感情を持った人形
素早く動くネーブルを追うようにしてボルケミック・フレイムで連射する。
あいつは初心者が行き交う道路に危険極まりないダンジョンを作ったようだ。
アーティファクト・ドールの内部に設定されてある何らかの条件を満たせたから、そのようなことが可能になったとのこと、(ゲーム内のNPCが強くなったことにより、1ダンジョンのボスとなれる個体になったのか?)、やっぱり前回戦った時よりは強くなっているんだろう。
でもそんなことはどうだっていい。
あいつを今日この場で消せるかと思うと、俄然集中力が増す。
ネーブルを狙いつつも、壁や天井に嵌ったドールの目玉も破壊しておく。
そうして戦っているうちに、エリカさんとリゲルさんが入って来た。
「––––遅くなってごめん! 通路からデュラハンが歩いて来るのが見えたから、リゲルさんと一緒に倒してから来たんだ!」
「すみません。佐藤さんなら暫く1人でも持ち堪えると思いましたので、雑魚処理を優先しました」
「謝らなくていい!」
オレの注意が一瞬扉側に行ったのを、ネーブルは見逃さなかった。
レッド・ドラゴンの技ソックリの火球を複数個オレに向かって投げてくる。
その類似性に驚きながらも、一つ一つをウッドペッカー(ショットガン)で潰していく。
『何人来たって無駄無駄!! ユニークスキルを持ってるなら、こっちのものにするだけだっつーの! どれどれ? ほほーん、銀髪のドールは”硬質化”で、ピンク頭は”確率改変”か。ソルティ・ソリッドの方はゲームをリスタートしたばかりだから、変化な……はぁ!? なんか増えてるんだけど!』
「”アーティファクト・エレメント”が発動したからな。お前もオレのユニークスキルを奪ったんなら、オレの現在のドールに何が起こったのか分かるだろ?」
『……ないよ』
「は?」
『アンタを倒してもその”アーティファクト・エレメント”はこっちのスキルにはならなかったんだけど!』
「お前の事情なんか知るわけないだろ。オレはゲーム内で”アーティファクト・エレメント”を獲得したし、公式サイトのオレのページにも書かれてたんだ」
『何言ってるのか分かんない。本当に分かんない。どっちかの頭がバグってる?』
天井とかの目玉にもネーブルの混乱が反映されるのか、瞳の部分がメンヘラ女的なグルグルになっている。
今がネーブルを倒すチャンスではあるが、リゲルさんは何を思ったのか、真面目に説明しだした。
「ユニークスキル”アーティファクト・エレメント”はプレイヤーでなければ使えないスキルなんだと思います。普通の撃破のされかたをしたなら、ゲーム内のプレイヤー・キャラクターの死は現実とは何ら関係ありませんし、直ぐにでも初めからやり直せます。アーティファクト・ドールの娘はそうはいきませんよね?」
『そうなのか……。そんな性質のユニークスキルがこのゲームに存在したのすら初めて知った。ソルティ・ソリッドはどうやってゲットしたんだよ?』
「別に、ただレッド・ドラゴンから出てきた真っ白で言語設定がデタラメなドールが付与してくれただけだ。たぶん」
『真っ白で言語が出鱈目……? レアモンスターから出てきたドール? スキルを付与できる?』
「それが何だよ」
異様な食いつきぶりだ。
だんだん会話が面倒になってきたオレは、もう脚の位置をずらしてからウッド・ペッカーをリロードする。
すると、何を思ったのかネーブルは短い叫び声みたいなのを出した。
『アンタの脚に、ママの胸についた印と似ているイレズミが付いてる……。ソルティ・ソリッドはママのお気に入りのドールになったってことなのか!?』
「そんなのは知らない。AIなんぞに好かれる要素なんかオレにはないし」
『ウソツキだ! ママに媚を売って取り入ったんだ!』
「知らないって言ってんだろ」
『欲しいよ、その”アーティファクト・エレメント”。ねぇ、お前を何度も何度も何度も凄惨な殺し方をしたら、それもこっちのモノに出来るんじゃないかな?』
「……」
『決めた。もうゲームしたくならないくらい残酷なことしてやる』
ネーブルが一際高く気狂い染みた笑い声を上げると、彼女の爪から体全体に炎が広がった。
それだけではなく、さっきオレがチマチマと潰した天井や壁の目玉が復活し、そちら一つ一つにも炎が宿っている。
何かヤバイ技を使おうとしている前兆のように思え、オレはエリカさんとリゲルさんに対して「大技がきそうだ! 修復剤の準備とエリカさんはヒールを使うつもりでいてくれ!」と声を張り上げる。
その予想した大技は、二人の返事の途中に行使された。
オレ達が居る通路全体が炎に包まれ、視界が真っ赤になる。
また撃破されたかもしれない! と思うが、炎の中でもちゃんとアイテムが使えるようだ。
まだちゃんと生きているのだ。
修復剤のキャストが終わると、エリカさんからの回復もとんできて、彼女も無事なのが分かった。
『……許せないよ。ママの愛はいつだってプレイヤーに向けられる! 娘には優しい言葉一つかけてくれないのに!』
ネーブルはそういうや否や、オレに飛びかかってくる。
今あれを食らったらやばいと、咄嗟に避けた先は炎の川。
HPをゴリゴリと削り取られる……。
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