千紫万紅の吸血鬼
@usagi-komatsu
序章
夢か現か
小さく規則的な音が、朝から止まない。
時計の秒針が動くような忙しないその音は、まるで耳の奥から響いてくるようで彼女の胸をざわつかせた。
和風と洋風の建物が入り混じった街並み。いつもと変わらず和服、洋装と様々な服装の人々が行き交っている。
彼女は背中まで伸びた長い黒髪の上部分を大きめの赤いリボンで留め、袴にブーツという女学生の格好で友達二人と会話に花を咲かせながら歩いていた。
いつもと変わらない日。
そう思っているのに例の音のせいか、なんだか全てが夢の中のようにぼんやりして見えた。
いつも通りなのに何かが欠けている、言い表すとすればそんな感覚だ。
不意に聞こえる音が変わった。
先程までのか細い音ではない。鐘を鳴らすような音がかなりの大きさで響いている。この大きさなら聞こえないはずはないのに、友達も行き交う人々も気にしている様子はない。どうやら彼女にしか聞こえていないようだった。
彼女は徐々に大きくなる音に頭が痛くなり耳を押さえてしゃがみ込んだ。耳を押さえたところで頭に響く音は変わってくれそうにない。
友達が心配して声を掛けるが、その声も彼女にはだんだん聞こえなくなってきていた。
何かの気配がして振り向いた瞬間、視界は暗転し意識が途絶えた。
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