性に対して何か安心できるようなものを感じていたからだ。だから自然とうっかり了承してしまった。それが間違いだったとも知らずに…… すると銀髪の女神(らしき女性)はその返事を聞くと嬉しそうな顔をすると同時に魔法を使ったみたいだ。次の瞬間、俺の周りの風景が真っ白になるとともに体が宙に浮かび始めたのだ!そしてそのまま俺は吸い込まれるように彼女の方に引き寄せられたのだ。そして気が付けば…………こうして俺――桐島和也はこの日から異世界へと転生することとなったのだ。そして、後に自分が巻き込まれた事件の数々について思い知ることとなっていくのだが、この時点では全く予想すらしていなかったのだ。……これから先の人生が大きく変化するとは……この時の俺はまだ全く思ってもいなかったのだ…… (うわあああぁぁぁ!!!?)
俺は謎の光に引き寄せられるようにして引き込まれた。まるでブラックホールに飛び込んでいくかのような錯覚を覚えながら……
***
そして数秒経った頃だった。俺の周囲は再び眩しいほどの白い光が覆っていたのである。それと同時に浮遊感も消えていた。一体ここはどこなんだろうと不安になりながら辺りを見回すとそこには広大な森が広がっていたのだ。しかも周りに生えている木々の高さは明らかに異常であった。
(これは木なのか?いや、でも普通の植物とは違うよな……だって見たことのない形だし)
周囲の景色を見ながら俺は呆然とした。目の前にある大木たちは、地球の常識を超えた異常なまでの成長を遂げておりとても現実離れした姿をしていた。例えば、高さ数十メートルの樹木から枝分かれしたかのように、その枝先には何十倍もの大きさをした実のようなものが生っているのが見えるからだ。
まるでファンタジー小説に出てくるような巨大樹の森だと思ったその時、ふいに頭の中に声が響いた。そして俺はこの世界で生きるためにこの世界についての情報を詳しく知ることになるのである。
(おめでとうございます!元気な男の子ですよ!!)
(よく頑張ったな、これでこの子は俺たちの家族だぜ!名前はなんていうんだろうな~)
それは生まれて初めて聞く両親の声であった。とても懐かしい感じのする声ですごく落ち着く感じがした。だが、その直後のことだった――……俺の視界は完全にブラックアウトしたのである。
(えっ……何が起こったんだ……まさかこの世界って、そういうところなの!?マジかよ……でもなんかやけに落ち着かなきゃいけないような予感がしてきたぞ……とりあえず状況を整理しないと……まずはステータス確認からだろ)
目の前には相変わらず巨大な木々が立ち並んでいる光景が見えた。この空間が何処なのかはわからないがどう見ても地球上の生物がいるとは思えない場所であることは確かだった。そして何故か俺はこの場所にいるだけで妙に落ち着いた気分になっていたのだ。それはなぜか……自分でもよく分からない。とにかくこの空間にいることが心地いい感じがしたのだ。まるで心が休まる場所みたいな感覚だったのだ。……それにしても、この体は何なんだろうと思った俺は早速調べてみることにした。その結果、とんでもないことがわかった。まず、俺は転生してから数日しか経っていないことが分かったのだ。生まれたばかりなのに自分の意志で行動ができる理由はおそらく女神の力で成長が促進されているからだと思う。
しかし、まだ未熟なので完全に制御できてはいないらしく、意識が途切れそうになった時は決まって赤ん坊のように泣くことで意思を伝えたのだ。すると両親はそれを理解してくれて俺を抱っこしてくれる。俺はそれが嬉しくてまた泣いた。……それにしても驚いた。まず、ステータスを確認した時に表示された文字化けの文字の意味を理解できたからである。
【名】『キリュウ・リク』
【種族】人間族 【性別】男性/0歳(幼児期生後5か月~6カ月)
レベル1(0/1000000)
体力 10億/10億/10億 魔力 1兆2000万/11京8000兆 攻撃力 99999兆 物理耐性力 9999兆9999億9999万9895 魔力量 100000/12京 精神力 8500億 素早さ 7600億 状態 普通 【能力値】『神能』
筋力 900億 魔力 5100万 体力 4800 知恵 700万 魅力 6000 幸運 5000
(何なんだ、これは……?)
これが自分という存在の情報なのだと理解するまで時間がかかった。というのも俺自身が自分の能力を全く把握していない上に、ステータスの数字の桁がおかしかったからだろう。……正直に言って俺はこの時パニックに陥っていた。それもそうだ。自分のステータスを見た途端に、こんなありえない数値が並んでいれば誰でも戸惑うはずだ。
そもそも俺のレベルと魔力があまりにも規格外すぎる。俺自身でさえ未だに実感が湧いていないのだ。
「うー、あうぅ」
(あれ?言葉って喋れるんだ?)……試しに俺は喋ってみた。
しかし、口から出てくるのは自分の耳に聞こえる声であって、まるで赤子の鳴き声にしか聞こえないのである。それなら、どうして会話は成立しているのか不思議でならなかった。そのことに少し疑問を抱いた時、突然頭の中に直接語り掛けられるような感じで女性の声のような物が頭に響く。
(はい。今あなたがおっしゃった言葉はすべて私の脳内に伝わりました。あなたの脳が私の言葉を認識しています。つまり私は、この世界の『管理者』であり『管理人』でもあるため、直接相手の考えていることを理解することが可能なのです。だから、私が念じることによりあなたの脳内に言葉を届けることが可能なのです。……まあ、簡単に言うとこんな感じですね)(へぇ~そうなんですか。それで、貴方は一体どっちの立場の人なんですか?)
(どちら側?と申しますと……)
(つまり神様とか女神とかの側の人なのかって話だよ)
この世界を管理しているということは、神様みたいなものなのか?と思ったのだ。そう考えた方が納得できると思ったから聞いてみたのだ。
(はい、その通りです。貴方の言っていることは正しいですよ。正確には『女神アリスティア・フォンティーヌ』と『女神リディア』と『大女神アリア』の3人で世界を運営しています)
やっぱりそうなのか……と、俺は理解した。……それにしても、すごい数の神様の名前がポンポンと出てきたなぁ……。しかもそのすべてが女性の神様だったし……いやいや、そもそも異世界に召喚されたって何の話なんだ…… 俺がまだ困惑して黙り込むと目の前の美女はこう告げてきた。
(あらら、混乱してしまってるみたいですね。とりあえず私の自己紹介をしておきましょうか。初めまして桐島さん。私の名前は『アリエスティア・ファムニルト・ルミナリア・アースガルズ(長いので略してアティスと呼んで下さいね)と言います。年齢は215歳で見た目年齢が20代後半ぐらいに見えると思います。実は、私が地球にいた頃からあなたが死ぬ直前に私が担当していたのです。そして私の役目は貴方の転生後の人生のサポートをするためにここにいるということなのです。つまりこれから貴方が生きて行けるようお手伝いさせてもらうのが私の役目になります。ちなみにこの世界には現在、『勇者』と呼ばれる存在が二人と、あと一人存在していました。……それが何者かの手によって殺されてしまったせいで再びバランスが乱れてしまい大変なことになっているんですよえっ!?どういうこと!?この世界には『勇者』『賢者』そして『魔王』が存在するのです。そして本来なら三人の候補者の中で、もっとも素質が高い者がそれぞれ選ばれるのですが、その前に一人の人物が殺されてしまい候補がいなくなってしまったことで、この世界では現在新たな人材が生まれるまでのバランス調整が行われています。そのために異世界の人間から適性の高い人物を選出しこちらの世界に転生させることにしているんです)
(……もしかして……もしかしなくても、俺は選ばれちゃった系?)
(もしかしなくて、そうです!この世界は今、大変危険な状態になっています。このタイミングで桐島さんが死んでしまいこの異世界に転移するはずだった『主人公』がいなくなったことが大きな原因となっているのかもしれません)
俺は衝撃を受けた。この目の前の女性……いや女神様はこの俺にこの先何かとんでもない事態が待ち受けていることを予見していたのだ。
でもなんでだ……?なんの理由もなくそんな重大な役割の奴がこの世から消え去るなんてありえないだろう。それに『主人公』だって別に悪いことしたわけじゃないだろ…… それにこの世界の危機って一体…… 俺はこの先の展開についていろいろ考えてみるが、全く思い当たる節がなかった。
「あっ……」俺は思い出した。自分があの日死んだ時の状況についてだ。確か、学校帰りに横断歩道で青信号だったのに渡ろうとした時にいきなりトラックが突っ込んできたような気がするが……………………もしかしてこれって俺が主人公だったのか?……いやいや、待てよ……俺はそんなこと言われたら困ってしまうんだが……俺にチート的な力を与えてくれたのもこの自称『女神様』の人だった。俺の人生が滅茶苦茶になったのはこいつのせ……って違う!俺は確かに死にたかったんだよ。
この世界に来てからは俺にも希望の光が差したように思えた。だけど、それでも俺はまだ生きていたかったんだ。なのに、それなのに……!
(ああああああああああ!!!!!ふざけんなよこいつ!勝手に人の人生を狂わせやがって!!)
怒りのあまり我を忘れそうになるがなんとか堪えた。まだ赤ん坊なので感情をコントロールするのは容易ではなかった。だから今は大人しくすることにした。それにこの体の持ち主がこの女性に対してどんな態度を取るかも気になっていたからだ。だが、この体の持ち主は何故か平然としたまま、何も気にした様子を見せずにただ黙っていたのだ。
(あらら……随分落ちついていますね。普通の人間なら泣き叫ぶなりなんなりの反応をすると思うんですけどねぇ……それに……なんかこの方からは不思議な力を感じる……それに、どこか私に似たような感じが……う~んどうしたらいいんでしょう……とりあえず事情を説明したほうがよさそうな感じですね。……とりあえず、まずはこれを読んでもらいましょうか)
(うぉっ……なんか本が飛んできたぞ……何々……『マニュアル本 初めての方向け!』って……この体の元の人格は初心者だったのか?)
(ええ……まあ、そうですね……というより、今の私は一応『女神アリスティア・フォンティーヌ・エルフェンティーナ・シルヴァニア(略して女神Aと呼んでください。この方は『管理者』であり『管理人』であるために私の名前を知っていてくださると話が早いと思います。……まあ、とにかくその『勇者候補』である貴方にはこの世界を救ってほしいと思っているのです。もちろん見返りとして相応しいものを与えるつもりなので安心してください))
いやまあそれは分かった。要は俺が転生させられた理由についてはよくわかった。……それで、結局どうして俺は『主人公』に選ばれてこうして異世界に来たんだ?そもそも俺が選ばれた理由はいったい? その理由を教えてほしい。俺はそのことを尋ねてみると(はい、わかりました)と返事が返ってきたので質問をぶつけたのだ。すると……
(……この世界の均衡が崩れた原因は私の責任なのです)……この世界のバランスを乱している原因は自分が作り出したのだという。
(私は地球の時代からずっとこの世界を見てきました。……いえ、見守ってきたといった方が適切ですね。私はこの世界に住まう者たちのことが好きですから)
そしてこの世界のバランスは、本来は俺がこの世界の主人公となってこの世界を救うべく運命に導かれるように、主人公の器を持った者が『勇者』となり『魔王』を倒すべきという流れになるはずなのだという
(……え?ちょっと……待ってくれ。その話を整理させてもらっていいか?)
(はい、分かりましたわ。では順番に説明しますね)……彼女はそう言うと丁寧に語り出したのである
(……今言った通り、本来ならばこの世界には、桐島さんと同じく主人公である桐島和也さん(以下カズヤと省略いたします)が主人公となるはずでした。彼は『勇者候補』の中でも、最も優れた存在であると認められた人間で、かつ私の管理している異世界に干渉できる存在なのです)
(……つまり、俺は『主人公』ではないってことか?)
(ええ、そういうことになります)……どうも、彼女によると『女神アリスティア・フォンティーヌ・ルミリア(略称女神アリア)』がこの世界に召喚されるときに手違いが生じて、『主人公』は『主人公候補であるはずの者』を選んでこの世界に連れてくる予定になっていたらしい。だから『主人公』は異世界にいるはずだと…… そして実際に異世界にやってきたのは桐島さんだけで、残りの2人……いや3人かもしれない…… とになくその人たちも同じようにこちらの世界に来ているのではないかとのことだった。しかし彼女たちも既に『管理者』たちによって別の異世界へ飛ばされているということだった。(でも、桐島さんはそのおかげで助かったのですよ。普通であれば貴方の魂は肉体から離れ、転生するために消滅してしまいます。でも私の加護により、貴方の意識を保存できたのが幸いしました)
(……そうなのか?じゃあなんで『主人公』と他の2人は俺とは違う場所に送られてるんだ?)
そこで彼女が答えてくれる(はい、貴方の場合は私がその世界へ転送するために貴方だけ特別扱いさせていただいているのです)……そしてここから先は話がややこしくなるのだがと断っておいてからこう続けた
(実はその桐島さんと同じ日にもう一人この世界に送り込む予定だった人間がいたので、桐島さんは、その子の代わりに選ばれて送られたということなんです。だからあなただけがこの世界に来てしまったんです)……どうやら俺は、本当は『主人公』になれるはずの人材だったというのだ……しかし運悪くこの異世界で死ぬ前に俺が死んだので、その代わりにこの体になったというのが事の真相らしい。
しかも彼女の話では俺以外の『主人公』候補は全員、すでにこの異世界で冒険を繰り広げており、『勇者』となっているそうだ。しかも、それぞれ強力な仲間もいるとのことで、まさに勇者パーティという状態になっているのだとか。そんなところに突然現れた主人公がこの俺だという…… しかも俺がこれから行く場所は、彼女たち勇者のいる国とは敵対関係にある隣国の領地なのだと……つまり、これから勇者と敵対する羽目になってしまうらしい……
(えっ……それマジで?勇者に敵対とか絶対に無理じゃん!てか、いきなりゲームオーバーになっちゃったよ俺!!)俺は、いきなりこの先の人生が終わったことを悟った。もう俺の目の前に光が差し込むことなど二度とないと確信できてしまった……だが、そんな絶望感に打ちひしがれていた俺に彼女はある言葉を投げかけた。……それは俺にとって希望とも言えるものだった。俺には想像を絶するような『才能』があったらしく、俺がその気になればこの世界でも無双して生きられる可能性を秘めていると言うのだ。そしてそのためにはまず、俺自身の強化が必要でその方法を教えるためにここにやってきたということだ。そして、俺の強化に必要なスキルを与えるということだった。
(よし、決めたぞ。……この俺に力を授けてくれたんだからお前は神みたいな存在だと思って接していくから覚悟しろ!そして俺はこの世界で必ず成り上がって見せるぞ!!)(はい、頑張ってください。でもくれぐれも無茶だけはしないでください。……あっ、ちなみにこの体は今の状態でも普通の人間よりもはるかに強くなっていますの。それと魔法に関しても、今のままの年齢の体では魔力の放出量はそこまで高くならないのです。でも心配いりません。この世界に来てから数日の間に魔力の総量を増やしたり魔法の威力を高める方法を伝授するつもりです。なのでそれまでは基礎的な身体能力を鍛えることに専念してください。まずは自分の身の安全を確保し、この世界のことについて理解しなくていけませんね。それからこの世界を救いましょう!さあまずはこの本をどうそ)……そう言って本を手渡された。そして次の瞬間、またしても体が吸い寄せられ始めたのだ!
(ちょっ……おい!?いきなり何を……ってああー!!俺はまだあんたの名前すら聞いてねえんだぞ!!!待てこらああぁあー!?)俺の絶叫が木霊するが無視されてしまい、俺の視界が白くなり意識が途切れた。
次に目が覚めた時にはまた真っ白い空間にいたのだ。今度は赤ん坊ではなくちゃんとした人間の姿で。
俺はこの日、自分が生まれ変わったことを自覚するのであった…… 俺の名前は桐島和也(きりしま かずや)。どこにでもよくいそうな平凡な男である。趣味は漫画を読んだり、アニメを見たりすること、特に最近はスマホアプリで遊べるオンラインゲームにはまっている。
俺は高校一年生で17歳のごくありふれた男子学生だった。だけどつい先ほど、学校帰りに俺は車に轢かれそうな猫を助けようとして死んだはずだったんだが……
(……なんだここは?どこだここ?)
俺の意識はまだはっきりしない感じだったが、徐々に覚醒し始めていく。俺は気が付くと真っ暗な闇の中に一人で横たわっていた。だが、すぐに周りが明るいことに気付くと、自分が誰かの部屋の中にいることに気が付いた。
(えっと確か俺……車に撥ねられて死んで……あれ?てことは……ここってまさか天国?)
(あはは……まっさか……俺がそんなところに行くわけがないって。……だってあの後まだ何も食べてないし、そもそも死んじゃってるなら何か食べ物を口に入れて感じる感覚なんて味があるはずがないもんね)
そう思いながら起き上がると自分の部屋よりも明らかに広い部屋に寝かされていたことが分かった。それにこの豪華な装飾が施された家具たち……まるで高級ホテルのロイヤルスイートルームのような場所なのだ……とそこでふとある考えが頭に浮かんだ。
(もしかして俺……異世界転生したのか?うぉぉぉおおおっ!!!きたきたこれこそラノベの王道展開!!異世界に来たからチート能力ゲットしたんだろうけど、その辺のところを確かめなければ!!)
俺が興奮を抑えられずにいると、どこかからか女性の声で「きゃあ」と悲鳴が上がった。どうも部屋の外に誰かいたようで俺が起きた音を聞いて驚いていたようだ。俺はとりあえず外に出てみることにしたのだが……
(お……女の子?え?なんでこんなところに?てかなんでメイド服を着てるの?……コスプレ?)
そこには銀髪の美少女が驚いた表情をして立っていた。彼女はどうやら俺のことを覗き見していたみたいで、「あ……あわわ……」と狼に見つかってしまった子兎のように固まってしまっている。そして俺と視線が合うと、そのまま顔を青ざめさせて震えているではないか…… 俺もどうしていいか分からず困惑してしまう。
(やばいやばいやばい!!何この状況……てかさっきの声はこの子のだよな……ということは……もしかしなくても……)
俺はその先の結論を予測して恐ろしくなってしまった。そして予想は的中してしまった。
(ご……御機嫌麗しゅうございます、カズヤ様……ってあれ?)
(やっぱりこの娘……)
俺はその少女が『女神』であることに気づいたのだ。なぜなら彼女は、桐島和也が『主人公』になったときに出会うはずのメインヒロインの一人で『勇者』である『勇者候補』の一人で名前は『女神アリア・リリスティア』だったからだ。
そして彼女が言うにはどうも『主人公』ではない俺を間違えて連れてきてしまい、そして俺が目を開けたと同時に思わず悲鳴を上げてしまったのだということらしい。
(うわぁ……どうしよう……俺もかなり動揺してて状況把握するのに手間取ったんだけどさ、俺どうやら異世界転移したみたい……まぁ……やはり……ですか)
(うん、そうよね。そんな気がすると思ったわ)……なんとこの女、人の思考を読んでいるらしい。しかもどうやら心を読めるというわけではなくて俺の心の中を直接読み取っているようだ……
(……ええ……その、大変申し訳ないのですが貴方が異世界に来てしまって本当に困っているようなのでこうして助けに来て差し上げたんです。そして私はあなたの『サポート役』になります。よろしくお願いしますね。桐島さん)
(は、はい!分かりました!よろしく!ってちょっと待てぇ!!いきなり呼び捨てかよ!?)……俺が抗議をしようとした時……
(あら、すみません。桐島さんのことがどうしても他人とは思えないものですから……私のことも同じ名前で呼んでいただいて構いませんよ)
(はい?どういう意味でしょうか……えっ……てか、なにそれ?……俺のことを呼びやすい呼び方で呼べばいいということ?いや、そうじゃなくてですね)……そして、俺の混乱はますますひどくなっていった……
(あの……それでは改めて自己紹介をしましょう。私の名前は『アリエスティア・ファムニルト・ルミナリア・アースガルズ』……長いので略してアティスと気軽にお呼びくださいね。年齢は215歳で見た目年齢が20代後半ぐらいに見えると思います。……で……あなたも『主人公』になりたいという気持ちは変わりありませんか?)
(え……そりゃまぁなりたいのは変わらないですけど……ていうか……この体……どう見ても日本人じゃないし、顔も外国人そのものだからこの世界って異世界ですよね。なのになぜに日本語を話せるのでしょう?)
(はい、それはあなたがいた世界の言葉ではなくて、こちらの世界の言語を話していますからね。そしてあなたに言語習得の能力を与えておいたので、あなたもこの世界にある言語はすべて理解することができるようになったんです。だからもう普通に喋れますよ。それではこれからの事を説明しましょうか)……そういうと彼女の方からいろいろ教えてくれたのだった。そして彼女の話を聞くうちにだんだん俺の頭の整理がついて来たのだ。
(えっ!?この体はもう強化されている状態なんですか!?それどころかこの国の最高戦力レベルの戦士並みの力を持っているだと?それって最強レベルじゃん!)
(いえいえ……そんなに褒めても何も出ませんよ。この世界の一般的な戦士の平均で大したことないですし、そんなに強いというわけでもないんですよ)
(そ、そうなんだ……てかその強さの基準ってどのくらいの強さなんだ?てかそもそも俺にはチート的な能力は授けられないんじゃなかったの?それに……)俺は、疑問に思っていたことを全てぶつけてみたのだった。すると彼女は丁寧に答えてくれた。
どうやらこの世界での一般的な力というのは一般人で100人分の戦闘能力があるらしい。そして俺の場合はその一般兵の100倍もの力を持つらしく、その上俺に付与された能力の中には魔法を強化する能力もあるらしい。だがこれは、俺の持つ固有スキルという奴で俺しか使えないとのことだ…… だが……
(あ……でもさ……俺に魔法が使えるのか?魔法とかよく分かんないし使い方もよく分からないんだけど)
(はい、心配はいりません。私がちゃんと説明すれば理解してくれるはずですからね)
(いや、でも魔法に関しては実際に見せてもらった方がわかりやすいと思うんだよな)
(そうですね……でもここで使うわけにもいきませんから少し外に行きましょうか)……そして俺たちは城を出て町の外に出たのだ。
そこで見た光景を一言で言うなら『ファンタジー映画に出てくるみたいな町の風景』というのがピッタリだろう。石造りの建物や木造の建築物などが混在している感じだった。俺は、まず彼女に質問をすることにする。
俺は彼女からもらった能力を試すことにした。俺はまず目の前の岩に狙いを定める。
(う~ん、やっぱりこういうので威力を確かめるしかないよね……えっと、確かこう唱えるんだよな……ええーと、【火弾】!!うぉおおおお!!なんか出てきたぁあああっ!!!)
俺の手の平からは炎の玉が出現させ岩に向かって一直線に飛んでいったのである。
(これが魔法なのか……マジで異世界なんだなぁ……ってこれ結構強くないか?)
(ふふふふ、すごいでしょ。ちなみにその魔法の熟練度を上げればその属性系の上位魔獣ですら簡単に倒せるようになると思いますから頑張ってくださいね。ただ魔力の消費量も多いので使いすぎに注意するといいかも知れません)
(おぉ……これぞ異世界だ……やべえ……俺今テンション上がっちゃっていますね)
(それで……ええと、次は何を試せば……あれ?……体が光って……ってこれってもしかして?)
(あはは……そういえばすっかり忘れてましたね……ええと、ステータス画面を確認してもらえますか?)
(ああ……ええと、これかな?って……なんじゃこりゃぁっ!!)俺は驚いて思わず叫んでしまった。なぜならそこには、 筋力 5500億 魔力 4800万 体力 3600 知恵 7700 魅力 6000 幸運 20000 という数字が書かれていたからである。
(ふふふ、驚いているようですね。ちなみに今の数字は平均的なもので、その5倍近くになるんですけどその力はあなたにしか使えず他の人はどんなに強くなっても1~3割ほどしか発揮できないんですけどね)(へぇ~そうなんだ、てかさ……こんなことしたら、俺ヤバいんじゃ……だってチート能力の塊だよ?これって絶対ヤバイ能力持ってるはずだよね?ヤバいな……もしこれで『魔王』なんて呼ばれたりしたら目も当てられないことになるよ……あぁあ、失敗したぁ!!)
(あぁあ……気にしているのはそこですか……まぁ、大丈夫ですよ。あなたの能力はそんなことでバレたりしないはずです。それとさっき言ったとおり、あなた以外にこの数値を見た人がいなかったら誰もあなたが異常な能力を持ってるとは思わないので問題なしです)
(そっか……良かったぁ……って、この身体能力が異常じゃないのか?)
俺が安心する一方で俺のチート能力にビビッてしまう。
(まぁその辺の話は後でいいでしょう。今はそれよりももっと大事な話をしないといけないことがあるんです。それは『主人公』になることを諦めていないということでいいんですか?)
(え……ええと……その……はい、諦めたくないと思っています。せっかくこうして新しい命を手に入れたのですから)
(……そうですか、それはとても素晴らしい考えだと思いすよ。……では……私と一緒に戦ってくれますか?)
(え……戦う?い、いや、戦うっていうと、その戦いは俺が『主人公』になれるように手を貸してくれるってことですか?)(違いますよ。……『主人公』はあくまでも自分で見つけないとダメなので、私があなたにできることと言えばサポートぐらいですね。でも『勇者候補』である私たちにできないこともたくさんあるのです。あなたにはそれを一緒に成し遂げて欲しいと思っているのです)
彼女が言っていることがいまいち理解できなかったが、彼女が真剣にそう考えていることは何となく分かったのである。そして彼女が『勇者候補』の一人であるということは何となくわかっていた。
(俺なんかで役に立てるかどうか分からないけど頑張ります!)
(ありがとうございます。あなたならそう言ってくれると信じていました。これからは二人で頑張ろうじゃありませんか)……そんなわけで俺は彼女のサポートを受けることになったのだった。……だが俺は、この後とんでもないことに気がついてしまった。なんとこの世界の人たちは『固有スキル』というものを持っていないということなのだ。だから俺が使える『火弾』『土柱』などの攻撃系魔法の呪文は全て無詠唱ということになる。
さらに魔法は属性系統ごとにランクが存在していて初級魔法はレベル3、中級は4、上級は6、最上級は9と決まっているようだ。そしてこの世界に暮らす人間の多くは1〜2種類程度しか適性を持たないらしいのだ。
(そうだったんですか。……でも俺に魔法を習ったので使えるようになったりするんですかね?)……そんなことを思ったのだがどうやらそれは無理らしい。どうもこの世界の人々は元々持っている適性以外の属性魔法を習得しようと試みることはめったにないらしい。
(そうなんだ……じゃあ俺の『固有スキル』も使えないんだな……)そう思って少し残念に思う。……が、次の言葉でそれが覆されることになるとはこのときは想像すらしなかったのだ。
(ううん……それは違うと思います。だって桐島さんが手に入れた固有スキルはどれも強力な物ばかりですからきっと魔法も同じように覚えられるはずです)
彼女は断言して見せた。(本当!?)
(ええ、間違いないです。ですが……それでも桐島さんの体はかなり特殊ですので普通とは違う方法で魔法を覚えてもらうことになりそうですけどね。まずはその魔法を練習しましょうか)
(はい!……ところで俺ってどうやって魔法を覚えるの?)
(まぁ、簡単な話ですよ。まずは魔力を感知することに慣れてください。魔法を使うための魔力を感じ取れればすぐにでも使えるようになりますからね)
(分かりました)俺は、彼女に言われて早速やってみることにした。
(魔力を……感知……ってどうすればいいんだろう?)……そして、俺が困っている時、
(……ああ、それなら私の方からアドバイスしましょうか?)とアティスは親切に教えてくれたのだった。どうやら俺が魔力を探りにくいのはこの体に原因があるらしい。この世界に住む人々のほとんどは、自分の体の中を流れる"魔力"を感じることができるらしくその感覚を頼りに発動させるらしいのだ。
(なるほど……そうなんだ。ならまずはそれをやっていけばいんだよね)俺はまず、体内にある魔力を感じ取ろうと集中することにしたのだった。
俺は、意識を自分の内側に向ける。すると今まで全く気づかなかったのが不思議に思えるほど大きな何かが存在していることが分かった。
(おおっ!これかな?これが魔法を発動させるための核になるんだよな)……俺は、自分の内に存在する不思議な力をゆっくりと動かし始める。すると次第に大きくなっていくその力はだんだん手に収まり切れないほどの力へと成長していくのが分かる。
(うぉおおおおお!!これヤバくないか!?どんどん大きくなっているぞ!でもなんか気持ちよくなってきた!なんかもう何でもできる気分になってくる!!これが魔力なんだ!!……よし!もっと大きくなるんだ!!……お……おおおおお!!なんだこれっ!?)その時、突如として魔力の動きが激しくなり、それに比例したかのように体が熱を帯び始めたのである。そして次の瞬間、爆発的な力によって周囲の空間が歪んで見えると、そこからまるでマグマのように激しく燃える炎が出現したのだった。
そしてその炎は俺の意思に関係なく辺りに放たれて行ったのである。
(……ん?……へ?ちょっ、ちょっと待てええぇえっ!!……うわああああああっ!!!!!……ああああああ!!や、やめろっ!!……な、なんだよこれええぇっ!!やめてくれ!!……なにぃいっ!!こ、こっちくんなあぁぁ!!うわああっ!!……こ、こいつぅ!!あ、あつい……あぁあ……やめて……やめてくれええぇぇ!!……ううっ……な、なんて奴だ……や、やるなこ、こ、こんちくしょう……ぐすっ……こんな目に合うために生まれてきたのか?……なに?……そ、そうだ……これは悪い夢なんだ……っておい!!……お前の仕業だろ!!何とかしろぉぉぉ!!!)
俺がそう叫ぶとその現象はすぐに終わった。そして目の前には驚いた顔の女性が立っていたのである。……その女性こそが俺のサポート役をしてくれることになった人だと気づいたのはしばらくしてからのことであった…… 俺が異世界に飛ばされてから二週間が過ぎた。その間に色々な事があった。例えば、俺の魔法があまりにも強力だったため、訓練のために近くの山や森などに被害を出してしまった。そのため、あの時の女性の人から怒られたのだった。そして次に魔法のコントロールを完璧にするべく特訓に励んだ。そのおかげなのか俺の『火弾』や『土柱』といった属性系統の攻撃魔法の威力は日に日に強くなっていた。……だけど俺はそのことで逆に悩んでいた。
(俺は本当に主人公になれるような人間なのだろうか?正直なところ不安でしょうがない。この世界に来るまでの人生は散々なものであったからな……もしこの世界で生きていくことになっても主人公になることは果たして出来るのであろうか? まぁとりあえず今は自分にできる事を精一杯やって行くしか道はないけどね)……そう思っていたある日のこと、この国の王城にてパーティーが開かれるという話を聞いたのだった。なんでもそのパーティーに参加する者は『勇者候補』に選ばれる可能性の高い者たちだけで行われるらしい。(そんなに期待されてるのにどうして誰も勇者候補になれないでいるのかな?)そんな疑問が浮かんだが特に興味がなかったので気にしなかった。それよりも今は魔法の練習をしておきたかったからだ。……そんなわけで魔法が自由に使えるようになってからずっと練習していたのだが一向に上手くならなかった。
(一体なぜだろう?……なんでこの世界の人々はみんなこんなに凄まじい破壊力を持った攻撃系の呪文を自由に使えるようになっているんだろう?)そう、この世界の人々はなぜかこの世界でもトップクラスの強さを誇る種族の人達でさえ中級魔法以上を使うとなればかなり消耗するらしいのだ。だから俺が魔法を使い続けても疲れたりしないということは異常だというのだ。……俺はそのことをとても不思議に思った。
(でもこの世界に来てからは前よりも遥かに調子が良いんだよな。この世界にはまだ俺の知らないことがたくさんあるはずだから色々と調べたほうが良さそうだ)……そんなことを思いつつその日もひたすら修行に励んでいた。……だがこの日は少し違った出来事が起きたのだ。
(そういえば今日って、王様から勇者候補として召喚された者だけが参加できるパーティーが開かれてるんじゃないのか?しかも今日の参加者は全員『勇者候補』に選ばれやすい者達だって話だしな……そんなことを聞いてしまったからつい好奇心が沸いて来たな……俺にも『主人公』になれる機会があれば良いんだけど……そんなわけないよな)
俺の能力は『主人公補正』とか『運命を変える程度の能力』と呼ばれているらしくてこの世界の人々には未知のものらしいのだ。……俺としてはむしろチート能力が欲しかったので『主人公』になるべく努力しているつもりだったのだが、それでもやっぱり『主人公』には程遠いみたいだったのだ。そんな俺が、この国の王が主催する『勇者候補』だけの豪華な食事会に呼ばれているのだった。俺としてもこの世界に来てから初めての外の世界の料理には興味があったが、それと同時に面倒なことに巻き込まれないか心配でもあった。しかしそんな心配はする必要はなかった。何故なら俺は『固有スキル』を使えて普通の攻撃系魔法ならば無詠唱かつノーリスクで使用することが可能だからだった。
そうして俺の異世界での二度目の冒険が始まったのだ。だが俺はまだ知らなかったのだ。この先に俺に降りかかる数々の事件が待ち受けていたことを……そしてその最初の事件が起きようとしていることをこの時の俺はまだ知る由もなかったのだ。
(あれは誰だろう?……でも、すごく可愛い子がいるなぁ。俺と同じぐらいの子か?でも……なんだろ、彼女からはどこか他の子とは雰囲気が違うっていうか、オーラが半端ないんだよなぁ。なんか近寄り難い感じがするような……って、何で見とれてるんだ!俺もそろそろ挨拶に行かないとダメだよね。よし、行くぞ!……)
俺がその少女とすれ違う直前、突然声が聞こえた。
「桐島さん、あなたも招待されていたんですね。良かったら私達と一緒に参加しませんか?」
振り返るとそこには俺が見惚れていた少女がいたのだ。俺はこの時、彼女と会う前に自分が何をしに来たのかを思い出していた。そうして俺はその女の子――神条 美鈴さんに連れられて、一緒に食事を摂ることになったのだった。……そして俺はこの時初めて彼女の名前を知ることができたのである。
(綺麗な人だったな……)そんなことを考えながらも俺は緊張のあまりまともに食べることが出来なかった。
(う〜ん、美味しそうな物がいっぱい並んでるけど味がほとんど分かんなかったな。俺、全然会話出来なかったから気まずいだけだったな……はぁ)
そして俺はその部屋を退室した後、あてもなく会場をうろつくことになったのだった。
(それにしてもすごい数だったな。あんなのが全部『勇者候補』って言うんだから恐れ入る。それにしてもなんだろう?俺の予想が当たっていたなら多分彼女は『ヒロイン枠』って奴だよな?……でもなんか俺とはレベル差があり過ぎて恋愛対象にはならないような気がしてきたな)……そんな風に思っている時だった。急に声をかけられて驚く羽目になったのだ。……ちなみにそれは美少女であった。
(ふーむ……なんともまぁ見事な胸の発育具合だなぁ……この子は、確か……ええと……あぁそうだった!)俺はそこで思い出すことに成功するとすぐに話しかけたのだった。
俺は、自分の目の前にいる女の子がクラスメイトであることを思い出すとすぐに自分の目的を果たそうと話しかけることにした。だが…… その途中俺は、この子の胸に目を奪われてしまい、そのことに気付かれてしまったのだった。そして、それから数分後……なぜか俺はその子によって説教される羽目になってしまっていたのである。……何故かその女の子の話を聞いていたら俺が悪いように言われてしまっていたのは謎であったが……どうやらその女の子は自分と同い年くらいの子が、この場に呼ばれたにもかかわらず、まるで大人のような態度だったのが気に入らない様子だったのだ。そして、そのことを指摘され、恥ずかしくなって、その感情のやりどころがなくなったという感じである。……そしてその後、結局この子は自分の部屋に俺を連れ込むことになるとそのまま俺の泊まっている宿まで来ることになるのだった。……こうして、俺のこの世界で初めてできた友達?が出来たのだった。そして次の日、俺は『魔法剣技』というものが存在することを知りそれをマスターすることに決めたのである。
俺はその日、『魔法剣技』について学ぶためにその習得が可能な場所へと足を運ぶことにした。そして辿り着いたその場所で俺はある光景を目にすることになる。そこでは複数の騎士と兵士が戦闘訓練をしているところだったがその中に明らかに一際存在感を放っている者がいたのである。……俺は、その圧倒的な強さとカリスマ性を放つ女性に見とれていたが、不意に彼女がこちらに向かってくることに気づいたのだった。
「お前は何者だ!ここは子供の来るところではないぞ!」
「おい、止めとけ。彼は昨日、陛下によってここに招待された少年だ」
すると、女性は驚いた顔をしていたが直ぐに元の真剣な表情に戻ったのだった。
「そうか、お前があの時の小僧か……」
俺は何も言わずにただ黙ってうなずいていた。
そして……この瞬間から……物語は始まることになるのだった……
(……ん?……ああ……そう言えばそうだったな……すっかり忘れていたぜ……それじゃあやるか。さっさと終わらせないと色々と不都合な事態になるからな……って、なんで俺がこんな事考えてるんだ?)
「……それで、君の目的は何なのかな?まさかとは思うけど僕の暗殺とかじゃないよね?……まあいいや、それより僕と戦ってみたくない?もし勝てたら君の要望通り僕は何でもするよ?例えば……君の奴隷になるとかね」……なんという提案だろう?正直に言って俺は今、この人が言っていることを信用していないのだが。この人にはそんなことをしなくても人を従わせるような雰囲気が確かに存在しているのだ。そして、俺はそんなことより気になっていることがあった。
それは、目の前の女性の外見が先程までとは別人のようになっているからである。……おそらくこれがこの人の本性なのではないだろうだろうか?だとすれば、やはり侮れない相手なのかもしれないな。そんなことを思いつつ、俺の目の前にはその見た目からは考えられないほどに強いであろう人物が現れたのだった。
そんな状況に俺は少し焦っていた。なぜなら相手がその力を十全に発揮できる環境を整えつつあるからだ。
そんな状況の中、俺はどうにかしようと考えていたが、この人は魔法を使うつもりはないらしい。
(はぁ……仕方ないな……少しだけ本気にさせてもらうか……この人と本気で戦えるいい機会だし、試したい事もあるからな……『主人公補正』がどれだけ使えるのか確かめる絶好の機会だ。とりあえずは『主人公補正』の発動条件を確認しておく必要があるから、そのことについてはこれからの課題にしていこう)……そう考えつつも俺は目の前の状況に集中するべく集中力を高めていく。
そして、お互いに準備が整ったことを確認した俺は相手に手加減抜きで攻撃することにした。
(俺の『固有スキル』の一つに、俺の身体能力を飛躍的に向上させる『固有スキル』『身体強化(フルバースト)』があるが……これは俺自身の魔力をかなり消費する上に、この状態が長時間続けば確実に死に至るだろうな。だけど今の俺にとっては、そこまで大きな問題にはならないだろう。だから今回はその二つの能力を『固有スキル』の力を借りることで同時に使用することを決めたのだった。そうすることで俺の能力値が大幅に上昇していられる時間も格段に長くなるからな)
俺はまず最初に『固有スキル』の力で自分自身を強化し、相手の攻撃を難なく回避することに成功した。しかし、それだけでは相手を倒すには至らなかった。だから、今度は武器を使った攻撃に移行することにする。
だが、いくら強力な『魔法剣技』といえども生身の肉体だけで戦い続けることは不可能だと判断した俺は、『勇者の加護』の『魔法剣技・勇者式魔法剣』を使うことで、その効果範囲を広げていくことに決める。そしてこの作戦を実行に移す前にまずは相手から距離を取ることにする。
そうして、ある程度の間合いを取ったところで俺は『勇者の加護』の効果範囲内にある自分の体に魔法をかけたのだった。……その結果俺は一時的に『身体魔補助』を発動させることで、更に能力値を底上げすることになった。そして、そんな状態の俺を見て向こうの方からも動きがあったようだ。
そうしてお互いの動き出しはほぼ同時だった。しかし……俺は既に『固有スキル』を連続使用していることでかなりの疲労感に襲われ始めていた。
(まずいな……このままいくと俺が負ける可能性が高いな……だからそろそろ終わりにするべきだよな)
そして俺は『固有スキル』の効果が切れると同時に行動を開始した。まずは相手が持っている『魔法剣』を無力化するための準備をする。そのためには相手が持っている杖を奪えば良いと考えた。
(しかし……本当に速いし強いなこの人……やっぱり普通に強いな。それに『魔法』が凄まじく多彩だったし。この世界にはあんな化け物みたいな奴がまだまだいるんだろうなぁ。まあそんなことを考えるのは後回しにするか。今は目の前の敵に勝つ方が大事だな)
俺が自分の『魔法剣』を使おうと思ったその時、相手が俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。そして、俺の意識はそちらの方に向いたがために自分の『魔法剣』の使用が遅れてしまうことになった。
だが、俺はこの時すでに相手の懐に入り込んでいた。俺と敵の距離は殆ど無く、俺の攻撃の方が早く届く状態にあったのだ。
そして俺が繰り出した攻撃は……相手の防御が間に合わなかったようで直撃させることに成功する。そしてその一撃により、相手を戦闘不能の状態にまで追い込むことに成功したのだった。……それから数分後に目を覚ました敵は俺を見るなり怯えていたようだったが俺としてはむしろこっちに非があることは分かっているつもりだったのである。そして、この一連の出来事によって、俺に戦いを挑んできた相手はこの国の王様の娘さんだったことが分かった。その後、この人は、この国に伝わる伝説の『聖女』と呼ばれる存在であることが判明して俺は困惑することになる。……ちなみにその後この人からは謝罪を受けることになったのである。
「私はなんて恐ろしい奴を怒らせてしまったのだろう……この私でさえあいつにだけは勝てる気がしないんだ……それほどまでに奴の戦闘に対するセンスは高いんだよ……まぁそれは置いといてだ……君はどうしてこの城にいたんだ?」……そんな質問に対して俺は正直に答えることにしたのだった。
そういえばこの子はこの城に呼ばれて来たんだっけ?でもなんでなんだろうか?……まぁどうでもいいや。この子の話を聞き終わったら僕はすぐに帰るとしよう。……そんなことを考えながら目の前の少女に目を向けた俺は少女の話に耳を傾けることにしたのだった。
それからしばらく俺は彼女の話を聞いていたのだが、途中から彼女は泣き始めて、そのことに戸惑ってしまったのである。
どうやら彼女は、俺のことが気に入ったらしいが……それが何故だかは俺にも分からなかった。……いや、正確には分かってはいたのだがその理由を口に出すことが恥ずかしくて出来なかったのだ。そんな感じだったのだ。そして……この瞬間に彼女は俺にとんでもない約束を持ちかけてくるのである。その内容は……
「君がこの私の師匠になるのだ!この国に住めるように私がなんとか説得しておくから!君もこの国に住むことになるはずだから!これからよろしく頼む!」……そう言った後俺の顔を見た彼女に、その言葉を聞いた俺の反応を待っていたような様子が見られたため、俺は断ることも出来ず、この子について行くしか無いんだろうなと思ってしまうのだった。
そして、この日の内に俺は王城から出ることになりその足で街を歩いて回ることになった。その途中でこの世界のことや『勇者召喚』のことなどについて色々と知ることが出来た。この世界には大きく分けて四つの国が存在していて、今現在俺が滞在している国はその中でもかなり大きな部類に入るらしいのだ。この国の名前はアルストリア公国と言い、この世界に数ある小国の中でも特に優秀な国なのだそうだ。この国には大きな特徴があり、この国で生まれ育った者は皆『特殊スキル』を所持している者が多いということだ。そのことは俺が今最も欲していたもので、是非俺も手に入れたかったのだが、この国で暮らしていく以上いつかは習得出来るかもしれないということだったので俺は我慢したのだった。ちなみに『特殊スキル』と言うのは特殊な技能を持った人間が発現しやすい『固有スキル』とは違うもののことを言うらしい。……そして俺は今街の大通りで屋台の商品を食べ歩いているところだ。その最中、俺は目の前に現れた女の子によって、突然俺の手を引っ張られて路地裏に連れていかれたのだ。
「なぁ!あのさ!……ちょっといいか?……いや、全然大したことじゃないんだが……」
「……」
そんなことを言ってきたこの子に、少しイラつきを覚えたが俺はまだ子供だしそんな事をしても意味がないと考え無視して歩き出そうとしたが……。その俺の考えを見透かされたのか腕を強く握られたことによりそれは叶わなかった。
「はっ……なに?もしかして僕に何か用があるの?じゃあさっきの話は嘘ってわけ?」……なんかすごく嫌な気分だな……それに少し面倒くさいし……。はぁ……こんな事ならもう少し大人しくしていてくれば良かったかなぁ。まぁ今更遅いか……それともまだ引き返すことができるかもしれないな。よし、聞いてみることとするか……もしかしたら……この子を納得させることが出来るかもな……。……そう思った俺は試すつもりでこの子の誘いに乗ってみることにする。
それから少しの間俺はこの子と雑談のような会話をしていたのだが、そこでようやく本題に入ることになった。そしてその話の中身は…… どうやら俺に稽古をつけてほしいらしい。それも、とても厳しくしてほしいらしいのだが、この子が言うには俺は既にその実力を持っているらしいので俺は断ろうとした。しかし、その時俺の中でこの子はこの国から出る時に役に立つのではないかという考えが頭に浮かんだのだ。だから俺は仕方なく承諾することにしたのだった。
そうして俺達は修行を開始するために森の中に移動することにした。だが移動の最中俺は、この世界での『ステータス』について確認しておきたかったことがあったので、早速俺は『固有スキル』を使うことにした。……しかし、俺は『固有スキル』を使ってみて、あまり驚かされることは無かった。……何故かといえば、このスキルは今までの俺が努力してきた結果だったからだろうと思うからだ。
この『身体魔補助』というのは元々俺が持っていなかった能力値を大幅に上昇させる効果を持っていたので、このスキルがあれば俺はかなり強くなれるのではないかと思ったのだ。だが俺の予想は間違ってはいなかったがかなり甘い考えだったようである。この能力は使用者が使用していない時に比べて身体能力が大幅に落ちるのだ。しかも、使用中の体力消耗が半端ないのだ。そのため、使い続けるのは非常に危険なのである。……そして俺は改めて自分のステータスを確認すると『勇者の加護』の『固有スキル』の『魔法剣技・勇者式魔法剣』のレベルが上がっていたことに気がついた。この『固有スキル』はレベルが5上がるごとに新しい『固有スキル』を覚えることが出来、今の『魔法剣技』には新しく、『魔法剣士技』というものを習得することが出来るようになった。俺は早速使ってみようとしたが……残念ながら俺はこの魔法を使えないことが判明した。
それからしばらく歩くと俺達の周りは深い森に包まれた。
そして、俺は目の前にいる少女に、自分の今の『固有魔法』が『魔法剣』と呼ばれるものだということと、『固有魔法』の使い方などを教えることに決めたのだった。
それからしばらくすると目の前にいたはずのその子が俺の視界から忽然と消えていた。だがその事に気づいたのは俺が『身体魔補助』の効果範囲から出ていたため、体中を襲う強烈な疲労感に襲われた後のことだった。
(なんだこれ!?急に凄まじく身体に力が入らなくなったぞ!これはまるで俺の体が限界を迎えたような……って……まさか……)
そのことに気づいた時には既に遅く、俺は力尽き地面に倒れる。
それからしばらくして目が覚めた俺の前に立っていた人物がいた。俺は最初それが誰か分からなかったが、よく見るとそれがあの子の顔をしていることが分かり驚いたのである。
その後俺は彼女に助けてもらったことでお礼を言うと共にこの子と一緒にいることになってしまった。そしてその後俺達は、この場所を拠点として修行することになったのだ。ちなみに俺が目覚めた場所は、どうやら俺達が拠点にしようとしている場所だったようで俺はホッとしたのだった。……そしてその日の夜に彼女はとんでもないことを言い出すのである。そして……彼女はとんでもない約束を取り付けてきたのだ。……俺が彼女の弟子になるということを了承してしまったのだ。そのことに俺は少し戸惑いを覚えながらも仕方がないかと諦める。そして俺はこれからこの世界での生き方を考えなければいけなくなり、どうしたら良いのか頭を悩ませるのだった。
俺の前には巨大な壁が広がっている。だが俺はそんな壁に怯えることは無いのだ。……何故ならば、これから俺が行うのは、ただの『魔法剣』の訓練だからである。俺は今『固有スキル』『勇者の祝福』『英雄王の威光』『聖者の祈り』を発動させた状態でその二つの武器に魔力を注ぎ込む練習を行っていたのだ。この『魔法剣』と言うものは、発動時の威力を上げるのに使うと効果的であることがわかったのだ。そしてこの魔法の発動に必要な魔力量は少ないのだがそれをコントロールするのにかなり神経を使うことになりかなりの集中力が要求されることになる。この訓練を行う前にアリエスに聞いたところでは、普通の人間の場合は、その人が『才能』を持っている場合はその人に『聖者スキル』などの『特別系称号』が与えられていれば、その系統のスキルを取得できるのだが『固有スキル』を持っていない人はその系統が一切習得できないということらしい。またそのことから考えるに、この世界での『勇者の加護』というのを持っていても、俺は『勇者の加護』と相性の悪い系統の『勇者の試練』を受けない限りは俺自身が持つ特別なスキルを手に入れることは出来ないのだ。
つまり俺の持つ『勇者の恩恵』にはこの系統のスキルは覚えられないということである。ちなみに『聖女の呪い』とやらは『回復の祝福』や『浄化の波動』などが該当するらしい。『聖女』と言うからには『聖女』特有のスキルもあるはずだとは思うのだがそれが何かは全くわからないし、俺にはまだ『聖女の祈り』も『女神の聖典』も使えたためしが無いため俺にはそのことは分からない。……そんなことより俺は早く強くなりたいと思っているため俺はこの魔法について研究を重ねることにしたのだった。そう言えば俺はまだあの子に俺の『魔法剣技』の実力をまだ見せていないんだったよな……。そして俺はまだあの子に見せていなかったもう一つの『魔法剣』を見せることを決めたのだった。俺はあの子の目をしっかりと見据えるとこう告げたのである。
『聖魔』の力を開放しろ。
次の瞬間、その空間を支配していた重圧感は霧散する。
そしてそこにいたのはこの世界の誰よりも強い存在である『魔王神:アスモダイ(別名は『悪魔帝』と呼ばれているが……『悪魔王』ではないらしい)であった。
そして彼は、この場にいる全員を圧倒的な強さでねじ伏せた後、この世界における自分の立ち位置について語り始める。
この世界では俺の存在は余りにも異質でこの世界には存在しない『魔王神』として俺のことは呼ばれているらしく、俺は『七大天使』と呼ばれる7人の上位存在の中でも別格の存在で、その力は他の六人を合わせたとしても全く及ばないらしい。……それに加えて、俺は全ての系統を極めているらしい。そのせいか『七属性』と言うものを全て扱うことができるようになっているみたいだ。だがその分デメリットもあり、それぞれの属性を扱うことによって、それらの耐性を失っているそうだ。……だがそんなことを気にしている暇はないのでとりあえずは保留にする。
そしてその話が終わった後、何故か俺は『創造主』と対面することに決まっていたようだ。そして『七属性』のどれか1つを選んで『魔法』や『スキル』を作る許可もくれた。その時に俺は、俺が一番扱いやすいのが何かと聞かれたので俺は『炎』と答えた。
すると『火の神:プロミネンス』の称号を与えられたので早速試してみる。
俺はそのスキルを使って、『魔法』や『魔術』を扱えるようになる『術者』、『精霊召喚』を使うことができるようになる『精霊契約』などを習得しておいた。
その次に俺は俺のことを呼び出したあの子の名前を聞くと彼女は、 私の名前はアリスと言います!これから宜しくお願いします!と言って来た。なので俺も、こちらこそよろしく頼む。と挨拶をして、彼女から差し出された手を握るとその途端、体が光に包まれていくのを感じたので、俺も自己紹介をする。……そういえば俺はこの子に名前を教えていなかったんだよな……。俺は少し焦ったがもう遅いと思い諦めることにした。
そうやってしばらく経った後、突然視界が真っ白になると、俺達は再びこの場所に来ていた。俺はそこでようやく元の世界に戻ることが出来たのだと確信したのだった。……そうして、俺達の新たな生活が始まることになった。だが俺達はまだまだこれから先、苦難に見舞われることになる。そう俺はこの時にはまだ知る由もなかったのだ。これから俺達に起こる本当の災厄の事を……
『固有能力』
・身体強化・・・肉体を強化し身体能力を大幅に上げる
・剣術・・・剣の扱いを上手くなり剣の切れ味などが上昇する。熟練度が上がれば剣を振るう速さも上昇する。
・槍術・・・剣と同じ要領だが更に剣技が上手になる。槍の使い方もある程度わかる
・格闘・・・己の拳を使って闘う方法を学ぶ事ができる
・短刀術・・・ナイフの使い方などを詳しく学び戦闘で有利になるようにする。短剣の使い方についても詳しくなる。
・暗器操作
・投擲
「…………あれ?ここは一体……俺達って今まで何をしていたんだっけ?」
俺が最初に思い出したのは、自分の置かれている状況がよく分からず戸惑っているような感覚である。そしてその戸惑いはどんどん大きくなり……そして完全に俺の記憶は蘇った。……俺はあの少女……いや、少女と呼ぶには大人び過ぎていて美女と表現するしかないほどの美人と、修行を始めてそれから……それから……それから……それからそれからそれから……それからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそれからそこから……
そして俺はあることに気づく……俺はさっきまで『身体魔補助』のスキルを発動させてからずっと森の中を歩いていたはずなのだ。だが今は何故か森から離れた場所にいる。それに辺りの風景も明らかに違っていて俺は自分が今、どこのどんな場所にいるのかすら分かっていない状態である。俺は慌てて自分の装備を確認してみると……特に何も問題は無さそうであるが……俺の『聖剣:エクスカリバー』だけは無くなっていた。
(おいおい……これはどういうことだ!?なんで俺の武器が無くなっているんだ?)
そのことに俺は思わず困惑してしまう。……そして少し考えた後に一つの仮説を立ててみた。……俺のスキルの『鑑定』を使えば何かが分かるのではないかと思って実行し、その検証を行ってみると、やはりその仮説は正しかったらしく、どうやら俺は『勇者スキル』の派生系の『賢者スキル』を覚えていたので、それで俺は俺がこの世界に来た時に与えられた『勇者の恩恵』の詳細を見ることが可能になっていた。
『勇者の加護』詳細一覧
固有技能:『固有才能』、『特別スキル』を覚えることができる。その系統に応じて『才能』、『スキル』、『奥義』などの種類が増えて行くことがある。
効果範囲と威力と効果は本人の力量によって上下する。この能力は『固有才能』に分類される
特殊技能:
『魔法』や『魔術』などを扱うことができ『魔術』の場合は『魔法陣』『魔法言語』などの知識を得る事が出来るようになり、威力なども『スキル』の時より向上するがその使用回数は『固有才能』ほど多いわけではない。『固有魔法』も『固有スキル』と同じく覚えることが出来る。また、このスキルには『スキル』の時よりも強力な効果があるものもある。
『精霊使い』『精霊神との契約』『聖者』『女神の愛』がこの『聖者の試練』に含まれており、『魔法』系統のスキルを覚えたり行使したりすることが可能になる他、『聖魔』の力を行使する際に必要となる『精霊神』と契約をする事が可能になる(『固有能力』の時はこの『契約』が必要無いため『精霊』などの使役も可能になっている。この契約は自動的に結ばれるため破棄することは不可。ただし一度でも裏切った場合はその時点で契約は完全に断ち切られる)。
『スキル』、『魔術』などの系統のスキルは全ての系統の『スキル』、『魔術』の適性を持つようになる。その系統のスキルを使用する場合は消費魔力が大幅に軽減され、発動スピードも上昇される。またこのスキルは、その系統以外のスキルを使用することは無い。
これらの『才能』には『固有才能』も含まれ、全ての『魔法系統』の『魔法』を扱うことが可能になるがその『魔法』の使用回数に限度がある。
『固有スキル』
『魔法』の習得速度と効力が上昇し、さらに『魔法』の熟練度が上がりやすくなる。
これらのスキルにも『スキル』、『魔法』と同様にそのスキルごとに『固有魔法』が存在する。
そして、それらのスキルの他にも『固有能力』というものが存在している。これらは本人の意思とは関係無く自動で発現するため本人がその能力を自在に使うことは不可能であるが、本人が使う意思を持てば使える。しかしそれらの力は『固有魔法』や『スキル』とは桁違いの効果を発揮する。そして『固有能力』にもいくつかの系統が存在しその系統は、『スキル』の時に存在していた物よりも強力で様々な種類のものがある。
俺はそれを見て、自分のステータスをもう一度確認してみると、確かに俺がこの世界に呼ばれた理由である『勇者の試練』とやらの達成のために必要な項目は一通り揃っていることを確認できる。……俺はそのことにとりあえず安心し、このことについてはひとまず置いておくことにした。そして俺は再び歩き出す。俺はこの世界に召喚された時に貰ったこの世界についての情報を出来る限り集め、それをまとめていった。
俺達はその後しばらくの間森の中にある小さな小屋で暮らしていたが俺はそこで生活しながら自分の身を守るための修行を開始した。俺は俺の持つ『聖剣』である『エクスカリバー』の扱いにも慣れておきたかったからだ。そしてその時に俺は俺の中に眠る力について気がついたことがあった。それは、 俺が『七属性』と言う魔法を扱えるようになったことで俺は新たに1つの属性を得たようだ。それが何なのか最初は良く分からなかったが、どうやら『火』という分類に入るらしい。なので俺は早速その能力の確認をすることにした。その結果判明したことは、俺がこの力を制御すれば『魔法』や『魔術』を扱うことが出来きること、そして『スキル』、『魔術』などを使う時には俺が元々持っている属性から選択することが必要なようで、『水』から『氷』のような感じで俺は使い分けができることが分かった。
それと、新しく俺が得たスキルの中で一番重要な能力はこれだな。
『剣術・極』、『格闘術・超一流』、『暗器術・超級』、『格闘術・一級』がそれに当たる。俺は元々、剣を使った接近戦を得意とする剣士タイプだったが、これのおかげでより剣での戦闘が得意になったと言える。
だが俺が一番凄いと思う点はそこではなく、新しい技だ。これは今まで使っていた剣術の型には存在しないものなのだ。……そうして俺が新たに手に入れたスキルの説明を始める前に俺は俺の中にあるもう二つの『固有能力』についても説明しなければならない。俺はその二つが合わさって生まれた特殊な能力を持っていたのだ。
それは『全耐性』と『物理攻撃無効化』である。
『全耐性』……すべての『物理現象』に対して完全な耐性を得られる能力。また精神作用する『状態異常』の全てに耐性を得ることができる。
『物理攻撃無効化』……『固有能力』の一種であり『物理現象』によるダメージを完全に防ぐことのできる『スキル』である。
そして俺はその二つの『能力』を同時に持つことができた。これにより、俺は物理現象に対する完全防御を可能としたのだ。……だがこの能力は欠点もいくつかあった。まず、物理攻撃にしか通用しないこと、それから物理的衝撃しか無効化できないことだ。
なので、例えば相手を吹き飛ばすような攻撃をしても俺を地面に転がすことも出来ないのであまり有効活用できてはいないが、それでもかなりの威力の攻撃も防げるようになるので俺がこれから先戦いを続けて行く中でかなり役に立つことだろう。
俺はこのスキルを使って俺の師匠の剣の腕を上げていたのだが、俺と剣を交えることによってその人の剣術の実力が上がるようなことはなかったので俺の能力についてはそこまで信頼することはできなかったが、俺自身も剣の扱いはかなり上達してきた。……ちなみに俺はこの2年間で、 レベルが3上がっていて、ステータスの方は大幅に上昇していた。
『ステータス』
名前:月宮勇也
性別:男性
年齢:16歳
種族:人間
職業:聖剣使い
筋力:5500
体力:5800
敏捷:5000
知力:6600
耐久:7300
運:9999
(……まあ、これはこれで良しとしよう。だけど問題は、まだこの能力のレベルがまだ上がらないことだ。それに……なんだか最近体が怠いし……何だかなあ……。)
俺にはこの世界で目覚めた直後に突然俺が得た『スキル』や『固有才能』の詳細を見ることが出来たのと同じように、『固有技能』と『特別技能』も見ることができる。それでこの世界の人達を見てみるとこの世界には『固有才能』を持っている人が殆どいないことが確認できた。この世界でも『才能』というのはとても貴重なもので、ほとんどの人が一生をかけて努力することで得られるものだかららしい。だからこの世界の人達はこの世界独自の技術でその技術を進化させながら文明を築いて来たみたいだった。……ただ俺の場合は少し特殊かもしれない。なぜなら、 俺が覚えることが出来るスキルの『魔法』の種類はその系統によって異なるだけで基本的に同じものだったからだ。俺が今持っているのは、 火系統のスキル『火弾』『炎熱矢』『灼弾』の三つの『固有魔法』だ。その他にも回復魔法とか色々覚えている。……正直、今となっては俺は自分のスキルがなんであれ大した問題ではないと思っている。俺の中には、今までに見たことも聞いたこともないような凄い力が眠っていると感じるのだ。
そしてそんな俺だからこそ分かるのが、この『聖剣』と呼ばれる武器が本来俺に与えられるべき物だったということだった。
俺はその『固有技能』の欄を指で触ると、詳細が表示されるのを確認してから再び考える。……おそらく、これが俺が選ばれた理由だと分かる。だが俺に与えられた使命が何なのかは分からない。それに、どうしてこの世界に来たはずの『異世界人』がいないのかもよくわからない。俺は、その謎を解き明かさなければならない。……そのためにもまずこの世界のことを知って行かないと。そう考えて俺は再びこの世界を旅することにしたのであった。
*********
「さすがです勇者様!!私達が長年探し求めてきた存在を見つけるなんて!!」
彼女は感心するようにそう言って、私を称賛する言葉を並べるので私はつい調子に乗ってしまった。だがそのせいで彼女に不審な行動が見つかってしまったのだ。それは私の『スキル』の誤作動が原因だった。私が見つけた少年は、あの時はまだ『固有スキル』すら持っていない状態だったはずなのに私のスキルはそれを正確に感知していた。……それはありえないことだ。なぜなら、『固有スキル』は一人につき1つしか所持していないからである。そしてそのことはこの国の誰も知らないはずだ。
しかし私の『固有能力』は彼が勇者であることを証明してしまった。私は焦った、このまま彼をこの国に連れて帰ったところで確実に処刑されてしまう。
そこで私は、彼の身を守るために自分の『固有能力』で彼にスキルを与えたのである。だが彼は、その『スキル』の発動の仕方を知らない様子で困惑しているようだった。そこで、私は咄嵯に自分が使える最強のスキルを使うことで、彼に自分のスキルを使わせることに成功し、この世界には存在しなかった魔法系統スキルの呪文を唱えることができるようになることに成功した。そしてそのまま彼はこの国から姿を消すことになるのであった…… 私はその時、自分の身の安全のためにやった事だがまさかこんなことになるとは思っていなかった。だから後悔する羽目になった。それは私にとって最悪と言ってもいい出来事だった。……だが私はここで諦めていいのだろうか?彼を救うには、それしかない。この国に、彼を守れる者はいないのだから……なら、この国がやるべき事は決まっているだろう。ならば私はどんなことをしてでもこの事態の収拾に努めるのみだ。たとえそれがこの国の王としての誇りを傷つけることになるとしてもだ!そしてこの日を境に彼女の人生が変わっていったのは言うまでもないことであった……。
〜第一章終了〜 ここは魔王の住む城だと言われている『暗黒魔都』である。そこはその名の通り暗く不気味な雰囲気を放っている場所であるが、今日に限っては賑やかな笑い声に包まれていた。……何故なら今日は月に一回開かれる『闇闘技大会』の日だからである。
ここでは、毎日のように魔物同士が戦っている。
この世界の常識では人間の方が強いというが実際の所、そうでもない。中には弱いながらも強者に挑んでいく猛者もいるし、そういった者達こそが真の戦士と言えるだろう。
そしてこの『闇の力場』で戦われるこのイベントに参加できる権利は限られた選ばれし者しか与えられていないのである。その戦いの激しさは、まるで戦争であると錯覚してしまうほどであるが、実際に行われているものは、その比ではないほど凄まじいものである。……それ故、その優勝者に与えられる称号を授かる栄誉を求める参加者達の気迫が凄い。だが、それは当然であるとも言える。
なぜって、その資格を得た者の次の挑戦者を決める権利を得ることができ、その者は『称号持ち』となり、更には世界の頂点である魔王と戦う権利を得ることができるからだ。この世界において、魔王を倒すという夢を叶えることはとても難しいことだからだ。そして、ここ最近では新たにその機会が与えられたのはこの『闇』という領域の中でたったの二人だけであった。
だがこの二人は既にこの世界の『最強』の座を決定させる戦いを繰り広げ、お互いを潰すために戦ってきたが、とうとう決着の時を迎えることになったのだ。この世界では珍しくもない、戦いの結果で決まった勝敗の行方……。その二人の結末を見届けようと大勢の人々がこの『闇闘技場』に集まってきていた。
彼らは皆一様にその表情に緊張の色を浮かべていた。それもそのはずである。
今まで彼らが見て来た中でここまで圧倒的な力を両者共に持った人間は今まで存在しなかったからだ。
片方の人間の戦いぶりを見ただけでも他の追随を許さない強さであることが理解できるだろう。だがもう一方の強さもまた異常であった。その力には一切の妥協がないことが分かる。つまりその男もまたこの世界に君臨するに足る実力を有していることが一目でわかるということである。
だがこの勝負の結末は既に決まっているも同然であると思われた、がそれは違った。勝者であるはずの男の体はもうボロ雑巾といっても差し支えないぐらい傷ついているのだ。一方の男は、息一つ乱れていなかったのだ。だが……両者の力は互角に見えるがその差はすでに大きくなっていたのだった。なぜなら……男が纏う『固有能力』が明らかに弱体化されていたからだ。そうしてこの戦いを制した方の勝利が決まったかと思ったその時であった。男は一瞬にして姿を消したかと思うといつの間にか少女の首を掴み地面に押し付けていたのだ。その姿からは先程までの余裕そうな面影などどこにもなく無様な姿をさらしていた……。
***
「ふぅ……なんとか勝ったけど流石は『闇の支配者・四天王筆頭代理兼黒帝将軍アティス』さんってところかなぁ……。……だけどこの人ほんとに強いんだよな。それにしても……今回はかなり危なかった。あと一歩遅かったら本当に殺されてたと思う」
そう呟いた俺の顔は今頃引きつっているだろう……。だってさっき戦った相手、この世界最強の『称号持ち』でめちゃくちゃ強かったからな。……俺はあの人が本気で攻撃してきたら一撃で倒される自信があった。俺も『固有技能』を使えば勝てるかもと思ってたんだけど、結局使わなかったからね。だって使ったところでどうなるのか全く分からんからさ……それに……『固有スキル』が弱くなっている状態では正直あまり役に立たなかったのだ。だから今回の戦いで俺が使った『スキル』は次の3つである。……そして俺はあの人に勝って得たこの力でこの世界での運命を変えることを決意したのだった。……俺は、あの人と約束したんだ……必ずあの人を生き返らせて見せると……。
そしてその日の夜、あの人は俺の前に姿を見せることはなかった。……俺はこの日、新たな決意とともに眠りについたのであった。……俺はいつも通りに目を覚ますと、この異世界での暮らしのスタートダッシュを切るためにある人物の所に挨拶に向かうことにした。……そのある人物は、この城の中にいた。だからすぐに見つかるだろうとたかを括っていたのが運の尽きだったのだ。……まさか、あんな事になるなんて思いもしなかったのだ……だから、これは仕方のないことだったのだ……。
俺が城の中庭に出るとその人の姿は見えなかったが声だけははっきりと聞こえる。……俺はとりあえず近づいてみた。そしてそこにはこの国の王様がいることに気づいた俺は思わず身を潜める。
なんとなくバレている気はする……俺は仕方なく隠れるのをやめると王様の方に歩き始めたのである。
すると王様は、俺が近づくと驚いた顔をしたが、その後で少し笑みをこぼしながらこちらに向かってくる。
俺もその姿を見て微笑む。……やはりこの人のことは嫌いになれないのだと実感させられたのだ。
俺はそのまま王の目の前に行くまで近寄ると軽く会釈をして話しかける。
「お久しぶりです。……王様。相変わらず、凄い格好ですよね……」
俺のその言葉に苦笑いを浮かべるその人は『エルファスト国王陛下』である。……ちなみに俺はまだ『勇者候補』として正式に召喚された訳ではなくただの偶然でここへ来ることができたので、その事に関して少し申し訳ない気持ちもあったのだが、俺がそんなことを考えていることはおくびにも出さずに軽い世間話をした。それから俺は早速本題に入ることにする。……この人は意外に話が分かるので俺もやりやすい。
「実はですね……俺、ちょっと旅に出てみたいんですよ」
俺はそう切り出すと王様は笑顔になって言った。
「おお、それは良い考えじゃな!……確かにそなたがいればこの国にとってこれほど心強い存在はいないであろう。……もちろんわしは賛成じゃぞ!」
そう言う王の言葉を聞いてホッとしたのも束の間……突然の爆弾発言によって俺はその日、寝込む羽目になってしまった。……あの時の出来事を思い出しながら俺は頭を抱えてしまうのである。……ああ〜〜〜……そう言えば、この世界の人間には『勇者』という概念はなかったのだった……。そのことに気がつけなかった俺がバカだった。そして俺がその事を話している間中ずっとニヤけ顔になっていたこの王様をぶん殴りたいと思ったのだった。だが、この人も一応この国の『王』なのだからそのくらいの事で殴るのは良くないよな……うん。……でもまあこの世界の人間が俺のことを知っているはずはないと思っていたので油断して普通に話しすぎた自分が悪かったのだろう。……これからはあまり軽々しくこの世界に関わっていくのは控えるべきかもしれない。……でもこの王様は、結構俺に優しくしてくれているし、この国に対して悪い印象を与えないようにしないとだよな……だからここは、この王様のためにこの世界を見て回って、いずれはこの国に戻って来ることを約束しようと思うのだった。……それで勘弁してくれるだろうか?……いやきっとこの国の王ならばわかってくれることだろう……。……この国の王はこの人しか知らないけど多分いい奴だろ?…………多分。
俺は王城から外に出ようとするとそこにいた執事長のセバスチャンさん(見た目年齢が60代後半ぐらいの渋いダンディなおじさん)に声をかけられる。
「桐島様……どちらへ行かれるのですかな?」
この城に来て日は浅いもののそれなりに会話を交わす間柄となったこの人のことは信頼していた。なので素直に行き先を告げることにする。
「いえ、その……ちょっと外の様子を見に行こうと思いまして……」
だが俺の答えを聞いた彼は眉根を寄せ怪しそうな目でこちらを見てくる。その様子は明らかに何かを疑っているような態度である。……そこでこの人が何を思ったのか分からないが急に手を差し伸べてこう言ってきた。
「それは素晴らしい! その若さと体力を持て余されているのは実に羨ましいことです。よろしければ私めがそのご指導をさせていただきたいのですが、いかがでしょう」
俺は内心、しまったと思ったがもう既に遅かった。この人はかなり強引に誘ってくるのである。この人ってかなり強引なところがあるんだよな……。そして俺は、この人を断る理由を思いつかずに、結局なし崩し的に外に出る流れになってしまったのだ。……俺の馬鹿……。
**
* * *
俺は、何故か城の外に訓練をすると言って出てきたのは良かったが、この国の兵士達に捕まりこの国の兵士の精鋭達にひたすら鍛えられていたのだ。……だが、この人たちが本気で手加減なしで相手をしてくれるお陰なのかは分からないが俺が、自分の体の限界を超えた動きができそうになってきたのも事実だった。そして俺はこの人達に教えてもらいながらも必死にこの世界を生き抜く術を学んでいったのであった。……この日、俺は『称号』を手に入れることが決定したのであった。そして俺はこの日から称号を得る為に『魔獣領域』に入り込んだ魔物を倒しまくることになる。そしてそれと並行して俺はこの世界を旅し始めるのであった……。
そして、この『勇者候補・特別推薦者・第一試験合格者』という名誉と特権を持つ者として、この世界での俺の名前は『カナデ』という名前に変わることになった。
俺は『称号』を得るという目的を果たした後、『闇闘技場』というところで俺が殺した相手を殺した『闇』の者達の頂点に立つ『闇の支配者・四魔王の一人・黒帝将軍アティス』を倒したことで俺は正式にこの国、つまりは王国・『アースガ―ルズ』に仕えることになるのであった。
* * *
* * *
*
『闇の支配者』アティスと俺との戦いの後、しばらくするとこの『闇闘技場』では今までになかった異変が起きたのだ。なんとアティスの死体が消失したのである。そしてこの『闇の力の結晶化現象』が起きてからはこの空間に『魔力の渦』が発生し始めていたのだ。そしてその魔力の『波動』は次第に強くなっていきついにその『魔力』を吸収・変換することに成功するのだった。そうして『魔力をエネルギーに変換し、物質として生成する』ことに成功した『闇の力の結晶』から『暗黒結晶』というものが誕生したのだった。
そして俺はその『暗黒結晶』を手にすることが出来たおかげで俺は『固有能力』のレベルが上がり新しい『固有能力』を獲得することに成功したのだ。この新たな『固有能力』が後に大きな出来事に繋がることになるのだが、この時の俺は全く知る由もなかったのである……。そして……この世界に存在する全ての人間達はこの『黒水晶』のことを『聖戦』と呼ぶようになるのである。……それはともかく、その後俺はアティの遺体をこの世界の神々に任せた後、王様に呼ばれ、そして王城に戻ってきた。そして王様の前で王様に言われたことがこれである。
(実は、あの日あの時の勇者召喚は間違っていたみたいなんじゃ……。あの召喚の儀式で呼んだ者はあの日あの時、あの部屋で召喚されるべき存在ではなかった。だからあの勇者は勇者ではない……だが勇者と同等以上の存在であることに変わりはないと思う……それにその力はあの勇者よりも上じゃからな。だからこそあの者の『称号』もそれに準じておったんじゃろう。あの者にあの日召喚されてしまったあの『異界の勇者』は哀れとしか言いようがないがな……だから今更元の世界に帰れるかどうかはわからなかったが一応念のためあの勇者に頼んで送還できる魔法をあの時に使ったのだ。じゃが……あの異世界から来た者はどうやら元の場所に戻ることが出来なかったようだの……。それはそうと……そなたには感謝してもしきれんわい……。この国を守ってくれた英雄であるそなたに対して……あの時この国を守ると約束してくれて嬉しかった。本当に……ありがとう……。これでわしもこの先、思い残すことなく死ねる。こんなにも素晴らしい褒美を授けてくれるとは、やはりわしの判断は正しかった!これからもよろしく頼むぞ我が盟友よ!!︎)……王様の言葉に感動しかけた俺だがその後の言葉を聞いて俺の心が急激に冷めた。この人のこのノリにはついていけないと心の底から思ったのだ。だが一応俺も笑顔を作って答える。……一応この人は王様だしね……。
(いやまあ別にいいですけどね。俺は王様に頼まれてやっただけですよ)……そんな感じに言っておけばいいかな?……いや……多分これは本当の事だろうからそう言った方がいいだろう。……この人が嘘をつくなんて考えられないからな……多分。……こうして俺は勇者候補としてではなく、正式に『アースガ―ルズ国王陛下専属兵士兼、国王護衛軍隊長・桐島和也(きりしま かずや)』となった。
そういえば俺に新しくついたこの肩書きだが……なんか俺が思っていたのと違うような気がするのは気のせいか?いや絶対に俺が想像していたものとは違ったものになっていると思うんだが……。でもまあ俺は気にしないことにした。なぜなら、もうこの世界では俺は自由に生きることができるからである。だからまあいっか。
俺が王様に挨拶をして城から出て行くと、そこにいたメイドの人から『お待ちしておりました』と言われ、王城の中の部屋に通され豪華な服に着替えさせられる。そしてそのまま城を出て王都の街中まで連れてこられた。その街はとても綺麗な街並みで王城ほどではないが、この王都の街も相当に栄えていたのである。その王城の前に来ると王城の衛兵さんに話しかけられ王城の中に入るように言われる。俺が城に入るとその門の中には王様がいた。そして俺に向かってこう言ってきた。
「これからそなたが仕える王だ。しっかりその身をもって忠誠を尽くすといい」
王様がそう言うと周りの人たちがみんなこちらを見ている。その中には、俺が最初に戦った『炎帝の使い手』や『風の使い手』などもいたのである。その人たちはこちらを見ながら王様と同じようなセリフを俺に向けて言っているが、それはもうすでに聞いた言葉だった。だから俺は適当に返事をしたのであった。……だってめんどくさいし。……そうして俺は王様に謁見の間へ案内された。俺はそこで改めて王様と対面したのだ。
そこで俺は王に対して『称号』の説明をし、この国に仕えることを了承し、そして王様は俺に対してあるお願いをしてきた。……それは『アースガ―ルズ王・国王専用武器製造師長・桐島 雅(キリシマ ミヤビ)』になると言うことである。……俺は一瞬、この世界に来て初めてこの国で『固有能力』が発動したときの事を思い出し、俺の顔は青ざめる。しかし俺はすぐに顔を引き締めてこの『称号』を受けようとしたのである。何故なら俺はこの称号を『勇者』と同じ意味で捉えていたからだ。つまりこの『称号』を持つということは、事実上、この国のトップクラスの戦士と同等の立場であると言えるわけだ。だからここでこの称号を受けることで、俺はこの国のナンバー2の位置に立つことが出来る。そうなれば、何かしらの事件があったときにこの称号を利用して動くことで、自分の身を護ることも出来ると思ったのである。それに俺は個人的にこの『称号』という物がかなり気に入ったのだ。だから、これを拒否することは有り得なかった。俺は迷わずこの『称号』を受けることに決めたのであった。……まあ元々断ることはほぼ出来ないんだけどね……。……そして王様との話が終わった後、俺は自分の家に行く前に王城の図書館に向かうことになったのであった。
俺は今現在とても困っていた……。というのもこの国・アースガ―ルズの歴史に関する本があまりにも少ない上に俺にとって全く役に立たないようなことばかりが書いてあったのである。なのでこの国に伝わっている歴史の中で俺の知りたい情報を見つける事が出来なかったのだ。そのため俺は一度城に戻って歴史書を読ませて欲しいと言ったところその願いは叶えられたが、その内容を見て俺は再びこの国が抱えている深刻な問題について知ってしまったのだった。
そう、それがこの国が抱える大きな問題だったのだ。この国・『アースガ―ルズ』は、もともと人間達が作り出した国家であり、そしてその人間は、元々は自分達こそが一番強い生物だと思い込んでいて、この世界を侵略しようとしたのだというのだ。そして他の生き物たちを殺し続けていきどんどん増えていく人類は、とうとう一つの壁に当たることになるのである。
そう……魔獣の領域である。そしてその領域に住む魔獣たちはその人間たちに恐怖を感じ取ったのだろう……次々と襲いかかり虐殺していったのだ。だがそれでも人間達は諦めず戦争を続けた。その結果人間達は負けてしまうのである。そして人間達が住んでいた領域は魔獣たちの縄張りになり、そこから人間が入ってくるのを魔獣が防いでいたのである……。つまり、ここから先はこの国の歴史書は詳しい事は分からないらしい。そして魔獣達は人間に負けたあとも魔獣領域の奥地に逃げ込んだのでそれからは平和になったということだったのだ。だから魔獣と人間の戦争が終わった理由は定かではないそうだ。ただ言えるのはこの国でその時代のことが伝わっていないことは間違いない。この国でこの国を作った者達・そして魔王について調べようとすると、それ関連の本はなぜか見つからなかったのだ。……この国は意図的に隠されている……としか言いようがないのであった。
その後、結局何も分からないまま俺は家に帰ってきてしまった。ちなみにこの世界で俺が暮らしているこの家は普通の一軒家のようだ。この世界にはマンションなどの集合住宅というものはないみたいである。その理由としてはこの世界にはダンジョンというものがないからだと思われるのだった。それとどうやらこの世界の文明はかなり発達しているようで電気の代わりに魔力を使って様々な機械を使っているようだからなのだが、それも全て魔法のおかげで実現できているという。
例えば、冷蔵庫や洗濯機といった生活家電は全て魔法を使ったものだし、その他にもエアコンやオーブン、ガスコンロのような魔法を使うと便利なものがあるが、それらは全部魔力が込められた宝石が内蔵されていて、その魔力が切れたら交換しなければいけないらしいのである。だがそんなものはあまり使わないため魔力は自然回復して、普通に使うだけなら特に消費することはないのだ。また、その魔力が込められている石は高価らしく一般人が持っているようなものは滅多に無いのだ。だから俺の家にはそれらの家電製品は存在していないのだ。……そして次の日の朝俺は昨日の件で王様に呼び出されて再び城に来ていた。そして王からこの王城の中にある『王の書庫室』を自由に使う許可が出た。この王城には色々な資料や書物が保存されていたのだがそのほとんどが禁書を指定され閲覧不可となっていた。だからこの城の中でも『王の書庫室』は一部の関係者以外には存在すら知らされていなかった場所だそうである。そんな場所に出入りできるようになったからと言っても何が出来るかは分からなかったが。まあ、でもこの『王の書庫室』がどういう風に使われていたのかを知るだけでも、俺は十分に満足だった。
そういえば今日この国にいる間は『称号』の力によって自動的に俺の体は『固有スキル』・【身体操作術】が勝手に働いて常に最適な行動をとってくれるというおまけつきの『特別任務』を与えれていることになっているのである。だが俺自身は自由に動けるようになったのである。俺は自由に動かせる体を手に入れたことで今までできなかったことも試せるようになったのである。
例えば今朝は王様の命令で訓練場に行き兵士の人達に指導をするように言われたのだ。だが俺はこの兵士達にあまりいい印象は持っていなかったので素直に従う気にはなれなかった。だがそんな時に王様から連絡が来た。
「今すぐ来い。お前が指導すれば、兵士たちの実力も格段に上がるであろう。……わしの命令じゃ!さっさと来るのじゃ!……じゃが無理に強制したりはせぬ。わしからのお願いということじゃ。……そちにとっても有益になることであろう」
そこで俺の考えが変わったのである。そういえば王様とは一応俺が勇者候補に勝った後に謁見の間で会ったっきりだったんだよな……。俺はあの時の事を思い出しながら王様の言葉を考えてみた。すると王様がなぜ俺を呼び出したのか理由が分かった気がしたのである。
(……そう言えば王様は俺に期待していたよな……それに王様は勇者に負ける俺の姿も見ているはずだ。その勇者候補よりも俺の方が弱いと判断されたとしてもおかしくはないかもしれない)俺はその事を王様に伝えた上で俺は兵士の訓練に参加することにしたのだった。
(俺が教えることによって兵士が強くなればそれはそれで良いだろうし、それに俺は『勇者』に勝つという目的を達成するために役立つことがあるかも知れない)
こうして俺は兵士の指導を行うことになったのである。だが兵士の中には俺のことを馬鹿にする者もいるし、『王の書庫』の文献を読みふけって一日を終えようとしていた。
俺の名前は『アースガ―ルズ兵士長』・【剣帝】の力を持つ兵士・エイン・ザラフォード・エル・アーガルズ。この国の王都に一番近い町『イール』にある『イール守備隊』に所属している者だ。この世界では成人は15歳からだとされているから俺はもう20歳になっていたりする。俺はこの世界で一番の兵士になるために努力を重ねて、ついに兵士の選抜試験を合格することができたのである。そして今、この『王城守護隊』の入隊式に参加していたのであった。この『王城守護隊』に入隊するためにはまず、一般兵から始めて実績を積んで隊長になれるかならないかを決める試験を受ける必要があるのだ。
俺はまだ17歳の若輩者である。だが俺にはとても夢があった。それはいつか『王城』を守る『王城近衛軍』に所属することを目標にしているからである。そして『城外衛兵部隊』に入り、いずれはこの『王城守護隊』に正式に入隊したいという野望を抱いていたのである。
この『王城守護隊』に配属させる条件というのは実は簡単だったのだ。それは『剣聖』という職業を持った者が隊長になるという条件を満たしていれば誰でも入れるというルールだったのである。つまり俺のようにまだレベル1で職業を授かる前に『剣豪』の称号を得た俺にとってはチャンスがあるのだ。この王城の守りを護るのは『騎士』やそれ相応の強さを持っている者でなければ勤まらないという暗黙のルールがあるため俺が入隊することは可能だったのである。そう、俺はその条件で見事に入隊したのだ。
俺は、この王城の警備をしながら日々の鍛練を続けていきこの日を迎えたのだ。俺がこの王城の『剣聖』として任命されたときは正直かなり驚いたが、俺は嬉しかった。『勇者』という存在が現れてからはその座を奪われてしまって、今となってはその地位を取り戻すことは難しい状況だと思っていたのだ。……だから、俺は心の中で『剣聖』を『英雄』だと勘違いしていたのだ。だが俺は『勇者』と戦う機会があってその時初めて理解させられたのである。……自分がまだまだ未熟だという事に……。俺は今『王』を護衛する役目に就いている。『王』・・・つまりこの国のトップ・『国王陛下』のことだ。
この国の『王』であるこの方こそ本当の『最強戦士・英雄』と呼ばれるに相応しい人物なのだ。だから俺なんかが憧れていい人じゃない。だから俺は俺なりの方法でこの方の力になりたいと心に誓ったのだ。この人の命を守れるように俺は強くなりたいと切実に思う。そのためにまずは今の自分の力を試すところから始めるべきだろうと思ったのだ。そしてこの王城に来たのは『特別任務』の任に就いた『王の書庫室使用権限を持つ』者の『王』の護衛を任されたのだ。その『王の書庫室』は限られた者たちにしかその存在を知らない特別な部屋であるのだ。そんな場所で何をしろと言われているかと言うと、この『アースガ―ルズ』という世界について書かれている文献や記録を探し出せというものである。そしてその文献はおそらく禁書指定を受けているものであるという推測だった。
この世界・『アースガ―ルズ』について知るには、その当時のことを記した書物を見つけ出すことが一番早いとされているのだ。そうすれば歴史を知ることが出来るのだ。そして俺にはそれが簡単に出来てしまうのだ。なぜなら俺はこの世界の歴史について書かれた本を見つけることが出来たからであった。だがその内容はどれも信じ難いものばかりだった。そして俺が読み終わったときに王様はやってきたのである。
そう、俺は王様と一緒に『特別任務の完了報告と今後の指示を受けにきたのだ。俺は『王の書を預かっている者・通称:本の管理者』という役職を与えられたのだ。そしてこの『特別任務』の『特殊事項』の欄には、
・勇者・またはその候補者に関する情報・・・・達成 となっているらしい。これはどう見ても怪しいのだが……でも、俺の【真実の目】でステータスを確認する限り本当だということが分かってしまったのだ。ちなみにこの世界の勇者が持っている称号も一緒に記載されていた。……『神から勇者として認められたもの・【真勇者】』……?なんだこのふざけた称号は……。俺はそう思いながらも『王の書庫室』で見た歴史書の内容を思い出す。それによるとどうやら、この世界の人間達には昔、この世界の『魔王』と名乗る存在がいたらしいのだ。だがその当時この世界を支配しようと企んでいた人間たちは魔王を倒すことができなかったらしい。そのため魔王はこの世界の人間たちを恐怖で縛り付け支配しようとしたのだったそうだ。
その話を聞いたとき思ったのが「そんなことするから恐れられて誰も相手にされなくなるんじゃねえのか?」と思ってしまった。俺も前世の世界にいた時に似たような経験をしたことがあるから、少しだけ気持ちは分かる気がする。俺が前世の世界で通っていた高校は進学校だったので勉強できる人間が優遇されてしまい俺は落ちこぼれになってしまったんだ。俺はそれでも諦めずに頑張ろうとしたのだが周りからは白い目で見られるようになっていたのだ。俺は結局そこから逃げてしまったのだが、もし逃げることなく頑張っていたとしても結果は変わらんかったかもしれんな。
まあそういうことで俺もこの世界の住人と同じように魔王に恐れられていたようだが……そもそも俺が召喚された理由を考えるなら、俺はこの世界に何か脅威を及ぼすようなことをしていたということになってしまうから、俺としてはそのことがどうしても気になって仕方がないのだが、そんなことを考えていてもしょうがないだろうからやめておこうと思うのだった。だが今は『神の使徒』としての使命・『【勇者】と戦えるまでに強くなってくれ』という任務を果たすことに集中しよう。俺の任務はこれからも続いていくから……! だが、そう思っていたのになんと俺は今、王から呼び出されてしまって城に来ていたのである。俺は王様に呼ばれた要件を聞いてみると、俺は今日からこの王城内に泊まるように指示を出されたのである。俺は当然断ろうと思った。こんな得体のしれない奴を信用できないのは当然だと思うからだ。だが王様の命令ということで俺の拒否権はないとはっきり言われたため渋々了承したのだ。そして俺には王様の部屋で待っていてくれと言われていたため大人しくそこで待つことにした。
(王様は俺のことを一体何だと思っているのか分からないけど一応俺は王様の命を奪おうとした男だぞ……そんな危険分子をそばに置くってのもおかしな話だろ。もしかしたら監視の意味合いがあるのかもしれないが。それに俺は勇者が怖くて逃げ出した卑怯者だって言われても反論できねえ立場だしな。それにあの『女神』が言っていた勇者の強さってどれくらいの強さなのかも正直不安になってきたなぁ……。
あの時の勇者の強さは本当に異常なほどだったし……。しかもあの『勇者』はまだ職業を手に入れていない状態だったはずなのにあんな強さを持っていたからな……。それに比べて今のこの世界の『剣聖』っていう職業のレベルの平均値は確か50レベル前後だった気がするが……。それと比べて俺は職業レベル1で平均値よりも下回ってしまっているし……レベル10ぐらいだったはずだ)俺は改めて自分が弱いと感じていたのである。俺はこの国の王である人物・王城守護隊長の『アーガルズ・エイン・ザラフォード・エル・アーガルズ』様からある『命令』を受けたのであった。それは俺をこの王城の敷地内に作った兵士の訓練場に連れていき俺が直属の兵士の指導を行うことである。
(はあっ!?いきなり俺のところに部下を向かわせてくるとかどんだけ鬼畜なんだよあいつは。こっちはさっきまで訓練をしていて疲労困ぱいの状態だというのに……いやいや文句ばっかり言ってる場合じゃねえ。この国の兵士たちが強くなれば俺にとっても都合が良いことに違いないから、とりあえず俺はその『王城近衛隊』ってのに入隊させてもらうためにこれから頑張るか…… 俺はそれからしばらく自分の能力値の測定などを行っていたのだ。その結果、俺のレベルは2になっていたのである。そして職業のレベルも4に上がっていたのであった。そしてこの王都にいる『特別職持ち』たちのデータなども確認することができたのである。この国には現在100名以上の『特別職』の者たちが存在していることが判明したのだ。
俺の場合は、『剣聖』と『騎士』、『魔道士』『僧侶』とその他諸々の職業を持つことができるみたいだが、レベルが低いので使える職業の数は5つまでだった。職業によっては習得条件というものが存在するものがあるがレベルが高いほうがより優れた能力を獲得できるのでなるべく早くレベルを上げる必要があったのだ。そしてレベル上げをする方法として最も効率の良いのが職業レベルを上昇させることなので、とにかく戦闘をして経験を積んでレベルを上げなければいけないということである。
そうすれば俺はこの国の精鋭たちと戦えることができるというわけなのだ。俺が目指すところはこの国を守ること。そのためには『王城近衛隊』に入隊しなくてはならないのでそのレベルに達する必要があるというわけである。俺はそうやって考えながら王様が来るのを待っていたのだ。
するとしばらくして王城守護隊長である王様がやってきた。そう、俺がさっきから気にかけていたのは実はこの人だったのだ。なぜならこの人こそ、俺が目指している『王』という座に相応しい存在だと俺は思っているからである。その王は俺の目の前に立つと開口一番にとんでもない提案を口にしたのである。その発言は、
・俺に王城を警備してもらう
・その代わり俺には『勇者』と戦い勝つだけの力を必ず身に着けてもらう という二つである。……え?ちょっとどういうことですか?俺はこの国の『勇者』の相手になれと言われたのか?俺に?……いや、意味がわかんねえんだけど……。王様は何を考えて俺にそのような無理難題を押し付けようとしているんだ?俺が疑問を抱いている中王様は淡々とその理由を説明を始めるのであった。その話の内容は俺にとってとても衝撃的な内容だったのだ。……まず、この王都の『勇者』として選ばれたのが俺と同年代であり性別が男であるという。
・『アースガ―ルズ』は今現在この『剣聖』が守ってきた王城以外に存在している都市はたった3か所しか存在しないというのだ。そのどれも『王』という位に就いている人間は一人だけである。その三か所は、東にある王都『エルドリスティア城』。北の王都『アーススヴァルト』。西の王城『リゼルフ城』。……という感じであるらしい。その『剣聖』とはこの王城『エルガレスト』の先代の王が決めた『剣の聖騎士』の称号のことである。『勇者』はこの称号を代々受け継いでいるらしくその実力も相当なものだと噂になっているのだ。だから俺は『王城近衛兵』という称号を手に入れたのであった。
その話から俺はさらに予想されるこの国が置かれている状況についても王様に聞いてみたのである。……俺の考えでは、この国が『魔王軍の脅威』に襲われているということから『魔王』が復活でもしたのではないかと疑っていたのだが王様はそのように考えたことは一度たりともないと断言したのだ。だが、その話を聞いて俺は納得する部分もあった。
その『勇者』の年齢についてなのだが……。この国は他国に比べて少しばかり子供が多い傾向にあるような気がしていたのだが、どうもその原因はそこにあったらしいのだ。……この世界に存在する全ての生物にはそれぞれ種族ごとに特性や弱点を持っていることが多いらしいのだ。たとえば人間にも魔法や物理攻撃に対する耐性というものがあり、『エルフ』のように弓の扱いに長けた者や、逆に『ゴブリン』のような身体能力に秀でた者も、人間には少ないがいるのだ。そういうことらしいのだ。だがそういった者達には基本的に『称号』という存在があり、この称号を持っていないものは人間には必ず一つ持っている『称号』がないという。
例えば『称号』とは・『戦士』は剣を使うものに与えられる・『魔法使い』は魔力を操り魔法を行使する者、といった具合に称号が存在を現すようなもので持っているのは珍しいが確かに存在するのだ。だが、称号を持っていても称号の効果を生かすためにはそれなりの訓練が必要で普通ならすぐには手に入らない代物らしいのだ。つまり俺の場合でいうなら俺は剣の使い方を知っているし、ある程度の魔法も使うことができるがどちらも中途半端だといえるだろう。
そんな俺を『王城近衛兵』に抜擢するというのは……いくらなんでもおかしいと思うのだが……そんなにこの世界には人材不足な状態に陥っているということなのだろうか。……俺はそう考えることにしたのである。
(俺は、その『勇者』に勝てるような力を身につけなければならないってことだよな……?ということは俺も職業を手に入れなくちゃいけないってことだ。まずは自分のステータスを見てみよう。俺の今の能力は一体どんなものになっているのかな?)そう思った俺は早速自分のステータスを確認したのだった。そしてそこに表示されている数字を確認すると……そこには驚くべき数値が表示されていたのである。
(俺のレベルって……たった1だったはずなのにどうしてこんなにレベルが高いんだよ……?それに職業のレベルまで全部1ってどうなってるんだ……?)そう思っていたら王様は俺に対してとんでもない命令を下すのであった。
それは『王城警備の件に関しては俺が直接指導する』という王様の申し出であった。その命令に俺は思わず戸惑ってしまう。だってこの人は王なのだ。そんな人を兵士の指導役に任命してしまうなど正気の沙汰とは思えない行動である。それに『勇者』が襲ってくるのが分かっているのにそんな無茶な命令は聞き入れることはできない。
俺は王様に向かってはっきりと断りを入れることにしたのだ。その返事を聞いた王様はなぜか微笑む。
そして……その言葉の意味を説明し始めたのであった…… 【第8章】新しい勇者候補たち(1)~新たな『剣聖』誕生の兆し~
俺たちが『王都のギルドマスター』と『聖女』と再会した翌日……。俺たちはついに『王都の迷宮』に挑むこととなった……。
俺たちの現在の装備だが、武器屋に新しく新調したものを装備している。防具は俺の場合は『白の甲冑(改)』『銀の軽鎧(改)』『黒の長外套(真)』である。これは全て昨日の夜に『鍛冶屋・鉄人』が作ってくれたものばかりである。防具の方は全て『王級品』で作られておりその防御力はかなり高いものとなっている。『鍛冶師・職人の神童』の称号スキルのおかげでかなり良い仕上がりとなっていた。俺の防具はこの世界において最高クラスの出来上がりとなっており他の冒険者からの注目度が凄かった……。
『剣聖』が使うに相応しい装備品として注目されているからだ。
また防具だけではなく、その他の道具や食料などなどの準備を念入りに行った。俺以外の全員の分の道具や食事などを『収納ボックス』に入れ、それをアイテムバックの中に入れてから出発することにしていた。ちなみにこの世界のアイテムバッグという魔導具は結構高額であるため、ほとんどの冒険者はこういった方法で必要な物資を運ぶのだ。ちなみにこの世界での冒険者の主な活動場所としては・街から街への旅のルート上にあるダンジョンの制覇と、その周辺に出現する『フィールド・ボス』と呼ばれる魔物の撃破、及び討伐である。
他には・遺跡探索や洞窟内の鉱石の採掘などがある。……他にも様々な職業が存在しているようだ。
「いよいよですね!タクミさん!!」
俺の腕にくっつきっぱなしのリリィが嬉しそうに俺に話しかけてくる。俺は苦笑いを浮かべると、
「ああ、そうだな」と短く答えてからリリスに声をかけた。
「リリスもしっかり頑張れよ?」
リリスは緊張気味にコクリと首を振った。リリスはまだこの王都の『聖樹騎士団』の見習いであり、今回の試験に参加するのは初めてのことであった。
リリスは見た目は大人っぽい少女なのだが実は15歳でまだまだ経験が足りず実戦での戦いの経験がない。そこでリリスは王都にある『エルフェンティーナ聖樹王国』直属の『王城守護騎士隊』の入団を希望しているらしくその訓練に参加しているのだ。その目的は……自分の実力を磨いて、将来は騎士となり『王城聖樹城』を守る騎士となることであるらしい。
その騎士を目指す理由は・『聖樹城』に住む人たちを守りたい。・この世界を救おうとしている王様のお手伝いがしたい。というものらしい。そのためにもまずは自分自身を鍛えておきたいとのことで今回初めて王城の外に出ることになったのである。この王城は『聖獣王エルガレスト』が守っていた王城『エルガレスト城』を改築して造られているのである。そのため王城の敷地はかなり広くなっているのだ。その敷地には王都に暮らす一般市民が自由に出入りすることができる。王都内の店や住宅、施設も利用することが可能であるのだ。ただし入場料を支払わなければならないのである。
「う、うん。でも、私は戦うことがまだ苦手で……」
リリスはそう言って俯いた。俺は優しく声をかける。
「心配ないさ。リリスも頑張っていればそのうち慣れていくさ」俺はそう言いながら、 リリスの頭をポンッと叩いた。
その感触がとても柔らかく心地よくてずっと撫でていたくなる気持ちになる。その感覚に浸りつつもなんとか理性で踏みとどまった。リリスは恥ずかしそうに頬を赤らめながら小さくコクりと首を縦に振った。
「そ、それで今日行く王都の迷宮というのは……王城のすぐそばに存在するらしいんだが、その場所まではどうやっていくつもりなんだ?確か『エルドリスの森』というところを通って王都まで来たんだったか……それだとまた同じように魔物が出てくると思うんだけど……」と俺が質問した。するとそれに対してリリスではなく、『剣聖』である王様が返答をしてくれる。……王様は基本的に俺たちのことを名前では呼ばず、『剣士様』とか、『お館様』などと俺の呼び方を変えてくれるのだ。まぁ……それはいいのだが……。俺も王様に様付けで呼ばれたときは、ちょっと落ち着かない感じになっていた。王様もそんな感じの俺の雰囲気を感じ取ったのか、『剣士様』と呼ぶように変えてくれたのだった。
「その点については問題はないですよ。私も今回は王都まで同行させていただくつもりでしたから。……もちろん私の力が必要になることはほとんど無いと思いますが。一応は念のためですので……」と笑顔で言う王様。
その王様の言葉に俺は、心の中で
(王様が王都を出るってこと!?そんなことしていいのかな……。それに王様を危険な目に合わせるなんてできないし……)
そんな風に考えていたのだ。
俺の心の中を王様は読んでいるはずだが、そのことについては何も言わなかった。
そして、王様のその言葉で『王城聖騎士隊』の副隊長である女性騎士が口を開いた。その女性は『アリエスティア・フォン・ファムニルト・ルミナリア・アースガルズ』という名前である。年齢は20代後半ぐらいで、金髪で碧眼の美女だ。彼女は王様が幼い時から付き従っている『剣姫』である。そんな彼女の容姿を見た時俺は、どこかで見たような覚えがある気がしたのだ。だが……そのことは深く考えずにその記憶を忘れてしまう。なぜなら……この国には珍しい銀髪の少女がいたのだ。しかもその子の見た目はリリィと同じくらい幼くて10歳前後の子供に見えるのである。だがその子の耳は長く尖っていて、エルフの特徴が表れていることから彼女がエルフであるということはすぐにわかった。そのエルフの子も俺たちに付いてきていたのだ。名前は『アリア・アルベルティーナ』という名前で、王様の姪にあたるらしいのだ。そのことから、王様はこの子を『王城近衛兵』として採用し連れてきたのである。
そんな二人を俺たちは見比べる。
そのエルフは、身長130cm程度で、胸の大きさも、背丈に比べて控えめに感じる。そして、その見た目からは考えられないほどの力の持ち主であるということを知っているのでその可愛さに思わず手を出しそうになる衝動に駆られる。その子は今現在…… 俺の腰にしがみついて離れようとしないのである。
(……どうしてこんなことに……。どうして俺が『聖剣』を手に入れたという情報をどこから仕入れたのか知らないけど……。どうして俺についてくるんだよぉ〜。俺……この子と会ったこともないんだよ……?俺の『鑑定』スキルが反応していないんだよ。それにこんな小さい子に『剣聖』の称号を持つこの俺が勝てるはずもないんだよなぁ……。……でも王様の命令だから断ることができない。王様がこの子を引き取って育てているみたいだし、それを俺が邪魔をするわけにもいかないしな……はぁ……)
俺は、王様に対して視線を送ると、その意図を読み取った王様は、微笑みを浮かべたまま黙って小さく首を横に振ったのである。どうやら、王様としても、引き取ることを決めたようである。……つまり……俺にはどうすることもできなかったということだ。……はぁ……本当にどうしよう。
俺は深いため息をつくと、俺の膝の上に座らせて後ろから抱きしめるようにしてあげていたリリィが、俺の顔を見て何かを訴えかけていることに気づいた。俺は首を傾げつつ問いかけた。
「リリィ。一体何が伝えたいんだ?」と。するとリリィは……
「あのね……。あそこにいる女の子も一緒に連れて行って欲しいの!」と言ってリリィはその『エルフの女の子』に指をさす。
その光景を眺めていた周りの人達が一斉にリリィの方に視線を向ける。リリィに言われた女の子は、リリィを見上げて「なんじゃと?」と一言漏らすとそのままリリィの前まで歩いてきて話しかけた。
「妾に何をさせようとしているのじゃ。このちびっ子が……。お前も『剣聖』と一緒に迷宮に入るために王都に来たんではないのかや……。」
その女の子は見た目の割に口調が古風であった。その言葉を聞いたリリィは……少しだけイラっとしたようで……その表情の変化に気付いた王様とリリスはすぐにリリィの前に立つと両手を広げた。その動きに合わせて俺は反射的に二人の前に出たのである。
二人は「大丈夫です」と言った様子でこちらを振り向いたので、俺もゆっくりとうなずいたのである。
するとその様子を見届けてからその女の子は再びリリィの方を向いて話を続けるのだった。
「妾を甘く見てもらってはいかんぞ!小娘!貴様のような子供が冒険者になどなれるものか!そんなこともわからないとは、まだ子供な証拠なのではないか!のう?」……その女の子の言葉を聞いてリリイがピクッと眉を動かしたのが分かったのだ。そしてその後すぐに『剣聖』がリリィに向かって……
「リリス!リリス!抑えろ!!相手は『剣聖』なのだ!!」と叫ぶ。しかし……遅かった……。『リリィ』と呼ばれたその小さな『聖樹騎士団見習い剣士』の体の周りに膨大な魔力が集まり始めたのだ。
その異変に気づいた王様が慌ててリリィの前に出てリリスを守るように腕を広げると……
「このお方を誰だと思っているのですかっ!!」……王様の怒鳴り声と同時にリリスは王様に背中を押された形で『リリィ』のところに突進していった。
「ちょ、ちょっと!え?う、うわーっ!?」……突然目の前に飛び込んできたリリスをリリィは抱きかかえるようにして支えるのだった。そのリリスはリリィの首筋に手刀を叩き込むとその衝撃でリリィはそのまま意識を失ってしまった。
それを確認した『剣聖』は安堵の笑みを漏らしたのだった。俺はその瞬間……自分の体に力がみなぎってくるのを感じた。そして同時に頭の中に響くアナウンスが……。
<固有スキル……『絶対領域』『無限回復力』『全属性魔法適正』『神速』を獲得しました>……俺の脳内でそう響いた。そして次の瞬間俺の体は勝手に動いていたのだ。俺の体が勝手に動いている間に俺は、その体の主導権が奪われていることに気づくがもう遅かったのだ。……俺は、気がつくと『エルフの女の子』の手を引いていたのである。
そしてその光景を見た王様たちは、驚き固まってしまった。なぜなら王様の姪でもあるエルフの少女が、先ほどまで会話をしていた『剣士さま(仮)』にいきなり手を引かれていたからだ。
その状況に『王城近衛兵』達は、即座に武器を抜こうとしたのだが、その行動を止めた人物がいた。王様その人である。その王様に制止されれば誰も動けない。そのためその空間に一瞬の静寂が生まれたのだった。そしてその隙に俺の姿を見た他の人々は一斉にその場から離れようとする。だが俺は……すでに動いてしまっており、リリスを抱えたままの『剣聖』の横を通り過ぎると『エルフの少女』を抱きかかえていたのだ……。
俺はそのまま出口へと向かう……そして部屋を出た後に俺は立ち止まると…… リリスを抱いたまま、エルフの子を下ろすとリリィと同じように首の後ろにチョップを入れるとエルフの子もまたその場に倒れたのだ……。…………………… そんな騒動が起こっている間、王様と『アリエスティア・フォン・ファムニルト・ルミナリア・アースガルズ』さん。それからその側近の二人。王様の側近は三人がいてその全員が王様と同じく『王都の聖騎士隊』に所属し、それぞれ役職についている人たちで『副隊長』を務めているらしい。……この人は『アリエスティア・フォン・ファムニルト・ルミナリア・アースガルズ』さんより一つ年上の24歳で名前は……『アリエスタ』だそうだ。
この人も金髪の美人でスタイルもとても良く、その髪は肩ぐらいの長さで、ウェーブのかかった髪でお尻の辺りまで伸びているロングヘアーである。この人の役職もやはり『王城近衛兵』で、『アリエスティア・フォン・ファムニルト・ルミナリア・アースガルズ』さんの直属の部下にあたるらしい。……つまり『剣聖』と同じだ。……そのことから、この国の騎士団の中でこの二人が特に強いことが伺えたのだ。……もう一人の『剣聖』の名前は『アリス』という名前の女性である。年齢は18歳の俺と同年代である。その見た目はとても幼く、身長は120cm程度で年齢は10歳ぐらいに見える美少女だが、見た目に似合わない大人びた口調の女の子で見た目に反して中身はかなり子供っぽいところがある。髪の色は銀色で腰のあたりまでの長さで毛先が外巻きになっているのだ。そんな見た目の割には力持ちの女の子だ……。見た目の割にはね……。この子はなぜか……俺の後についてきた……。その理由については全く心当たりがなかった……。
そんな感じで『剣姫』と『エルフの騎士』の女の子を引き連れる形で俺とリリィは『聖都グランツバッハ』を出発したのである。そんな時だった……『エルフの剣士』が、俺たちを追いかけてくる姿が目に入った。俺は、そんな姿を見てため息をつくのだった。そして、その光景を見て……
(もしかして俺ってとんでもない人に喧嘩を売っちゃったんじゃないか?これ……?今さらになって後悔してきたよ……本当に。……うぅ……どうすればいいんだよ……。でも王様の命令だから断れないし……。……仕方がない……ここは、リリィを守れるくらいの力を手に入れないと!!よし……頑張るぞ!!!)……そう心に誓ったのである。
俺が決意を新たにしていると後ろの方から『聖都グランドハザート王都守護隊 第二大隊所属 アルフォード=アフィラス 二等位神官 17歳』という声とともに、その女の子が追いついてきていて話しかけてきた。
「待ってください。貴方は本当に『剣姫』なのですか?私は信じられません!」……その言葉を聞いたリリィは……
「はぁ……。」
ため息をつきながら振り返ると、その子の顔を見て再び深い溜息をついた。
その表情をみたその女の子が……
「も、申し訳ありません!!そ、その『剣聖』様には失礼な態度をとってしまいまして……。どうか私を許……」と言い終わる前にリリィの右手から凄まじい勢いの水柱が立ち昇った。そしてそのまま女の子にぶち当たったのであった。
その水を浴びた女の子は「ひゃああああっ!?なにをするのですっ!!?」と叫び……リリィの方に目をやった。そして次の瞬間、その瞳に驚愕の色を浮かべて固まった。
なぜならそこには……今まで見慣れていた『剣聖』の面影を微塵も残していない……まるで別人格のように変わっていたからだ。その変化は、先ほどとは比較にならないほどの魔力が彼女の体の周りに渦巻いているのを感じ取れるほどだったのだ。
リリィの外見的な変化といえばその髪型だろう。ポニーテールの髪が解かれ、長い髪が全て後ろに流れているのと……着ている巫女装束が真っ黒になっていた。それに肌の色が白く透き通っている。まさに日本人とはまったく異なる見た目となっていた。
俺はその光景を見ながら思わず「うわ……別人になったみたい……。」……と呟いていた。……だってあのリリィがこんなに変わるなんて……誰が想像できるんだよって……。
すると『リリィ』は……『エルフ』の女の子に顔を向けたまま、少し恥ずかしそうに微笑むのだった。そして「さっき言ったでしょう?私はリリィです。」と言った。その言葉を聞いて……
「も……申し訳ありませんでした。まさかリリィ様だとはつゆ知らず……。大変な無礼をしてしまいました……。どうか私の命をもって罪を償いますので、せめてもの御慈悲をいただけないでしょうか……。お願いいたします!!」と言って……その少女はその場で地面に膝を付き頭を深く下げ、額も地面にあてて必死に懇願するのだった。……そしてその様子を見た俺とリリィは困っていたのだ。リリィも同じような経験があったのか、すごく嫌そうな顔で……
「はぁ……わかりました……。今回だけは見逃してあげます。今後は二度としないで下さいね?」と告げ、その言葉を待っていたかのように、その『エルフ』の少女はその美しい顔を輝かせるのであった。……そしてその『エルフ』の少女はすぐにリリィの前でひざまずいたまま深々とお辞儀をして感謝の言葉を述べた後、俺に向かって話しかけた。それは……この場で初めての会話でもあった。
「お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「え?えーっと……『リリィ』ですけど……どうしてですか?」
俺がそういうと……そのエルフの女の子は笑顔で……
「ありがとうございます!お名前を教えていただけるなんて光栄で……とても嬉しいことです!『聖女リリィ様』は……その、お友達になりたいと思う人の名前を聞くことはございません!それだけで幸せなんです!それで、その……『リリィ』ちゃん?は……その『聖樹の森』の出身なのかな?もしかしたら私の家の近くかもしれないのだけれども……。」
と興奮気味で早口で喋りだすのだった。俺は『リリィ』が『エルフの王女』だということを伝えたが……全然信じてくれなかった。俺が「本当なんだが……」と呟くように伝えるとやっと分かってくれたようだが、その時には俺はもうその話に興味を失っていた。その話が『聖都グランツバッハ』の近くにあるということだけがわかったからだ。俺は『リリィ』とこの『聖騎士隊』に所属しているこの子を連れて『王都』に戻ることにしたのだった。
(なんか変なことに巻き込んでしまったが仕方がないか……。でもこの子とは今後とも会う機会があるかもだし仲良くなれればいいかな……。俺にはリリィを守る力がいるから協力してくれればとても助かるのだが……無理に巻き込むのも良くないし……今回は諦めよう……。)と思っていたのである。…………そして現在……。俺は……『剣聖』こと……『剣聖 アルフォード=アフィラス』と共に、王城に戻って来ていた。その王城の中には『聖騎士団』と呼ばれている騎士団があって、その中の第二大隊長を務めている女性らしい。この人の名前は『アリスティア・フォン・ファムニルト・ルミナリア・アースガルズ 第一皇女 15歳』らしい。
金髪の美人さんだが見た目は15歳には見えない程大人びており……なんと!胸が大きい!!身長も170センチぐらいあってスタイルもかなり良かった……。
この人がこの国の『王都グランドハザート』の第二皇女であり、『王城近衛兵 第二大隊 隊長兼第1小隊小隊長』なのだそうだ。年齢は『聖騎士』の中で一番若いらしいが実力はこの中で最強らしい。『聖騎士隊』の中ではこの人だけ役職を持っているとのことで、他の『聖騎士』さんは皆役職無しでこの人は唯一役職を持ってるんだそうだ。この人の武器はレイピアと双剣を使うらしくて……二つ名は『閃光剣姫』と言うんだそうだ。……二つ名がとてもかっこいいと思った。そのせいでこの人を見る目が若干変わり始めたような気がした。
この人も『剣聖』のことをずっと『剣姫』と呼び続けてたんだけど……本人に何度も否定されてしまい……最終的には本人が……
「リリィでいいですよ。みんなそう呼びますし。……というより私が『剣姫』と呼ばれるのが嫌なのは……そうですね。この格好を見られると恥ずかしいからなんですよ。できればあまり言わないで欲しいのです。だから私を『剣姫』と呼ぶならリリィで良いですよ?」……と言って『剣姫』の了承を得ることができたのである。この人に会えただけでもここに戻ってきた価値があったというものだ。俺の気分はかなり良くなっていたのである。……そんな感じでこの日、俺とリリィとこの二人を引き合わせた。俺が王都に来た時以来久しぶりに再会した『剣姫 リリィ』だった。俺とリリィとアリスティアは『剣姫 リリィ』が手配していた馬車で帰ることにした。そしてその道中で俺とリリィは話をしたのである。その話の話題の中心はもちろん俺の異世界転移についての話だったのだ。俺の話を聞いた『リリィ』はとても驚いた顔をしていたが、同時に嬉しそうにも見えた。その反応が俺は気になって「どうして喜んでるんですか?もしかして知り合いの転生者だったとか……?」と聞いたのだが、首を横に振って違うと答えた後にその理由を告げたのである。
「私は貴方と同じ世界から来た人間です。貴方とは面識はないのですが『リリィ様』は知っていましたので、もしやと思って尋ねたところ正解だったので驚きました。しかも同じ学校の生徒だというではないですか!!これは偶然ではありません!!神様のお導きに違いありませんよ!」……その答えを聞いた時にリリィの顔は少し複雑そうな表情をしていた。俺はその様子に気づくことはなかった。
その後リリィとアリスティアと色々な話をしながら馬車を走らせていたのであった。そしてようやく王宮にたどり着いた俺とリリィと『剣姫』は『王都』に戻ったのだった。ちなみに帰り際に……
「あの、リリィちゃん……私に剣を習わせてください!!」と言って来た『エルフ』の子がいたのは言うまでもない。……どうなるんだろ?この子?
―――時は『神聖国 聖教国家 王都 聖教会本部』……教皇の間での出来事から遡ること数日前……。
『王都 王城』のとある部屋にて……。そこにいる二人の女性は真剣な眼差しで水晶に写っている映像を凝視していた……。片方の女が口を開く。彼女は『聖騎士隊 第三大隊長 ミリアム』という名前の人物である。
そして、その彼女に向けて話し掛けているもう一人の女性が『聖騎士隊 第二大隊長 アリスティア』という女性だ。彼女の年齢は『聖女 リリィ』と同じく15歳でこの『グランドル王国』の第一皇女である。
この部屋に居る二人はそれぞれ別の任務に就いていたが、つい先ほど合流したばかりであった。お互いの得た情報を共有し合い、今後の対策を話し合うためである。そんな中……先に口を開いたのはアリスティアだった。その内容は、ここ最近『剣聖』の身に起き始めている異変についての報告だった。
「……以上が報告の内容となります。そして最後に……。『聖女 リリィ様』との面会が無事に終了し……王都にお連れする運びになりました。」と報告を終えた後、少しの間沈黙が流れた……。それを壊したのはやはり『ミリアム』の方だった。その口調は少し重たい感じだったが……。
「そう……。あの子が無事でよかったわ……。」と安堵のため息をつくように話すのであった。そして次に口を開いて「あの子は元気でやっていたのかしら?あちらの世界での生活のほうは……。」……と呟いた後、「『リリィ』は『聖樹の森』の出身です。ですのであの子との面会は可能ですが……。今はそれよりも……。」……と『聖騎士』である彼女にしては珍しく言葉を濁しているのを見て……。「……もしかして……まだ何もわからないままなの?」と尋ね、その問いに対して『ミリアム』が首肯したことで……。またしばらく沈黙が続いた……。その長い静寂の中、再び言葉を発したのは『アリスティア』だった。その声色は悲壮感に満ちていて……今にも泣き出しそうなくらいの悲しみが伝わってくるようであった。「もう嫌……。一体なんでこうなるの?私の家族だけじゃなくて……『剣姫』も『聖樹の森』も、皆どうしてあんな目に合わなければならないの?どうしてこんなことが起きるの?ねぇ……。教えて欲しいの……。どうしてこんなことが……。どうして私たちの身近な人たちが苦しまないといけないのよ!……『神 バロール』様……。私たちは何か間違ってしまったのでしょうか? なぜこの世界に来てはいけない存在を呼び覚まして…… さらにその『邪神 イビルロード』までも呼び出してしまったのでしょう?本当に……。何のためにこの世界を創造したというのですか? この世界には……『神 バロール』様しかいないはずなのに……。
何故このようなことになるのですか?……。」
その問いかけに対する回答は……誰も持ち合わせていないものだった。ただ……その質問をしたアリスティア自身もその答えを知り得ていないことも事実だった。その答えを知ることができるのはこの場には存在しなかったのだ。そして、その『神聖王都グランハザート』で一人の男が『邪神 イビルロード』に戦いを挑んでいた頃……。『グランドハザート』の外れにある洞窟の奥底で『聖魔石』と呼ばれる特殊な石を採掘していた男がいるのだった……。彼は自分の名を名乗った後に、『聖騎士隊』のメンバーであることを明かすのだった。彼の名前は『ロイド』といい……歳はまだ若く25歳だったが既に30人以上の部下を抱え、更にこの『聖騎士団』の中でも最強と言われている『剣聖』ことアルフォード=アフィラスの弟子として剣の腕を高めてきた人物でもあった。彼の剣の才能は非凡であり、師であるアルフォードも才能を認めていたほどである。その彼でもアルフォードが認める『聖騎士団』の中では二番目に腕が立つとのことだった。彼が持つ『聖騎士団』の中では『剣姫』と呼ばれている第一王女アリスティアがアルフォードと親しい関係であるということは、『ロイド』はアリスティアから聞いて知っているのであった。そのこともあって『ロイド』もアリスティアと顔見知りの仲ではあった。その『ロイド』は、今回の仕事の件を受けて、『グランドハザート』に戻ることになっていたのだった。そこで、『聖騎士 第二大隊長 剣姫』である『リリィ』と出会うことになっていく。
その日、『グランドハザート』で事件が起きる前の日、彼らはある依頼を完了させるために、その依頼を受けたギルドに向かって、仕事をしていたのだが、たまたま通り掛かった時にこの洞窟を発見し、その中を調べた結果……。奥から邪悪な魔力が溢れ出しているのを感じ取った『ロイド』と部下たちはその発生源を探るため洞窟の調査を開始した。そしてついに発見したのだが……『聖騎士 剣姫 リリィ』がその邪気に充てられ、気を失って倒れてしまう。そして、その邪気の出所を突き止めるためにこの『聖騎士 リリィ』を抱き抱えたまま調査を続けていた時……突如洞窟内から強烈な閃光が発生し、同時に爆発音が響き渡ったのである。その直後に……何者かによる襲撃が始まったのである。『ロイド』達は必死になって戦ったが敵の数があまりにも多く、徐々に劣勢に追い込まれてしまい全滅寸前まで追い込まれた。そんな時に……謎の集団が現れ助けてくれた。それがのちにこの世界で伝説となって語り継がれることになる『白銀の剣士 リオンズテイル社』だったのである。その『白銀』が彼らの命を助けてその場から去って行った。その後『ロイド』達は、意識を取り戻した『リリィ』と話をし、その日はそのまま別れた。その翌日、昨日起こった出来事を話し合うことになった。だが『リリィ』の様子がおかしくなったのである。そしてその話の内容とは……。
「その……。私がこの世界で目が覚めたのが、その日なのです。その日に見た光景は今でも鮮明に覚えています。その景色はとても幻想的で、そして……その空を覆い尽くす程の巨体を持つドラゴン達と……。とても美しかったんです……。だから……その……私……あの竜たちと戦いたいんです!!あの美しい姿をもう一度見てみたい!!……その気持ちを抑えることができませんでした。そしてその次の日から『冒険者』になるために『王都』に行こうと思いました。それで、その道中で偶然にもあなたと出会ったんです……。その時私は……。『ロイドさん』って素敵な男性だな……。って思いました。そして……私の『心の声』も……貴方と一緒に行動するように促してきたのです。私は……その指示に従い、同行することにしました。そして、今日に至りました。」と……。その話を聞きながら『リリィ』はどこか辛そうな表情を浮かべていた。その話の中に……どうしても聞き流せない内容が混ざっていたからだ。
(えっ!?……待って!!その『ロイド』っていう名前……まさか……。いや、そんな……ありえない……。……だけど……。)
(その話の内容だと……。あの人……やっぱり……。うぅ……。)……『聖女』と『聖騎士団』の隊長二人の話は終わりを告げようとしていた。そして最後に『リリィ』の方から『ミリアム』に尋ねる。それは……。「あ……あの……、そろそろ……『聖樹の森』に戻らないとダメなんじゃないかな……と思って。あの人達がきっと心配してるだろうから……。あの……お願いがあるんだけど……。いいかな?『聖騎士 第三大隊長 リリィ』」と少し躊躇いながら尋ねたのだ。
すると……「あっ……、そうね……。私もそろそろ……。『聖騎士隊』が戻って来ないと……。あの子が……。……うん……。……ごめんなさい……。本当はすぐにでも……。」……と、最後は消え入りそうなくらい小さな声で呟いたのである。そして、しばらく黙り込んだ後に……「そういえば……貴女の名前は確か……アリスティアよね?」と確認したのだ。それに答えたのは『ミリアム』の方だった。
彼女の本名は『聖女アリシヤ=アルストロメリア』であり『剣姫』と呼ばれている第二皇女であった。『ロイド』や彼女を含めた三人で行動を共にしていたのだが、途中別行動を取ったことがあったのだ……。そしてその際に……。彼女は攫われた。それを知った二人は全力を挙げて捜索を行った。その結果、無事救出することが出来たが……。その過程で仲間の一人を失い……『リリィ』自身も重症を負ってしまう事態にまで陥ってしまったのだ。そのことをアリスティアに尋ねているのである。それに対して『リリィ』は、申し訳なさそうな顔をした後、「そのことは大丈夫だよ。今はこうして元気で生きているから……。」と答えたのである。『リリィ』の言葉を聞いて『ミリアム』がホッと安堵のため息をつくと、「良かった……。あの出来事があった後、みんなバラバラになっちゃったけど……。今はどうしているんだろう?」……と呟いたのだ。その質問に対して、『リリィ』も『ミリアム』と同様に安堵のため息をつく。その反応を見て……アリスティアが口を開く。
「……もしかして……みんなに会えたの?よかった……。みんなは無事に保護できたの?」……とその質問に、『ミリアム』は首を横に振ることで答えたのである。その仕草を見たアリスティアの顔が青ざめていく。
「じゃ……じゃあ……、まさか……。もう……」と言うので、『ミリアム』が「ううん……。実は……全員無事に救えるかもしれない手段を手に入れたんだよ。まだ完全に成功したわけじゃないんだけど……。これから、試すところだったの。」と言った瞬間、『ミリアム』は何かを覚悟するような真剣な表情になり、『聖騎士団』のメンバー達に振り返ると……そこには、部下の一人である『剣鬼 剣神』の異名を持つ男がいた。その男が前に出て来て剣を抜き放った直後、刀身が激しく発光し始めると……。それと同時に男の体に異変が起こり始めた。その姿はもはや人間と呼べるものではなくなり始めていたのである。
その姿を見ても誰も驚くことはなかったのである。
むしろ納得してしまったのだ……。
そして、変化が終わると、その姿はまさに剣神と呼ばれるにふさわしい風貌となっていたのだ。
全身が白銀の鎧で覆われており手には長柄武器であるハルバードを持っているがその外見は明らかに人とは大きく異なっていた。
背中には大きな両翼を持ち腰の後ろ辺りからは先端部分が蛇になっている尻尾が生えていてまるで……『聖騎士隊』のメンバーが所持している大剣『天叢雲剣』から召喚されたとされる『草薙の狼』を連想させる姿だったのだ。その男は剣を構えてからアリスティアに向かって言う。
「お初に御目にかかります。姫様。この度は、このような無礼をお許し下さい。そしてどうか我々と共に『グランドハザート』に帰還するために力を貸して欲しいのです。我々だけでは……敵う相手ではない。姫様の力が必要なんです。……姫様。我々は……姫様を絶対に死なせるようなことは致しません!ですので、我々に力を……。どうか……。姫様の大切な方々を……そして『聖騎士団』を守るためにも……どうか!!」と言い放つと、今度は剣先を地面に向けて片膝をつき頭を深く下げたのである。その言葉を聞いたアリスティアも決意を決めたのか……「わかったわ。貴方達の気持ちはよくわかりました。必ず成功させて見せましょう!」と力強く宣言したのである。その様子を見て、『剣神』が立ち上がると剣を構えると再び輝きを放ち……その姿が一瞬にして変化する。その姿を見て……その場にいる全員が驚いたのである。なんと……剣の勇者と剣聖は同時に姿を変えた。しかも二人とも……伝説の聖剣の所有者となったのである。そして、二人が持っているのは……。
『魔石 白き聖騎士の聖剣』という聖騎士が持つ聖剣の中でも最高位に位置する物であった。だが……。それだけではこの剣を真の姿にすることは出来なかった。そこで……。『剣姫 リリィ』が……あることを提案する。
その提案というのは……。その聖石を二つに分割して……片方を『リリィ』が使い、そしてもう片方を『ロイド』に渡そうとしたのだ。だが、その申し出を断ったのである。そして……。ロイドの身体を覆っている鎧に変化が生じたのだった。その色は白銀ではなく黄金に輝く眩い光を放ったのだ。更に剣にも大きな変化が起き、白銀だったはずの刀身に黄金の紋様に彩られていき……。その剣も金色に変わっていったのである。それを見つめていた『リリィ』が感嘆とした様子で呟く。
「ああ……。やっぱりそうなったのね……。その『聖樹の森』にあった巨大な魔力溜まりの中心核が……。貴女のお姉さんの遺体だったのよ。」その話を聞いた『ロイド』達は衝撃を受け……絶句する。『ロイド』も『ミリアム』も『リリィ』でさえ……。その話は知らなかったのである。
だが、アリスティアはその事実を知っていても特に驚かなかった。何故なら、既に知っていたからだ。アリスティア達は『ロイド』達と出会う前に一度ここに訪れて調査をしていた。その時にこの場所の奥に倒れて絶命していた人物の遺体を発見している。その遺体が誰なのかまでは知らないが、おそらくは……ロイドの肉親だろうとは推測できていたが……、まさかロイド本人だなどとは思っていなかったのである。
そして、アリスティアは続けて言う。「『リリィ』、そして『ミリアム』。私もこの儀式に参加させてもらうことにします。私も……。皆と一緒に行きたい!!だからお願い。私も一緒に連れていって!!あの竜たちと戦う為に!!そして……あの人を助けるために!!」と……。
「あの人……?助ける……?」その話を聞いて、思わず『ミリアム』が呟いた。すると……。その疑問に対する答えがアリスティアから告げられたのである。
アリスティアの姉が瀕死の重傷を負った原因が判明した。『リリィ』が見つけた魔力溜まりの中心部にある棺の中にあった遺体はアリスティアの兄であった。つまりアリスティアの双子の兄である『第一皇子 ジークフリード=フォン=ハーフェン=アルスター=ラクスティア=アルストロメリア』だったのである。そして、この『アルストメリア王国』において最も優れた聖剣『魔剣グラムス』の持ち主であり、『魔王』を討伐したとされる勇者でもある人物であった。
そして、この国にはもう一つ別の顔があった。それは、アリスティアの父『国王 アルフレッド=アルストロメリア』こそが、『聖騎士団』を率いる『剣聖』であり『英雄王』と呼ばれた人物であることだ。そして……。この二人はとても仲が良かったと言われている。それ故に、その事実を知る者達にとっては『聖騎士団』の面々と共に、アリスティア達が生きていて欲しかったと切実に願う存在なのだ。だが……。その願いとは裏腹に、今、アリスティアの双肩に重い責任が課せられようとしていた。
そして、アリスティアは二人のことを心から信頼していて二人のことが大好きだったのだ。だからこそ……彼女達を見殺しに出来なかったのだ。
「お願い。あの人の為に私は戦う!!例え……命を捨てることになったとしても構わない。」そう言って『聖女』は再び聖女としての顔に戻ったのだ。『ロイド』、『ミリアム』がお互いにアイコンタクトを交わした後、『ロイド』が一歩進み出て口を開く。そして、聖女の前に立つとその手を取り、優しく語り掛けるように言ったのだ。
「安心していい……。君は必ず俺が守る……。俺の命に代えてでもな。そして……『リリィ』と『ミリアム』。この儀式の成功は、アリスティア様にとって最後の希望になるんだろう。」
『ミリアム』が答える。「ええ、そうなの。それにね。その儀式を行う為の触媒を用意したの。」と……。その話を聞いていた『リリィ』が『ミリアム』に対して聞く。「どんなのを使ったんだ?」と……。その質問に対して『ミリアム』が説明すると、『リリィ』は顔をしかめるが……仕方がないと言った表情をして、「わかった。だけど……無理だけはしないで……」と『ミリアム』の身体を心配しているのがよくわかる口調で言うと、『ミリアム』が笑顔で答える。
「大丈夫だよ。これぐらい平気だって……。『リリィ』は相変わらず心配性なんだから……。本当に大丈夫だよ。」と言って笑う。『ミリアム』はいつも明るく振舞っていたのだ。だが……この時だけ見せた彼女の本当の姿を三人の勇者たちは見抜いていたのである。本当は不安で仕方がないことや……。自分がこれから行おうとしていることに迷いを持っているということを。
「うん……。そうだよね。うん。わかったよ。私がみんなを守るよ!」と『剣姫リリス』は微笑みながら言ったのであった。
「じゃあ始めるね……。準備はいいわね?」と言うと『剣姫リリス』が地面に両手をつけて何か呪文のような言葉を唱え始めると、辺り一面に凄まじい閃光が発生したのだ。そして、それが止むとそこには……大きな木が現れていたのである。
(……あれ?なんか……思ったより……普通だぞ……?)と思ったのだが……。その木が動き出したのを見て……『ロイド』は目を疑った。その大きな幹の中に、誰かがいるのを発見したからである。その人物は眠っているかのように目を瞑っていたが……。突然に、目が開き、上半身を起こすとこちらに振り向くと……そのままゆっくりと歩いて近づいてきたのである。その女性は、長い金髪と青い瞳をした美しい人だった。そして、その姿は『勇者の服(白)』を着込んでいた。その女性に視線が釘付けになっていると『リリアム』がその女性の傍に行き……。
「お母さま……会いたかったです。やっと……。またお目にかかれて嬉しいですよ。」と泣き出しそうになりながらも笑顔で話すと……その女性が反応する。そして、自分の姿を見ると……。驚いた様子だったが、その目元からは涙が流れ始めていた。
「あら……。どうして……。貴方達は一体……何者なの?ここは……どこなのですか?私は死んだはずなのに……なんで……。」
『リリィ』はその問いに答えてあげると……。『ロイド』達のことを紹介してあげていた。『剣神 シン・リューシェン』『魔剣士 リリス』『剣聖 リリィ』『剣聖 ミリアム』の紹介を終えた後に……。最後に、アリスティアが紹介すると……。
アリスティアの自己紹介が終わると……女性は驚いた顔をしながら……アリスティアを見つめていたのである。それから……しばらくすると……彼女は落ち着いたのか、アリスティアに礼を言うと……「私のことを助けていただきありがとうございます。」と頭を下げた。アリスティアはその行動が予想外だったので慌てていたが……。
その光景を見た他の者達も動揺したのだった。なんせ今まで自分達以外に誰もいないと思い込んでいたのだから……。しかもその人は……『リリアム』が知っている人で、その人も『リリアム』のことを覚えていて、その人のことを知っている『リリアム』はとても嬉しそうな顔をしていたが……。アリスティアの表情を見るなり……。その人を紹介する。『リリィ』はアリスティアの手を引き……そしてその人をアリスティアの前に立たせて……その人にこう言った。
「ほらっ……。この方は『リリアム』のお母様よ……。『剣姫リリィ』じゃないんだよ……。だからね……。アリスティアも……。そんなに寂しい顔をする必要ないよ?」と……。その言葉を聞いていたアリスティアは自分の頬を触り……泣いていることに気づいた。それを見ていたその女性はアリスティアに近づき抱きしめると……。頭を撫でていた。その瞬間に、アリスティアの目から涙が止まらなかったのである。その様子を見た『リリアム』も一緒になって泣いた。そして、『リリィ』達も一緒に涙を流したのである。
こうして……『聖騎士の花嫁候補 アリスティア・フォンティーヌ・エルフェンティーナ・シルヴァニア』の運命は大きく変わることになったのだった……。
アリスティアの運命を変える出会いから……一週間後……。アリスティア達はこの国の城下町である町『アルストメリア城』に戻ってきていた。この国は『魔族』からの脅威に晒されていた。『勇者の剣』を持つ者はアリスティアしかいないのである。アリスティアが行方不明になっていた間に起きたことを『剣姫リリィ』が報告すると……国王アルフレッドは衝撃を受けた顔になったが……すぐに落ち着きを取り戻し……アリスティアの帰還を喜んだのであった。その後……。アルフレッドはこの世界の情勢を知る為に……。そして、残された僅かな時間で少しでも力を付けていくために……。『リリィ』達と一緒に訓練を開始することに決めたのである。そして、アリスティアは……。その話を聞くと自分も参加することを決めたのであった。『ミリアム』と『リリィ』もアリスティアの意見を尊重することにしたのである。『ミリアム』もアリスティアの実力が気になって仕方がなかったのだ。だが……その日から……。
「…………」と黙り込んだままだったのだ。アリスティアが『リリィ』の様子が変だと感じた次の日のことだった。『ミリアム』から『聖女』の儀式の準備を始めると告げられたのだ。そして、『剣姫リリス』が触媒を用意すると言っていたことをアリスティアに伝えると……。
「うん。わかった。私からもリリスちゃんに頼んでみるよ。」と言って、その日の内にリリスとリリィを呼び出すと……。早速、アリスティアはリリィとリリスに儀式の準備を手伝って欲しいと告げる。リリィはすぐに「わかりました」と言って、リリスの方を見て、アリスティアの提案を受け入れてくれるかの確認を取ると……。リリスは無言のまま静かに首を立てに振ったのだった。リリィはリリスの顔色を見て……リリィに尋ねると……その問いに対してリリスは何も言わずにアリスティアと向き合う。そのリリスの表情を見て……リリィは察していたのだ。『剣聖』は……もう長くないことを……。そして……。『リリィ』の問いかけに対して、リリスが答えることはなかった。だが、その表情はどこか満足げな感じに見えていたのである。
それから、『聖女の儀』を行う場所としてリリスから提供されたのは……。なんと、王宮の地下だったのである。だが……そこには地下があるなんて知らなかったのだが……そもそも王宮のどこにどんな建物が存在するかなんて、一般の人達が知るはずもないことだった。ましてや、『聖騎士団』や一部の王族しか立ち入り禁止の場所だったのである。
そして……リリスが案内したのは『王宮図書館』だった。そこは……『剣聖』ですら、限られた人物しか入れない場所であり……そこに存在する『固有結界 魔窟大迷宮』に繋がっているのだそうだ。
この世界で、魔獣と呼ばれる生物達がこの国を襲ってきた時に……。アリスティアが作り出したらしいのだが……。その力は凄まじく……瞬く間に殲滅させてしまったのだとか……。その事実を知っていたリリィがそのことを話すと、さすがのリリスもこの事については驚いていたようだが……アリスティアの力を信じると言い……儀式が行われる日までそこで待機することになったのである。もちろん、『勇者ロイド』、『リリィ』、そして『リリアナ』の三名もだ……。そして、それから……数日の間。準備に時間が掛かり……ついに今日……。『聖騎士団 特別班 副団長』のアリエスと『ミリアム』の二人が……王宮の地下室の入口までやってきたのだ。『ロイド』が先に入り、その後を続くようにリリィとリリスも入って行く。そこには大きな空間が広がり……その奥には階段が存在していた。リリィは不思議に思い……。なぜこんな場所に隠し扉が存在したのかを考えていた。だが……リリスが……「『聖剣』を扱える者だけがこの場に現れると言われている」と呟いていたのである。そして、この場所から感じる異様な雰囲気にリリスもリリィもその感覚を感じていたのだ。リリスが言うには……。
「ここには……おそらく強力な封印が施されている。しかも……。複数の強大な魔力を感じる。それにこれは……。かなり複雑なものだな。リリスでも……解呪するのに……時間がかかるかも……しれない」と……。リリスは……アリスティアの為に、どうしてもこの『魔導書庫』に辿り着きたかったのだが……。その願いも空しく……。『魔素の霧』の濃度が上昇したことで、アリスティア達は……『魔王城跡地』に戻らなくてはならなくなってしまったのである。
『魔道兵器 グランガリウス・グランザリオ・ガルフォード』との戦いの後。アリスティア達は、『聖都 サンクトベール』に転移した。『ミリアム』も一緒に戻ってきたことに……アリスティアはとても喜んでいた。『リリアム』もリリ姉と一緒にいると楽しいみたいだねと微笑みながらアリスティアに語りかける。その言葉にアリスティアも「ええ。リリちゃんはとても優しくて頼りになるからね。」と言うと……嬉しそうな顔で「へぇ~……。そうなんだぁ。ふぅーん。リリねぇって意外と優しい人だったのね。」と言う。そんな様子を近くで見ていたリリアムもとても嬉しそうな顔をして「よかったわね。アリスティア。リリアムも、二人のような素敵な人を見つけられるといいね。」と言うと、それを聞いた『ロイド』が……リリィとアリスティアに近づき……二人の手を掴む。そして……。三人の手を合わせるようにすると……。こう言ったのである。
(これからの未来……俺達四人は一緒に過ごしていくことになるけど……いつまでも一緒だよね?だから……お互いが困っていたら助け合っていこうね?)
アリスティア達もそれを聞いて笑っているのであった。それから……それから……。
それからしばらくしてから……リリスは目を覚ますと……。目の前には……。
リリアムがいた。リリスの体を支えるようにしてリリアムがいるのだ……。リリスはすぐに起き上がろうとしたが……。体に力が入らない。さらに言えば、自分の体は血だらけなのだ……。この状態は一体どういうことなのか?リリアムから話を聞いたリリスは信じられなかった。自分が死んだと思ったが……生きているという事実に。リリアムに聞いた話によると、どうも自分は死んでいないらしい。しかも、リリアムの力で蘇生したという。リリアムはリリスに事情を説明するが……あまり覚えていないのだとリリスは困惑するのであった。それでもリリスは……。『聖女アリスティア』と『聖騎士リリアム』の力のおかげで助かったのだということは分かったという……。
こうして……。この世界を救う旅は……この日……この日をもって……ようやく始まったばかりである。まだ……物語は始まったばかりだ。
それから……。時は流れ……。『魔剣の使い手』と呼ばれる『聖女』の少年と……。
聖剣を持つ少女と。
伝説の剣を持つ少女と。
聖剣を鍛えた『鍛冶職人』の『リリアム・ルブラン・ド・オルトルート』。
聖女と勇者と『魔道剣士』は、『アルストメリア』へと帰還した。
それから……数か月の時が流れ……。
「……そういえば……。そろそろ……。『リリアム・ルブラン・ド・オルトルート』が帰ってくるころじゃないか?」と、『聖騎士団団長』は部下達に問いかけると、「ああ……。もうそんな時期か……」とその問いかけに『剣聖リリィ・ルブラン・ラ・オルフェア・エルフェンティーナ』が返事をした。「……まあ……。帰ってきたところで何も変わりはしないけどな……。奴は……いや……あいつは……」と『剣姫リリィ』は苦虫を潰したような表情を浮かべる。『リリアナ』もまた同様に複雑な表情で……。その表情を見た他の者達が心配になって話しかけようとすると……。その時だった。部屋のドアが開かれ……そこから現れた『剣聖リリィ』にそっくりな人物が部屋の中に入ってきたのである。その人物は……。
その顔を見て、『聖騎士リリィ』が思わず「お父様……。」と言ってしまうと……。「うむ。久しいな。我が娘よ。」と言って『剣聖リリィ』と抱き合い……そして、二人は泣き始めるのである。
その様子を見た者達は驚くのである。
それから……。しばらく時が流れる……。そして……この国の新たな『国王陛下』として……リリィの父親であり……そして……。かつて『剣聖』と呼ばれた男……。
『剣聖王』『オルテバ』は、再び……『聖剣』を手にしたのである。
それからまた……月日の流れる日々が始まったのである……。そして、そんなある日の出来事だった……。
「さあて……と……。」『聖騎士団団長 剣聖リリィ』は……いつものように訓練をしている兵士達の訓練を見ている。すると、そこへ、見慣れない女性が現れたのである。
「あら。こんにちは。貴方達が、あの子達が話していた人達ですね。はじめまして。私は『ミレイユ=リシャール』と言います。」と言って、自己紹介を始めたのである。その人物の顔を見て……リリィとアリスティア達は……。まさかと思う。なぜなら……その人物は、『ロイド・リシェール・ルヴァンノートル』、『ミリアム』とよく似た面影を持っていたからだ。だが……。ミリアムに聞いてみると……。やはりその人物とは面識がなかったようだ。その女性は続けて言う。「皆さんの事は知っていますよ。なんせ……。『ロイド・リシェール』、『リリアナ』、『ミリアム』、『リリアム』がお世話になったのですから。特にリリ姉は大変だったでしょう?いろいろとお話を聞かせてもらいましたからね。」と言って笑う。その人物の話に一同は驚きの声を上げると……。それから、しばらく談笑した後にその場を離れようとした時……。
「あ……そうだ。せっかくですから……今からお茶会をするので、参加してくれませんか?」と言われてしまい……。結局断ることもできず……。全員、一緒にお茶会をする事になったのである。
『聖騎士団 副団長 リリィ・ルブラ・ドオル・アルストレア』は『リリアムの妹 リリィ・ラトゥール・オルク・アメリアドール』に案内されてとある場所に辿り着く。その場所に辿り着いてすぐに……その場所の雰囲気に驚いたのはリリィだ。その光景に見惚れていたリリィにその人物は声をかける。「あれ?……リリィじゃない?リリアナと一緒じゃないのね。」と声をかけたのだ。そして、それを聞いたアリスティア達もその人物が誰か分かってしまい……そして……。その場にいた者全てが、この世界では誰もが知っている人物であった。なぜなら……『ロイド』と同じ顔をしているからだ。しかし、『ロイド』よりも……若干大人っぽい雰囲気であるのだ。その人物は言う。「初めまして……ではないけれど、挨拶がまだでしたね。改めて、はじめまして。私の名は……。」と、そこで突然……。アリスティアの頭の中で警告音が鳴った。そして、その人物が言うはずだった言葉を途中で遮ってしまうのである。
(待ってください!!……あなたの名前は言わなくてもいいはずですよ。だって……『ロイド』は……この世界から消えてしまったんだから……。)
(……それは違います。確かに『ロイド』さんはこの世界にはいませんでした。……でも……今も生きていらっしゃいます。だから……。その名前だけは……。言わない方がいいと思います。……この世界が崩壊するかもしれないんです。それに……今の『リリアム』さんの気持ちを考えてください。『ロイド』さんが……もう二度と帰ってこないと……そう思って悲しんでいたところに……。同じ名前を名乗る人間が……現れたんですよ?その人が、自分にとってかけがえのない人だとしたら……。『ロイド』さんの心の中はどうなるのか……分かるはずなのに……。どうして……この人は……。自分の命を犠牲にしてまで……そんな事をいうんだろう?)
『リリアナ』の言葉を聞いたその人物が目を大きくして驚くと……それから静かに笑い始めるのである。「フフッ……。本当に面白いね。この子は……。」と言うとその人物はこう続けたのである。
「私も……貴方と同じ考えよ。私は……この世界を崩壊させたくない。だからこそ……。」とそこまで言って言葉を切ると、真剣な表情で……こう言葉を続けたのである。
「『魔剣使いの魔王』は死んだわけではありません。今は……一時的に……『魔素の霧』が弱まっていますが……それも時間の問題でしょう。おそらく『聖魔導書庫』から膨大な『魔素』が流れ出ていますから……。それが原因なのです。いずれ『魔王』が復活してしまう……。」と言うのである。それを聞いてアリスティアが慌てて反論する。
(そんな馬鹿なことありえないわ!!『魔王 グラトニー・エンペラー』の力はあまりにも強力すぎて……いくら貴方達の『魔剣』の力を持ってしても、太刀打ちなんてできないって……。『魔剣』は……『魔王』を封じるための剣だから……。封印されている『魔剣 グラトニル・リ・デリスフル』の力を解放するには、『魔王 魔道兵器グランガリウス・グランザリオ・ガルフォードス』の力を開放する必要があるんじゃなかったの!?それができるのが……その『剣』だけ……。それなら……『聖剣 神剣エクスキャリバー』の力でも……勝てるはずだから……。…………あっ!!!!そういうことなの?まさか……『魔剣 グラトリシルノ』で……。『聖魔剣 エクカリバー』の力と融合させたのね?そうなんでしょ?……リリアムさん……。)
アリスティアは、リリアムの方を見ると……。
「ふっ……。流石は我が娘の力を借りただけのことはある……。そうか……この世界にはまだ希望が残されているということだね。」と言った後……続けて言うのである。「私がこれからしようとしていることを伝えておく。この国の未来は君達に託されたと思っている。『ロイド』やこの国の『剣聖 ロイド=ルヴァンノートル』、『聖剣 ロイド』や……その他の勇者の力を持つ者たちの力は大きすぎて危険だ。彼らは、きっと……『この世界の為ならば……自分の身など顧みない存在だ。そして……。何度、世界の危機が訪れても……。絶対にあきらめずに……何度も立ち上がるような連中ばかりだろうからね。だが、それだけの力があっても、限界があるということだ……。このままでは、この国は確実に破滅するだろう。だから……今こそ、『剣聖 ロイド』が遺してくれた……もう一つの剣が必要になる……。」と……。それからしばらくして……。『聖騎士団長 剣聖リリィ』と『剣聖王 剣聖オルテバ』は二人で話をしていたのである。すると……そこに一人の人物が現れた。「おや?ここにいたのかい?まったく……探したんだよ?」と言って現れた人物は『リリアナ・リシャール』だった。「あら。リリ姉じゃない。」と『リリィ』が答えると、「ああ……お前だったのか。……リリナはいるか?」と尋ねるのである。『リリアナ』が答えると……。「ちょうど良かった……。少し話がしたかったところなんだ。一緒に来てくれないか?」と頼むのであった。そして二人は……どこかへ出かけるのだった。
リリアナが連れて行かれたのは、大きな屋敷のような建物だった。その建物の門番は二人とも剣を抜いており……物々しい空気を纏っていたのである。だが……。二人の内の一人の顔を見て……『リリアナ』が驚きの声を上げたのだ。
その声に反応したリリィとオルテバが振り向くと、そのリリとそっくりな少女が、オルタの胸に飛び込んでいったのである。その人物の名はリリアナ・ドオル・ルヴァーヌ。ド=シュプール侯爵の長女である。彼女は泣きながら言う。「う……嬉しい……。お父様……リリアナのこと覚えていてくれたのですね……。」そして……涙を流すのだった。「……当たり前だろ。忘れるものか……。それに、もう泣くんじゃない。……ほら……おいで?」と優しくリリアナを抱き寄せる。
そして……そのリリアナを見てリリアナの顔色が変わるとリリアナは「……嘘よ……。お父様に娘はいないはずよ……。」と、そう言ったのだ。リリアナの問いにリリィとオルテバは互いに視線を合わせると、「そう言えば、君は知らないのかな?」と、オルテバは言い始めたのである。
「君のお父さんとはね……。『リリアム』が亡くなって以来……。一度しか会ったことはないんだ。だけど……あの人の子供であることに間違いはないよ。」と言い出したのである。
リリアナが信じられないという顔を浮かべると「お父様……。リリアナが……分かりませんか?リリアナですよ?あなたの実の娘の……」と言いかけると、リリアナの父親が「違う!!リリアナは……そんな事を言わない!!」と言って否定したのだ。それを見たオルタナはため息を吐きだすと「仕方ないか……。どうやらこの子にリリアムの真実を話す必要があるようだね……。いいかリリィ?よく聞いておくんだぞ?この子の父親は……リリアムの双子の弟『リリアム・ル・デリスフル』なんだ。彼は……『魔素』に取り憑かれて……魔人化してしまったが、リリアナのお父さんに倒されたはずだった……。だが……。実は……リリアムは死んではいなかったんだ。……そして……。私達も……『ロイド』も……。彼の本当の名前を知らないんだよ……。だって……リリアナがそう呼ぶからね……。」
リリアムの父親と妹であるリリアナはその話を聞いていたのだ。そして……その話の真偽を確かめるように見つめ合うのである。そして……お互いの瞳を見つめていると……やがてリリアムが言う。「……信じてくれるかい?僕の妹よ……。」と言うのである。その言葉を聞いた瞬間……。リリィが「あなたが……。私の……お兄ちゃん……。」と震え声でつぶやく。それから……。「ええ……。ええ……。もちろん信じるわ。お兄ちゃん……。私は……もう二度と……お兄ちゃんを失いたくないもの……。それに……私……お兄ちゃんのお嫁さんになるって……決めてるから……。だから……お父様……。リリアナが大きくなった時……。その時は……リリアナとお母さまのことを認めてください……。」と言ったのである。
そしてリリィの父は「リリアナの願いならば……。喜んで聞こう。ただし、私は……リリアムのことを許しているわけでもなければ……。君を息子と認めたわけでもない。ただ、君たちがリリアムの子供だということだけは認めてやる。リリアムのことは……。私が決着をつける。……リリアムと約束したことでもあるからな……。必ず倒して見せる。それがたとえ命を奪うことになったとしてもな……。」と言うのである。
それを聞いたオルタが怒り出して言う。「馬鹿野郎が……。」とそう言ってオルタナを見る。その言葉を聞いたリリィとリリアムとオルティナの三人が驚いて「オルタ!?どういうことなの?」と言うのである。リリアムの質問に対してオルタが答え始める。
「こいつは……オルテバは……『聖剣』の呪いのせいで死ねないんだよ……。だから……俺が殺さなくちゃならない……。そうじゃねえと……俺が死ぬことができないからだ……。」と……言うのである。それから……。オルタは自分のことを話すのである。それは、リリィにとっては驚愕の話であった……。なんとその男は、『神剣 エクスキャリバー』の勇者として選ばれた男だったのだ。オルタの正体は……『剣王 神剣 エクスキャリバー』であった。リリはそれを聞いて納得すると、「それなら、話は早いわ。『魔王 グラトニル・グランザリオ・ガルフォリエル』の討伐は、リリアムの力が絶対に必要だわ。なぜなら……。『魔王 魔道兵器グランガリウス・グランザリオ・ガルフォードス』の『魔素』の供給元になっているのが、『魔王 グラトニル・グランザリオ・ガルフォードス』なんだから、リリアナの持つ剣の力が必要なんだから。」と言ったのである。
それからすぐに『リリアナ』達はリリアナの家に戻っていくと……。そこにはリリィの家族が集まっていたのである。そして……。そこにいたのは……。リリアナの父とリリアナとそっくりの少女とオルタとリリィの五人であった。
その部屋に入るとリリィは言う。「みんな、今日は話したいことがあるの……。大事な話だから聞いて欲しいの……。まず最初に紹介するわね?この人は……リリアナ・ドオル・ルヴァーヌ。お兄ちゃんと……リリアナのお父様の娘であり……リリアナがずっと捜していた家族でもあるの……。」と紹介した。すると、彼女の両親は驚き、妹のオルタは知っていたのか、無表情であった。そして、その後に続くようにしてオルタが話し始めるのである。「俺は……『神剣オルタ オリジン』。この国にある『剣聖剣 エクセリア・オルティネス』に宿っている剣なんだが……。リリアムと約束を交わした……。この剣の力で『魔族 魔王 グランゼ・グラガスト』と戦おうと思っている。その前にどうしてもお前たち兄妹と話をしたかったからな。」と……。
オルタリは続けて言う。「『聖剣』の呪いを受けたのはこの私なのだよ。私は『魔道王 魔王 グランギガス・グリュクオン・グランセリオン』が使っていた『神器 魔導王 グラムレイ・レガリア』の持ち主として選ばれてしまったんだ。『魔導具』というのは使用者を選ぶ物らしいが……。なぜ私だったのか……。」と自嘲気味に笑ったのだ。そして、彼は言う。
「私の呪いを解く方法はあるよ。……だが……それは……とても危険なものだ。……それでも聞きたいかい?今ならまだ間に合うと思うよ?」と。だが……オルターリは首を横に振って、「もう覚悟は出来ている。どんな危険であっても……。『リリアム』が生きているのであれば……それでいいんだ。だから教えて欲しい……。リリアムは……本当に死んだのか?もし生きていたとしたら……。彼はどこにいる?」と言って……。彼は……涙を流し始めた。そして……。
オルタが涙ながら語る。
「リリアムは……お前たちの父親である『リリアム・ルデリスフル』は『魔導士団 魔王 アヴァロン グランド・ゼロ』に戦いを挑み、その代償によって『魔導士』になったのさ……。」と。
その言葉を聞いていたオルタの両親は驚いて「まさか……。そんな事が有り得るというのか?リリアムは……あの後……リリアムは……私には何も言わずに行ってしまった。それが……『神剣』による『固有スキル』によるものだというのか?」と言い出すと……。「そうだよ……。お父さん……。リリアナに『聖剣 エクスカリヴァーン』が使えるようになったのと同じように……彼は『聖魔道師 大賢者 グランキリアス アルセイアス』になったんだ……。つまり……リリアムは既に人間じゃないんだ。」と言い出したのだ。その話を聞いていた父親はショックを受けて倒れてしまう。
それを心配そうに母親が寄り添うが、彼はショックを隠しきれない様子で言ったのだ。「なんてことだ……そんなことが有っていいはずがない。リリアムは……私が育てた大切な子供だ……。それに……私がリリアムのためにしてあげられることはもうない……。だから、せめて……。リリアムを殺したあいつを倒す事ぐらいはしないと……。それに、このままリリアナとリリアナの母親を置いていけない。だが……。私が『魔王』と戦っても勝てるはずなどないだろう。ならばどうすればいい?私が……いや……リリアナと二人で生き残るためには……。リリアムが残してくれた……。リリアナだけが頼りなんだ。」と言ってオルタとリリィのほうを見て言う。
リリアナは真剣な顔つきになると、「私は戦う。リリアムとの再会を果たすまでは諦めたくないから……。リリアナにはお兄ちゃんがいるし……。私にはお母さんもオルタリもお父さんもいるから……。私は一人ぼっちではないのだから……。」と言うのだった。それから……彼女は続ける。「私は……『聖剣 聖剣 エクスカリヴァーン・エクスプローラー』がなくても、魔法を使う事ができる。私が持つのは『剣聖の資質』。この能力は剣の扱いをマスターすることができる力。つまり……。私が持っているのは『聖剣』の能力なんかじゃなくて、私の努力で得たものなのよ……。そして……。これからの戦いに必要な力は……剣だけじゃない。私はリリアムに会うために……。この世界の平和を乱す者と戦い続けなければならないから……。そのためなら……。私は何でもする。そして……。いつかリリアムに会いに行く。そして言うのよ……。リリアナが大きくなった時……お嫁さんにしてねって……。そしたらきっと……。」と言ったのだ。
そしてリリアムの父親と妹であるリリアナとそっくりの顔立ちをしている女の子と、銀髪の少女が言う。「そうか……。それなら……私たちが協力できることもあるだろう……。」と。その言葉を聞いて、リリアナが驚いた顔をすると同時に言うのだ。「どうしてあなたたちは……私を助けてくれるんですか?こんな得体の知れない女に対してどうして……。」と尋ねるのだった。
それからしばらくして……。彼らはリリアムの父親に言われるままにある場所へと向かうことになるのだが……。そこには……オルタナ・グランザリオが立っていたのだった。
リリアムが目を覚ます。目の前では、『聖剣使い 勇者候補』が三人の美少女に囲まれてイチャイチャとしている。俺もその様子を見ていたのだが、なんだかなあと思っていたら突然……俺に向かってリリアムの奴が殴りかかってきた。しかも俺と同じような感じの動き方だったのですぐに避けることが出来た。……だけど。それを見たリリアナが俺のことを止める。そして、俺の『能力 ステータス・オープン』を見るように促されたので確認すると……そこにはとんでもない数値が表示されていたのである。
【リリアナ・ドオル・ルヴァーヌ・ガルフォリエル 種族】
【神剣エクスキャリバーの継承者(神剣使い)
固有スキル 剣聖剣 エクセリア オリジン】…… 神剣『聖剣 聖剣エクスカリヴァーン』の力の一部を引き出せる存在となる
聖属性・火属性・水・雷属性・地属性の攻撃魔法を習得する 【リリアム・ルデリスフル・グランザリオ・グランセリオン 神剣『聖剣 魔導王 グラムレイ・レガリア』の所有者になる 魔王の器(神格レベル:100億~1兆)』
・
・
・
※ リリアムの魂の中に存在する『リリアム・グラン・アルセイアス・リ・グランギガスス』
『リリアナ・グラン・ドルファリオ』は魔王の力を封印しているために、魔王化することは無い。
(しかし魔王化する可能性があるため『勇者』である桐島綾人との接触を避けるべき。尚、リリアム・ガルフォリーに関しては、桐島綾人の前以外では魔王化しない可能性が高いと思われる。魔王の力を解放しても自我を保つことが出来る可能性はある。また魔王化しない限り、この世界に影響を及ぼすことは無いと思われる。)
そしてリリアムに抱き着いている少女がいた。その少女は……「えへへ、やっと起きたー。おはよーリリィ!!」と言ったのだ。リリィと呼ばれた女性は言う。「うん。おはよう。アリアちゃん!!ふぁあああ~……。眠いよ……。まだ寝たいよぉ……。」と言いながら、あくびをしたのであった。それをみたオルタは言う。「まったく……。仕方ないな……。今日はもう遅いし……ここで一晩過ごさないかい?『魔王の城』に君たちを連れて帰るわけにもいかないしさ。それに……オルタ・オルタに話したいことがあるんだよね。だからもう少し……ここに居ようと思うんだけど……いいかい?」と……。
それに対して、俺と、俺の嫁たちと一緒に行動している、リリィの仲間たちの全員がうなずいた。そして、オルタにリリアムの妹である『リリアナ』という子が話しかけてきたのである。「ねえ……。オルタさん?貴方のお父様は元気にしていたかしら?お父様とは……もうずっと会っていないから。」「リリアムのお父さんか……。そうだな……。彼は魔王になった時に『神』に反旗を翻したからな……。でも……。彼は今……とても幸せだよ……。だってさ……彼の息子に娘が生まれたらしいからさ。リリアムはもう、死んでしまっているけれど、彼は今……。幸せなんだよ……。だから心配はいらないよ。……それに……。リリアムの魂の『聖剣』が『聖騎士』になって戻ってきたんだ。『魔道王』として、彼は今もこの世界を平和に導く為に戦っている。そして彼の娘であるリリアナもね。……だから……。リリアムが帰ってくるまでは、リリアナが頑張らないといけないんだよ……。」と言うと、リリアナは真剣な表情でうなずくのだった。そしてオルタが「リリアムはさ……。リリアナとリリアムのお父さんは似ていると思うよ。リリアナのように真っ直ぐで優しくて……。」と言って、「だからさ……きっと……大丈夫だ……。リリアムの娘なら……。リリアムみたいに強くて優しい子に育ってくれると信じている。そしてきっと……。私の呪いを解くために頑張ってくれるはず。……私はそう信じている。」と言って、「さて……と……。そろそろ、行こうかな……。私の用事も済ませたいし……。あと、オルタの呪いの件は……私が何とか出来ると思うからさ……。私を信じて欲しいな。それと、私がいない間は『勇者』をリリアムだとでも思って、接して欲しいかな?」と言った。その言葉に俺とオルターシャが反応する。「どういうことだ!?」と言うと、オルターナは説明をする。「実は……オルタが言う『聖剣』の持ち主って言うのは……この私なんですよ。そして私は『大賢者 グランキリアス・アルセイアス』なのです。」と言って「リリアナには言ってなかったですけど、私は大魔王を倒して世界を救ったのは『リリアム・グラン・アルセイアス』だと思っています。だから……。私は彼が帰ってきたときには、きっと……喜んで迎えると思います。」と言った
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