02.暗くなる世界
____________________
[前書き]
ここから著者が書いてて気分が悪くなるほどの残酷で胸くそ展開です。
プロローグ飛ばして一章から読んでもあらすじは大体分かるので、飛ばして一章から読むことを推奨します。
____________________
早朝、カイルはいそいそと出かける準備をする。
月に一度、カイルは山で伐採した食材や資源を、王都での知り合いと取引しに行くためだ。
大型の馬車を一人で引いて王都へと向かう。
距離もあり、道には猛獣や魔物もでるためにイルミナはカイルの身を案じて、心配そうにカイルと話していた。
「あなた 気をつけてね、無理はしないでいいのよ? あなたの体の方が大事なんだから」
「大丈夫だっていつも言ってるだろ? 鍛えてんだからよ、見ろよこの筋肉! 何があってもヘッチャラだぜ!」
カイルは力こぶしを作って、パンッと叩き、勇ましい態度を自分の妻と子に見せつける。
家族に心配をかけないため、豪快な態度を取って心配を払拭しようとするが、イルミナはそれを分かっていながらも、カイルを諫める。
「本当に心配してるのよ? もしそう思ってるのなら怒るわよ?」
「悪い悪い、少しでも気持ちが和らぐかなって思ってな… 大丈夫! ちゃんと気をつけるさ!」
「もう…ほんとに無理はしないでね」
「ああ、行ってきます」
イルミナとカイルが軽く抱きしめ合う。
「父さん! 僕も一緒に行くよ! 頑張って運ぶから連れてって!」
ソラは子供なりに父親を心配し、真剣な顔で父親言った。
「おーソラ! いい気概だ! 連れていきたいのは山々なんだが…山道でこの荷物は危険だからな! もっと大きくなったら手伝ってもらおうか!」
「えー… でも…」
カイルは手伝おうとしている息子に胸の内で感激し、泣きそうになったが、息子に心配させない為にも必死に涙をこらえて、活発な笑顔を作り自分の息子を抱き上げた。
「だからちゃんと大きくなるんだぞ! 俺が留守の間も好き嫌いせず飯を食って、強い男に育つんだぞ!」
「うっ、好き嫌い… 分かった… 野菜もちゃんと食べる」
「よし、いい子だ 母ちゃんを頼むな」
「うん!」
カイルは息子を下ろして頭を豪快に撫でたあと、バックを背負い荷馬車に向かう。
「父さん、行ってらっしゃい!」
「あなた、いってらっしゃい」
「おう、行ってきます!」
活気のある声で勇ましくカイルは出発する。それをソラとイルミナは寂しい思いをしながらも笑って見送った。
「さて、朝食を食べたあと、私達も山菜を採りにいくわよ。ソラ、手伝って」
「うん!」
「あ、そうそう、もう6歳になった事だしそろそろお勉強しましょうか」
玄関から茶の間に向かいながらイルミナは意気揚々とソラに言う。
「お勉強?」
「そうよ、算術から国やら言語、あとはお父さんの仕事を手伝えるように山に関しての知識を身につけなきゃね」
「お仕事できるようになるの? 面白そう!」
「大変よ〜、覚えることいっぱいだし」
イルミナはニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべ、ソラに言う。
「え〜… 大丈夫かなぁ…」
「ちゃんと分かりやすく教えてあげるから大丈夫よ、さてと、まずは朝ごはん食べなくちゃ」
「は〜い」
イルミナは朝食を作りに家に戻っていった。
ソラも家に戻ろうとするが、胸の内に晴れないモヤを感じた。
ふと、行ってしまいもう見えなくなっていた父親の方を見つめる。
「ソラ〜、どうしたの〜?」
イルミナがソラの様子に気づき、家の玄関から声をかける。
「ううん! なんでもなーい!」
ソラは母親の呼びかけに、胸に渦巻く不安を拭い、家へ向かった。
__________
日が暮れてきた頃、ソラは文字の勉強を、母イルミナは台所で夕飯の支度をしていた。
「これ全部覚えるの? 難しいよ〜…」
「すぐ覚えられるわよ。喋れてるんだし文字と一致させれば明日にでも」
ドンッ! ドンッ!
「えっ…?」
イルミナは驚いた顔で玄関の方を振り向き、そして、険しい顔で警戒した様子で玄関へ向かった。
ソラも驚いていた。家のドアが叩かれるなんて、ソラにとっては初めての経験だった。
「おーい! 俺だ、開けてくれ〜 手が塞がってるんだ」
玄関からはカイルの声が聞こえてきた。
イルミナもソラも、その声に安堵した。
「あなた? もうどうしたのよ」
「いやぁ、途中で大事な物を忘れてることに気がついたんだ。 いやー困ったよ」
「もう、何やってんのよ…」
イルミナが玄関のドアを開けると、そこには荷物を沢山持っているカイルの姿があった。
「悪い悪い、いやぁ参ったな」
「はぁ… 今日はもうダメね。明日出発にしましょう」
イルミナは呆れた顔をして、カイルに背を向けて夕飯の支度の続きをしようと台所に向かう。
「もっと早くに気づきなさいよ。取りに来る程大事なものなら」
「そうしたかったんだけど、仕方なかったんだ」
「…? どういうこと?」
イルミナは台所に向かう途中で怪訝に思い、ふとカイルの方を振り向こうとした。
その時、イルミナの首筋に鋭い痛みが走る。
そしてすぐに、カイルが抱えていた荷物の山が落ち、その大きな音がソラに異変を気づかせる。
ドスッ
「そう、仕方なかったんだ。 あの男が何しても場所を吐かなかったんだからよ」
「ッ────!?」
イルミナの首に筒の先に針が着いた注射器のようなものが刺され、中の液体を流し込まれる。
「あなたっ…!? 何を…!」
「…クク、あなた…ねぇ?」
いつも陽気なカイルの笑顔が酷く歪む。
「あんたの旦那ならダルマになってるよ。おっと、今は野犬に食われて見るに堪えない肉塊かな?」
「なっ…!? この…!!」
イルミナはカイルのようなものに手を向け、魔術を放とうとする。 が…
「…ッ!? なんで…!」
「魔術なら打てねえぞ、魔力渇望剤を打ったからな。最近王都で捌かれて話題になってる違法薬物だが… ま、こんな山奥に暮らしてんなら知らねぇよなぁ?」
「母さん!」
ソラが玄関へと飛び出す。
「ソラ! 逃げなさい!」
「…へ? …父さん…? 何…してるの…?」
「ソラ! 早く逃げてぇ!」
イルミナが悲鳴のように叫ぶ。
「逃げられちゃ困りますなぁ。 大事な大事な金の成る苗木なんですからねぇ」
奥から整えられてた口髭を弄り、太った体を派手な装飾の衣服で包まれた男が、醜悪な笑みを浮かべ入ってくる。
「ふむ、これはこれは…素晴らしい! 聞いてた以上に美しい! 母親は美しい容姿を持つ"サキュバス"の中でもさらに優れた容姿を持っている! そして子供も将来性を感じさせる顔つきで更に、世にも珍しいサキュバスと人との半魔! これはいくら儲けられるか想像がつきませんなぁ!」
「おい、なんでもいいけど俺の報酬は忘れるなよ。 あとこの女でも少し遊ばせて貰おうか」
「えぇえぇ、構いませんよ。 むしろ倍にしても有り余る程の成果です」
男どもは汚い笑みを浮かべながらイルミナを縛り上げる。
ソラは…
「…あ …ああ」
目の前の光景が衝撃的で信じられなくて腰を抜かしていた。
「なんだこのガキ、母親拉致られようとされてんのに動かねぇぜ? とんだ腰抜けだなぁ」
「良い事ではないですか。下手に生意気だと調教に苦労しますからね」
「ソラ… お願い… あなただけでも」
「無理ですよ、この家は私の部下に包囲させてますからね。 子供が逃げるなど不可能ですよ」
「そんな… ぐむっ…!?」
イルミナを縛り上げ、奥歯に食い込ませるように、口に布を巻き付けた。
「さて、善は急げと言いますし、我々も自分の欲求を我慢するのも辛くなっきた頃合です。引き上げましょう。 おいっ!」
太った男の合図と共に、軽装な装備の男達が入ってきて、ソラをイルミナと同じく縛り上げようとする。
「…嫌だ… 嫌だ! お母さんっ! お母さんっ!!」
縛られる直前、目が覚めたかのように暴れ出した。
だが、必死の抵抗は虚しくも男の顔に傷をつける程度のことしかできなかった。
「ッ! このクソガキ!!」
顔を引っかかれ、逆上した男はソラを殴り飛ばす。
「何をしている! 許可なく商品を傷つけるなとあれほ……てる………が…」
音が徐々に途切れていき、歪んだ視界の中に最後に飛び込んできたのは母親の悲痛な表情だった。
その顔が揺らめく意識とは裏腹に、脳裏に焼き付けられながら…
少年の視界は暗転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます