最終章「タクシーの車窓から」 最終話 海を眺めて

 見事と成行は足元に注意しつつ、足早あしばやに境内を移動した。

 そして、入口である社務所付近へ戻る頃には、17時を少しだけ過ぎていた。東照宮の職員に挨拶をして境内から出た二人。

 見事と成行は本当に最後の参拝客だったのか、二人が出たタイミングで入場口が閉じられた。


 社務所ではお守りや御朱印の受付もしているが、もう窓口は閉まっている。社務所の反対側に位置する売店も閉まっていた。本当に時間ギリギリでの参拝だったということだ。

「時間ギリギリだったけど、お参りができて良かった」

「うん。今度は時間に余裕があるときに、また来たいわね」

「あっ!見事さん、こっち!」

 成行は何かに気づいたのか、売店の隣へ向かう。

「なに?何かあるの?」

 見事も彼の向かった場所へ向かう。


「見てよ、見事さん」

 成行が指さした方向には駿河湾が見える。太陽が水平線の向こうへ沈む時間で、その場所からは、夕焼けに染まる駿河湾が見えた。

「凄い、夕日ゆうひがきれい」

「ちょうど良い位置で海も見えるし、スマホで」

 成行はスマホで久能山からの夕焼けを写真に撮る。彼につられて、見事も綺麗な夕焼けを写真に撮った。


 写真を撮り、しばし夕焼けを眺める二人。

「見事さん」

 成行は見事に顔を向ける。

「ん?どうしたの?」

「今日はありがとうございました」

 成行が改めて礼を言う。

「べっ、別にいいわよ。もうトラブルは全て解決したし、それに綺麗な夕日も見れたから・・・」

 少し照れ臭そうに答える見事。


「明日はどうする?」

 成行は見事に聞く。

 本来の予定なら、今日と明日で静岡を観光。そして、明後日に日本選手権競輪の決勝戦を観に行く予定なのだ。

「そのことだけど・・・」

 見事は少し躊躇いがちに言う。

「ママからメッセージが来ていて、明日はママと行動しろって」

 今日の一件で、雷鳴はこれ以上のトラブルを避けるため、見事に予定変更を命じていたのだ。


「明日は朝から静岡競輪場へ行くことになるわ。それでも、大丈夫?」

 見事は申し訳なさそうに言う。

「それでもいいですよ。明日は準決勝戦だし、それに誰か芸能人とか、お笑い芸人とかも来るって聞いたような―」

 成行はスマホで日本選手権競輪ダービーのHPへアクセスしながら話した。

「ゴメンね。成行君、予定変更になって・・・」

「謝らなくてもいいですよ。それはそれで明日を楽しみましょう」

 成行は背伸びをしながら夕日を眺めていた。


「じゃあ、帰りましょう」

「はい。そうしましょう。そうしましょう」

 二人は自然と手を繋いでロープウェイ乗り場へ向かった。


「「えっ!」」

 ロープウェイ乗り場への階段に向かうと、そこには二人の行く手を阻むようにロープが張られている。そして、そのロープには看板が括り付けられており、『本日の営業は終了しました』と表記されていた。


 慌てて社務所へ向かう二人。社務所前で箒掛けしている東照宮の職員さんがいたので、その人に話し掛ける。

「あの、すいません!」

見事は箒がけをする職員のおじさんへ話しかける。

「はい。どうしました?」

 問いかけに箒掛けを一旦中止する職員のおじさん。


「ロープウェイはもう動いていないんですか?」

 慌てながら見事は職員さんに聞く。

「ええ。本日の営業は終了です」と、簡潔に答える職員さん。

「その場合、日本平にはどうやって戻ればいいですか?」

 今度は成行が質問する。

「うーん。今から日本平に行くなら、を下って、それでまた日本平に行くしかないかな?ロープウェイの営業は終了しているから、もうロープウェイでは日本平には戻れないですよ」

 職員さんは売店ばいてんわきの下り坂を指さしながら言った。


「マジで・・・」

「どうしよう・・・」

 二人の顔が青くなっているときだ。見事のスマホが振動する。すぐにスマホを取り出す見事。画面には、雷鳴のスマホの番号が表示されていた。


『もしもし、ママ?』

『見事か?新居から話は聞いている。お前たち、東照宮にいるのか?』

『うん。そのだよ・・・』

『じゃあ、階段で地道に久能山を下るしかないな』

 雷鳴は他人事のように言う。

『そんな!他に方法はないの?』

『ない』と、即答する雷鳴。


『実を言うと、新居にはもう引き上げるように命じている。仮に日本平へ戻れていたとしても、新居には会えなかったと思うが』

『じゃあ、私たちはこの後、どうすればいいのよ?』

『久能山を地道に下りろ。下には門前町があるから、そこへ迎えを派遣している。そいつらにホテルまで案内してもらえ。じゃあ、またホテルでな』

 雷鳴は一方的に電話を切った。一部始終を見ていた成行は見事に言う。

「これは地道に山を下りるパターンですか?」

「うん。それしかないみたい・・・」

 暫く二人は見つめ合うしかなかった。



                 ※※※※※


「ゴメンね、成行君。こんなことになって」

 歩きながら謝る見事。結局、二人は階段で久能山をりるという選択肢しかなかった。

「いいですよ。これはこれで。だって、ほら」

 そう言って成行は、西の空をゆびさす。そちらの方向には、まだ夕焼けが見えた。太陽はもうすぐ完全に沈むだろうが、それを見ながら帰るのは、それはそれで悪くない。

「ゆっくり行きましょう」

「うん」

 成行の言葉に、少しは元気をもらった見事だった。


 急いで階段をおりると危ない。なので、沈み行く太陽を見送りながら、ゆっくりと久能山をくだる成行と見事だった。



『旅行先で美少女師匠が僕をお兄ちゃんと呼ぶ双子姉妹に入れ替わる現象編』・完

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