勇者だらけの異世界生活

あずま悠紀

【1】前篇 『勇者召喚術師』

「ようこそ、異世界へ。勇者よ、歓迎します」

その少女が僕に向かって微笑みかける。その表情には喜びと希望があり、そして何より、強い覚悟があった。この世界に来ても、いや、来れば尚更だろう。少女は僕と同じ立場でありながら、僕の倍以上は戦えるのかもしれないと思った。それほどに強そうだったのだ。

僕は一瞬で状況を把握した。

目の前にいる彼女は恐らく『魔王』。しかしその姿は普通じゃないし、そもそも僕自身が既におかしいことになっているので今さら驚きもしなかったけれど、やはり驚くことしかできなかった。

(どうしてこんなところに魔王がいるんだよ……!)

しかもそれが、見た感じ年端もいかない少女なんだからもう、どう反応していいか分からないよね? それに――――

―――『勇者』って何だよ!!!? 心の中で盛大にツッコミを入れる。まさかとは思ったけれど本当に僕が勇者になってるなんてね。というかよく考えたらあのまま死ぬ予定だったんだけど……いや、そんなこと今は考えちゃダメだ。とにかく状況を整理するんだ。えっとまず、確か……。

「……ここは?」

「私の居城です。さて勇者様、私は『勇者召喚術師』にして『聖女』『癒やしの女神』であるリスタと申します」……そうだ、確か僕はあそこで死にかけたはずじゃ……。でもこうして生きていて意識もあるし怪我をしている感覚もない。ということは……やっぱり死んだということなのだろうか?まぁ確かに普通なら死んでいたはずだけど……。

それにしてもリスタと名乗る女の子だけど、『勇者召喚術師』に『女神』、『癒やしの女神』と来たものだ。一体どこのおとぎ話の主人公なのか教えてほしいぐらいだね……。それにしても……。

「あ、あの……」

僕の言葉を聞いた瞬間にリスタちゃん(そう呼んでもいいと言われた)の顔がパァッとなり、「あ、すみません。私ばかりお話ししてしまいましたね!」と言うと同時に深々と頭を下げてきた。どうしよう可愛いすぎる。見た目は12~3歳といったところなのにすごく丁寧な対応をしてくれているし、きっと中身も素敵な人なんだろう。うん決めた、彼女にしよう!!って待て待て僕、いきなり結婚を申し込むようなことはしないぞ! 僕は自分のことを変態紳士だとは思っていないけれどそれでも一応常識はあるつもりだし……、よし落ち着いたところで現状把握からだ!まずはこの子からは色々聞かないと始まらないしね!……それでは改めて、

「ありがとうリスタちゃん」ニコッ よし、これで良いかな!このくらいの距離感なら失礼にはならないはずだ。僕の返事に顔を赤くしているようだけど大丈夫かな?熱でもあるんじゃない?あと何か言って欲しいことがあるような顔つきだからとりあえず聞いてみようか。

「それで、君はいったい……」

「はっ!す、すみません!勇者様はまだ混乱されているのですよね……。私がご説明いたします。勇者様をこちらへ召喚したのは『勇者召喚魔術式・通称:魔法陣法』と呼ばれるものを用いてのことです」……勇者召喚魔術式?なんだそれは?そもそも魔術があるのか?というよりそんなものが実在するのか?それともただの設定とか?……あれ、もしかしてこれっていわゆる夢だったりする?実は僕まだベッドの上で寝ていて夢の中って可能性もなくはないかも……。…………まぁいっか!!夢でもいいから楽しまないと損だもんね!!というわけでこの子と話をすることにした。リスタさんによれば、何でも勇者というのは世界の危機を救うために選ばれてしまう存在らしく、『勇者召喚魔術式・通称:魔法陣法』というものを使って異世界から呼び出しているとのことだ。そしてその役目というのが――

――『魔王討伐』なのだ。

そう言ったときのリスタさんの悲痛な表情が僕の心に突き刺さる。こんなに小さな身体で、どれだけのものを背負って戦ってきたのだろう……。僕が勇者になるよりも遥かに大変だったことは明白だ。しかも彼女はおそらく自分ひとりの力でそれを成し遂げているのだろう。とても信じられないことだ……。だからこそ……。

(……彼女の力になりたい)

ただの高校生のくせにそんなことを思うのは不謹慎だろうか?でも、どうしても放っておけなかったのだ。彼女を救うことで救えるものなら、どんなことがあっても守り抜いてみせる。たとえ世界を敵に回しても構わない……。そんなことを考えてしまった自分に少し驚いてしまった。

「さっきも言っていたけど、僕が勇者っていうのも本当なんだよね?」

僕が何となく聞くと、今度は驚いた顔をしたリスタさんだがすぐに真面目な顔になり答えてくれた。

なんでも彼女は、勇者を召喚できるという『女神の加護』を持っていて、そのおかげでここまで来ることができたのだという。僕が召喚されたことには偶然ではないらしい……。どうやら神様からのプレゼントみたいだ。

また『勇者召喚術師』というのも『加護』の一種で勇者を呼ぶための力を持っているそうだ。つまりは僕みたいな奴を呼び出せるほどのすごい術士だということだろうか?それにさりげなく教えてもらったことだけど、ここの世界の言語や文字を理解できているのもこの子のおかげみたいだ。『勇者召喚術師』としての特別な能力なのかは分からないけれど……。まあ、とにかく、この世界のことを知ることができたし感謝しかないよね!あと、召喚の際にいろいろと付与してくれるらしくて、言語に関しては問題ないようだった。

さらに、『勇者召喚』について詳しいことも色々と聞いたのだが……何やら凄まじく強いようだ。しかも勇者の持つスキルの中に『無限大成長』、『経験値倍増』、『レベルアップ限界突破』、『必要魔力半減』、『消費魔力軽減』、『獲得経験値増加』、『状態異常耐性上昇』、『獲得技能補正』、『完全治癒』、『回復速度向上』、『聖魔融合』、『光魔融合』などがあるらしい。他にもまだまだあるようでかなり強力だということが分かった。特にレベル上限が存在しないということと、必要ないのにレベルが上がるというのはとんでもないと思うんだ。それなのにステータスの方は、ほとんど初期値のままなのでこれはチートというものだね……。というか『完全治癒』ってなんだ……。この子本当に勇者じゃないのかな……?それに『聖魔融合』なんて見たことないよ?それにしてもこれってもしかしなくても『主人公』じゃないか!!僕は『脇役』にもなれないほど弱いからちょっと羨ましいな……。まぁ、僕は僕のやるべきことを探すことにしようかな。

「リスタちゃんありがとう。話してくれて」

そう言うとなぜか真っ赤になってしまったけれど大丈夫かな?僕は彼女に近づき、その頭に手を置いて優しく撫でてあげた。彼女が落ち着くように願いながら……。すると彼女は嬉しそうに「はい!」と言ってくれたので良かったと思った。僕はリスタちゃんの頭から手を離すと、「これからよろしくお願いします」と言うと彼女は慌てて立ち上がり僕の正面に立つ。

「あ、あの!私にできることであれば何でもさせていただきますので!!だから……私の側にいてください!!」……うん?どういう意味だろうか?僕が首を傾げると彼女は泣きそうな顔をしている……。もしかして僕、勘違いされているのか!?というかこの状況はヤバいんじゃないか?このままだとロリコン扱いされてしまいそうだし……。よし!まずはその誤解を解かないとだね。

「あ、あの……。落ち着いてね。僕が君の傍に居るということは君を守るということで、君は僕が守るということになるんだ。分かるかな?」……うーん?伝わったかな?僕がリスタちゃんの目を見て確認しようとすると彼女は恥ずかしくなったのか俯いてしまっている……。どうすればいいんだ!?と、とにかくここは一度離れないと!!これ以上一緒に居たら何をしだすか分からなくなってしまうし……。というかもうすでに理性が崩壊しかけてるしね!危ない危ない……と僕が思った瞬間、

――ドクンッ!!!!……っ?なにこれ、急に心臓が……苦しい! そう思って自分の胸に視線を移すとそこには―――大きな穴があったのだ。

そこから黒い液体のようなモノが流れ出していて……僕を飲み込もうとしていたのだ……。

何が起きたのか分からず混乱しながらも僕は何とか抵抗を試みるもどんどん浸食が進んでいっている。

そして次の瞬間に僕は意識を失った……。

「――はっ!」

気が付くと僕は白い部屋に横たわっていた……。いや、よく見ると壁自体が白く発光しておりまるで神殿のようにも見える……。そして僕に覆いかぶさるような体勢で女の子がいるんだけど……誰?というかこの子は一体どこにいるんだろう……ってそんなこと考えている場合じゃなかった!!僕は女の子を突き飛ばすと女の子が起き上がる前に部屋の端まで走って移動をする。僕は女の子のいた場所に視線を向けると……女の子の頭が吹っ飛んでいた……。僕は思わず目を逸らす。僕は恐る恐る後ろを振り返る。……女の子がいたはずの場所は、ただの壁になっている。

えっと……。

状況が全くつかめないんだけど、とりあえず今起きた出来事だけを説明するね。まず最初に僕が感じたのは痛みではなく熱だったんだ。それからしばらくして胸のあたりに激痛を感じだしたんだよ。

僕に覆い被さっていた子が顔を上げた時だったかな? その子の顔が血まみれになっていて……口が耳まで裂けていて……目が飛び出てるのが見えちゃった……。僕はすぐに後ろに下がろうとしたけど、何かが引っ掛かって動かなかったんだ。……その時は必死になってたから気付かなかったんだけどね。

で、まぁその後は僕が覚えているのはそこまでだよ。気づいたらこの場所でこうして寝ていたって訳さ。ちなみにさっきからずっとこの白い場所を眺めてるんだけど……変化はない。……あれ、やっぱりここが天国なのかな……? でも僕は確かに殺されたはずだよね……

――まさかこれが噂に聞く走馬灯とかいう奴ですか……。うん、そんなことは絶対にないはずです……。よし!こうなったらダメ元で叫んでみようかな……。よし、行くぞ!「お―」……。

僕が意を決して声を出したと同時に、背後の壁に亀裂が入ったのだ……。僕は咄嵯に身をかばい防御の姿勢を取る。そして次の瞬間に僕の身体に何かが落ちてきて……僕は吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまう。

背中を強打し息ができない状態でも、どうにか顔を上げてみる……。すると、そこにあったのはとても巨大な扉と、その周りに浮遊する大量の赤い宝石たちだった。

『………………っ!』

『……ぅ、……きゅろぉ!!』その光景を目にしたとき僕は絶句した。僕が想像していたような天使や悪魔などの姿はなく、どちらかと言えばドラゴンのようだったからだ。しかしそれよりも何よりも、この世のものと思えないほどの美しい少女の容姿をして、背筋をゾクりとするような冷たい目をしていた。僕はその瞳を見つめているだけで吸い込まれてしまいそうになる感覚に陥り恐怖を覚えたが、すぐに我を取り戻す。

しかしそんな僕に追い打ちをかけるように、僕の身体を無数の氷が貫いていく……。そして僕の口からは大量に血液が噴き出し身体中に激痛が走る。あまりの痛みで僕は床に這いつくばってしまう。そんな無様な格好で地面を這う僕に向かって彼女は近づいてくる……。僕の前まで来た彼女はしゃがみこみ僕の髪の毛を掴むと無理やり立たせようとする。当然のことながら、そんなことを許すわけにはいかない。だから僕は全力で彼女に抵抗する……。だが……。

『無駄だ……』『お前如きの力でこの私を殺せると思うな』彼女は、そう言うと僕の身体に突き刺さっている槍を引き抜いた。すると傷口に炎が発生し燃え始めた。僕は一瞬にして全身に大火傷を負い、立っていることができず膝をつく……。だがまだ生きている。そして彼女の手を振り払い立ち上がろうとする……。しかし、足に力が入らずそのまま倒れこんでしまう。

彼女はそれを黙って見ていたかと思うと、今度は僕に蹴りを入れたのだ。しかもその威力たるや半端ではなかった……。僕は大きく後方へと吹き飛ばされてしまう。しかも勢いは止まらずに部屋の端にまで行ってしまった……。僕はそこで初めて天井に空いた大穴の存在に気付いた。その穴から外が見える……。

その先には、先ほどまでの白い部屋は存在しておらず真っ暗な空間になっていた……。どうやらこの部屋には窓がなかったようだ。しかし僕にとってそれは幸運だったと言えるだろう……。もしもあそこに出ていれば、きっと命はなかったかもしれない……。なぜならそこには僕を殺そうとしている化け物が存在していたから。僕は彼女に殺されるくらいなら、あの暗闇の中に身を投じたいと思っているほどだ……。

そう考えているうちに彼女はまたこちらへ迫ってきていた……。

もうダメだ……。ここで僕は死ぬ。どうせ死ぬのならば最後に一目見ようと僕は彼女が向かって来る方向を見た……。そして驚愕する。彼女は、いや……彼女たちは笑っていた。僕が死にかけ、そして絶望している姿を見て嘲笑しているのだ……。

――くそっ!こんな奴に!!こんな……く、に……。

そして僕は何も考えずに手を伸ばす。

『助けて……。』無意識に呟く。すると次の瞬間――。突然、轟音が鳴り響いたのだ。そして凄まじい光が視界を満たした。僕は光の中で手を伸ばし続けた。死にたくない、死にたくないと思い続け手を伸ばす。やがて手が伸び切ろうかというときに僕を呼ぶ誰かの声が聞こえてきた気がした。僕の名前を読んでいる気がしたが何を言っているのか分からなかった……。しかし何故か懐かしくて温かかったのを覚えている……。それが誰なのか分からなかったが不思議とその人に助けを求めれば救われるのではないかと僕は確信した。……僕は手が届くことを祈りその人の名を口に出す……。

――お母さん。


***

<side:勇者>

「なに!?あの少年は死んでしまったのか?」勇者の従者である女性が驚きながら言った。彼女は『聖魔融合』により勇者が死亡しても記憶を引き継ぐことができるという特性があるのだ。勇者はそれに気付くと少しだけ考えた後で「そうか」と言った。

「まぁよい……。代わりはいくらでもいるのだ……」そう言って勇者は笑う……。そして思い出したかのように言う。

「そう言えば例の計画は上手くいっているのか?」彼女はそれに「問題ありません。すべて順調ですよ!」と返すと、「ふむ。それなら良いのだが……。あの小娘に感づかれるようなことだけはしないようにな?」と言いその場を去った……。一人残された女性は小さく溜息を吐いた後に言う。

「全く、人遣いが荒いんだから……。計画に関しては問題ないわよ……。それよりも……あなたの方が大丈夫なの?」すると勇者は振り向くといつも通りの不敵な笑顔で言う。

「ふんっ、誰に向かって言っている?私は完璧にこなす……。それだけだ……。それよりも貴様の方はどうなのだ?」

そう言われた女性は困った表情を浮かべる。どうやら何かあったようで……。そしてしばらく悩んだ後に言い辛そうな感じではあるが言葉を発した。

「正直、よく分からないのよね……。私達と敵対関係になっている国については全て調査済みだと思っていたけど、実際は全然だったみたいなのよね……。これは私の予想だけど……多分どこかの国に裏切られたか、あるいは嵌められたんじゃないかな?あちらの国は一枚岩ではなくなっている可能性がある……。」女性の言葉を聞いた瞬間に魔王が眉をひそめる。

どうやら思い当たる節があるらしい……。

そう言うと再び考える仕草を見せたあとで女性に告げる。

「まぁ……その辺りの対策はしておいた方が良さそうだな……。引き続き情報の収集を頼む……。それから例の計画についても急げよ」そう言ってから勇者は姿を消した……。

「えぇ~、面倒臭いわね……。本当にあの子たちは……。はぁ……。分かったわ。やってあげるわ……。その代わり終わったら美味しいもの作ってよね!!」と言って女もまた消え去った……。


***

僕は、いつの間に意識を失っていたんだろうか……。目を覚ますと見知らぬ場所で横たわっていた……。ここは一体何処なんだろうと周りを見渡すもやはり見たことのない風景が広がっていた。……とりあえず起き上がってみよう。すると僕はベッドの上にいるみたいだった。

――???……うん?どういう状況?確かさっきまで女の子がいて……。あれ?その子がいない……って違う!!!女の子じゃなくて化け物がいるじゃないですか!!……あれ、待って……ちょっと状況を整理してみよう……。まず女の子の頭が吹き飛んで……。それで、それから僕は死んだはずだ……。でも生きてる。そして女の子じゃなく化け物が……。

そこで僕はあることに気が付く……。それは自分の身体に穴が空いていたはずの場所が全く傷がついていないということだった。

僕がそんなことを考えていると部屋のドアが開き女の子……のような人が入ってきた。見た目的には中学生……くらいかな……って今はそんなことはどうでもいいんだ。まずは色々と確認しないとね。

僕が起きたのにその人は気付いたようで僕に向かって話しかけてくる。

「お目覚めになられたのですね……。ご無事ですか?お加減が優れないようであればすぐにお呼び下さい」

「えっと、はい……。ありがとうございます……。でも体調とかは特に悪くはないんです……。」

「分かりました。何かありましたらお申し付けください。それと失礼ですが何かございませんか?こちらの勝手で大変申し訳ないのですが……今、私達はこの城を離れられないのです……。ですので食事などの身の回りのお世話は全て使用人達が致します。ですがもしよろしければ私達の主人が会いたいと申しておりまして、いかがなさいましょうか?」そう聞かれた僕は一瞬戸惑うも、このままでは話が進まないと思い言う。

「……あの、僕は佐藤祐樹と申します。貴方の名前を教えてもらっても宜しいでしょうか……?」僕がそういうと彼女は驚いた顔をしてから答えてくれた。

「も、申し訳ありません!まさか名前を聞かれるとは思ってもみませんでしたので……その……自己紹介がまだでした。私の名前は『アリサ』といいます……。これから宜しくお願いします。それと私達がこの場を離れることができないというのは嘘なのです……。本当は私がここから離れるわけにはいかないのですが……。それでも少しの間だけ、お側を離れても良いとお許しも頂きましたので……是非、私と一緒にこの城を出て下さればと思います……。その、ダメ……でしょう、うか?」

その言葉を聞いたとき、何故僕が助かったのか理解することができた。この世界に来てからというもの僕はかなり無茶苦茶をしていたように思う。だからきっと彼女は僕を助ける為に時間稼ぎをしてくれていたに違いない……。そして恐らくは今も僕のことを探してくれているんじゃないだろうか……。僕はそう思ったので彼女を信じることにした。

――僕なんかを信じて守ってくれようとした彼女にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないな……。

だから僕は彼女と共に外に出ることにしたのだ……。

――僕はリスタと名乗る彼女について行くことにした。この世界に来た時に持っていた鞄などは当然持ってはいないけれど、そもそも僕の服は着替えられているのだから、そこまで気にすることは無いと思う。それよりも何よりも……。

――僕は彼女のことが知りたかった。そして出来れば彼女のことも守りたいと思っている。僕には彼女しか頼れる相手がいないので彼女に嫌われてしまったりすると詰んでしまう。

それにしても、さっきのはなんだ……。あんな攻撃が放てるということは、やっぱり彼女は『女神』のはずなのに、『癒やしの女神』とは似ても似つかない容姿をしている……。

まぁそんなことを考えている間に城門の前に着いてしまっていたのだけれど……。

「すみません、ユウキさん……。本来ならばここから先に出ることは出来ないのが普通なんです。私も例外ではないんですよ……。でも今回は特別です。それに……私は貴方の役に立ちたいと思っているんです!だから行きましょう!」と彼女は笑顔を見せてくれる。

「はい!よろしくお願いします!」僕は元気よく答える。そう言った後になって僕は自分が何を言っているのか恥ずかしくなって来たのだ。

だってそうだろう?年上の美人なお姉さんが笑顔を見せて「一緒に来てください」と言ってくれたんだよ? これで断われる男は余程の聖人か変態のどちらかだろう。僕は絶対に後者だと決めつけた。……そして何故かその瞬間から頭の中で天使と悪魔が現れ戦い始めた気がするけど、きっと気のせいだろう。

それから門番に話をすると意外にも簡単に中へ入ることができた。そしてしばらく歩いた先に巨大な扉があり開けようとするのだが、なかなか開かない。仕方が無いので蹴破ることに……。

僕が全力を込めて蹴ったにもかかわらずびくともしなかったのだ……。それを見たリスタが言う。

「おかしいわね……。確かに魔法がかけられていて並の力では開けないようにしているみたいだけど……どうしてかしら?」そう言いながら試している様子だったので僕は聞いてみる。

「あの……リスタちゃん、もしかしてなんだけど……。僕って結構怪しかったりする?」

「そ、そんなこと無いですよ!!ほらっ!こうして顔パスだし……大丈夫ですよ!!」そう言って微笑むと、何故か頬が赤くなったように見えた。気のせいかもしれないけど……、それにしても本当にどうしよう……。こんなに頑丈そうなものを素手で壊せるとは思えない……。でもどうせもう逃げられないんだろうな……。

――結局、どうすることもできないままに目的地まで到着してしまった。そうして目の前にある扉を見るとそこには文字らしきものが書かれていたのだ……。それは見たこともない言語であり全く読むことが出来なかった。ただ分かるのはこの国の文字である可能性が高いと言うことだった。そうこうしていると後ろから「大丈夫です」という声がかかる。

「えっと……。何か方法でもあるの?」と聞いた後で自分でも何を言っているのかと後悔した。まるで僕が来る前に準備万端だったような言い方じゃないか……。しかしリスタは満面の笑みで言う。

「えぇ、任せて下さい」と言い終えると突然大きな音を立て始めてしまう。慌てて耳を塞ぐが、暫くして音の発信源を辿っていくとなんと、この巨大な扉から発せられていた。あまりの爆音が響き渡っていたために周りの人達も異変に気付き始めているようでざわつき始めていた。僕は慌てて謝ろうとしたのだが、それより早くに彼女が叫ぶ。

「皆様!!緊急事態です!!私は勇者様の命により此処にいる勇者様をお連れ致しました!!そして、勇者様がこの国の為に力を貸してくださるとのことなのです!!」……なにそれ?初対面な上に何もしていない状態で助けるとかいう話になるなんて……。どんな勇者様だよ!!そんなの絶対ありえないって!! しかも何?僕が困っているのを見兼ねて勝手に行動してるけど……。そんなことしてくれる奴は物語の中では大概主人公か超イケメンで強いと決まっているのに、僕ってそんなに弱そうに見えるのかな?……あ、そう言えば勇者とか言ってたけど、どう見てもこの女の子は普通の女の子にしか見えないんですが?僕を召喚したはずの魔王は?魔王がいるなら間違いなくこいつが本物の魔王だろ……。あぁ、でもあの時の状況が分からない以上は判断出来ないのか……。もしかしたら魔王って複数いるのかな?……そうだとすると、僕は相当運が悪いのかもしれなくもないかも……。……はぁ。

僕はそんなことを思いながらも、なんとか冷静を装って言う。「……はい、そういうことなので……とりあえず、まずはお話を聞かせてもらえますか?」するとリスタがこちらを向いて言う。

「えぇ、勿論です!!詳しいことは私の部屋でゆっくりとお話しましょう……」と少し嬉しそうにしてから再び前へと歩き始める。……うん、これは間違いない。確実に勘違いしてる。でもここで僕が本当のことを言うわけにはいかないし……。……まぁとりあえず、まずは彼女の部屋に向かうとしますか!!そうして僕はこの国のお姫様に会うことになったのだ……。

――僕は現在、お城の最上階に向かっている途中だった。……そして、さっきまで隣にいたはずのリスタが居なくなっていたのに気が付いた。

どうしたものだろうかと辺りを見渡すと近くにいたお城で働くと思われる女性が話しかけてきた。

「どうかなさいましたか?」と言われてしまったので事情を説明しようと口を開こうとするが……。あれ?どうしたんだ?口が動かないぞ??あれ?

「……え?」……今喋ったよね?……あれ?僕??どういうことだ? 混乱し始めた僕の思考回路は、この身体の主導権を完全に乗っ取ってしまったらしく僕は完全に置いてけぼりになってしまった。それから、どうすることも出来なくなって暫く経つと僕はようやく理解した……。僕はこの身体の主……つまり女の子の中に居るようだ。そして僕の意思が身体を動かすことが出来るようにもなった。

僕は女の子に自分の意思を伝えることにした。そうしなければ僕はずっとこのままだから……。……ん?いや、別に今すぐ戻ることも出来るんじゃ……。でも戻ったところでこの子は困ってしまうんじゃ……。

そう思った僕は女の子の願いを聞くことにする。この子の望みは何なのか?この世界について教えて貰えるだけでも有り難いのに、更に何かあるっていうのか……。僕に出来ることなんてほとんどなさそうに思えるんだけどな……。

そして、その願いを聞いて驚いた僕は思わず言ってしまう。「……はい?」……いや、だって仕方が無いじゃない!だって、まさか「……お友達になってください!」……とか言われても普通は断るでしょうが!! そんなことを考えているとリスタと名乗ったお城の女性(?)が走って戻ってくる。

「ユウキさん、良かったぁ!お一人で寂しくありませんで……したか……?」と、僕を見つけた途端に凄い笑顔で近寄ってきたと思ったら僕の顔を見て表情を変えてしまう。

そして僕が固まっている理由を知ったのか急に俯いてしまい悲しげな雰囲気で黙り込んでしまった。……正直どうすれば良いのかが分からない……。僕は昔から人と話すのが苦手で他人とは極力関わらずに生活してきた。でも今のこの状況を打破するには彼女と話をする必要がある。だからと言って上手く会話できるかと言われると、それは無理だと断言せざるを得ないだろう……。僕は極度のコミュ障だから……。だからと言ってこの子に全てを押しつけるつもりも無い……。……ははっ。

――それからしばらくして僕は彼女に連れられて一室へ辿り着いた。僕は扉を開けるのを手伝おうと思って近づくのだが、その前にリスタさんが言う。

「すみません……。本当は私の仕事なのに……。では開けるので少々待っていて頂いてもよろしいですか?」と少しだけ申し訳無さそうにしていたので僕は「大丈夫ですよ」とだけ伝えて、すぐに彼女の邪魔にならないように後ろに控えておく。……それにしても、ここまでの道程を思い出すだけで冷や汗が出そうになるくらいに疲れ果ててしまったのだ……。だって……本当に何も知らないんだもの……。だから道すがら色々な事を教えてもらっているところだったんだ。

「失礼致します。……あの、こちらの方が本日の謁見希望者であるユウキさんです」

そう言った後で、リスタさんは一歩下がって部屋の中へ入っていく。そして僕の方を見ながらも緊張して固くなっている様子だったので、僕は勇気を出して挨拶をしてみる。「あの、はじめまして、よろしくお願いします!」と精一杯元気良く言ってみた。そうすると、何故かリスタさんは泣き出しそうな顔をしてこちらを見るが直ぐにいつも通りに戻る。……もしかしたら彼女は涙脆い人なのかもしれない。そう思って僕は何も言わないことにしておく。

それから暫くの間沈黙が続いた後、リスタさんの視線に気付いてから僕は気を取り直して改めて聞いてみる。「えっと……。それで僕は何をしたら良いんでしょうか?」と聞くと何故か驚かれた後で「も、申し訳御座いませんでした……。」と謝られてしまう。……えっと……。何で?何が?と戸惑う僕。リスタが説明する。

「実はですね、その、勇者様は召喚される前に魔王に呪いをかけられたそうで……。その所為で私達は勇者様と話をすることができない状態に陥っていましたので……。しかし今は問題無く話をすることことが出来ていますので……」と聞いて納得すると共に、そんなことが有るのか……と思う。

確かにあの状況で僕を助けてくれなんて言われて素直に従ったりしないけど……。そんな風に思われてたのか……。でもこの人はどう考えても悪い人に見えないんだよな……。それどころか優しい雰囲気を持っているという印象を受ける……。こんな人を疑うとか、僕は一体どうなっているんだ……。

僕はそうして落ち込んでいるリスタさんの様子を見ると罪悪感に駆られてしまい何とかしようと思えた。……まぁ元々助けるつもりではあったんだけどね……。でも、そんな感じだったから、僕が出来る範囲で助けたいと思ったのだ。……多分、それが僕の性分に合っているのかもしれない。そうして僕が色々考えていると突然扉が開かれて一人の女性が入ってくる。

「おぉ!よくぞ参られたな、勇者よ!!」そうして僕を見ると嬉しそうにして言う。僕はリスタちゃんの方を見て、とりあえず「はい」と返事をする。

するとリスタちゃんは何か言いたげにしているのだが何故か口を閉ざしたままになってしまう。その様子を見ていた女性が言う。「……お主、何かリスタから話があるのじゃろう?わしから伝えるが……。」と言うが、リスタはそれに対して「大丈夫です……。私がお話ししますので」と答える。そしてリスタはこちらに向き合う。

「勇者様、先ほどはご迷惑をおかけしてしまい申し訳御座いませんでした。本来であれば、この世界の勇者召喚は聖女が行うことになっているので、今回のような事態に陥ることはあり得なかったのですが……。今回は、その、事情があって、急遽私の独断で行いました。勝手な判断により皆様に混乱を招いてしまい誠に遺憾であります。そして何より、貴方を巻き込んでしまって申し訳なく思います……。本当に何とお詫びしてよいのか、それすら分からない程に私は……。とにかく申し訳ありません……。私の力が足りないばかりに、このようなことになってしまい……。私は……、私は……!!」と言いながら涙を浮かべている。……はぁ。どうしてそこまで思い詰めるのかな……。別にこの子がどうこうしてなくても僕が死んでた可能性が高いし……。でも一応は助けてもらったみたいだし、これ以上彼女を責めるようなことってしたくないんだけど……。

「……あの。お気になさらないで下さい。僕なんかをわざわざ助けてくれたことに感謝しているんです。本当にありがとう。……えぇっと、その、お話って、なんでしょう?」と、とりあえずこの場を丸く収めることを優先しようと僕は思う。

すると女性は少し驚いてから言う。「あぁ、そうであった……。実はお主にやってもらいたい事があるので来て貰ったのだ。だが、お主は今、呪いによって力を封印されているようでのぅ……。そこでリスタが呪いを解除しようとした結果がさっきまでの状態であったのだよ。……どうやら上手く行ったようだが……。……ところでお主なんじゃが……。……ん?そういえば名前を聞いとらんかったの。」と女性が言うので僕は答える。

「あ、はい……。僕の名は結城悠斗です。えーと、これから宜しくお願いします?」と自己紹介をしてから頭を下げると、女性は笑顔でこちらを見てくる。そしてその後で「ではユウキ殿と呼ばせて貰うが、良いだろうか?」と言って来たので、特に断る理由もないので「ええ、どうぞ。好きに呼んでください」と、そう返す。

「そうか……。感謝する。……さてユウキ殿。早速で悪いが、まず最初に、この国の王に会うことになるので身なりを整えてもらうぞ。それから、リスタにはユウキ殿のお付きを任せることになるので、しばらくはこの国での生活の手助けなどをするように……。それから……。」と、それからのことについての注意点をいくつか説明されたのだった。……ん?あれ?そう言えば王様に会うんだよね???……僕、服無いよね?それに靴も履いてないんだけど……。どうすればいいのか全く分からず混乱し始める。すると女性と目があった瞬間に「あぁそうそう……。ユウキ殿、すまぬが一度部屋から出て行ってくれないか?」と言われてしまうが、それは当然だと思うのだけど……。……はい。出ていきます。

扉の前で立ち尽くすこと約30分程経過した頃になってようやく出ても良いとのことだったので廊下に出て歩き始めると、目の前の部屋の中から二人の声が聞こえるのに気付いた僕は慌てて壁に張り付いて聞き耳を立てることにした。

そして少し経つと、女性の声で「では今度こそ、勇者様と会わせて貰えるのじゃな!?」「はい、その通りで御座います」と言っている会話を聞き取った僕はすぐに行動に移ることにする。……えっと、まずは何をしたらいいんだろう。取り敢えずは服装をどうにかしたいんだけれど……。そんなことを考えているうちにも話は進んでいくようだったので一旦隠れることにした僕は近くの柱に隠れるとすぐに物陰へ移動した。

移動した後はなるべく目立たないように、それでいて急いで服を着替える場所を見つける必要があるのだけれども……、……そう思った僕は直ぐに動き出す。この身体の身体能力が高いらしく、直ぐに走り出したのだが、予想以上の速さが出ていたようで直ぐに息が上がってしまうのが分かる。それでもどうにかこうにかたどり着いた場所はお城の中に有った小さな教会のような建物だったので、僕はその裏にある木を伝って上へ登る。……そこから辺りの様子を窺うのだが、やはりと言うべきか見晴らしが良い場所で誰かに見つかれば終わりな感じなので僕は焦ってしまう。そんな中、僕は必死に考えた末、自分の部屋にたどり着くと鍵を掛けて誰も入れないようにしてしまう。それから暫くは落ち着かない時間を過ごしていたが、少しだけ余裕が出来たのでステータス画面を開いてみることに決める。

――【勇者】――

*スキル『勇者補正(極)』『勇者召喚(神格級:制限無し・任意起動式・回数無制限)』*固有能力『成長促進』

(勇者の成長速度向上、経験値取得上昇値にプラス補正。全ステータスに+100~500程度。Lv1ごとに+5)

*加護『魔王の祝福』

*装備

・剣 《聖魔石×1000》 武器攻撃力300万以上 攻撃範囲150m以内 斬れ味抜群で何でも切れる。

・防具 《聖布》 防御性能不明 見た目は普通の布

・装飾具 指輪×2 《聖銀×50》 アクセサリー効果不明

・道具 ポーション類 ×3本セット 薬草の束×2 毒草の束×20本 麻痺薬 回復用 《解呪の石板(極小)

※ 聖石が砕けた際に使用可能 使用者の生命力及び魔力を消費して状態異常の解除を行うことが可能 ただし、使用回数は10回のみ』

と書かれていたのだが、これってつまりどういうことだ?と疑問符が浮かぶのだが、とりあえずはこの2つが問題なんじゃないかなと思うので、これをなんとか出来ればいいかなと思いながら確認してみるが……何も変化がないのである。まぁ、これは仕方がないだろう……。しかし……なんとなくだけどこのアイテムの使い所が分かり始めてはいるんだよな。でも……この場でそれをやるわけにもいかないし……。

それから、しばらく悩んでいると扉の向こう側から人の気配を感じてしまった僕は慌てた様子で扉から離れると部屋の隅に移動する。そして、息を殺して暫くの間待機するのであった。そして数分ほど経過した時、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる足音がする。僕は更に緊張を高めつつその音に耳を傾ける……。そしてその人物は部屋の前を通ることなくそのまま通過していく。

どうやら気づかれなかったらしいので安心しながらホッとしていると、突然、後ろから扉をドンッ!と勢いよく叩く音がして思わず飛び跳ねそうになる。恐る恐る振り返りながら扉を確認するが、何事も無かったかのように扉はそこにあるのを見て再び安堵する。……しかし……、今のは……いったい何だったのだろうか。そう思いながらも扉に近づくと……扉が開いてしまう……。……嘘だろ……。僕は心の中で叫びながら後ずさりして逃げるのであるが、それよりも早く何かが飛び出してきて僕の身体に飛びついて来る。……それが先ほど僕が隠れた人物だと分かった僕は、何とか引き剥がそうとするのだが相手の方が圧倒的に力が上のため無理に離れることができないのであった。そうしていると相手の女性が話しかけてくる。

「やっと捕まえましたわ……。ユウキ様。私を置いて逃げられるなんて酷いですの。お陰で危うく殺されかけるところですの……。」と言って頬擦りするようにして抱きつく少女の頭を撫でると気持ちよさそうにするので僕はどうしようもないのかなと思ったが……このままじゃ駄目な気がしてきたので説得を試みる。

「ごめんなさい。でも、いきなり襲ってくる貴女が悪いんです……。」と、言いつつも僕はどうやって脱出しようかを考えてもいるのだけれど……良い案が出ないので大人しくされるがままになっている……。そして、僕の胸に顔を埋める少女は満足そうな顔をして僕の胸から離れてから、今度は手を掴んできた後に手を握るような形にしてから「もう絶対に離さないんですの。私は貴方について行くのです……。」と言いながら、まるで僕がどこに行くのか分かっているかのような発言をしたのを聞いた僕は驚く。何故ならば僕はまだこの場所から外に出ていないのだから。……この子には、まだ話していないことが多すぎる。それなのに彼女は僕の目的地を知っている? 一体どうしてなんだ……。そう思っていると僕の後ろにある壁が崩れ落ちる。……いや、正しくは天井の一部と共に崩れてきたのか……。僕は慌てて少女を引っ張りながらその場を離れようとするも間に合わず瓦礫に押しつぶされてしまい……、痛みを感じる間もなく意識を失ったのであった。……僕はいつまでここに居るのだろうか? あれから、ずっとこんな生活をしているせいで時間間隔が曖昧になってきている。それというのも……この部屋に来る人が誰も居ないからだ。一応はリスタちゃんがお世話に来てくれているのだけれども、その時に教えてくれた情報によるとここは地下深くにある牢屋みたいな場所なのだとか。

そんなところに監禁されて、もうどれくらいになるか……。そもそも、なぜこんなところに連れてこられたのかも分からない。もしかすると僕の知らないうちに悪い事をしてしまったのかもしれないが……それでもここまでする必要があるんだろうか? と、僕は考えるも、どうにも答えは出ないため考えるのをやめてしまうのであった。それから僕はいつものように、ぼんやりと過ごす。リスタちゃんが来てからは少し話をするようにもなったが、それ以外の時間はひたすらぼーっとする事が多くなったと思う。ただ、そんな風に毎日を過ごしている中で一つだけ変化したことがある。リスタちゃん以外の人と話す機会が増えたのだ。

ある日の事だったのだが……。一人の青年?がこの部屋にやって来たのだ。見た目は20歳前後といった印象だが僕より少し年上に見えるので30才位だと思うのだが、実際の年齢がどうかまではわからない。彼は僕のことをじっと見つめてくる。その表情はとても真剣そうに見えるのだけど……、正直何を考えているのか良く分からなかった……。なので僕は、彼の目を見ながら観察することにした。そうすると、急に彼が「……お前、俺のこと覚えてる?」と言ったかと思えば、「……俺は、昔、勇者をやっていた。あの時……魔王を倒して世界を救ったはずなんだ……。でも……」と続けていく。……勇者ってどういう事なんだろう?……勇者?勇者って確か異世界の英雄とかそういう人のことだったと思うけど……。あ、……そう言えば魔王を倒す英雄の物語があったんだっけ?……それに出てきたのが、……勇者様だ!!ってことは……えぇ!? 勇者って本当にいたんだ!!?僕は勇者に憧れていて、いつか会いたいと思って憧れの人物になっていたんだよね。そして勇者が実際にいたことを知って僕は感動に打ち震えていたのだが……、その反応をどう勘違いされたのか「お前……もしかして、勇者のことを知らんの?」と言われるも……、僕にとっては、その事実だけでも衝撃的だったため上手く喋ることが出来ない……。それでもどうにか頑張って口を開くことに成功した僕は「し、知りません!」と答えるのであった。すると目の前にいる男性が呆れた顔をしながらも、説明を始めてくれているのだが……やっぱり勇者だったのか……。まさか実在していたとは思ってなかったので、そのことに関しては凄く嬉しかったんだけど、それでも目の前の人は勇者ではないらしいし……、というか、僕よりも強そうだから多分本物の勇者様なんじゃないかなと勝手に思っていただけで……本人の前で言って怒らせたらまずいかなって思って誤魔化しただけなんですよね……。まぁ本当の事は言えなかったので仕方が無いと言えば無いのだが……勇者に失礼な発言はしないように気を付けよう。あと僕よりも若いと思うのだが、随分立派だなと、思ったら王様だと言うのだから更に驚いた。流石は勇者。

そんな訳で僕は彼(王)にこの国の状況などを聞いてみる事にしたのであったが、特にこれといって有益なことを聞くことは出来なかった。この国は平和そのものらしく、戦争なども殆どしないし争い自体を嫌う国だということがわかっただけだし……。後は魔法について聞いたのだが基本的に皆使えて普通だと教わるのだけど……僕だけが使えないのだと伝えると、それはおかしい。君は何者なのか教えてほしいと言われた。

――『鑑定』――

*『奴隷』――

*固有能力『言語変換』『経験値増加(極大)』『ステータス補正(中)』

*加護『神格の加護』

*装備『奴隷の首輪(小)』*固有能力『所有者変更』

*加護『神の寵愛』

と、言うものだった。……なんかよくわからない加護があるんだけど……これが呪いなのだろうか?それとも神様からのプレゼントなのだろうか。……でも『ステータス補正』が付いているということは僕のステータスは上がったということだと思うから加護がついて良かったと思うべきなのかもしれない。まぁ、レベルが低いから恩恵が少ないみたいだけれど……。

それと……何故か称号の欄に『女神に見放された男』『不屈の心の持ち主』なんてものがあるんだけど……なんでなんだろう。僕が気を失わずに耐え抜いたからなんだろうか?……確かに死にそうな思いは沢山あったけれど……。それにしても酷い扱いだよ……。

まぁ、とりあえずこの事は黙っておくことにしておこう……。下手に騒ぎ立てることで、これ以上酷い目に遭うわけにはいかないし。とりあえずこの場では「何もありません」と答えた後に部屋を出てもらうことにする。そうしないとまた誰かが来たときに色々とややこしくなりそうだったからだ。

それから数日経った日のこと……突然部屋の中に人がやってきた。そして、その人物は「久しぶりですね」と言いながら僕に向かって近づいてくると抱きしめるようにして頬擦りしてくるので……ちょっと気持ち悪いので離れてくれないかなと思っている。でも、その人物の正体は、あの聖剣使いのエルフの人だった。……あれ?でも……名前が思い出せない。どうしよう……。僕は名前を尋ねてみたら……、彼女は不思議そうな顔をしてから自分の名前を名乗った後、僕の方へと質問を投げかけてくる。「ねぇ、君は私の名前を知ってますか?」僕は素直に彼女の本名を知らないと答えてから、何か変な空気になっていくのを感じる。何がきっかけかはよくわからないけれど彼女が怒り出す寸前のような表情を浮かべ始める。

僕はそれを宥めながら話を続けると……彼女は何か納得したような顔をしながら、この前の続きを始める。彼女はこの前の戦いの時に僕が言った台詞をずっと考えていたのだという。

僕に言われて自分がどれだけ恥ずかしい発言をしたのかを思い出してしまったようで「ごめんなさい」と言ってきたので……、僕は別に謝られるような事をされたつもりはないのだと伝えた上で気にしてはいないと告げる。ただ、もし許して貰えるのなら、もう一度戦いましょうと言ってきてくれたので、僕はその提案を受けることにした。ただ、僕はもう戦えないので……彼女に剣を渡して欲しいと言うと「はい」と言って渡してくれた。これでいつでも再戦できると思いながら喜んで彼女と話していると、そこに一人の少女がやって来る。

少女の名前はリルと言うらしく……先ほど僕の部屋に来た女性である事が分かる。その女性はリルと名乗り「ユウキ様に助けて頂いたんですの」と言いつつ頬擦りをして僕の腕を取って引っ張ってくる。……僕はまだ良いのだけど、この子の行動はちょっと危ないと思うんだよね。だって……僕より力が強いんだよ?……しかもまだ10歳位の幼女だし。僕は困ったように微笑みながらもされるがままになっている。そうするとリルが「わたくし、この方に付いていくことに決めたのです。だから邪魔をしないでくださいまし」と言って僕の腕を離さないようにすると、それに対して少女は怒ったような顔になり僕から少女を引き離すようにして抱きかかえた。……そんな感じで、僕のことを取り合っているような状況が出来上がるも……少女が僕に助けを求めてきたため、二人を引き離して、改めて話をする事になった。ちなみに……少女の方から名乗ってくれたので名前は知っているのだけれども、一応、お互いに自己紹介を行うと少女が僕の事を知っている理由を説明してくれた。なんでも、勇者と一緒に旅をしていた時に僕と出会ったことがあり……その際に僕のことを見ていたらしい。ただその時は遠くから見ただけで特に興味もなかったのだが……今回、僕が地下に閉じ込められていることを知ったため救出しようと考えているのだという。

ただ……この国は、とても平和な国なので、他国との小競り合いすら起きておらず……僕を助ける為に乗り込むにしても大きな危険を伴うため、どうすればいいか悩んでいたところ僕を見つけたのが……ちょうど今日だったということだった。

僕はそれを聞き……この子は見た目通りの良い人なんだと思うも……僕を助けて得になることがあるのだろうか?と考えてしまう。ただ、そんなことを考えている間に話が進んでしまい……結局僕は、彼女達の同行を断ることが出来なかったのであった……。

リスタちゃんとの話が終わった後に、今度は僕のことを救おうとしてくれる二人の女性が現れました。最初はリルという名前の女性で10才程の年齢なのだが身長はかなり低い。多分、120cm位しかないだろうと思うけど、見た目がかなり幼いのだ。しかし、話してみると大人っぽい性格をしていることが分かるのだが……。まぁとにかく……その女性が僕の事を救うために行動を開始してくれるという話になってくれたのは嬉しいことだと思った。だけど、問題はその後だったんだ……。そう、……この子が、とてつもなく強い女の子なんだよ……。それで僕を守ろうとする意志の強さに僕は少し怖さを感じつつも、嬉しくもあると感じてしまっていた。まぁ実際僕自身も強くなったと思っていたけど……それでも勝てるか怪しいほどの相手なんだよね……。だから少し心配だったんだけど……。結果的に言えば僕一人では何も出来ずに、結局二人が助けてくれていた。……というわけで僕と勇者の少女とエルフの女性の三人組が仲間に加わったんだけれど……。三人の仲間が増えて喜んでいる暇は無かった。なんせ僕はこの国から逃げ出す必要があるのだから。この国が安全だという話は聞いていないが、勇者とその仲間たちが一緒に来てくれるのであれば逃げることが出来る可能性は高いのではないかと考えている。

そんな訳で早速、僕たちは脱出のために動き出したのだが……。まずはこの城を出る必要があった。なので、僕はリルの持っていた聖剣を使うことにする。この聖剣の能力を僕は『所有変更』と呼んでいる。所有者の認識を変え、別の人間に渡す事が出来る能力だ。これはリルも持っていて同じ事ができるし……実は僕の『勇者』の加護にも同じような能力があるので問題なく使用が出来るのだ。僕は、まずリルの聖剣を奪い取って『勇者の加護』を使用して『所有者変更』の能力を発動させた後、リルに返すという流れを行った。

それから、勇者が使っていたという鎧を装備し、僕は『神具』の力を解放した。

『女神の衣(仮)』は神が作ったと言われる最強の装備でどんな防具や武器でも装備出来るようになるアイテムだ。さらにステータスを上昇させてくれたりスキルを覚えることが出来る。まぁレベルを上げることで手に入るものとは違うようだが……。

僕たちが『神の塔』と呼ばれる建物に行く前に準備した『女神の祝福』はレベルが上がったときにステータスが上昇する効果がある。それと装備している人の防御力が上がるという優れ物だ。

この二つの装備の効果によって、僕はこの世界ではありえない程のステータスを得ることが出来た。そして僕はレベル99になった。この世界でのレベル上限に到達した訳だけど……レベル100まで上げられるようになったのならレベルを上げておいた方が良いだろうとは思う。

だけど今の時点でレベルを上げた所で……あまり意味がないのも事実だと思えるし……今はとりあえずステータスの上昇を優先して行っておくことにしておく。それにステータスの数値だけ見れば……今の僕は普通の人が見ても脅威だと感じるような存在ではないはずなのだから。

それから僕は『神塔』へ到着して内部に入り込み……上を目指した。途中で出てくる魔物達を相手にしつつ、どんどん進んでいくと……やがて最深部にたどり着く。そこには一際目立つ女神の像が建っていた。女神の像に近づくにつれて周囲の雰囲気が変わっていくのが分かった。それはまるで……この世界に女神が存在しているかのような威圧感があった。

僕はその女神に祈りを捧げて……この場を後にしようとしたところで、背後に強烈な気配を感じた。慌てて振り返ると、そこには見たこともない様な巨大なモンスターが存在していた。その姿は今まで出会ったどんな敵よりも禍々しく恐ろしかった。そいつは一言で言うならば悪魔といった風格だったのだ。……僕はその化け物に攻撃を行うと簡単に倒せたのだが……僕はそこでとんでもないことに気付くことになる。そう……そのモンスターを倒したことによって……僕がこの場で得た経験値は……あの聖剣使いのリルの比では無いほどに多くなっていたのであった。

そして、それからも……しばらく探索を続けていると……リルが僕たちに向かって話を切り出してきた。彼女は、聖剣を使って何か出来ないかという提案をして来たのだった。

僕は彼女の話を聞いてから考える。確かにリルの言いたいことは理解出来たからだ。つまり、聖剣に蓄えられた経験を使うことが出来れば……もっと強くなることも出来るのではないかという内容である。僕はリルの考えが正しいと思いながらも、やはりリルが持つその聖剣は……この場にあるべきじゃない気がすると感じた。

それから色々と話をした結果……聖剣については、僕の判断でリルに貸すことにすることに決めた。ただ聖剣が本当に必要となった時の為にリルには一時的に借りているだけで……リル自身が強くなって自分で扱える様になるまで待っていて欲しいと言った。リルはそれを了承してくれてから、僕に感謝の言葉を述べた後にその場を離れていった。

その後、僕らは次のフロアに向かいつつ先へ進む。道中に現れる敵は大体、僕が一撃の下に切り伏せることが出来ている。そうして先に進むと……突然目の前に光の門が現れた。

リルの持っているあの不思議な光の柱の出口となるゲートのようなものなのだろう。

そう思って僕は中に入るために一歩足を踏み出そうとすると…… リルが僕の腕を掴んできて……僕を引き留めてきたのだ。……何が起こったのかよく分からないけど、何かがおかしい。……僕はリルの表情を見てそう感じていた。

僕は彼女の顔を見つめつつ何が起こったのか尋ねると、リルが言うにはどうやらこのダンジョンは僕たちの思っていたような場所では無かったのだという。この塔自体が強力な魔道具になっていて、このダンジョンの中に入り込んだものを外に出さないようにする仕組みになっているのだという。……しかも、この場所に入った時に僕たちは強制的にレベル1に戻されたのだという話をしてくれた。その説明を受けてから僕たちはこの部屋を抜け出す為に行動を起こすことになったのである。

ただ扉を開ける方法が無いという事で僕は壁を殴ったり蹴ったりしたがビクともしない状況に陥ってしまう。リルの方は諦めずに頑張って力いっぱいドアノブを押している。……しかし開かないようで、リルが悔しそうにしている姿を見ながら困っている様子に気づいたリスタさんが僕のところにやってきたのだ。「私がやってみましょう」と彼女は言ってから……ドアノブを握ると……一瞬、驚いたような顔をした後に「……駄目ですね」と言い放つ……。僕も試してみたけれど全く動くことはなかった。……仕方がないので……一度、ここを脱出することを先送りにして先に進む事に決めた僕達は、先に進む事を決めたのであった。

リルと一緒にこのダンジョンを攻略することに決めたのだが、まずは僕とリスタさんの二人が先に進む事になった。理由は単純に、リスタさんの力が圧倒的に僕より強いからだ。リルにその辺りのことを尋ねてみると……彼女は僕の事を助けに来たらしいので、本来であれば一緒にいるべきなのだが、リル自身は戦う事が得意ではない為、サポートに回ると言っていたのだ。そのためリルは僕の近くで援護を行いながら僕の事を護衛する役目を担うことにしたのだと言うのだ。

それから僕は『勇者の加護』で新しく手に入れた能力を確認する。僕が確認したところでは……新たに『勇者』と『勇者の従者』の二つの能力が追加されていたようだ。どういった効果なのかは使ってみないとわからないみたいでまだ把握出来ていないが、きっと凄く強くなれることだけは間違い無いと思えたので早速使うことを決めるとリルが僕を止めようとしたので僕は大丈夫だからとリルに話しかけたのであった。……ちなみに、リルの能力は『聖女』と『聖騎士』の二つだ。どちらも回復系の職業のようでリルの回復魔法はとても強力で頼りになりそうな印象だ。特に『神聖防御結界』というのがかなり優秀でどんなに攻撃しても防ぐ事が出来る優れものらしく、それがある限りほぼ無敵に近い状態なのだとか。

そんなことを話し合ったあとに僕たちは先へと進み始めた。道なりに進んでいくと今度は階段がありそれを下りていくのだが、そこは少し開けた空間になっていた。そこにいる敵を一通り倒し終えると奥に大きな玉があってそこから強いエネルギーを感じることが出来たので、僕は迷わずに飛び込むように言った。そして玉の中に入ると急に強くなった感覚に襲われて思わず倒れそうになるが、何とか耐えきった後、ゆっくりと目をあけてみると僕は自分のステータスを表示させたのだ。……すると驚くべき事が起こっていることに気が付く。なんと僕が持っていたはずの能力が消えてしまっていたのだ。その代わりに新しい能力が付与されていたのだが……それは……

『魔王』というものだった。僕は驚いてステータスの表示を解除したのだが、再度見てみてもその文字が消えていることは確認出来なかったので僕は混乱してしまう。

そんなことを考えつつも、今は先に進まなければならないと考えて、僕たちは再び歩み始めるのであった。……そしてしばらくして大きな広間に到着するのだが、その部屋の中央に存在する宝箱にリルは駆け寄るとその中身を調べていた。僕はリルの行動に首を傾げつつも、彼女の様子を見守ると……。リルは何もないのかと思った後に残念そうな顔をしながらこちらに戻ってくる。そして……彼女は、この場にいるとまたさっきの様な化け物が現れそうだと話をしていたので……。僕がこの階層を調べるというと……。

僕は『鑑定』の能力を使用してみるが、この場には何も無かったようで、僕は次に上の階に戻るか下の階に下っていくべきか考えた後に下に行こうと考えた。なので、僕はその判断を伝えるべくリルに声をかけようとする。

だけど、それより前にリスタさんの声が響いたので彼女達の方を見ると二人は戦闘態勢をとっていたのだ。その姿を見て僕は慌ててそちらへ向う。……その途中……リルが僕の前にやってきて、僕を庇うかの様に立つ。そして彼女が前に立ち塞がると同時に、僕はリルと二人で『神具』の力で一気に加速を行うと、二人同時に攻撃を開始したのであった。僕とリルの連撃を受けてモンスターは怯むがそれでも倒れる気配は見せない……。僕は一旦攻撃を中断するとモンスターを観察するが……その化け物は僕たちの姿を見た直後に逃げ出した。そして逃げるそのモンスターに向けてリルが再び攻撃を仕掛けようとしたが僕は止める。……リルが何か言っていたが無視するとそのまま僕は追いかける。そして『勇者の祝福(偽)』『所有者変更』で聖剣を借り受けてから聖剣を振るって化け物を切り裂いて倒したのだが……その際に化け物が発していた黒いオーラに違和感を覚えた僕は警戒してその場から離れる様に促す……。すると、リルは不思議そうな顔をしてから、化け物を倒してくれてありがとうと口にした。……だけど僕としては、リルが無事だったことの方が重要だし何より……あのモンスターを倒したことで、レベルが上昇して僕が得た恩恵はかなりのものになったので結果的に得だったと思うことにした。ただ……リルから話を聞いてみると、あの魔物はこの世界に存在してはいけない存在の様だったので放置しておくわけにもいかないし……。……結局のところ、リル達を元の場所へ戻す為には倒すしか方法がないと判断した僕は……僕一人で先程の魔物と戦う事に決める。リル達には悪いとは思ったが僕はそう決めたのだ。……それから僕とリスタさんは先程までのフロアへ戻ると、僕はすぐにモンスターを探し出して戦いを挑んだ。その相手は化け物というよりもむしろ神々しいといった感じの存在だったのだ。その姿は僕が初めて見るもので、神気のようなオーラに包まれていてとても美しい女性の姿をしていて……そして、そいつから受ける雰囲気も神々しさを感じさせるものだった。僕はそのモンスターと戦っているうちにその力の正体を理解してしまう。……その化け物の強さは僕と大差が無いはずなのに何故か僕は押し負けている様な状況に陥りつつあったのだ。このままではまずいと察すると……僕は聖剣の力を発動して強化を行う。……その瞬間に戦況が一気に変わるのを僕は確信出来た。僕の身体に力が溢れてきて……その力で僕はこの場での戦いに決着を付けることを決めた。その一撃で終わらせるべく……僕が全魔力を込めて放つ渾身の一撃を放つために集中力を高めるが、僕の意識の外からの攻撃によってそれが阻止される事になる。……リスタさんが聖剣で僕の動きを止めるような斬撃を放ってきたのだ。それに気づいた時には既に遅く…… 僕はリスタさんの放った聖剣での一撃を受けてしまいその場で倒れ伏してしまう。

リスタさんが倒れた僕の傍まで歩いてくると「……これで終わりましたね。私とリル様はここまでですね」と言い残して去って行ってしまう。僕は急いで立ち上がるとリスタさんのところに向かって走り出そうとする。……だがその時に僕の視界が歪んでその場に膝をついてしまったのだ。……一体どういうことなんだ!? 何で僕だけ動けなくなってるんだよ?!と心の中で叫びながらも……なんとか立ち上がろうとするのだが、上手く体が動いてくれない。僕が必死に動こうとしているのにも関わらず目の前にリスタさんが現れた。僕は彼女の方に顔を向けて睨みつけるが、その表情を見て僕は全てを理解する。……僕の考え通りだとすれば……今の状況は非常に不味い!!僕はどうにかこの状況を打開しようと考えていたが……次の瞬間には僕を囲っていた壁が解除され……それと同時にリルが駆け寄ってくる。彼女は僕を担ぎ上げると急いでその場を離れる為に移動を開始する。……どうやら僕たちの行動を読んでいたリスタさんは既に僕たちが逃げられない位置で待ち受けているようだ。僕たちの動きは読まれていたのだろう。リスタさんも聖騎士である。当然と言えば当然かもしれない……。そんなことを考えながら、僕たちの足が止まってしまう。……僕たちは背後に出現した敵を確認するとリスタがこちらの方へと近付いて来ていたのだ。……恐らく……リルを殺さないとこの世界は滅ぶだろうと僕でも簡単に予測出来てしまう。……だからこそ僕はリルの事を護りたかった。

僕が何とかしないとリルを護らないと……そう思っていた時だ、突然僕の頭にとあるイメージが浮かんできた。僕がそれについて考えるよりも早くリルの口から呪文のようなものが紡がれ始める。僕はリルの邪魔にならないように少し離れた所でその様子を見守っていた。そして……僕の方からもその魔法に対して抵抗するように魔法を唱える。……だけど僕の詠唱が終わると同時くらいにリルの魔法が発動して……その魔法は僕たちに迫ってきた。……しかしリルの魔法が当たる直前になって、急に僕の魔法が勝手に動き始めて魔法を消滅させたのだ。その現象に僕だけでなくリルや他の者達が驚くが、一番驚いていたのは魔法を使った当人であるリルであろうことは明白であった。リルは自分が使った魔法が消えてなくなると思わなかったのか驚いた顔をしていたが……そんなリルの顔を見つめていた僕自身も同じ気持ちだったのだ。そんなことをしている間に、僕たちは複数の人間たちに捕まってしまい身動きが出来なくなってしまう。そして……その人間の代表と思しき人物に……僕は拘束された状態で話しかけられた。その言葉を聞く限りこの人間はどうやら僕と同じ世界の出身のようだ。そしてこの人はリルに僕が異世界人だということを説明すると僕が持っていたスキル『言語翻訳』を使って僕と会話をした。

僕は『神速再生』で拘束されている手足を回復させるとその男性との話を続けてみる。すると彼は僕の話に食いついて質問を次々と投げかけてきた。その内容は、僕が知らないものばかりで、正直言って興味津々な話ばかりだった。特に僕が一番興味を持ったのはゲームに関する話題だ。……彼の言うゲームの内容が本当なら僕が知っている内容と似ている部分が多くあり、かなり驚きだったのだ。僕がそんな風に話を続けている中で彼が僕を勧誘してくる。そして僕がそれを断ろうとしたところでリルが話に介入してくると……リルはその男性の言葉を一蹴したのだ。

そしてその男性は残念そうな顔を見せるとその場から消えて、代わりに別の男性が僕達の前に現れた。……それは僕がよく見知った人物であり、リルの夫であった人物である。……彼を見たときに、僕は一瞬リルに声を掛けようか迷ったが結局声をかけずに黙ったままにすることにした。するとリルが何かを口にしようとしたタイミングで、僕は彼女に手を差し出すと何も喋らせないようにして……そのまま彼女の腕を掴んで強引に抱き寄せると……僕は彼女を抱きしめたままその場を離れた。リルも何かを叫んでいたが僕に抱き寄せられる形になり……僕たちはその部屋から離れる。……だけど、その行為に意味は無かった。僕はその場から動くことは出来なかったからだ。僕がどんな行動をしても、おそらく結果は変わらなかったに違いない。

それからしばらくしてリルが泣き出したことで僕は我に帰る。僕がリルの事を助けられなかった事でリルを傷つけてしまっていた。だから……その謝罪の意味も含めてリルを優しく抱擁していた。その行為は逆効果だったのかもしれないが……それでも僕はそうしたかったのだ。僕はその体勢でリルに話しかけることにする。……だけど僕がリルの名前を呼ぶ前に、僕の口元にリルの手が添えられたのだ。そして……リルは僕がこれから何をしようとしているのか察したようで僕を止めようとしたのだ。

そして、僕は覚悟を決めると僕はリスタが放ってきた攻撃をその身に受けようとする。だけど僕がリルを巻き込むまいとしてリルを押し退けた結果……彼女はリスタの攻撃に巻き込まれてしまった。そして僕もその反動で吹き飛ばされてしまう。

僕はすぐに起き上がるとリルの方を見る。……その光景は凄惨なもので彼女は血まみれになっていた。そしてリルに慌てて近づいて安否を確認した僕はリルの傷の深さをすぐに理解してしまう……。そして……僕が彼女に声をかけると同時に、僕の腹部にも痛みが生じた。僕は自分の腹部に手を当てると手にべっとりと付着した生暖かい何かが分かる……。

僕の目には涙が溜まり……視界がぼやける……。だけど僕が泣いたままではリルが困ると思って僕は無理やりにでも笑おうとするが……どうしても頬が引き攣って笑顔には見えなかったと思う。その証拠に僕は今すぐに泣いてしまうような感情を抑えるのに必死なのだ。……そして……リルもまた僕と同じように苦しそうな顔をして、僕が怪我をしている部分を見ている事に気づく……。彼女は僕に向かって謝るような表情を見せていた。……そんな彼女の姿を見て僕は無理矢理に笑ってみせると大丈夫だと伝える。だけど、そんな僕の行動のせいでリルの不安はさらに募っているような気がしたのだ。

そんなリルの態度を見れば……僕の考えている事はバレてしまうのは仕方がないことで……僕と彼女が視線を交わすとその想いは一緒であることが分かってしまったのだ。……僕達はお互いにお互いのことを思い合っていて……もう一緒にいる事が辛いという事だ。

僕はリルを抱き寄せる為に両手を広げようとし、彼女の方に右手を伸ばしかけるのだが、その手が途中で止まる。僕はこれ以上の出血が致命的になってしまうと判断した。その判断をしてしまうのであれば、ここで別れて……リルが一人でリスタと戦うのも選択肢の一つとして存在する。……だが僕はそんな選択をしたくないと思っている自分に気づいた。……僕のこの気持ちは何だろうか?この世界に来てから、僕は今までこんなにも心から誰かの為に何かをしてやりたいと思ったことがあったろうか?僕はそこまで考えた時に……リルを抱きしめる事を決意する。リルもきっと僕と同じようなことを考えているはずだ。……そう信じていた。……しかし……それが甘すぎる考えだった事を後に後悔する事になるとは思ってもいなかった。

その日は朝早くから出掛けて街までやってきた。この街には俺達の目的とするものがある。その目的のものを売っているのがこの街にしか無い為、ここまでやって来ていたのだ。……だが……そこで俺達が目撃したのは衝撃的な光景だった。なんと、勇者であるはずのリルが見知らぬ男と一緒にいて、しかも男がリルに襲い掛かっているではないか!?男は突然リルの身体に触れる。するとリルが悲鳴をあげた!

「……うっ」……そのリルの姿はあまりにも痛々しいものだった。リルの身体はあちこちに刃物のような物で斬られていて服や皮膚は裂けており……見るに耐えられない状態だったのだ。そして男の方もかなりひどい傷を負っていたのは間違いない。だが俺はその男のことが気になる。何故ならそいつの着ている服装は見覚えがあったのだ。その服装というのは、俺がこの世界に転生する際に着用していたものと酷似しているように思える。……まさかこいつもあの神と名乗る者の仕業なのか?そう考えるが……今この場でそんな事を考えて時間を無駄にしている場合ではなかったのだ。……既にその男がリルに向けて剣を振り下ろしているところだったのだから……。

俺の予想は当たったらしくリルの振り下ろした聖刀の切先が、男の頭部を直撃して、その威力に男の頭はそのまま胴体から千切れ飛ぶと地面へと転がった。リルはその勢いのまま振り返るとこちらに駆け出そうとするのだが、そんなリルの前に一人の少女が現れる。その少女は、リルに向かって手をかざすと何やら呪文を唱えたのだ。

リルの様子がおかしかったのは間違いなく目の前に現れたその謎の美少女が関係しているのだろうが……リルは突如その謎の美少女に拘束されてしまうと身動きが取れなくなってしまう。……どうやらリルもこの世界に存在する『聖魔法』に対抗できなかったようだ。……やはり俺以外の人間が『神魔法』を使うことは無理だという事か……。そういえば、俺の使う『魔』の魔法もリルにはあまり通用していなかったな……。

リルを拘束するとその女性はリルを連れて何処かに消え去ってしまう。その後に残されていたのは無残な死体と、俺だけだった。

それからしばらくした後、街の人間に助けてもらった後、宿に戻ることにした。しかし、先程の件もあって気分が悪いのと、疲れていたので、少しの間休憩をとる。それから再び街中に出てリルを探すが見つからないので、リルとは一旦離れてリルの仲間と合流をする為に、仲間達の泊まっている宿屋に向かうことにしよう。ちなみに今は一人きりなので、例の能力を使わせてもらう事にした。

「さっきぶりだね。えーっと名前は?」

俺の言葉を聞いた女の子の顔に驚愕の色が見えたがすぐに冷静さを装って話しかけてくる。

「私の名前は『リル』よ。……それより、貴方がさっき見たことは夢なんかじゃないから、覚悟しておいてちょうだい」

なるほど。『聖魔法』を使うこの子からしたら『神速再生』を持つ者は脅威に見えるわけだ。だからこの子が焦っていた理由にも納得がいくな。それならば、俺に対して敵対意識を持っていた事も理解が出来るというもの。まぁ確かに、『回復魔法の極意』『神速再生』の二つの能力を使えば最強な存在だと思うけど、実際はそれほどでもない。

まぁそれは置いといて、リルと名乗ったこの子のステータスを確認すると驚くべき数値が出てきた。

名前 リル・トリスタン 性別 女 種族 人族(女神)

年齢

14歳 状態:呪い……うん、どう見ても俺と同じ世界から来た人間だよな。まぁリルに関しては、どうせ偽名だろうが、それよりも驚いたのは彼女の職業だ。なんと、彼女は『聖女の魂を受け継いでしまった普通の人族の女性ですが、実は特別な力を持っています』という、なんとも意味の分からない表示がされているのであった。……おそらくは、これが、あの変人が話してくれたことの真相ということか。

そんな事を考えながらも俺はリルについて色々と聞いてみる。彼女はリルという名前で14歳の人族の女の子であること、両親はおらず、家族は兄だけという事、現在は旅をしている事を教えてくれたが、それ以外の詳しい内容は、まだ話してもらえていないらしい。とりあえず俺が知っていることを話しておこうと思い俺は自分の話を彼女にすることにした。……話した結果、彼女の警戒は多少解かれはしたが……まだ完全に信用されたわけではないみたいだ。

そんな話をしながら歩いていると俺達は目的地に到着したのだが……何故かそこに居たのはリルの兄だった……。リルはこの人物に会う事を避けようとしていたのか、ここに来るまでに何度も嫌そうな表情を見せていたが……。

それから俺とリルはリルの妹の話を聞いてみることにする。リルから聞いた話では彼女はとても可愛く性格も良い子で自慢の弟なんだそうだ。だが、それは見た目だけのことで、中身は悪魔で外面が良いとしか言いようがない。それに俺が気になったのは妹の方ではなく、リルに執着していた弟の方のほうだった。彼はリルを姉さんと呼ぶことから恐らく姉弟なのだと思うが、彼の方は、その容姿に不釣り合いなくらいに幼い雰囲気をしていたのが不思議だった。

その日の夜に宿に戻った後、リルを慰める為という名目で彼女を強引にベッドに押し倒すと、リルが驚いて抵抗しはじめる。だが、それを無理やりに抑え込むと、そのまま唇を奪ってリルのことを愛撫し始める。だがリルの方はかなり恥ずかしがっており、最初は戸惑っていたが徐々に受け入れ始めていった。そして俺はリルのことを気持ち良くさせる為に舌を使っての口技も試していく。……するとリルが身体を大きく震わせて俺にしがみついてきたのだ。そんな様子をみて調子に乗った俺はリルの胸を触ってみたりするのだが、それがリルを余計に興奮させたようで……。

「んぅ……。……もうやめて……。そんなところ舐めないで……」……その反応が気に入ったのと可愛くてやめられずにいたのだが……。……そこでふと思う。この世界に来る前と、来た直後では身体の動きに微妙な違いを感じた。それが何かははっきりと言えないが……。そして、今の状態だと以前と比べて明らかに力が上がっているように感じたのだ。だがそれが何を意味するのか分からなかったのでその日はそれ以上の行為はしないでおいた。だがリルが寝てしまった後もその感覚は残っていた。そこで今度は自分自身を鑑定する為に『解析』の能力を使い自分をチェックすることにする。そして、そこで判明した事実は驚くべきものだったのだ。

「なんでこんなことになっているんだ……?これじゃまるでチートキャラじゃないか!?」……だが今はそれどころではない。問題は今リルの傍から離れたくないということだ。……しかしリルが眠っている間に勝手に外に出て調べに行くことも出来なかった。……仕方ないので、この事をリルに相談してみることにする。俺の説明を聞いたリルの反応はというと……。やはりこの世界に来た時と同様に信じられないという顔を見せたのは言うまでもない。だがリルがこの世界に来てからの俺とのやり取りや、今日の出来事を思い出せば、リルがそう考える気持ちは痛いほど理解できる。だから俺はこの事は誰にも内緒にしておき、まずは情報収集を行うことに決めた。

翌日になり、俺は早速、この街の領主に会いに行き、リルとこの街を訪れている目的を果たすために行動を開始することにした。リルには悪いが、俺の目的の為に付き合ってもらうことにしている。その前に、この世界の情報をリルに聞く為の会話スキル『言語変換』の能力を発動させて、リルに色々な質問を投げかけてみたがリルは俺が思っていた以上の情報を持っているらしく、かなり有力な情報が得られたのである。そこで、リルは街の住民から聞き出した噂としてだが、この街が魔王軍に支配されているのは本当らしく、既に街の半分近くが陥落してしまったらしいのだ。

しかし、リルによるとその魔王軍と戦っているのはリルの妹であり聖女であるミリムだそうで……。その妹も、リル同様かなり強いという話だ。そしてその勇者召喚の儀式を行った人物は街の人間からは、この国でも有名な貴族様だということだ。しかもリルの話では勇者を呼び寄せたというのにその貴族の奴は自分の娘と結婚させようとしているのだという。その話を聞いた瞬間俺の頭に浮かんできたのはリルに対するその勇者がリルを嫁にしようとするのではないかという事だった。……この世界で俺が得た情報とリルが知っている事を組み合わせると、リルに一目惚れして結婚しようとする可能性が十分に考えられるから困ったものだと考えながら俺はリルと行動を共にしているのだが、俺の考えは正しかったらしく……リルと勇者は一緒に行動していたのである。

そんなわけで俺は二人に近づき、俺の知っている範囲の情報で、リル達を助けることが出来る可能性がある方法を教える事にした。……それは、『魔道通信機』と呼ばれる機械で連絡を取ることが可能なのと、リルの持つ『癒やしの女神の加護』が使えるかもしれないといった内容だ。『魔導器』については俺の能力によって、すでに作れなくなっており、新たに作成することは出来ない。ただ、『女神』と『癒やしの神』については別なので、もしかしたらこの二つがあれば『魔道具』を作ることは出来るのではないかと考えていたのだ。……もちろんリルにも協力してもらえるようにお願いをしてみたのだが……彼女は少し悩んでいたようだが最終的には引き受けてくれたのだった。それから俺達は、領主の居る城に向かうことにしたのだが……。どうもリルの態度を見ると、この城の人間が気に食わないらしく、リルとしては俺がここに残る方がいいと言い張る。俺としてもリルと別れてしまうのは寂しい限りだし、出来ればずっと一緒に居たいが……ここは俺が折れる事にした。それから俺はリルにリルの兄のいる場所を聞いてみる。すると俺達が向かう予定の屋敷が兄の泊まっている宿だと分かり、そこに向かってみることにした。すると、屋敷の使用人と思われる者達はリルの顔を見て驚き、そしてリルが勇者だと言うことに気づいてしまったようで騒ぎ出すのだった。

リルは勇者だと言われ、使用人達から質問責めにされそうになった時に、俺が割り込んで助けるとそのまま部屋まで連行されたのだが……その後がまた凄かった。俺の目の前で突然メイド服を脱ぎ出して下着姿を晒すと、「……私のこと、嫌いになった?」なんて聞いてくるものだから俺は慌てて否定した。……というか、なんなんだ!?こいつら!リルが勇者だっていうだけでこんな風に扱うとは……。

「お前ら、この子のことはいいからさっさと用件を話してくれないか?」俺がそういうと皆黙ってしまったが……。リルだけは、俺のことをチラチラと見て嬉しそうな顔をしていたが、無視する事にする。それから俺はリルがここに来た理由について説明してやるように促す事にした。それからリルは自分がこの国の聖女だという事を伝え、さらにこの国に危機が迫っているという事を伝えた。そしてその対策の為に『癒やしの女神の使徒』を探していて俺がそれに選ばれたのだと説明した。すると一人の若い騎士の男が俺に敵意を向けた目で見つめてくるといきなり斬りかかってきたのだった。

「貴様にそんな事が出来るはずがない!!聖女様が嘘を言っているに違いない!!」と叫びだすと再び襲いかかってきたのだ。それに対して俺は剣を引き抜くことなく無防備のままでその男の前に立ったのだが、男の一撃はあっさりと止められる。だが俺の実力を知らない男は「ふざけるなぁ!」と言って今度は本気で俺を殺そうとしてきたので俺は軽く足を引っ掛けてやった。するとバランスを崩して転んでしまったのである。

そして俺はこの場を立ち去ろうとしたのだが、そこでリルの方に振り返り、「俺達はしばらくこの町に留まるつもりだけど、その間の滞在費を頼むよ」と伝えるとリルは俺に金貨が入った袋を手渡してきた。俺の渡したものは100枚入りで大金だったが、それを全て渡すとは思ってもいなかった為、俺は少し驚いたのだが、すぐにリルに礼を言った後でリルの頬にキスをしてから、リルの兄がいるはずの部屋に急ぐことにする。

リルと分かれた後はリルの兄の部屋に向かいドアを強く叩くと出てきた男に対して自分の素性を告げる。すると相手は警戒心を剥き出しにして俺のことを警戒しはじめた。それから相手が警戒を解こうとしない事を確認したので強引に部屋に入りこむ。それから部屋の奥に進んでいき、リルの兄を見つける。リルの兄はこの部屋で一人酒を飲んでいたようだった。彼はリルとはあまり似ていなかった。どちらかと言えば大人っぽく見えたからだ。……そしてその兄だが、妹の事を心配するような発言を繰り返していたが……。そんな言葉を無視して俺が話をきり出そうとすると彼は俺の事を無視しようとした。……だが俺はそれを許さなかった。

「おい。……あんたの大事な妹の事を話してもいいのか?俺はこの国について詳しいんだよ」俺がそういうと彼が驚いてこちらを見たのが分かったのである。俺は彼にこの国の支配状況と勇者であるリルの状況を説明していく。すると俺の言葉に動揺しながらも彼の口は止まらなかった。「私は妹を救う為にこの街の領主に戦いを挑もうとしていた。……君が本当に勇者なら私と一緒に戦ってほしい」「悪いがそれは出来ない。俺はこれからこの街の魔王軍の幹部を皆殺しにしなければならないんだ。それにリルとこの国を出る約束もしてあるんだ。リルはこの街が嫌いみたいだから……」そう俺が言うと彼の表情が怒りに満ちたものへと変わっていく。……俺の話を信じたかどうかは分からない。でも俺にそんなことが出来る訳ないと思っていたのかは分からないが……。

それから彼は部屋から出るように言ってくるが……。そこで、俺はある提案をした。そしてその話を聞いた後に彼は承諾してくれたので早速行動に移すことにする。リルとの待ち合わせ場所は俺が最初にこの世界に転移させられた広場になっているので急いで移動する。そしてリルと合流した時には彼女の方は既に着替えが終わっていた。……リルが着ていたのは、いつも来ているような冒険者の格好でもなく、先ほどまでの貴族の令嬢が着るような服でもなかったのだ。彼女が今着ているのは、なんというか、すごく可愛い服で俺が好きなアニメとかでよく見る魔法少女の服に近いというか……いやまあ俺もよく知らないけど。だが俺の目から見て、今のリルはかなりの美少女にしか見えなかったのである。

それから俺はリスタという女の子に事情を説明することにしたのだが……。「おねがい……。私に近づか……ないで……。……やめて……。これ以上……舐めないで……くすぐったいから……やめてって言ってるでしょう」……うん、ごめん。我慢できなかったというかさ、なんか……こう……つい、出来心で?いや、別にそんなことするつもりはなかったんだけど……まあいいよね?

「ちょっと!?……どこ触ろうとしてんのよこの変態!!やめなさいよ!!!!」と少女は叫ぶ。

「いや……あのさ、……えーと。とりあえず落ち着いてね?」僕はなるべく優しく諭そうとする。「そんなところで喋られるとくすぐったいからやめてって言ってるじゃない!それに私の胸元がそんなに気に入ったわけ?」

僕がそうやって少女と話している間にも、少女が僕の頭を叩いてきたのだが……。全然痛くないし、そもそもそんなに強くはないので痛がる振りをしていると、その事に気づいたらしい少女は手を止めてしまった。「なんでこんなことをしているか教えてくれる気はある?」と少女が言うので、僕もそろそろ説明を始めることにした。……もちろん本当の事は言えないけれど……。僕は彼女にある事を伝える。そしてこの世界には魔王が存在していて魔王は世界を滅ぼそうとしているのだということを伝えたのだ。その話を聞いた彼女は真剣な顔になり黙りこんでしまう。……あれっ、ひょっとしたらこれで信じてもらえるかと思ったんだけど駄目なのかな……?

「……魔王が本当に存在するかどうかなんてわからないし、あなたが魔王の配下かもしれないから信じることはできないわ」と彼女は呟くように言ったのだった。……うぅ、やっぱりそんなに上手くいかないのかなぁ。……でも魔王の存在については否定できないはずなんだし……何とかして説得する方法はないだろうか?

「……ねえ、君は何歳?」と聞いてみる。「15歳のまだ誕生日を迎えて無いから14歳よ」と答える少女。……よし!なんとか誤魔化せそうだ!僕は彼女を鑑定してみる。……やはり思った通り、レベル1だ。ということは『魔導師』になる為のレベル上昇条件を満たしていない。……これならいける!僕は『女神』の力を使い『癒やしの女神』の力で少女の記憶を書きかえることにしてみることにした。まずは『魔道通信機』を使う事にする。……『魔導通信機』は一度通信が繋がった事がある相手の居場所を探す機能があり、それを使えばこの少女とリルが通信機で連絡が取れるはずであると考えたからだ。ただ問題なのはこの『女神』は他人の記憶を書き換える事が出来ないということ。『女神』の力はあくまでも『女神の祝福』でしかなく、『癒しの女神の加護』のような奇跡ではない。ただ『勇者召喚術師の加護』を持っているせいで能力だけは強力になっていたりするが……。とにかく、俺はその辺りの問題を解決しようと考える。

そこで、僕は少女に自分の事を『勇者様の御付きのメイド見習い』だと信じ込むように指示した。さらにこの世界に来て間もないので勇者様についてよく分からないという事も伝えたのである。……正直に話すことも出来たのだが……流石にこの世界の事を詳しく知っていると言う事を知られたくないのでこういう設定にしたのだった。それからこの国の危機についても理解して貰えるよう努力してみる。「私があなたに力を貸すことで魔王に対抗出来るようになるのね」と彼女は少し納得してくれた様子で話し始める。「私を救ってくれたお礼も兼ねて私からもお願いしたいことがあるの」と彼女が言ってきたので聞いてみると……。なんとこの子は僕とこの場で一緒に暮らすつもりだったようだ。……この子もしかして俺のことをそういう目でしか見てないのか?と思い少し呆れてしまう。どうもこの子は完全に自分の気持ちを抑えきれて居ないみたいで、僕が少し近づくだけで顔を赤くしてしまっている。「私とあなたで魔王を倒す旅に出ましょう。私はあなたの事がとても気に入ったの!」……どうしてこんなに積極的なんだろうと疑問を感じる。しかも俺を名前で呼んでこようとする始末。……これはもしかするとこの子に『女神様のお告げモード』を使って無理やり言わせてみた方がいいのではと考えはじめる。「君は勇者様を好きになってはいけないんだよ?いいのかい?そんな事になってしまったら大変なことになるんだよ?……君の大切な人の命が失われるかもしれないんだよ?」と俺が言うと……、少女が黙りこんだ。……うん、きっと効果抜群だろうなぁ。

僕はそんなことを考えながらもこの子が俺を異性として意識しているのを確信していたので……。「それに俺は君の言うとおり、この街にいる魔王軍の幹部を全て倒すつもりでいる。……俺はそのためにここまで来たのだから」「……そうなのね。私を助けてくれた時に言っていた話もあそこに行った後でも変わらないのかしら」「それは勿論変わらないよ。だって俺は正義の為に戦うんだからね」

「わかったわ……。じゃあその約束を必ず守ってもらう為に私の事を……助けてくれますか?……」少女はそう言って俺の事を見る。……いやまぁ……俺の事を信用して貰えてないのはよくわかるけど……。それでもそんなに悲しそうに見つめられても俺も困ってしまうよ……。そんなに俺が頼りにならないように見えるのかねぇ。……確かに俺は今まで何一つ成し遂げたことがないのは認めるけれど……。だけど今はやるしかない。「大丈夫だよ。安心してくれ。俺は君を絶対に守り抜く。約束しよう。……俺の名前はカイト。……君は?」「リスタです……」そう名乗った彼女に俺は手を振って別れたのだった。そしてその後すぐに、リルのところに向かい彼女と一緒に広場に向かう。するとすでにそこには先ほどの少女がいて、こちらを見てくると嬉しそうな表情で駆け寄ってきてくれる。「貴方があの時私の事を助けた人ですか?本当に来てくれるとは思っていませんでした。これからよろしくおねがいしますね」そう言って笑顔を見せてくれるリルと先程の女の子はどこか雰囲気が似ているような気がしたのだが……。気のせいかもしれない……。

リルと一緒に先程の少女の元へ向かうと、少女の方は俺達の姿を見て驚いていたようだったが……リルの顔を見ると、表情が一気に和らぎ満面の笑みを見せていたのだった。……やっぱりリルと何か関係があるのか?そんな事を考えながら俺も二人の元へ近づいていくと少女が話しかけてきた。「リル姉さん。そちらの人は?」そう言われてから少女は、リルが自分の妹だと俺に伝えるのだった。「えっ?嘘……でしょ?」と俺に質問してきたが……。リルに確認を取ると、「私はリル。この子の実の姉になるわ」とあっさりと答えたのである。

リルの言葉を聞いた少女は「ええっ!?リル……本当?」と言い、驚きのあまりか口が塞がらない状態になっていたのである。

「とりあえず場所を移して落ち着いて話し合いたいんだけど……良いかな?」と俺が言うと二人は了承してくれる。「それでリル、一体どういうことなんだ?何故その子を連れてきたりしたんだい?……まさかとは思うけど……その子と何か関係があったりしないよね?……」「……いえ、その通りなの……。その女の子は私の妹で、リセっていいます。あの子は……今から5年前に……魔王軍の幹部によって誘拐されたんです……。」……えっ!?マジ!?いや……えぇ……? そんな事ってあり得るのか?そんな漫画やアニメやゲームじゃないのに。いや待ってよ……この世界は現実だし……そう考えると……いやいやいやいや!!でも流石にそんなことが本当にあるわけがない!「そんなの信じられない!!お父様達はこの事実を知らないはずなのに!!」

リルは少女―――リセルを見て驚いたような声を出す。……まぁそうだよね、流石に無理があるよね?いやでも実際この目で見たんだし……。それに……俺がリルを助けるときにこの世界に来る直前に出会った女性と同じ顔なんだもん。流石に疑えっていう方がおかしいと思うよ……。

それからリルと二人でリセちゃんを説得しようとするが中々上手くいかない。……仕方ないから一度『勇者』の力を使うことにする。

僕が『女神』の力で彼女の心を書き換えてもいいのだけど、それではリルとの絆が失われてしまう可能性がある。僕は彼女達にこの世界で生きていくためにどうしても必要な事があることを伝える。それは……『レベル上昇方法を知る事』。これこそが今のこの世界に必要な事なのである。『魔導通信機』を使い、彼女達の父親に相談する。彼女達を『聖都』へ連れて行って欲しい事を伝えると、二つ返事で承諾してくれたので僕は一旦『魔導通信機』をしまい、彼女達が僕と共に『勇者召喚の間』へと向かってくるのを待つ事にする。「あの人達……『勇者』なのかな?でも普通の人間に見えるし……」「そんな事はわからないけれど……私を助けてくれた人とリルの恩人が一緒だなんて運命的なものを感じちゃうわね!」……いかんなぁ。なんだかこの二人が仲良さそうにしていると心が癒されてしまうんだよなぁ……。そんな風に思っていると『魔導通信』が繋がる音がしたので『女神の加護』を使い、僕は『勇者』の姿になる。それから少女に『女神の祝福』を使い僕の力を与えておくことにする。それからしばらく待っていると少女が俺の傍にやってきた。「私は『聖騎士』のリゼルよ。貴女のお名前は?」「リルです。よろしくお願い致します。『魔導師』を目指して頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」少女がそう言うとリルも同じように「よろしくお願いします」と口にしたのであった。

『聖騎士』は回復魔法のエキスパートなので、僕も安心する。……これで何とかやっていけそうかな? そんな事を考えている間にも二人の会話は進んでいく。……しかしリセルが少し不安そうにしながら僕に向かって問いかけてきた。「勇者様、私の『レベル』はどうなったんでしょうか?私、まだ1のままです。……この国の現状を打破する事が出来るなら……早く『魔道士』になりたいのですが……!」

そう言われて僕はステータスを確認すると……。

名前:リセル

性別:??歳 種族;

ヒューマン LV.1 生命力 100/100

(体力値10)

精神力 10/20(魔力量0,8攻撃魔法攻撃力2、補助系防御力3、武器使用能力7最大所持数5)

属性値

0/30 【筋力】0 【敏捷性】0 物理耐久度 20/25 【知力】80 魔法耐久度 45/55 総耐性 275/400 特殊技能:全種魔法適・光属性魔法適正+ 闇適性-無詠唱- /治癒速度増加- 【固有技能】

武術の才能―体術 槍使い才能―短剣使い素質 投擲技習得 棒捌き才能 鞭使い才能 剣術の心得― 身体強化魔法- 精霊魔法- 火系統初級 水系統上級魔法使用可能 雷系統初級 風系統中級 土系統中級 氷系統初級 空間把握技能- **【技能追加条件を満たせません】

「なっ!?……どうして!?……私のスキルが全部消されているの!?」

「どうして私の『勇者様を信じる気持ち』が消えてしまったの……?」

リゼとリルが悲痛の声を上げる……。

俺はリルが先程まで俺に対して使っていたはずの態度が変わってしまっているのを見る。……どういう事だ? 俺はそう思いながら少女――リセルの方を見る。

「……お前、何をした?」

俺はそう言ってからリセルを睨むと彼女は顔を俯かせてから小さな声で「……何もしていない。私のスキルを戻して……」と言ってきた。

「おい!!お前、何をやったんだ!!」「うるさい!!!」俺の質問に答えずにリゼルが叫ぶように言った後で俺に向かって「何よ……。ちょっとぐらいいいじゃない……」と言うが俺は黙って首を振る。そして「リルとリゼルは今から『聖都』に向かう事になるから……」と言い、彼女達の事を頼む。

俺は『転移』を使い『勇者の部屋』に向かう。そこには先程の女の子がいたのだが……その表情は俺がここにいるという事について疑問を持っているようだ。……確かに先程の話の流れからすると……この部屋には来られない筈だからね……。

それから事情を説明すると「……そうなんですか。わかりました。リルさんとリセルさんの事についてはお任せください」と言われ、それから『魔導通信』を俺に向けてきたので出ると……少女が涙ぐみながら、「助けてくれてありがとうございます。……そしてこれからの事を考えると、申し訳ありません」と言ってきた。……この子には何か俺の知らない事があって、それが俺の邪魔をしたんだろう。……それにしても俺も随分と嫌われているんだねぇ。まぁいいけどさ。「気にしないでくれ。それよりも君は俺の仲間として一緒にいて欲しいんだ。君がリルの大切な家族だって事もわかってる。それでも……この世界の平和の為に協力して欲しい。勿論、強制はしないから、君が望む選択をするんだ」

それから『勇者』の力を使って少女の記憶を見ようとしたが……なぜか見れなかった。「すみません。私は今はまだお力になれそうもないみたいです……。でも必ずや『魔族』達を打ち倒し、この世界を救えると確信致しました。……それでは、失礼します」

そう言われてから『魔導通信』は切られた。俺はもう一度、『女神の加護』でリセの『記憶改竄』『ステータス偽装』を解除しようと考えたのだか……やっぱりできなかった。それに『魔導通信機』で話す事も出来ないので、とりあえず『魔道通信』に繋いで、リル達の父親に連絡をしてみることにした。

*『魔道通信』は『魔王軍幹部討伐者』に与えられる『加護』の一つで魔道具の一種だ。『聖都』にある『女神像』と繋がっているらしい。……『魔導通信』に繋ぐと『聖女』のミリアナが現れたのでリル達の父親が『魔導通信機』で連絡を取っている間に彼女へリルとリルの妹がこちらの世界に来ていて、今『勇者』の力でリルと妹を会わせないようにしていたのだと説明しておくことにした。

*『魔道通話』はその名の通り『魔王軍幹部討伐者』が持つ特殊なスキルである。この世界のあらゆる場所に居る魔族の幹部が持っている『魔核石』に魔力を通す事で繋がり会話が可能になる。『魔王』に『勇者』に『魔道士』や『魔術師』などは、このスキルによって『加護』がなくとも会話できるそうだ。ちなみに魔族は人間よりも魔力が多いらしく『魔道通信』を使うのは難しいと聞くが……詳しい事はわからない。「『勇者』の力で私の記憶に鍵がかけられていたのですね……納得致しました」……そんなやり取りの後、リルとリルの妹の事が気になったようで俺が『勇者の力』を使ってリルを眠らせ、その後で彼女達がいる場所へ移動する事にした。『聖都』から離れた場所へ行ったので、まずはこの二人を『勇者』の力を使った上で『鑑定』してみる事にした。

名前:リゼリア

性別:??歳 種族;人間 レベル512 生命力 1000/10000

(体力値1億2600万)

精神力 800/12000

(魔力量8兆6200億)

物理耐久度 9900/9999

(物理攻撃力5500京)

物理耐性値

1億3600/1憶6000 総耐久度 3億5000/4億8000 属性耐性値 4604/4514 特殊能力:全魔法適 武術の才能―短剣術 短槍術 棒術 弓術 暗器術 暗殺術 格闘術 体術 投槍術 斧 刀 大剣 盾 小盾 槍盾 投擲技習得 鞭使い 杖術 棒術 槌術 拳闘 格闘技の心得 魔法付与の才 料理 調合の才能家事 裁縫の才能 罠作成の才能 毒物作成の才能 魔道具作成 精霊使役の才 魔法創造 魔眼(千里眼 未来視)

言語自動翻訳

『聖女の祝福』

『聖都の聖女』

全種回復魔法適性 聖属性適性+光属性適性+闇属性適性+無属性適性+全属性魔法適 状態異常耐性(精神攻撃)+物理耐性+属性攻撃耐性+物理攻撃軽減+物理衝撃軽減 光魔法+闇魔法+無魔法適性+固有技能の『聖属性耐性』

固有技能: 武術才能 武術系技能全て 短剣術技能 短槍技能 短棒術技能 棍棒術 鎌 短弓技能 短鞭 短鞭技習得 長柄武器 投擲武器 棒捌き才能 体捌き才能 身体強化魔法-身体硬化魔法-身体強化倍率増加-身体速度上昇-体力消費減少-体力維持-全能力持続上昇-筋力増加増加-筋力速度増加-筋力威力増加-体力上限効果増加-筋力消費量削減-筋力増加限界突破-物理耐久度増加増加-総耐性効果増大-総生命力増加-身体能力上昇増加-最大HP上昇増加-最大HP上限上昇-身体防御力増加-身体速度低下耐性 魔法系統付与の才能―魔法付与可能数+ 固有技能 精霊使役の証-精霊契約数×10-精霊召喚- 魔法系統付与の才は魔法系統の技能・才能を持つ人に『魔晶石』を埋め込む事により使えるようにしたものだね。『魔法具』と呼ばれる道具を作成する際に必要になる才能だ。ちなみにリゼが『魔導通信機』で俺に連絡を取って来たのもこれが理由だったらしい。リセルの場合は、元々持っていたスキルにこの魔晶石を融合させて、『聖都』に伝わる伝承にある『聖女の魔法』を発現できるようにしているそうだ。……ただ、そのせいでこの子のステータスを見ることができなくなっているようだ。

*

『勇者の導き手』

『加護』を与える事ができる『勇者』と共に行動する事が可能な者。『勇者』の能力の一部を引き出す事ができ、その『勇者』の持つ技能や特性を他の者に伝える事が可能となる。

「なるほどな……。この子も俺と同じように『加護』が使えないみたいだな……。それで……俺はこれからこの子を連れて『魔王城』へ向かうんだけど……二人はこれからどうするんだ?」と聞くとリル達は「リセルさんと話をしたいから一緒に来て」と言うので俺はリゼル達を置いていくことにすると……リセルが「……あの人、私の事を凄く嫌っていたから多分『勇者』様の事を伝えていないと思いますよ。ですから、この場にいた方がいいかもしれません……」との事だったので俺は『転移』を使い、三人を連れた状態で『魔王城』へと向かう事にする。……そう言えばこの子に俺の『魔道通信』を貸したままになっていたので、返してもらう事にした。

俺とリセルが話しながら移動をしていると……リルがリセルの方を向いて何かを言いたそうな顔をしながらこちらを見ている事に気付いた。リセルの方はリルが自分を見てきている事に戸惑っているような顔をしていて……そんな様子を見てリルが「……リセルさんは、リセルさんのお兄さんの事……嫌い……なのかしら……?」と聞いてきた。

俺はその言葉を聞いて少し驚いたのだが……リセルは何かを言おうとしていたがそれを遮るようにリルに向かって話しかける。……俺の予想が正しければリセルは今、自分が俺に言った事とリルが言っている事が違っていると知っているからだ。俺も今、気づいたのだが……確かに俺が見た『記憶』の中でリセルの兄らしき人物がリセに向かって、「どうして俺より弱いお前が『勇者』に付き従えられるんだ!!」と言っていた。だから俺は「違うんだろ?リセル」と言って、それから「君は『加護』を持っていないから、君の言葉とリルの言葉を比べるのが難しいかもしれないが……『記憶』を見た限り、リルの言う事は間違いだと思うんだが、……もしかしたら、それが理由でリセと喧嘩したのか……?もしそうだとしたら悪いことを聞いたかな……ごめん」と謝った。するとリセルは慌てて首を横に振って……そして俺が見た『記憶』と寸分の狂いもなく同じ内容を言うので思わず笑ってしまってしまう。……そんな感じで、なんやかんやで『魔王』の元に到着したのであった。『勇者』の力で扉を開き中に足を踏み入れると『勇者』の力が拒絶される事はわかっていた。なので『魔王』が俺達に敵意を向けると同時に『結界石』を発動させた。この『石』には強力な結界が張られていて、発動時には『勇者』以外の生物を全て通さないという代物だ。つまり、この部屋には『魔王』以外は入れないということになる。『勇者』の力とかではなく、『魔道士』『魔術士』『魔導士』『聖女』などの力があれば『魔王城』の中へ入ることは可能だが……そもそも、その者達はこの城に居る時点で侵入者として扱われるだろう。……なぜなら、『魔族』『魔獣』『魔蟲』『幻獣』、『魔物』『竜』などが溢れかえり襲ってくる事になるから……普通の人間では生きていけない空間なのだ。


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僕は今の状況について考えている。さっき僕達が入ってきた場所から見える場所にいる人達の中に僕の両親がいる。『魔王』の力は、それほどまでに圧倒的なもので……『勇者』の力を持つこの人も歯が立たないくらい強いんだろう。でも……このままだと皆殺されてしまう……!!僕はそう思い必死に『魔道通話』に意識を向けたけど……繋がらない!もうダメだ……そう思った時だった……急に通信の繋がりが悪くなったのは……そして次の瞬間、通信先の『聖都』から、通信の繋がりが悪い理由を説明してくれた声の主が現れたのだ。その人はリスタちゃんで、リスタちゃんはこの城のどこかにいるはずのリルさんの妹を探して、この部屋に来る前にリリスと一緒に『勇者』の力を使った上で、彼女の『鑑定』をしてみたそうだ。その結果分かった事を教えてもらった。……リルさんの妹であるリリスは『聖女の祝福』によって、どんな『鑑定』結果が出ていたの?……あ……そういう事か……。

「わかった……じゃあさ、まずは俺の力を使ってリリスを見てみてくれる?それができた後に教えて欲しい事があるんだ」と言った後、『魔導通話』に自分の血を垂らすように言って、彼女に指示を出した後、『聖女の祝福』で鑑定をする為に『鑑定水晶球』を取り出して使う準備を始めるのだった。


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リゼ視点

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私は『魔王軍』の中でも一番下っぱでした。それは当たり前の事で、この国の『王都』にある学校に通うお金なんて無かったからですし、私が通うのを許されているのは『教会施設』のみとなっていましたので……私はこの世界で誰からも愛されず育ったのです。だからといって、私自身が特別酷いことをされた訳ではありません。それでも周りの目というものは常に厳しく私を監視をしていましたからね……。『魔王軍』の末端でありながらもその扱いは、お世辞にも良かったとは言えないでしょう。

ただ唯一良いことがあったとするならば、この『魔王城』で生まれた子供の中で唯一の生き残りだったという事です。この世界に生まれ落ちるのと同時に親を失い、その境遇に耐えきれずに自殺した子供達も沢山居ました……。その度にこの城は悲壮感に包まれるんです。そして、そんな中で生まれてきた私は運の良い子なのかもしれません。……ただ、そんな風に考えてしまう自分を嫌いになってしまいそうになる程、辛い環境でしたが……それも今日までだと思ったのは、つい先日の事だったのです。『魔王軍』がこの世界を侵略し始めた時に『勇者』と名乗る者が現われて、次々とこの世界に蔓延る悪を打倒していったのですよ。そして、その時の演説の時に彼が口にしていた言葉をふと思い出した私は、彼の姿をもう一度見たいと思っしまったのです。……そう思った理由は、彼ならこの地獄のような生活から抜け出せるきっかけをくれるのではないかと……希望を抱いてしまいたくなったから……。

そんな事を思いながらも日々を過ごしているある日のことでした。……その日の夜はとても静寂でして……こんな夜は何が起こるかわかったものじゃないと……いつもよりも更に気を張って過ごしていたんですよ。だけど結局何も起こらず……そのまま寝ようと思って、部屋の灯りを落としたところでした。

私と同じような年格好をした少年が私の前に現れたのですよ。私と同じような境遇なのか……それとも私と同じで『勇者』の力を与えられたのか……どちらか分かりませんが、彼はいきなり「リセルって子を知らないか?君がそのリセルって子だったりするのかな?」と言い始めたので「私は、そのリセルって人ではないのよ。そのリセルっていうのは一体どういう子なの?貴方はもしかしてその人を探しに来た人なのかしら……?」そう言うと、目の前の男の子は少し驚いた顔をした後に「そうだよ。……実は今日、『聖女』様から神託が降りたんだ。『聖女様』曰く、リセルという名の『勇者』の力を受け継いだ子がいて、その子にこの世界を救う事ができるのだって言われたんだよ。それで俺はここに来ているわけだ」と言ってきたので、どうしようかと迷った末に……この人の言っていることが本当かどうかを確かめるべく「リセル……というのは私の名前です。ですが、どうして貴男が私の事を『勇者』の力で見たのですか?その『勇者』の力は、この世界に存在するすべての人間の事を見ることが出来ると聞いたことがありますが……」と聞いてみる事にしました。すると、この人は私が想像していなかった反応をしてきたので、どう対応したらいいのかわからなくなり「なぁ……リセル。君をここから連れ出してもいいかな?俺はこれから『勇者』の力を最大限に使って『魔王』と話をするつもりでいるんだ。そして『魔王』を倒した後……俺はこの国を変えるつもりだよ。俺一人だけでは、この国は変えられないかもしれない。だから君が手伝ってくれないかな?」と言うのです。

その言葉が、どれだけ嬉しいものだったのか彼には分からないのでしょうか……そんな事は今は関係無いですね。その一言は、今までに何度も心の中で考えていた事なのですが……今の言葉は、その願いを叶えられるかもしれない可能性を示してくれたような気がしたのです。だから……この人が信用できる人であるのであれば、付いて行こうと決めたわけです。だから私は、彼を信じることに決めました。それからしばらくしてから「その……『魔王』がこの城にいるという確証は無いのよね……?『勇者』の力で、何か分かることはありませんの?……それに、もしかしたら『魔王』はこの部屋にいるかもしれませんわ。だからまずは部屋に入ってみないとわからないと思いますの。」……私は『魔王』が近くにいることを期待していますが、そうはならない可能性もあります。もしかすれば部屋には居なくて、その周辺だけという可能性もあるのです。そうなると探す時間が無駄に掛かってしまいますし……。……まぁ『魔王』の力を使えるこの人を信じるしか選択肢はないと思うんですけど。だから、もしもの場合の事も想定した上で行動しなければならないと思いますの。……もし『魔王』が本当に部屋にいたら?……それは考えたくない事ですけども……。

私はリセル。リルさんのお兄さんの『魔王』と戦う為の準備として、私達は一度、この城の中に入る必要がある。そう思ったから『勇者』の力を借りてリリスと一緒にリリスの『聖女の祝福』による『鑑定水晶球』で調べる事にしたんだけど……。結果は思った通りで『魔王』はこの城に居るようだ。だからリセルと一緒に僕とアリサさんは部屋の中に入ることにした。そして僕が先に部屋に入り、その後にアリサさんが続くように促してから扉を閉めた。扉が閉まる直前……リリスの顔が見えたのだが、彼女はとても嬉しそうな表情をしていたのが分かった。おそらくリリスとリルさんは顔馴染みなのだろう……。

僕に続いてアリサさんが部屋の中に入ってきた。そして彼女が部屋に入った直後だった……突然僕の視界が歪み始めて……まるで誰かに攻撃を受けているかのように頭が痛くなる。そしてその瞬間に、僕の頭に言葉が流れ込んでくるのを感じたのだ。……これはリスタちゃんからの通信だね……。


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【魔導通話】が繋がってくれたみたいだ!よし!これでもし『勇者召喚』をされている最中でも連絡を取れる事が分かれば良いんだけどね。とりあえず僕は急いで皆に伝える為にリゼルさん達と連絡を取りたいんだけれど、さっきから繋がらない。僕は何が原因で皆と話が出来ないのかを調べる為に鑑定水晶球を使って『聖女の祝福』を使った鑑定をしてもらったのだ。その結果が出た。……『勇者』の力は使えなかったのだ……。『聖女の祝福』によって鑑定が出来るようにはなっているみたいなのに……。なんでだろう……。もしかしてリスタちゃんとリリスが使っている通信用の『魔導通話』の通信が妨害されているからなのか?……それとも他に理由があるのだろうか?そう考えた時だった。急に頭の痛みが激しくなったかと思った瞬間、僕の視界には信じられないものが見え始めた。……そこには……『魔王』の姿があったのだ。


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魔王視点 我輩は先程『聖都』の国王との面会が終わったのでこの国の勇者である男がいる部屋に戻ろうと歩いているところだった。

この勇者である男の実力は相当なものだ。我の魔力を使って作り出すことのできる最強のゴーレムの一撃を受けて生きていた人間は初めてだった。この勇者である男を倒せる存在など限られているはずなのにだ……。そんな事を考えているうちに目的の場所にたどり着いた。この男はどうやら『聖都』の学校と『勇者教会』のどちらに所属するでもなく冒険者として活動しているようだったが……『勇者』の称号を持っている時点で、『勇者』の力を使っているのであろう。この世界に存在するすべての人間の力が見えるはずだからだ。

だがこの世界は広い。いくら『勇者』の力を持ったとしても全ての人間の情報を知ることは不可能なはずである。それにも関わらず、ここまで的確に情報を掴めるとはな……。それだけの情報収集能力をこの男が持っていたのか?……それともこの男が持っている称号にそのような効果が付いているとしか考えられない。だとすれば、その効果はどのようなものなのだろうな?その効果が分かれば今後の戦いに役立つのだが……

――ズガンッ!!!ドゴッ!!……グシャッ!!!ボキッバキン!……ん?な、なんだこの音は!?……まさか敵襲か?一体誰だ?誰が攻撃を仕掛けてきた?……まさか、あの勇者とかいう奴の仲間か?あいつは確かに強い……。この国の連中を圧倒しているのは間違いないが、その分だけ仲間との連携が取れてはいなかったしな。もしかして、他の勇者が加勢に現れたという事なのか……いや……そんな話は聞いていないぞ…… そんな事を思っていた次の刹那だった。先ほどまでこの男が寝ていたと思われる場所から大きな物音が聞こえたのだ。……その物音を合図に部屋の中の物が動き始める。それは……まるで巨大な化け物の口のような……牙のようなものだった。……どう考えてもこれってヤバイ状況じゃねーかよ……。これってアレだろ?……俺の人生ここで終わるパターンじゃん……。ってか……死ぬのって初めてなんだけどな……。まだやり残した事もあるし……出来れば最後にもう一度会いたかったけど……こんなことになるんだったら、もっとアイツらに気持ち伝えとくんだったぜ……あぁ……クソ……。俺って結局こういう最期を迎えるんだよなぁ……。

ってかさ、俺も大概な死に方だと思うんだよね……。だってさ?普通なら即死するような攻撃喰らったのに死んでないし……意識がなくなるだけですんでるもん。それに、なんか身体が勝手に動いてるような感覚もあるんだよ。多分だけどこの部屋で今起きてる出来事に、俺は関係してないんだよな……。きっと俺はただ巻き添えを食らっただけ。そして巻き込まれて死んだだけの……運が悪いだけの存在……。そんな風に思いながら俺は意識を失った……。


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『勇者』の力を使い始めてから少し経ってようやく私の目の前の光景がはっきり見えるようになった。そこで私は驚愕することになる。その映像は、どうみても人間の死体にしか見えないものが映っているだけだった。しかも、その遺体から魂の抜けた状態の肉片が動いているように見えるのだ。そしてその物体は、その人の形を失っていった……。そうしている間に私達は気付いたのだ……。この部屋の床が破壊されていることに……。私とリセルは咄嵯にこの場から距離を取ると、リゼルのほうを見て「この部屋の惨状から察するに、おそらく魔王の仕業ではないかと思われます。魔王の目的は分かりませんが、リゼルさん……魔王と戦うつもりでいるのですよね?」……私はリゼルに確認の為にそう聞いてみたのだけれど……。

その問い掛けに対する答えはなく、「あの人……」と言う言葉を発したきり、リセルは何も言わなくなってしまった。……もしかしたら彼女の知り合いなのではと思ったので聞いてみたところ「いいえ違います」と言われた。でも今の会話の流れで、私が『勇者』の力を使えば分かると言っていたからには彼女は間違いなく知っているはずだから嘘をついているという事は無いでしょうし……。それどころか逆に彼女が何も言わなくなったことで状況が悪くなってしまった気がします……。

私達の間に重苦しい空気が流れる中、急に誰かが近づいてきた。もしかしたら敵かもしれないと思い警戒したのだが、近付いてくる人物の顔を見たときにその人物はリル様だという事が分かった。だから「リルお姉ちゃんっ!」と叫んで私は彼女に抱きついてしまったの。そんな私の様子に気付いたリセルは、私に向かって微笑むような表情を見せた後に「この部屋の中に『魔王』がいらっしゃるようですので、一度この部屋から出てみましょう」と言った。

それからしばらくして、私達は魔王と対峙した。魔王は、その風貌こそ禍々しいが、その姿を見る限りはリルさんと同年代くらいの見た目をしていた。だから私は思わず「可愛い!!」と口に出してしまって……。魔王に睨まれて怖かったのだけれど、そんな私を見かねて魔王が言った。「そ、そうですわよね!やっぱり魔王って怖い顔してるものですよねぇ!……うぅ。私ったらなんて恐ろしいことを……申し訳ございませんでしたぁ!……ふぇ。もう怒ってないのですの……?本当に魔王さん優しいんですのね……。それとも私の事が好きなんですの?……はにゃ。……ま、待ってくださいぃ!私、魔王さんみたいな素敵な男の子はタイプじゃないんですぅ!だから違うんですのぉ!!あにょ、だから許して……あ……う……。ひぐ……ひっく……。」と泣き出してしまった。……なんですかこの可愛すぎる生物は?……あれ?もしかして魔王はリルさんの事を……?……あ、そう言えばリルさんは昔から男の人に対しては何故か態度が悪かったし……なによりこの世界に来たばかりだっていうのにリルさんは既にレベル50を超えているんですよ……。リルさんはおそらくリルさんの世界で何か辛い目にあっていたのかもしれません。

もしかしたらリルさんはそのせいで男性に対して冷たく接してしまう性格になったのかも……と思ったのでリルさんにそのことを話したところ、リルさんが言うにはこの世界の男性のことは知らないが、『勇者』であるリルさんは特別な存在だった為に強いらしく、また元々の性格も相まってかこの世界に来る前の時点で既にかなりの強さを誇っていたらしい。でも……どうしてかはわからないけれど、私以外の女性には冷たいという……。つまり……どういうことでしょうか……。もしかして……―――――? そんな事を思っていると魔王が「おい!お前たち。早くこの部屋を出て行くが良い。我の楽しみが台無しだ。これ以上は好き勝手にはさせぬぞ?……我が愛しき『聖女』の為なのだからな」と言って来た。どうやら、やはりリセルさんを自分のものにしたいということみたいですね……。しかし魔王は何故『聖都』の学校ではなく『勇者教会』に所属せず冒険者などをしているのでしょう?『聖都』に所属していればいくらでもやりようがあると思うのに……。……って今は考えている暇はありませんでしたが、この部屋での出来事から考えて、まずは一旦外に出るべきなのかもしれません。……んー……もしかするとこれは『勇者』の力が引き起こしているのかもしれません。なぜなら魔王とリルさんはこの部屋にいてこの部屋にいた人達は全滅……。ということは『勇者』の力は魔王の力を封じ込めるために使われたということになるのでは?そしてその力でこの部屋の中で起きていた出来事を封印してしまっているのではないか……。だとすればこの部屋から脱出し、魔王の力を再び使えば元に戻るはず。……そうと決まれば急いで『聖都』に向かいましょうか。そしてリル様に事情を説明しないと……。

『勇者』の力を持つ男と、『聖女』の加護を持つ少女が『聖都』へ向かって走り去った後の部屋には『勇者』の力の影響によって発生した魔物と、『聖剣』を宿す青年がいた。その二人は、『勇者』の力の影響により現れた『聖魔の鎧』と呼ばれる鎧に、魔王の力に抗いつつ戦っていた。……といっても『勇者』の力で強化されたこの『聖都』の住民を相手にするのは骨が折れる作業だったが。だが彼は決してあきらめず、その身体に纏った光を解き放つようにしながら魔物たちを葬り続けていた。


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その頃……。『勇都学園』のとある部屋にて一人の少年がベッドの上に寝転がり天井を見つめていた。それは、この『聖国』にある三つの学園の一つ『王立 勇者育成学院』の主席入学を果たした勇者『天月 零士』であった。そして、彼が見つめるその視線はまるで『死んでいるかのような虚ろな瞳』のようにさえ見えてしまうほど、どこか生気がない様子に見える。

そしてその部屋で『勇者』の力を手に入れた彼の様子を見ていた者達がいる。

「ふふっ……どうやら『あの子』も上手くやってくれたようだね……」とその部屋の扉の前に立つ人物が言う。その者は黒髪の長髪を後ろでまとめており、端正な顔立ちをした優しげな笑みを浮かべた美男子であるのだが……しかしその瞳からは冷酷さが感じられるような表情だった。そう言って部屋の奥に進む人物の名は、『勇者教の大司教 リゼストル=デスタージュ』と言う人物である。そのリゼスタルの後ろには彼の部下らしき女性が二人程立っている。

彼らは、『勇者』の称号を得るに相応しいとされる人物を見つけるべく秘密裏に活動していた。そして今回『天月 零士』を見つけたことにより『勇者教団』の計画は順調に進み始めることになる。

リゼルと僕は『魔王城』の外に出ることに成功しましたが……『魔王城』の外には、すでにかなりの数の人々が集まっているようだったので私達はひとまずそこから離れることにした。私は「これからどうしましょうか?」と言いながらも私は『聖勇者の力』でこの辺りにいる人々の心を読むことが出来る。だからこの周辺の状況はおおよそ把握しているつもりだったのだが……。『魔王城』の周辺にあった町は既に魔王の手によって壊滅させられてしまっていた。

私はリセルと一緒にこの近くにある『魔王城』とは離れた村を目指して歩き始めようとする。すると「あぁ、リセルさん。ちょっと待ってください。この辺りの人は魔王の『闇属性の波動』の影響を受けていますから……。その影響を受けないようにする為に必要な事ですので」とリセルが言い始めたの。「はい?」私は思わずそう言ってしまった。「えっと……。リゼルさんは何を仰っているんですか?」そう私が尋ねると、 リセルは「あっ……。そっか……。私ってリゼルちゃんの『影魔法』の影響で記憶を失ってたんだよね……。う~ん……。それじゃ、私の事は呼び捨てでいいよ!私のことはリルって呼んでくれるかな!」と言って来たので、私が戸惑いながら「は、はぁ……。リセルさんがそれでいいならいいんですけど……。でしたら私もタメ口で喋らせてもらいますね」と言ったのだけれど……。なんだかリセルって凄くフレンドリーに接してくれるなぁと思ったのですが、なんとなく違和感を感じたのです。

そんなことを考えて歩いていたところ突然私達の周囲に光の渦が現れたのだ。その光を見てリセルは「これは一体……」と困惑した声を出していたのだが、次の瞬間私とリセルはその光の中に飲み込まれてしまい意識を失ってしまったのでした。……うっ。眩しい……。ここは……何処だ……?僕は『魔王』の力を抑えきれず、力を使いすぎてしまったので『勇者』の力でその力を封じたのだが、その直後から僕の思考は働かなくなってしまったのでそれ以降の記憶が無い。……僕の名前は、天月 零士。年齢17歳、職業『勇者』で『異能持ち』、『スキルホルダー』で、異世界転生して来た者だ。そう。あの日、魔王に会って僕は殺されそうになったところを勇者として召喚されたこの世界の神と名乗る奴に助けられたのだ。それから色々あったのだけれど今はこの世界に来て二年が経つ……。

そして、僕とリセルはこの『勇者教会』という宗教団体の本拠地であるこの聖国にやって来ていた。ここには、僕と同じように勇者にされてしまった人が多数存在している。この世界には本来、勇者にされる予定の人物が存在していたが何らかの理由で死亡したらしく、代わりにこの世界の人間が勇者になってしまったというわけらしい。まぁ……詳しいことは良く分からないんだけどさ……。ちなみに、勇者になった人間は強制的に『勇者教会』という団体に所属することを義務付けられてしまっている。この教会は、表向きは冒険者や、ギルドなどと同じで様々な仕事を斡旋したりしてくれているらしい。しかし、本当の役割はその真逆のもので『魔王軍』に対抗するための組織だということを僕達、この国の住民は知らされてはいない。……でも僕はそんなことを知らなくても構わないと思っている。何故ならば、もう既に僕も勇者となってしまったし、なによりこの国は『平和主義国家』と言われているので、争いごとのない国を目指しているから勇者の力を有効に使っていけると思えば悪いことじゃないと思うから。それに、もう二度とこの世界に来る前の世界のような悲しいことが起きてはいけないと思うし……。

そういえばこの国では『勇者』を『救世主』と呼んで崇拝の対象にしていると聞いたことがあった気がする。そう言えば『勇者』をこの世界で見つけたのもこの国だったんだよな……。確か『聖勇者教』とかいう宗教があった筈だし……。この『聖勇者』という存在はこの世界で魔王を唯一殺すことが出来るとされているらしく、魔王を封印してこの世界を守る役目があるらしい。そして魔王を封印した後もこの世界を魔物から守っていくのだとか。

しかし『勇者』の使命を全う出来なかった者は、その勇者が宿していた能力を引き継ぐことになるみたいで、その能力というのはそれぞれ違っていて、剣を使う者ならその剣の勇者が持っていた剣術の技能を引き継いだり、魔術や回復の術を使うのなら魔術師系の能力を引き継いだりするということみたいだ。

この世界に来てから僕は自分のステータスを確認する方法を身に付けることが出来たのだが……それによると『聖勇者の力』を持っている者はこの世界に一人しか確認されていないようで、その人の名は『ユウキ=テンゲツ』という名前だそうだ。この世界でその名を知っているのは一部の人だけのようだが。どうやら、僕と同じくその人がこの世界にやって来たときには既に魔王がいたようであり、その後すぐにこの『聖都』にやってきたのだということだ。この国で一番大きな都市である『勇者街』で彼はこの国最強の剣士に成長していて、そして魔王討伐のため旅立とうとしていたのだとか……。

だけどその勇者は魔王を封印する際に、力の暴走を引き起こしてしまい、勇者の力は『聖勇者の力』ではなく、その『天月零士』という男の人格と、その男が持っている『固有スキル 勇者』の能力を一つ奪うことによって成り立っていたものだった。だから彼は、今、勇者としての能力と、そしてその前の人生で得た知識と経験を引き継いでおり『聖勇者』が元々持って生まれた『固有スキル 勇者』の力と、この男の持つ『勇者』の力の両方の力を手に入れており最強の存在となっていた。だから彼は勇者の力を手に入れる前から魔王に抗い続け戦い続けていたということになる。その結果、彼はその強さによって他の勇者たちをまとめるリーダー的立ち位置になり、勇者の中でも『勇者長』と呼ばれるようになった。……その彼の本名は、僕も知らない。何故ならば、彼の名前はこの国の住人なら誰もが知っているのだがそれ以外の国の人々からは名前だけ知られているような状態だったからだ。僕は彼がどんな人物なのか興味を持ったのだが……この国の人々にとって、彼の事を詳しく知ることは出来ないので結局何も情報は得られなかったのだ……。

僕は『勇者の力』を手に入れたときから何故かこの世界の人々の心を読めるようになっていたのだが……。実は最近まで僕はこの力が嫌で仕方がなかったのだ。だって勝手に人の心を読んでしまうんだぜ?なんか失礼な気がしてならない。この『勇者の力』のせいで僕のこの世界での呼び名が『魔王殺しの勇者』なんていう物騒な名前になっているのだが、そのお陰で更に周りの視線が冷たく感じるようになったのだ。……でも最近ではもう慣れてきてしまっているので気にしていないけど。……それに僕の心を読んだら大抵の人は嫌悪感を抱いて逃げていくし……。

「リゼル。これからどうしようか?とりあえず今日はゆっくり休んで明日また『勇者教』本部の方に顔を出そうと思うんだけど……」そう言ったところでリセルの「あ、はい!分かりました!」という言葉を聞いた後……気が付くと僕は『魔王城』の前に立っていた。

『聖勇者 リセル=メイズ 女 1億5千万P』

「あれっ!?ここはどこなんだっ?」突然景色が変わったことに僕は驚き声を上げてしまう。その瞬間、「勇者よ!我こそは魔王!!我が前に屈するが良――」と言いながら魔王が目の前に現れたが僕はすかさず『聖勇者の技』を発動させたのだ。「えっ?」と一瞬魔王が驚いていたような反応をしたかと思うと魔王が消えたのだ。『天月零士 女 15才』と僕の表示が現れて消えていった……。

リセルが突然「零士君!!」と言い始めたと思った次の瞬間には僕に向かって抱きついてきたのだ。僕にはそれが何を意味しているのか分からず混乱してしまったのだが、そんな僕のことを「うわぁ……うふっ……。うへっ……」と言いながら彼女は撫でまわしてきたのだ。リセルは何か勘違いしているのではないだろうかと思いながらも僕はされるがままになっていた。……って言うかこのリセルって子……。胸が大きすぎて僕の顔に当たって気持ち良い……。リセルは僕のことを「んー……むぅ……。可愛い……好きぃ……。はぁ……。零士君って凄く癒される……」と、言い始めて僕の頭をずっとナデナデしてくる。そんな彼女を見ながら、あぁ……このリセルって子はやっぱり少し変わった子だな……。と感じ始めていたのであった。僕はこの世界の人よりも強いし、しかも『勇者』の力は僕自身が一番よく分かっているので、正直に言えば『聖勇者 リセル』とやらが僕に敵う筈はないと思っていたのだけれど……。それでも一応このリセルって子がどれくらい強いのかを確かめてみることにした。

「おい、魔王。もう一度現れてくれないか?」と言ってみる。……うん、返事は無い。

『勇者リセル 女 16歳』

「…………。……え?」

「ねぇ、私ね。魔王をやっつけようとは思ってないの……。だって私は貴方のことが好きで、大切だから……傷付けたく無いもの……」と突然リセルが呟き始めると……次の瞬間には彼女の表情から笑顔は失われていた。

僕はそんな彼女が放つ異様な雰囲気を感じ取った。……これ、絶対に普通じゃねえ。この子一体何を考えているんだ……。……と、その時、魔王が再び出現したかと思うと、僕のことを見て微笑みかけてきて……。僕はその顔を見てゾクッとした……。それは……その目は僕のことを見下しており、僕のことを嘲笑っているかのような表情だった。そしてその瞬間僕の身体に衝撃のようなものを感じた。

「はっ……」僕はそう言いかけると意識が途絶えそうになってしまう。リセルに抱き着かれている状態だったので倒れることは免れたが、僕はそのまま地面に膝を突いてしまった。「れ、零士君!?大丈夫ですか!?」「うぐ……あっ……。こ、これが魔王の呪いなのか……な……。そ、それなら……この『勇者』の力で……。この呪印を解き放ってくれ……!」

すると……。僕の額から光が出現していき、その光は徐々に広がっていく……。僕はその様子をただ見ているだけで何も出来ずにいた……。

僕は今現在魔王の力を抑えるので精一杯でこれ以上は何も出来ないだろうと思っている。……でも本当はどうにかしたいと思っているんだけどな。

そんな時、『聖勇者』の力を使い続けることで疲れ果てていた僕は眠気が襲ってきたので眠ることにした。……目が覚めるとそこは真っ白な空間の中にいた。そこには一人の人物が佇んでおりこちらを見つめているようだった。しかし、その人物はどこかぼんやりとしており輪郭すら分からない状態だ。だが不思議と僕は恐怖など感じなかった。寧ろその女性に見覚えがあったから……。僕は自然とその名前を呼んでいた。

そして『勇者 ユウキ』と表示されながらその女性が近付いてくると僕のことを優しく抱きしめてきた。僕はそれに安心したようにその女性の事を抱き締め返すと、次第に意識が遠くなっていった……。そして目を覚ますと先程までいた場所に戻ろうとしていたところだったので特に気にせずに元の世界に戻ったのである。……………… そして再び場面は戻る……。僕達がこの世界に戻ってきた直後『勇者教』の本拠地であるこの場所の上空から、巨大な雷が落ちて轟音が響き渡った。しかし僕はそのことに驚きつつもその攻撃を行った者の名前を心の中で叫んでいた。……そしてその直後、空に一つの魔法陣が現れたかと思えばそこから一人の少女が姿を現すとゆっくりと地面へと降り立ったのであった。その光景を僕が唖然としながら眺めていたら……突然背後から何者かに抱きつかれた。「きゃああ~!!!だ、大好きです!勇者様!」と言ってきたので僕は後ろを向くと見てみると、さっきの『聖勇者 リセル』と呼ばれる少女がいたのだ。……ってちょっと待てよ! どうしてこうなったんだ!?まさかまたか?……いやでも今この場にいる『聖勇者』ってこの子のことだよね……。どういうこと?もしかして『聖勇者』の力のせいか?だとしたら僕が彼女に好意を寄せられている理由は……。僕はそこで考えるのを止めるとこの子を落ち着かせるために話を聞くことにした。……だけど全然落ち着いてくれなかったので、どうしようかと悩んでいたところ、この子のお姉さんらしき人が駆けつけてきてくれた。そして何とかその場を収めることが出来たのでホッとしていると、今度は僕の周りに人が集まってきて僕に挨拶をし始めた。……でも何故か僕の事をみんなは敬語で喋るので戸惑っていた。

「勇者零士様。お会い出来まして嬉しく思います」と、『勇者教の司祭』と名乗る男性に声をかけられたのでそのことについて質問してみると「はい。我々『勇者教』が貴方様をお呼びしたのは他でもありません。貴方様にはこれから我々の為に魔王を倒して欲しいのです。勿論無理矢理お願いをしている訳ではないので、魔王を倒すのが困難ならば魔王を封印して貰うだけでも結構なのです」

その言葉を聞いて僕は驚いたのだが、同時に僕には拒否権が無いのだと思い知らされてしまい複雑な心境になっていたのだ。……ってか今更かもしれないが『勇者』の力を使えるのって俺しかいない訳だよな。それで『勇者』の力を手に入れて魔王討伐に向かうことになったわけだから……この国の人達が僕のことを特別扱いしてるってことは理解していたつもりだったがここまでとは……。…… 僕は『勇者の力』が発動してからというものの今までの常識が全く通じないことが多々ある。それはこの世界でも例外ではないらしくて僕達はこの世界に来てからもかなり注目を浴びていたのだ。僕がこの世界でやらないといけない事は、この世界を救って平和に導くというものだ。つまり僕の使命はこの世界で魔王を退治するということになる。魔王をこの世界の人々に倒させることなんて出来る筈がない。僕だってそんなことは出来ないと思う。そもそも僕一人の力ではこの世界で生きていくことすらも難しいだろうし……。それに僕は魔王を本気で倒すつもりもないんだ……。僕は別に魔王を殺せるだけの実力を持っていないし。……まぁ魔王を倒した後に『魔王殺しの勇者』って呼ばれたくないってのもあるんだけどな……。

そんなことを僕は心の中で思っていたのだが、このリゼルとかいう女の子が突然「あの……。勇者様なんですが、魔王に殺されちゃって……。えっとそのぉ……」と突然とんでもない嘘を吐いたのだ!僕が慌てて否定しようとすると他の人に「……そうなのですか?」と聞かれてしまった。

僕は咄嵯に「ち、違い……「そうですよね!零士君は絶対に殺されたりなんかしない筈よ!!」と、僕の言葉を遮るようにそう言ってくるリセルに対して僕の顔が引きつるのを感じる。そしてそんな僕に向かって微笑みかけてくると、僕の頬を両手で包み込んできた。そんな彼女の笑顔を見た瞬間僕の頭には、先程の映像がフラッシュバックしてくる。「うっ……。あっ……。うっ……。あっ……」と僕はそんな声を上げてしまっていたのだ。すると「ど、どうかなさいましたか?気分が優れないようですね……。あぁ……。そうだ。私のベッドを貸してあげましょう。ほら早く行きましょう?」とリセルは僕の腕を引っ張っていく。「い、いらない……。大丈夫……。そ、そんなに引っ張らない……」と僕のそんな言葉を彼女は聞く気が無かったようだ。そのままリセルに案内された場所は彼女の部屋で……「はぁ……。うっ……」とリセルが息遣いが荒くなり始めている。僕はこの部屋に入るなりリセルに突然押し倒されたかと思うと、リセルが僕のことを抱きしめてきて「零士君……愛しています……」と言うと、いきなりキスされてしまった……。そしてそれから数分程が経ったところでようやく解放してくれた。そして「ふぅ……。やっと落ち着いたわ。やっぱり好きな人と一緒にいると落ち着きますわ。……ねぇ零士君。私と結婚してくださ「……うぐ……。ううっ……。……ううぅ……。あっ……。あっ……。……あっ……。……はっ……。……ううっ。あっ……。あぁ……ん……。……んぐぅ……。…………ん?」僕は夢から覚めた。

すると僕は何かの液体で顔中がベタついているのを感じていた。何だろうと思い手を伸ばしてみるとその液体が手に付きその液体の匂いを嗅いでみると凄く甘い香りがした。僕はそれがなんなのかを確認してみるために起き上がると目の前にあった瓶を手に取ってみたところ……「これは……なんだ……これ……」と呟いてしまう。それは見た感じだと蜂蜜のような色をしていたので僕はついそう口にしてしまった。僕は何故こんなものが顔にかけられたのか不思議に思った。僕はそれを手で拭き取ると辺りを見回した。するとそこには大量の酒の空き瓶が落ちていて床に散らばっていることに気付く。僕はそこで初めて自分の置かれた状況を理解すると「え……えぇ……。……あっ……。そっか……。僕、寝て……。……あれ……ここ何処……?」と僕は今の状況を把握しようと頭を働かせていたら……。「あら、起きたのね?でも丁度良かった。これでお風呂に入れてあげられるから」「へっ……!?ちょ、ちょっと!そ、そんなこと言わないで下さい!ううっ……。そ、それより今どういう状態なのか説明してくれませんか?」と僕が言うと、「はいはい。分かりましたから大人しくしておきなさい。もう逃げ場はないんだから」と彼女は笑いながら言ってきて僕から布団を剥ぎ取ってきた。

僕と彼女……いや、『聖勇者』である『リセル』は先ほどまでの状況を思い出そうとしていて、今に至るまでの記憶が曖昧な部分があったので彼女に聞いてみたのだ。すると「私は……そうですわ。確か貴方のことを助けに来たので貴方に『回復』魔法をかけて傷を癒してあげたんですよ。それでその後に貴方を部屋に連れ帰って来て、お腹を空かせてると思って料理を作って食べさせてあげたので、今は私が背中から抱っこする形で貴方の事を膝枕をしてあげている状態になっているのよ」と説明してくれたのである。……それを聞いた僕は恥ずかしくて死にそうになった。……いや違うんだ。僕はただ「ありがとうございます」と言ってすぐに立ち上がろうとしたのだが、僕が立ち上がって移動しようとした瞬間に「……駄目よ。まだ安静にしていなきゃ」と言われたので僕は再び横になるとリセルに質問してみる。

まず最初に確認しなければならないことがあったからだ。

それは……『聖勇者』であるこの少女についてである。

彼女は僕のことを『勇者』だと思っているので、僕が本当の勇者じゃないということを知られた場合はこの世界にとって大きな痛手になってしまう。僕はその事を伝えなければならないと思った。しかし……「その前に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」と僕が言った途端にリセルの顔が少し暗くなったような気がした。

なので僕は慌てて「な、何でも無いです。忘れてください」と言ったのだが彼女は真剣な表情になって僕のことを見つめてきた。

「貴方が何を聞きたかったのか分からないけど。私にとってはその程度の事ならいくらでも話してあげるつもりよ。……でも一つだけ先に答えて欲しい事があるんだけど……良いかしら?もしも嫌な気持ちになったのならばごめんなさいね?……それでその……。もし良ければ教えてくれない?貴方が勇者様かどうか……」

リセルが不安げな表情をしながら僕に問いかけてきたのを見て僕は正直に「僕は貴方が想像している勇者ではないと思いますよ。だって僕には力も何もありませんし……。そもそも僕がこの世界にいるのだって偶然で……」と言って僕は俯いて落ち込んでしまうと「そうなの……。でもどうしてここに……?」と言われてしまった。僕はそれにも正直に「えっと……。僕は……『召喚勇者』って呼ばれている人なんです。でも僕は……僕はこの世界の人間ではなく、元の世界ではどこにでもいる普通の存在でしかなかったんです。でも……僕は『聖勇者』の力を手に入れてしまったみたいなので……。それで僕はそのせいで貴方達の為に魔王を倒しにいかなければならなくなってしまったんです」と答えるとリセルが「そうなの……。可哀想……。……でもいいえ。貴方のせいじゃないわよね……。うん。貴方は何も悪くないのだから」と言い、リセルは優しい笑顔を浮かべると僕のことを優しく抱きしめてくれるのだった。そして僕はその行動の意味を理解しかねていたのだが「その……。僕のことは気にしないでください。僕にはその資格がありますから。僕には『聖勇者』の力があるので……。それに僕よりもこの世界で生きてるはずの人の方が辛い目にあっちゃってるかもしれませんからね……」と言うと「そう。貴方がそう言うならば私からはこれ以上何も言えないわね。貴方のことをこれから守っていけるといいのだけれど……」と言ってくれた。僕は彼女のそんな優しさが胸に染みて泣き出しそうになってしまったのだがなんとか堪えることにした。

僕達がお互いのことをある程度把握したところで再びリセルは口を開いた。

僕は「僕からもいくつか聞きたいことが……」と言ったところで「ねぇ……。本当に魔王を討伐しに行くつもりなの?」と彼女が言ってきてくれので、僕はそれに対して首を縦に振って答えるとリセルは少し悲しそうな顔をする。

僕はそんな彼女の様子に疑問を覚えつつも、リセルは一体何を考えているのだろうかと考え始める。彼女はこの国で最強の魔法使いと呼ばれている程の人物で更には美人で性格も良いときた。そんな完璧な人物が何故僕の前に現れたのだろうか?と、僕は彼女の考えが全く分からなかったのだ。そんなことを考えながらも「えぇ……。そのつもりです……」と言うと「じゃぁ……。絶対に死ぬかもしれないって分かってるのね?死んじゃったとしても絶対に戻れないのよ?」と言われてしまい、彼女の言葉を聞いてしまった僕はとても驚いてしまい「そんなに簡単に死んでしまうなんて思ってませんよ!大丈夫です!僕には『スキル創造』っていう能力がありますから!」と言うと、リセルが「……やっぱりそうなのね。『スキル・システム』……。でもね?そんなことは無いわ。絶対とは言い切れないから……」と言う。僕はそこでハッとする。

確かにリセルが言っている通りで、僕は今まさに彼女の言ったことを言ってしまったのだ。そして僕の予想だが恐らくリセルには嘘を見抜く能力が備わっているのだ。だから僕は焦りながら必死に「そ、それでも……。必ず帰ってくるんで……大丈夫……ですよ?」と言ってみたが、リセルが何かを言い出すより先にリセルの部屋の扉が開く音が聞こえてくる。「……リセル様、こちらに居られましたか……。あら?お客人でいらっしゃいますか?お疲れのようですね。どうぞ中に入って下さいませ。私達は部屋の外にてお待ちしていますので」と言う声が部屋の入り口の方から聞こえてきていた。そして「お入りになりますか?」と言う声がしたので僕とリセルは同時に声を上げてしまっていたようで互いに笑ってしまい僕は「はい。お願いします」と言うとリセルは「えぇ。入らせてもらうわ」と言っていたのでリセルは立ち上がる。

するとリセルの着ていたローブがずれてリセルの綺麗なお尻がチラりと見えた瞬間に僕が固まってしまうと、リセルはその事に気付いてくれていたみたいで、「もう……。あまりじっと見つめないで……」と言ってきた。……僕は恥ずかしさのあまりに顔に火が出そうになっていた。そしてそのままリセルに案内される形で歩いていき部屋の中へと入るとそこに広がっていたのはかなり広い空間だったのだ。僕はこんなに大きい建物があるのかと驚いた。しかも天井までかなり高いのである。

しかし僕が感心したのもそれ程までに早くに終わり僕は椅子に座る。

すると、すぐに使用人達によってお茶が用意されたのだが……僕とリセルの前には何故か同じものが出されてたのである。リセルはそれを見ると「どうして?貴方達の分もあるじゃない」と言うと「申し訳ありません。リセル様には用意しましたが、お連れのお方の事は存じ上げませんので……。それとリセル様にご提案が御座いまして……」と言われてしまうとリセルはため息をついて僕が勇者であるということを伝えた上でその飲み物を飲んで良いと許可を出してくれたのだ。僕は「あの……。僕の分まで飲まなくてもいいですよ」と言ったのだが「ううん。私のわがままなのだから気を使わなくていいわよ。それどころか貴方にも私と同じものを出してあげるべきなのに……」と言われてしまった僕はそれを飲むことになってしまう。……正直な感想を言うのならば不味かったのだ。しかしそれを言ったら悪いかなと思い「美味しいですね。これ……凄く……。なんですか?」と誤魔化すと「……そう」とリセルは短く返事をする。それからリセルが色々と説明をしてくれていたのだが、僕の頭には入ってこなかった。なぜなら……僕はリセルが説明してくれている途中にいきなり立ち上がったと思ったら、突然自分の胸を両手で触り始めたからである。僕は思わず目が点になってしまった。そしてそれと同時に恥ずかしくてたまらなくなり目を瞑って顔を赤くしてしまう。

僕がそうしている間にもリセルは服の中に手を突っ込み続けて何かをしているような気がしていたのだが、僕はそんな光景を見ることに耐え切れなくなっていくと同時に心臓がバクバクとしてきて僕は遂に限界を迎えることになる。

「あああぁ!!リ、リセルさん!?な、何してるんですかね……!?い、意味分からないですけど!!」と僕は叫ぶ。……するとリセルは僕の叫び声で正気を取り戻したかのようにハッとし「え……えっと……私はいったい……何を……。……っえ……な、何よこの格好……。それにこれは……もしかして……。貴方も……見た?」とリセルが言ってきた。僕は「え……えっと……。な、何も見てないです。えぇ……。何も……えぇ……はい」と言うとリセルは慌て始め「……貴方……まさか記憶を失くす系の薬でも飲んでいるのかしら?それとも……貴方が本当はこの世界にいるはずがない『勇者』だったとか……?もしくは私には見えない力が働いているというの……」などと言い始めるのだが僕の頭には全く入ってきていなかったのだ。……それは何故かって……それはリセルの行動が原因だ。

僕がリセルのことをチラチラ見ている時にリセルもまた同じように僕のことを見てきたような気がするのだが僕はそんなことにも全く気付かずにただひたすらに俯いて顔を隠そうとすることに専念していたのである……。

するとリセルは立ち上がって部屋を出ていこうとした時、突然大きな音を鳴らした。

リセルが僕に対して何かを訴えているような気がしてならなかったのだ……。だから僕は立ち上がりリセルを追いかけることにした。そして僕はリセルが僕を止めようと手を伸ばしてきたが僕は気にせずにそのまま走っていくと……目の前に人が立っていたのだ。僕はぶつかるとまずいと反射的に思い慌てて避けようとするのだが……僕は誰かとぶつかりそうになっていると気付いた時には既に衝突は回避不能であり僕は転びそうになってしまっていたが、その寸前に何者かの手によって抱き留められるのであった。

そのおかげで転倒は免れたのだったが……。「おい……。危ねぇじゃねぇか……。俺と遊びたいならもう少し周りをよく見て遊ぼうぜ?」と、その人は言ってくれたので恐縮してしまったものの僕は素直に謝ることにしたのだが……その時ふとある違和感を覚えたのである。この声はどこかで聞いたことがあると……それにその声はとても優しく包み込むようなものだったので、そのことに驚いていたのだ……。しかしそれが誰の声なのかはすぐに分かり、僕はその人の方に目を向けると僕は「え?あれ?なんで……」と言葉を漏らす……。

何故なら僕の目に入ってきたのは魔王軍の副団長を務める悪魔の姿だったからだ。……そして次の瞬間にはその悪魔は消えてしまい何処に行ったのかと思っているとその後ろにまた一人現れたのでそっちを向くと、先ほどよりも小柄な悪魔の姿が確認できたのだ。

僕には状況が全く理解できず混乱している中さらに事態が悪化する。リセルの方を見るといつの間にか二人の男性に囲まれており僕は更に焦り始める……。僕はまだ完全に回復していない身体で必死にリセルの元へと向かうと、リセルがこちらに向かって走ってきていて「あ、ありがとう……。助かったわ……。本当に……感謝してるわ……」と小声で呟いていた。僕はとりあえず一安心することができた。

そして僕は「はぁ……はぁ……。い、いえ……。助けるのは当然のことですよ……」と答えるとリセルは微笑んでくれていた。

僕達がリセル達を連れて来た人達に連れられて廊下に出るのを確認すると僕達は部屋に戻って行くのである。……そんなことがあったせいもありこの城の人達にはとても驚かされ続けているのだ……。

しかし僕はそこで一つ気になることがあって仕方なかった……。……この城は……一体何の為にある城なのだろうと……。……何故僕はこの場所で目覚めたのだろうか……。そもそもこの国はどんな場所なのだろうか……。僕は色々な疑問を感じながら城内を見渡していくと、僕に一つの光が差し込んだのでその方向に顔を向けると、そこにはとても大きな塔が聳え立っており僕を圧倒するかのような雰囲気があったのだ。

僕がその巨大な塔に見惚れながらも呆然と立っているとリセルから声をかけられたので僕達は歩き始めるのである。僕はそこでふと思う……。僕は今まで一度も外に出なかった。つまり……今現在僕の世界で一番高い建物ってどれくらいあるんだろうと……そして、今更ながらに考えてしまう。……そして僕は今、自分がどれだけとんでもない世界に居るのだということを……。

リセルと一緒に城内を歩いていた僕だが突然リセルが立ち止まるので僕はリセルにぶつかりそうになってしまう。

「ど、どうしたんですか?」と僕は聞くと、リセルは「しっ……。静かに……」とだけ言うのである。すると僕はリセルから手を掴まれて引きずられていき、リセルの後ろで壁に背中をつけると僕は「あの……?」と言うと、リセルは指を指しながら何かを言い出す。僕はリセルの言っている事が良く分からなかったのでリセルの言っている方を見てみるのだが特に変わったものは見えていないので「な、何か……変なものが見えるんですか?それともその……。もしかして……幽霊とか……」と言うと「……違うわよ。ほら……。よく見なさいよ」と言われた僕はもう一度見てみると……。

「……うわ……。え?嘘でしょ?どうして……」と僕が驚いたのはこの巨大な塔の中に入っていけるという入口が僕の前に現れたのだから……。そして僕はその入り口を潜り抜けるとそこには地下に繋がる道が存在しておりリセルも僕の後に続いて入ってくるのだがその時に少しバランスを崩してしまうと僕はリセルの手を握りリセルを支えることになってしまうが僕は「……大丈夫ですか?」と言いつつ顔を覗き込んでみると僕は驚くことになってしまう。なぜなら、リセルの顔が赤くなっているように感じられたからである。……僕に手を握られている事がそんなに嫌なのかなと一瞬思ったのだが、そういうわけではなさそうなので不思議だとは思うものの僕はその事については聞かなかったのだ。

そしてリセルの手を引いて歩くと、その先には大きな扉が存在していたのである。……そして僕はこの扉の先が目的地なのかな?と思ってはいたが……。リセルは立ち止まってしまい何も言わないので僕はリセルの横に立ってみたもののやはり反応はなく僕はリセルのことを見ているのだが……すると、いきなり大きな音が聞こえてきて僕は驚いていると……。「やっと会えたな。さっきは挨拶できなかったけどよ……。初めまして。俺はこの国を纏めてる者だよ。名前は一応伏せとくけどな。ま、そんな事は良いとしてだ。俺の名前は……」と話を続けようとした時に僕はその人を止めることにしたのだ。なぜなら……僕がリセルの代わりにその人に話を聞いていたのである。

僕がその人の自己紹介を止めてしまった事に申し訳ないとは思いつつも僕も名乗っておこうと思ったのだが……僕はここでまた問題が起こってしまう。そう……名前を言うことができなかったのだ。……それは、僕の名前が思い出せないことが原因であった……。僕は必死に頭を抱え考えるがどうしても自分の名前が出てこなかった。……すると僕は自分の手をみてふと思ったのである。そういえば、僕の身体のこの傷……。まるで何かに斬られた跡のようだと思い始めた僕は、まさかとは思ってはいたものの僕はこの城に来た理由を考えていくと……。……僕とこの人が出会った。

「まさか貴方は……」と僕の口が無意識に動いたその時に僕は突然激しい頭痛に襲われその場に倒れ込む。僕は地面に頭をぶつける寸前に僕の手が僕の後頭部に添えられて地面との直撃は避けることができた。しかし……。「え……何これ……。身体が……。う、動かない……。」と言うと、リセルは「……やっぱり貴方の仕業だったんだね……。こんなの私でもできないもん……。」と小さな声で言っていた。そしてリセルは僕に「大丈夫?」と優しく話しかけてくれて僕のことを心配してくれたのだが僕はそれどころではなく必死に抜け出そうとしていたのだ。

僕は何が何だか分からないがとにかく動こうとするがまったく動けずに居たのだ。……しかし、リセルは僕に何かをしたのだろうという事は分かっていて……。そのリセルが魔法でどうにかできるんじゃないかと僕は考えていた。しかし、いくら魔法でもこんな状態異常を解くことができるのだろうかと疑問には思っていたものの、そんなことは関係ないかと考え直し僕はとりあえず現状の確認を始める。まず僕はリセルによって拘束されているような状態で動けないことが分かった。

「はぁ……」と溜息をつくと突然僕の目の前に映像が流れ始めてきたのだ。そう……これは過去にあった出来事である。そうして映し出されたのはリリスの姿だった。しかもかなり昔のことであり今はもう亡くなっているであろう人物でもあった。……そんなことを知らないはずのリセルだったが、僕の心を読んでいたのか、「これは……私が殺した男の人が見た過去の出来事の記憶だと思うわ……」と言うのだが僕は全く理解できてなくて首を傾げているとそれに気付いたリセルが僕に対して詳しく教えてくれたのだ。それによると、どうやらその記憶が僕の頭の中に直接流し込まれているようだ。その証拠になるかどうかは分からないのだが僕は確かに知っている感覚があったのでそうなのかなと勝手に解釈したのだ。……そして僕はそのリセルの言っている意味を理解することになるのだが……。僕はその時は何故こんな光景を見ることになったのか理解が追い付いていなかった。僕は今の状況よりもリセルが殺されたという事実の方に驚いていた。そのせいもあって僕は思考が纏まらなかった。そして僕に語りかけてくるリセルの言葉に僕は衝撃を受けたのである。

「私の身体の中には魔王軍副団長であるあの悪魔の核が入っているの……。そして……それが今の私の本体になっているの……。」と言われて僕は更に驚き戸惑ったのである。そんな僕にリセルは更に続けて「私はあの人と契約を交わしていた。その契約内容はこの身体を完全に支配すること。その為には私の身体にその悪魔の力を全て受け入れなければならない……。そうすることでその力は解放されて私はその悪魔の人格を支配する事ができるようになる……。だから、もしこのまま放置していると、私は完全に悪魔に支配されることになる……。だから……」と言ってきたので僕はそれを遮り「……それで?リセルさんはそれを受け入れたの?」と聞くとリセルは何も答えなかったので、僕はリセルに向かって手を差し出して「なら……僕が止めます。僕にも……責任があると思いますし……」と言うとリセルが突然僕に抱き着いて来たのだ。そしてリセルが泣き出し「ありがとう……」と言っていたのだが、何故なのか僕はこの時になってやっと自分がやった行動を思い出していたのである。

そう……リセルを助ける為に僕は彼女の中に入っていって僕がこの呪いを受け止めたはずなのだが、どういう訳か、いつの間にか呪いの力は消えてしまっていたのである。そんな事を考えて呆けていたのだが僕はふと、どうしてこんな状況になったのかを思いだしてみるとリセルと手を繋いでいたことに気付き、慌てて手を離そうとしたら「ダメ……」と言われたので僕は困ってしまう。そしてリセルはゆっくりと僕から離れていったので僕が困惑しながらリセルのことを見てるとリセルは恥ずかしかったのか顔を下に向けて黙って歩いて行く。……その後をついていくように僕はリセルの横に並んで歩き出した。

リセルの様子が少しおかしかったからなのかもしれないのだが、何故か、この城に入ってからは敵らしい人と出会うことはなく順調に進んでいくことができ、僕は途中で疑問を感じたがリセルはそれに気付いていたようで……。

「ここだけは結界のようなもので外の世界から隔離されていてね。簡単に言えばここにいる人たちは全員がこの城の人たちの協力者でもあるのよ。だから……。だから貴方は安心していていいから。私が必ずここから連れ出すからね!」と言うので僕はとても驚いたのだが、リセルの様子を見る限り嘘を言っているようには見えなかった為、素直に従うことにしようと僕は思ったのだ。

僕がリセルについていくように歩いて行きながら歩いていると大きな部屋にたどり着いた。すると突然僕の頭に誰かの声が聞こえてきたのである。僕は咄嵯に反応してその場から逃げようとするのだがリセルに止められてしまい逃げる事ができずに居たのである。

僕は必死に逃げようとしたのだが僕はリセルに押さえつけられており抵抗する事ができなかった。そう……声の主が僕の前に姿を見せたので僕はすぐに動きを止めて警戒することにしたのである。その人は、黒い鎧のような物を身につけていて背中からはコウモリの翼みたいなものが見え隠れしていたのだ。

「ふふふ……。そう警戒しないでも大丈夫ですよ……。」とその女性が僕達に微笑みかけてきた。僕はこの人の雰囲気を感じ取る限りではそこまで危険じゃないと判断はできたので、その人の言う通りリセルと離れて話を聞く事にしたのである。

僕達はリセルの提案により、一度この場から離れる事を決めたのだ。リセル曰く……この場で戦うにはこの場所はあまり良く無いのだとか……。だから一旦場所を変えて作戦を練りたいのだと言うのだ。……それならば最初から戦わない方が楽じゃないかと思ったのだが……。僕としては戦いたいという気持ちが強かったのだ。だから……僕は彼女にお願いしてみる事にした。するとリセルが少しだけ僕達の会話に入ってきたのだが僕は気にせずに話を続けることにし、そしてリセルを驚かすことになったのであった。そう……それは……リセルの力が僕より強いと分かった瞬間だったのだ。……正直言って僕はリセルの事が大好きなので……僕も強くなろうと決意を固める事になり、これからは二人で頑張っていこうという話の流れになっていたのである。

リセルが僕と少し距離を置いたのを確認した後に僕も武器を手に取り構える。すると突然目の前の女性が話しかけてきたのだ。

「……私の名前はレミーといいます。」と。僕はとりあえず自己紹介をした。「僕はラガスと言います。」と返すと「ええ。……知っていますよ。」と返事をして来たので僕はこの女性に聞き返したのだ。「……何故、僕を知っているんですか?」と。そう聞いた途端、目の前にいた女性が僕に攻撃を仕掛けて来たのである。それも一瞬の出来事で僕の視界が揺れたと思うと僕は壁に叩き付けられていた。

「……えっ?…………あぁ。そういうことか……。貴方はこの空間にずっと一人でいた……。だからこそ、僕の実力を測る為に、敢えてこのタイミングを狙って襲ってきたってわけですか……。なるほどね……。僕と……同じ立場……ということですね……。それなら納得がいきました……。それでは僕も……全力で貴方と……勝負させて貰おう……。貴方も……僕の敵となるんでしょうし……。それじゃ、始めましょう……。貴方は一体……誰なんでしょうか?……」と。そうして僕は戦闘を始めることにしたのであった。

そして今に至る。僕はその人に吹き飛ばされたが何とか受け身を取ることに成功して立ち上がることができたのだ。すると、その人も立ち上がっていたのである。

僕が剣を構えると彼女は自分の手に持った剣を構えず自然体のまま立っていた。その様子は明らかに僕を見下しているように見えたのだ。僕は少しイラッとしたが今はそんな感情に流されている場合ではないと思いその怒りを押さえ込むことに成功したのである。そして僕達が再びお互いに視線を合わせる。僕は今の状態を考える……。僕はまだ呪いの影響は残っている。そして……この部屋にいる他の人達の動きは鈍くなっている。だが目の前の女性はその呪いを受けている筈なのだ。……しかし、彼女は全く苦しそうな表情を見せていない。そのせいで余計に僕は混乱してしまう。……僕はとりあえず試し斬りがしたくなりその女性の足元目掛けで魔法を発動させた。僕の放った魔法によって地面が爆発を起こした。そして煙に包まれたのだが、その次の攻撃として僕は魔法陣を描きその魔法を放つと先程と同じ要領で今度は上空に巨大な火球を発生させてそれを落とすと、爆音と共に土埃が立ち込めると僕はその場所へと走って行った。

そうしてその女性がいるであろう場所まで走ると魔法を使って姿を探ったのだ。その結果……この部屋の天井に張り付くように女性は存在していたのである。しかも無傷で……。その光景に唖然とする僕であったがすぐに切り替えてその女性に向かって突っ込んだ。そして……僕の持っていた長剣が弾かれてしまったのだ。僕が驚いていたので、その隙を突かれて僕の首元へ短剣を突きつけられたのである。……それから数秒の間、僕達二人は見つめ合う形になったのだが……お互い無言のまま時間が経過していくと突然目の前の人が僕の事を拘束してきたのである。僕は突然の出来事に驚きながらもその人のことを睨んだのだ。僕がそうしている間にその人は僕の身体に触れてくると何かしらの儀式を行い始めた。そのお陰もあって僕の身体は動くようになったのだがその人はすぐに僕の身体から離れていってしまったのだ。

僕が何故、僕が動かなくなったのかを不思議に思っているとその人が僕に対して質問をしてきたのである。そして僕はその言葉に耳を傾けるとどうやら僕はその人に気づかない内に洗脳されていたようなのだ。それを聞いて、僕は愕然となり……、更にその女性はとんでもない発言を僕にする事になったのであった。その発言とは……、自分が実は悪魔だ……という衝撃的なものであった。それを聞いた僕は……驚きのあまりに言葉を無くしていたのである。その女性は続けて僕に向かって話を続ける。その内容というのは僕にかけられていた呪縛が解除された時に一緒に封印されていた本来の力を僕が手に入れた事で、その力が解放された事により僕は僕の中の呪いと戦わなくてはならなかったのだが……この呪いの力が強くて僕は呪いに打ち勝つことができず、僕の精神と肉体は呪いの力に飲み込まれてしまい……この城の人たちを殺してしまい僕は……、僕ではなくなって、そして……僕は……僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕俺俺は僕おれは僕が俺ぼくボクが僕ボクハ僕ハ俺オレワタクシワタクシタスケテタスケテオクレダノガレデエナゼダロカアカネガイツモアカレノアカナアナカタすけてくレルトオモッタのニイマデハヤクソクガヤクソクトハナルベキジャナカッタトイウノニカレナノチカラハケシサレテアタシノチカラニスルコトバハススメバイイノカモシナラソレナラアカネヲモトメニヨリツイテクレルハズ 僕はその声を聞い後、頭を抱えてしまう。その女性、もとい悪魔の僕が話している内容を理解したくないからなのかもしれないが、それでも、どうにかして僕は意識を保つことに必死になっていた。……この悪魔は何のためにこの場に現れ、僕を洗脳しようと、仲間にしようと、利用しようとしたのかは分からない……。けれど……。ただ、一つだけ、言える事がある。この世界に来るまでは、僕の力はリセルを守る為に使うと決めていたが……。今の僕の力なら、リセルを幸せにできるのならば、この世界の皆を殺すことも可能なんだ……。そう考えると僕は……もう、この世界に居られないのだろう。

「……分かりましたよ。僕は貴女の仲間になります……。……ですからどうか、リセルだけは助けてください。」僕は悪魔に頭を下げたのだ。

すると、僕の頭を撫でながら悪魔は言う。「いい子ね。安心なさい、私は別に貴方に何も危害を加えようとはしていないのだから……。貴方さえ素直に受け入れてくれるなら、私はリセル様だけは無事、ここから出してあげようと思っているのよ。」

僕はそっと息を飲み込んでから「それは……本当……なんですか?」と聞き返すと「勿論よ! 私が貴方のような子を傷付ける様な事はしないわ!」と笑顔で答えてきたのだ。そしてその悪魔の言葉を聞いて……、何故か、僕の胸の中には安堵感が生まれた。それと同時に目の前にいたはずのその女性も消えていったのであった。

(……えっ?どういうことだ?)

状況が全く分からなかったが取り敢えず僕にはやることが出来たので、先程の女性の後を追いかけることにする。この城に僕以外に何人の人が囚われているかが分かった以上急がなければならないのだ!! そう思い僕が行動している間にも僕の頭の中からはあの女性が発していた言葉が離してくれずにいるのだ。僕の中で……この世界を救って……大切な人達を守りたい気持ちがある。でも……それ以上に……。目の前に助けを求める人達がいるのなら、僕の力で少しでも助けられる可能性があるのならば、この世界を犠牲にしてまで救いたいと思えるほどの強い覚悟はないのだ。そして僕は……その迷いを抱えたまま城の中に入っていく。僕以外の人達は既に動き出していて……その中には、この国の王子と王女も居たのだ。

僕達は一度作戦を練るためこの城を脱出することにした。

作戦を考えて、そしてこれからの行動をしっかりと決めたかったのだ。だから僕は自分の足手まといになる可能性も考慮しながら、僕と同じ立場にある少女と行動をする事にした。

そうして今、僕達は外に出て森を歩いていく。すると、突然後ろの茂みから何かが現れたのである。そして、現れた人物を見た僕は思わず固まってしまっていたのだ。……だってそこには……この世界で見たこともない綺麗な容姿をしていながらも背筋が凍りそうなほど冷たく、そして恐ろしく感じさせる表情をしていた女の子がいたのだから……。その瞳を見ているだけで、恐怖心に支配されそうになる……。そして……この子の事を、どこかで見かけたことがあると思った瞬間……僕は思い出したのであった。

そう……それは僕がゲームをしていた時の記憶だ……。このゲームは、主人公を操作しているプレイヤーがそのゲーム内で攻略するヒロインの1人と仲良しになればなれるのだが……そのヒロインこそがこの女の子、つまり……、ラスボス、魔王なのだ!! そのラスボスが僕の事を今、冷たい視線を浴びせながら見下ろしているのだ。それに……このゲームのシナリオを思い出す限りでは、主人公は勇者では無く、ただ巻き込まれる形で、この世界に召喚されてしまった少年という設定になっているのである。そしてその主人公が今まさに僕だった。その事を思い出してしまった僕なのだが……、今は、その事に思考を奪われている暇は無かったのだ。僕はそのラスボスを目の前にして、何とか冷静を保とうとする。

しかし僕の体は震えていて……。僕は……そんな自分をどうにかしたいと思うが……。やはり無理だった……。そうしている間にも僕は……、ラスボスの目の前で倒れ込んでしまう。そして……僕の目の前は真っ暗になったのであった。

目を覚ました時……、僕の目の前には、知らない天井があったのだ。そしてその隣では、金髪の可愛い美少女の女の子が僕の顔を見てくれていた。その子の名前は『アリエス・フルール』といい……僕よりも歳上だが同じ歳ではある。その子はいつも優しく微笑んでいて誰からも好かれる性格の持ち主である。そして僕の……幼馴染でもあり、友達でもあるのだ。僕が目を覚ましてしまった事が嬉しいらしく、満面の笑みを浮かべて喜んでいた。だが、すぐに僕の手を握りしめたまま涙を流し始めてしまう。……どうやら彼女は、ずっと側に居てくれたみたいで、僕が起きるのを待ってくれていたみたいなのだ。だけど僕が起きたせいで涙が流れてしまうらしい……。僕は起き上がって彼女の頭を撫でてあげた。そうしていると、僕の背後から声が聞こえてきたのだ。

「良かった……。本当に、目が、覚めて、くれて……。私達、もう駄目だと、思っていたの。……ううん、絶対に大丈夫、そう思っても、怖くて……。ごめんなさい、こんな、時に……。貴方に迷惑をかけて……。ごめっ……なさっ……」その言葉が最後まで続くことはなくて……彼女もまた、僕が目覚めた事で泣いてしまったのだ。その言葉は……まるで彼女が今までどれだけ心配していたかを表していたようなものだった。それだけに僕は、僕の方こそ、皆を待たせ過ぎてしまったのではないかと思うと同時に、僕にはまだ皆を守れていないのではないかと考えるようになっていた。そう考えていると僕はふと……ある事に気付いたのであった。

その、僕の疑問に対してアリエルさんはこう言ったのだ。「……貴方が倒れた後、直ぐに治療師を呼んだのよ。それで貴方の治療をしている間にこの子が目覚めてね……。それから……貴方の身体を調べさせてもらって、貴方が呪われているという事を教えてもらったわ。」それを聞いた僕はその言葉を信じることができなかったのだ。だって……僕自身には全く覚えが無かったのだから……。その話を聞くとどうやら僕の身体の異常というのは、精神支配のようなものにかかっていたことが原因で起きているのかもしれないという事になった。

それを聞いた僕達は……この国の王に会いに行くことになったのである。僕はその時、僕の頭の中では、僕を救ってくれた人が誰かという事を……理解できていた。……いや、もしかするとその女性は、僕をここに呼んだのは自分自身がこの世界を滅ぼすのを止めるために僕を呼び出したのではないかと考えている。僕達が城に向かっている途中にその女性の居場所を聞いてみた所、彼女は既に僕をこの世界に送り込んだ事でこの世界には存在しないということを聞かされたのだ。

そう考えると、あの女性ももしかすると呪縛にかかって苦しんでいたのではないだろうかと考えてしまい……。もし、あの人が今もまだ僕の呪いが解けないまま生きているのであれば、僕が彼女を苦しみから解き放ってあげることが出来るのではないかと思っている。だからこそ……早く王に会いたかったのだ。

そして、城の中に入るとそこには先程、出会ったリセルとそのお姉ちゃんが待っていた。そしてリセルのお兄さんもいたのだ。その王様と話す機会が出来たのは僕と王子が話を始めたときであった。僕が王子に話を振ると、リセルとお姫様の2人を連れて何処かにいってしまったのだ。

そしてその王様に僕は質問を投げかけたのだが、僕の答えが気に入らなかったのか、いきなり攻撃してきたのであった。僕にはこの世界に来てから、魔法は使えなくなってしまったはずなのだ。なのに……僕の手から魔力が集まっていくのを感じて思わず驚いてしまった。そしてその驚きの感情のまま、無意識のうちにその王の剣を避けてしまったのである。そして僕の頬からは、その王が放った斬撃による切り傷から流れ出た血液が滴っていたのだ。

(どういうこと?僕には魔法なんて……使えないはずなのに……、それにこの人は……僕が知っているこの世界の王では無いのかな?でも、何だか僕には……この人を殺せる気がしないんだ……。どうしてだろう?この人は悪い人で間違いないのに……。)そんなことを考えているうちに……僕も思わず、怒りの気持ちを抑えられなくなった。僕はそのままの勢いで攻撃を仕掛けるが簡単に弾かれてしまう。しかもその力は、とても僕の力じゃ及ばないものなのだ……。そして……次の瞬間には僕は、地面に這いつくばっていて、そして……、僕はその王の姿を見上げる形でいたのである。僕は何が起こったか分からない。だがそれでも……僕の胸の中に何かが生まれたことは分かった。それは……、憎しみの念である。

(……僕の仲間を殺そうとしたこの男は絶対に……許せない!この男のせいで……この男が余計なことをしなければ……皆を助けられるはずだ!!この男の全てを奪ってしまおう……そして僕が……全てを救いたい!!)

僕はそう心に誓ったのだ。この世界を救いたいとか……自分の身を守るとかそんなのでは無くて……ただ単純に……僕は、あの女の子の笑顔を守りたい……と思えた。そしてこの男を殺すことに……何のためらいもなかった。

そう思うと僕の中に、先程の魔力とは違う別のものが集束していくのが感じられる。そして僕は今にも意識が途切れそうな中……なんとかその感覚に耐えることができた。すると、僕の頭の中から不思議な声が流れてきたのだ。『お前は今から我の力を受け継ぐことになる……、そして、これからは我が……、貴様を導き助けよう……。だから…………、必ず、この世界を救え!!』その声の主の声は僕を包み込みそして光を放ち始めたのだ。

そして光が収まる頃には……僕の手に持っていた短剣はいつの間にか姿を変え、神々しいまでの力を纏った美しい装飾がされている剣に変化していた。そしてその剣を見て思ったのである。これが僕の新たな力なのだ……と。

そして、今まさに戦いが始まろうとしている瞬間だったのだ。

すると突然の出来事に驚いた様子のその王は、自分の身に何が起きたかをすぐに悟ると僕と距離を取ろうと動き出していた。そして僕は……僕の目の前に一瞬にして移動する。僕は、今……自分で何をやったか全く分かっていなかったのだ。だが、僕はこの技の使い道を瞬時に理解することができた。そう……これは……『スキル:瞬間移動』……なのであろう。そのスキルを使って僕は自分の意志とは無関係にその場から離れてしまっていたのだ。僕は……自分の体の中でその『スキル』を試すことにした。そう……その使い方を理解する為にだ。まず僕は『転移』を使う……。だがこの世界で『空間転移』が出来るような感覚は全く無くて……僕が想像するのは自分と相手を繋ぐ道を作るイメージ……。

僕は……僕自身の体の中の魔力を全て消費する覚悟でそれをすることを決めた。

僕はその魔法を唱える為の集中を始めて少し経つと、次第に自分の周りの時間がゆっくりになるように感じ始めていた。それと同時にその魔法の詠唱を始めようとした時……目の前にいる王の気配を感じた僕は……何故か、その王が次に放つであろう攻撃を予測できていたのだ。だから僕は……僕は咄嵯にその攻撃を避けて……そしてその王の背後に移動してみることにしたのだ。

その僕の行動が予想外だったのか……、目の前にいたその王が驚愕しているように見えたが、それもつかの間……すぐさまその王は振り向いて僕に剣を振るってくるが……それはもう遅く見えていた。そう……もう……僕が勝ったも同然だったのだ。その僕の目にははっきりと映っているその光景。そして僕のその目の中には……王の背後にも見える景色が見えて来ていた。そう……まるで3Dの映画を見ているかのようにだ。

僕はその王の行動が……スローモーションになっているように感じられていたのである。そしてその王の背後に回ってから僕は王の動きを止めようと試みる事にしたのだ。僕は……王の背中に触れてみた。すると触れた部分が光だし、そのまま王の体が僕の体に吸収されていくのを感じることが出来たのだ。だがしかし……僕はそこで油断してしまったのだ。

僕にその王の剣の刃が迫ってきていたことを……。僕はその時になってようやく気が付いたのだ……。その王の攻撃の速度が速すぎて回避することができなかったのだという事を……。僕は死を悟った……。僕は……この世界の王に負けた……、いや、負けるはずだった。……いや、そもそも僕が戦うこと事態が無謀だったことに……。僕は……僕だけが死んでも……それでいいと思っていた。この国の人の為にも……皆の為になるならばと……。

僕は目を閉じてその時を待つ……。……するとその時……聞き覚えのある声が聞こえてくる……。

「やれやれ……、またですか……。もう貴方達は私の仕事を増やして……。」

(この声は……もしかすると……。)そう考えていると再び聞こえたあの人の声は続けてこういったのである。

「私の名前は、アルスリア・ディバゲリオン……。『魔王』、『魔導王』、『神族の末裔』、『聖女』、『創造主の使徒』など様々な呼び名があります。さぁ、行きますよ……。……私の愛し子。」

その言葉と同時に、僕は先程、僕の頭に流れ込んで来た知識を……、この魔法を使えるようになっていたのである。だからその言葉と同時に僕はこう口にしたのであった。そして僕はその魔法名を唱えたのだ。

すると僕はその剣を振りかざした王の前から消え失せていたのであった。そして僕がいた場所に王の剣の先が突き刺ささり……その王を貫いたのである。すると王の口から大量の血が流れ落ちていき、王はその場に膝をついた。そしてその王が倒れた後に立っていたのは……先程まで王の後ろに立っていた僕の姿があったのである。そしてその僕に近寄ってきた人物こそ……僕をこの世界に呼び出してくれた少女であった。そしてその女性は、倒れていたリセルの手を取って起こしてからこう言ったのである。

僕はその時、自分が何をしたのか、そして何が起きているのかが分からず混乱していたが……それでも僕の身体に起こっていることは何となく理解できる気がしたのだ。だってそれは……僕自身に起こった事なのだから……。そしてその女性が僕に向かってこう話しかけてきたのだ。

「……これで……呪いが解けました。……おめでとう。よく頑張ったね。私はあなたがこの世界で幸せになってくれることが望みだよ。だから今は……その喜びを噛み締めて欲しい……。そして……これから先の戦いをどうか生き残ってください……。それでは、ごめんなさい……。本当は一緒にいてあげたかったけど、今の私はここを離れられません……。」その人はそういうと僕にキスをして去っていったのだ。

その女性とのキスの後……僕の頭の中に浮かんできた映像の中にいた少女がリセルにそっくりなことに気づいた。だが、その記憶の映像が消える前に僕は……この女性の正体を知ったのであった。その正体は……なんと僕の幼馴染であり、ずっと僕のことを好きでいてくれていて、いつも僕と一緒にいることを望んだ女性である、水瀬彩花の姿が映し出されたのである。僕は……自分の気持ちに素直になり、彼女に好きだと伝えたのであったが……僕の告白を受けた彼女には僕の言葉は届いていないみたいで、悲しげな表情のままどこかに行ってしまったのであった。

(どうして……。彼女は僕に何かを隠しているのか?それが僕を苦しめることだとでも言うのだろうか?分からない……何も分からないんだ。僕は彼女の気持ちすら知らないまま……彼女を失ったんだ……。)

そう思いながら……僕の心の中が絶望に染まっていく……。すると僕の耳にこんな声が響き渡ったのだった。

(大丈夫だ……我が力を授けよう……。この世界を救うための力……。そしてあの女を救う力だ……。この世界であの女の心を救えるのは……貴様だけだから……。)

(どういうことだ?それに貴様って誰なんだ?僕は……。)

(そんな事はどうでもいい……。とにかく、我の力を受け取るのだ……。)

(分かった……。だが、何故お前の力が必要なんだ?それにこの世界とは……どういうことなんだ?)僕は心の中でそう問いかけたが……

(それは後々に教えよう。今はただ我を信じろ!!早く力を欲せよ!)その謎の人物はそう言って……僕の頭に語り掛けて来たのだ。そして次の瞬間……僕は……僕ではない何かが体を支配する感覚に陥ったのだった。

それから僕はゆっくりと目を開く。目の前にいるその男は、自分の状況を理解したらしく……そして怒り狂うように僕の方を睨みつけていたのだ。だが……その男は、何か違和感を感じ取っている様子だった。なぜならその男の目には僕の姿に違和感を覚えたような感じの動揺の色が見えたからである。その男からしてみれば……今、僕の目の前に立っているのは……僕ではなくて、全く別の人物なのだ。僕は僕じゃない別人が目の前にいるという事に気づきながらも冷静を保っていたのである。

「お前は一体、誰だ?」と男が言い出すのが聞こえた。

僕は、その言葉を聞いて少し戸惑ったのだが……僕の中に存在している人物が僕の口を使い話し始める……。そして僕は僕の意思とは別に動き始めてしまったのだ。僕はその光景を見て僕は驚いてしまうが、僕が動こうとしても僕の体は全然動いてくれない。その僕の目の前に現れた謎の人物と王の間に割って入るような形で移動しては王に向かって攻撃を放ち続けていた。そして僕の中から声が聞こえてくる。

(貴様は我が命じるままに動けばよいのだ。そして我が与える力を使ってあの者を殺すのだ……。)

(殺す?何の恨みがあって僕がそんな事をしないといけないんだ?だいたい君は誰なんだ!?僕の体の制御を奪うだなんて……君の方が何者なのかを説明してほしいんだけど。まあ……この状況を見れば大体察しが付くけど……。まあいいや、それよりも、何でこんなに急に強くなったのかが不思議なんだけど……、この力は君のくれた物なのかい?)僕はそう質問する。すると僕に体を貸す存在はその問いに対して答えたのだった。

(そうだ……。この剣の力により一時的にお前に宿ったに過ぎない……。今この剣には『神殺し』の能力が付与されている……。つまりはお前も『神』なのだ。だが、『神』といっても今のお前は神格が低すぎてその能力が発揮できていないだけなのだ……。本来であればもっと強い筈だが、まだ未熟なお前の肉体と精神のせいで力が制限されているのであろう。だからまず、お前の精神を安定させなければこの能力は発動しない……。この剣を握り、その刀身が光り始めた時が……そのチャンスなのだ……。だからその剣を強く握れ。そしたらお前にも見えるだろう……。その剣に刻まれて居る刻印が……、その文字を読むことで、お前はこの世界での本来の力を使えるようになるはずだ……。)

(……なるほどね……。それでこの剣の名前は……何て名前なの?)と、この世界の事について色々と知っていそうな謎の人物に疑問をぶつけてみることにする。すると僕の口から声が聞こえてくる。

「この剣は……。そうですね……。『剣神・ディバインブレード』と言います……。」

そう謎の人物に言われると同時に、僕の身体が勝手に剣を握って構えると……。突然……僕の視界が変化していったのだ。僕の意識もはっきりとしていて……。そして僕は王の動きを捉える事が出来ていたのである。僕は王の動きを見切り避けると同時にその剣を振るう。王はそれを避けることができず……そのままその剣によって王の首は斬り落とされたのであった。すると……首のない王の身体が地面に倒れる。そして王の胴体もその場に崩れ落ちるようにして倒れこんだ。それと同時に王の体が光り始める。僕はそれをじっと見つめていると……僕の身体は王の元へ駆け寄って行ったのである。そしてその光が消えていくとともに王の体が消滅していった。

(この光はいったい何なのだろうか?それにあの王が消えて無くなった。これは……どういう事なんだろうか……。)と、僕が困惑していると……

(あれは……。魂の解放です……。)と……僕の口から聞き覚えのある声が聞こえる。それは……リセルだった。

そしてリセルの口からは、この世界の現状について説明が始まったのである。リセルの話によるとこの国は『邪教国家 リザリス』と呼ばれる宗教の総本山が治める『聖国リザイア』というらしいのだ。この『聖リザルト帝国』という国は……表向きでは、聖女を神として祀り上げているという形になっているみたいだが、その裏では聖女リセルを崇拝し、リセルのために動いている宗教団体のようなものが存在しており、それの信者を聖女教団と呼んで崇め奉っているのだと言うのだ。そのリセルの話から僕は、ある言葉を思い出したのだ。それは『神界』の神々と『聖神』、『聖魔』、『創造主』、『魔導神』、『魔王』、『神族の末裔』、『魔導王』、『創造主の使徒』、『剣神』などの言葉の事だった。この意味を僕が考えているとその言葉の意味を知っている人物が、僕の思考に介入してきて僕の頭に直接話し掛けて来たのである。そして……その人物こそが僕の中に存在する人物だという事もその会話の中で知る事になったのであった。その人物はこう言う。

「私の名前……。そういえばまだ名乗っていませんでしたね……。私の本当の名前は……。『リセルシア』と申します……。私は……。『聖女神』であり……そして……『創世の七人』と呼ばれている存在の一人でした……。」そう彼女はそう言って……自分の事を詳しく語ってくれたのだった。彼女の言う事をまとめるとするならば……リセルは元々『リザリスの勇者召喚』を阻止しようとしていたのだが、その目的を果たす事無く彼女は死んだのだという。そして彼女はその死に際に、自分の持つ『スキル』の一つに、他の者の力を増幅させる能力を持っていたため、自分が死んだ後は……自分が生前持っていた力を持った存在が現れて、世界を守ることを祈っていたらしい。それが……この国の姫……リセルだと言っていたのだ。だが、僕という新たな力の担い手が産まれるまでは、世界は滅びようとしていたのだが……僕の中にいた謎の存在が僕の前に現れ……僕に力を託したという訳であった。だが僕はそんな話を鵜呑みにすることは出来なかったのである。なぜなら僕の中のその人格は明らかに怪しいと思ったからだ。

そもそも……何故僕が選ばれなければならないんだ?と、いうか……何故僕が選ばれたんだろう……。と、僕が悩んでいると、彼女はこんな言葉を呟いたのだ。

彼女は……こう言った。「私はあなたが好きなのです……。ずっと一緒にいたかった……。でも……私は死ぬ運命にあるみたいでした……。だから……最後にもう一度会えて嬉しかったですよ……。ありがとう……。本当にありがとうございました……。さようなら……。私の大好きな人……。これからの事は、全てお任せします。きっとあなたなら……世界を救えますよ……。お願い……しますね……。」そう言うと彼女は……微笑んだ後に息を引き取ったのである。

(僕が世界を救う?僕が?なんでそんな事になるんだよ……。世界を救うとか、そんな事はしたくない。僕は……平穏に暮らしたいのに……。どうしてこうなった……。誰か僕を助けてくれ……。助けてください……。)そう僕は願ったのだが……何も変化は無かったのだった。

そう思った直後……。僕は気を失ってしまったのだった。

次に目を覚ました時、僕はベットの上で寝ていたのだ。だが、その時に感じたのはとても懐かしい香りだった。それは僕の母親が料理をする時に出す独特の香りだ。その匂いを嗅ぐとなぜか安心した気持ちになれる。そして僕に話しかけてくる一人の女性がいた。僕はその声を聞くなり……涙が流れてしまったのだ。

(この人の……顔……。この声……。僕の知っている……。この人が誰なのか……思い出せない……。いや、思い出せるんだけど……この人を見ていると……胸の奥が熱くなるような……不思議な感覚に陥るんだ……。何なんだ……。この人は……。この人は一体……誰なんだ……?)そう僕が思っていると僕の心を読んだのか……その女性が僕の事を気遣うように……優しく声を掛けてくれたのである。

「大丈夫ですか?気分はどうでしょうか?」と……。僕は彼女に見惚れてしまっていたのだ。

僕はその言葉を聞いて……我に返ったのである。僕は慌てて立ち上がろうとしたが……まだ頭がフラフラするのか足がもつれて転んでしまいそうになる……。

だが、そんな僕を見て……彼女が支えてくれる。

すると僕は……その女性の姿を見て、心がざわつく様な、妙な感情に襲われていたのだ。僕の事を気遣いながら、優しく抱きかかえる女性を僕は知っていた。だけど……何故か記憶を消されているという事もあって名前も分からないし、その人の顔を見て、何か特別な物を感じた気がするのだが……それが何だかわからなかったのである。そんな僕の様子を不思議に感じていた女性は、心配そうな顔をして僕に語り掛けてくる。

「どこか怪我をしているところはありませんか?一応……手当はさせていただきましたが……。念の為にもう一度確認しておいた方が良いと思います……。もしお辛いようであれば……すぐに治癒術師を呼んできますけど……。」と言ってくれる。

僕は「いえ……。大丈夫です。どこも悪くないです。ちょっと頭痛がするくらいで……。すみません……。迷惑をおかけしてしまって……。」と言ったのだ。その女性は「良かった……。では……少し休まれていてください。今、お茶を持ってこさせますね……。」そう言い残してから僕のそばを離れていったのである。するとしばらくして僕の所に一人の少年が現れたのだった。その男は僕の方を見ていたのだ。すると僕の方も……その男の方を見る……。そして僕の頭の中は一瞬で混乱状態に陥っていたのである。その男が誰だったのかが分かったからだ。そして同時に僕の目からは……自然と涙が溢れ出してきたのである。それは……目の前にいる男の容姿を見た瞬間だった……。その男とは……僕の弟の姿に酷似していたのである。いや……弟なのかもしれない……とも思っていたのだった。なぜなら僕の知っている弟の姿がそこに居たからだ。

(まさか……。あの時の事が夢だったんじゃなくて……。現実に起きた事だったというの!?いや……ありえない!!あの後の記憶が曖昧過ぎて……はっきりとはわからないけど……。)そう僕の頭の中がぐるぐる回る……。そして僕の心の中である思いが生まれてきたのである。僕はその思いを必死に抑える。だが……僕の理性では抑えられそうに無かった。そしてついに僕は言ってしまったのである。「……お前……。悠斗……か……?」その言葉を耳にした少年がこちらを振り向いたのだ。そして僕の瞳を見つめている。そして彼は口を開いた。その言葉を聞いた僕は……彼の発したその言葉で……自分の中の不安感が全て吹き飛んだのであった。「俺の名前は『佐藤 優馬』。君の名前は……なんて言うんだ?君は……俺のことを兄ちゃんと呼んでもいいぜ!そして俺は君のことを呼ぶ時は……ゆうま兄さんと呼ぶがいい!!」そう自信満々の表情で言う彼……『ユウマ』の言葉を聞いて僕は笑みがこぼれてしまう……。そして「はははははっ!」と、声を上げて笑ってしまのであった。

(……なるほどね……。『勇者』の力を僕が受け継いだ事で……。あの夢の世界の続きが始まったという事なのかな……。そして……あの『リセル』と名乗る女神は、『リセルシア』だったと……。あの女が……あの時の事を覚えていなかった事に関しては残念な気持ちはあるけど……。でも、またあの女神に会うことが出来たのなら……僕はもうそれで良いんだ……。それよりもまずはこの世界がいったいどんな状況なのかを知る必要があるよね……。それにしても……『リセルシア』の『力』は、あの女の力だけじゃないみたいだし……これはかなり強いぞ……? しかもレベル上限が無いらしいし、強くなれば強くなる程……成長速度が凄いことになるかもね。『剣神』の称号を得ただけでも……ステータスの数値は恐ろしい事になっていると思うし……。これは本気で頑張らないといけなくなったよ……本当に……。)

そんな事を考えながらユウナの方に視線を移す。

だが、僕の視線に気づいたユウナは……僕を睨むような鋭い視線で見返してきて、「あなたはいったい誰なんですか?」と言うのであった。その言葉を聞き……僕の心はズキッと痛むが……。僕は……その問いに対して、笑顔を浮かべながら「僕にもわからないんです……。目が覚めたらここで寝かされていたので……。ただ、一つ言える事は……あなたのお姉さんの……恋人?だったみたいですね……。」と言うのであった。その言葉を聞いたユウキは、その僕の言葉を真に受けてしまったようで……。僕のことを『兄貴』と呼んで慕うようになっていたのだ。

それからしばらく経つと、ユウガが食事を持ってきたのだが……なぜか一緒に食べることになったのである。その時……ふと思い出したのが、昔よく母さんと二人で作っていたご飯の事を思い出すと……涙が出そうになってしまったのだ。すると僕の異変に気付いたのか、二人は僕の顔を覗き込んできて、「どうかしましたか?体調が優れないようでしたら、私達に言ってください。すぐに治療しますから……。」「ああ、そうだぜ?遠慮せずに言うんだ……。」と、心配されてしまったのだ。

(僕には家族はいないと思っていたんだけど……。今は……いるみたいなんだ……。だけど……僕の知っている人たちではないようだし……。どうしたものだろうか……。僕の中にある謎の力は……まだ謎に包まれたままだ……。とりあえずこの二人の様子を見ていると、僕が知っているあの人達よりも数段……弱いんだ……。それなら……僕はこの世界で自由に生きることができるんじゃないか?というより……今の状態なら僕は最強だと思うんだよ。だって……僕の知っているこの国の王や姫よりも圧倒的に強い人が二人もいるからね……。この国を支配しようと思えば支配できてしまいそうなくらいに強いんだよ?でもそんな事は絶対にしない……。僕は……平穏な日々を過ごしたいという気持ちの方が強いんだ……。だから……この力を悪用する事は無いよ。むしろこの力で……僕は大切な人を守ろうと思う。それが僕が出来る唯一の恩返しだと思っているから……。それに僕の中で生き続ける『女神 アリシア・シルフィルド様の願いでもあったしね……。僕が世界を守る事ができた時にはきっと平和になるはずさ……。きっとこの世界を救う事が出来ると信じて頑張っていこう。そしていつかきっと元の世界に帰れるように努力をして行こうじゃないか。僕も元の世界に戻ってもう一度会っておかないといけない人に会わなくちゃいけないからね。そのために僕はこれから何をしようか考えている所なんだ。)そう僕は考えをまとめたのだ。

そして食事が終わった後に……なぜか僕にユウマとユーミイが勝負を申し込んできたのだ。どうやら、僕に勝つ事ができれば、この国の王に推薦するという話を国王にされたようだった。正直……僕は面倒くさかったのだが……この二人があまりにしつこくお願いしてくるものだから仕方がなく付き合う事にしたのである。ちなみに……勝負の内容は模擬戦だった。僕はその二人と戦ってみることにすると……あっさりと決着がついてしまったのである。

どうやら僕は、相手の魔力を感じると大体の強さがわかるようになったのだった。そして、二人の力量もある程度は把握できるようになっていったのだ。その結果わかったのが、僕は『勇者』であるユウマの実力を上回るほどに……ユウナよりも強くなっていたということである。それは僕の身体に秘められている力の大きさの違いだと推測することができたのだ。僕自身も、その力がどういうものなのかがわかってきたのだった。だが、それと同時に……『勇者』の力も受け継いでいる事も理解していた。だがそれは、ユウマにも同じ事がいえた。つまり僕はユウマに勝ち目がないと思ったのだ。そこで僕はある提案をする。それはお互いをライバルとして認め合い……そして切札を使わないという事を条件にすることにしたのである。

そう、お互いが切り札を持っているのだ。もしそれを使えれば間違いなく僕が負けてしまうだろう。それだけ『光魔融合』という能力は強力だと判断したからだ。そして、その条件を飲み込む事を承諾してくれた。その事を嬉しく思ったのだった。

僕と、『勇者 ユウガ』『勇者 ユウマ』『剣士 ユウカ』の三人はお互いにライバルとなったのである。

だが、僕はその後……すぐに『聖樹の森』に向かうことにして……。

そして、僕たちは魔王を封印することに成功するのだった。しかし、同時に僕の命も終わってしまう事になるのだった。

(僕は……死ぬのか……。もっと生きたかったけど……。これが運命ならば受け入れないとね……。それに……僕の中に眠るこの強大な力があれば……あの魔王を倒して、世界を平和にする事が出来るかも知れない……。あの……女神さまとの約束を果たせることができるかもね……。それに、あの時女神様に言われたように、もしかしたら僕は転生する可能性もあるかもしれないしね……。でもね、それでも……僕はまだ死ねない……。ユウト君を助けなければならないからね……。僕と同じ境遇で、そして……愛する人の為に自分の人生を捧げる事を決意した『佐藤 優馬』の為にも……。そして何よりも、ユウト君の想い人である……『桜坂 真奈』さんのためにも……。僕にはまだ……成すべきことがある!!)そう思い僕は……『光魔法 天昇輪廻』を使うのであった。

僕は『女神の加護』の力を使って、あの時の世界に戻った。

そして、『聖剣 セイクリッド・ブレイブハート』を手にしたのである。そして……僕は、僕自身の意識が途切れないように『スキルリカバー』を使いながら戦うことを決意した。

(僕の中に眠っている力を解放してもいいが……今は使わずにいた方がいいだろう……。それに……僕が力を解放することで起きる反動もあるかもしれない……。下手に力を使う事で……ユウト君を危険な目に合わせる可能性もあった……。だからここは、自分の能力を最大限に使って魔王と戦う必要がある……。そのためには、今の僕のレベルはあまりにも低すぎる……。)そう考えると僕は、ステータス画面を確認することにしたのだ。

そして驚いたのが、自分のレベルの上昇が尋常ではなかったのだ。なんと……『レベル100』まで上がっていたのである。それもこれも、僕が『聖樹の都 アース』にいるときに、『魔王』の呪いを受けた事で、その分の成長補正が入っていたのだ。僕は、『ステータス・フルオープン』を使い、現在の自分の力を確かめることにしたのだ。そして出た答えが、次のようになる。

名前:シン

性別 :男性

年齢18歳 種族:

ヒューマン Lv:

999 HP:25999/25998(200000)

MP:25968/26458(250056)

攻撃力:15321

防御力:14752

敏捷力:15054

知力:5076

運:1000 ギフト

・スキル『オールステータスUP LVMAX』(常時発動)

・称号『剣神』

『勇者』

『異世界の来訪者』

『剣豪』

『剣神』

(やっぱり……。ステータスがおかしいことになっている……。それにレベルは999になっているね……。しかも……。数値の上昇率が凄まじい……。これは僕のレベルの上限が存在しないからこそ可能なことだ……。)僕は『勇者 ユウマ』から譲り受けた聖剣

『神剣エクスカリバー』をアイテムボックスの中に入れると、新たなる武器を取り出すために僕は手に力を入れた。すると目の前に僕の身長くらいの槍が現れるのであった。僕はこの武器を知っていた。その名も『光聖竜神の錫杖』、『セイリュウノシャクジョウ』だ! 僕はすぐに装備を変更して戦いの準備を整えるのであった。……それから僕は魔王の攻撃を受けては回避を繰り返す事を続けていた。攻撃を受けるたびに僕は少しずつダメージを受けていったが……。僕の体力はかなりあった為……。なんとか持ちこたえることが出来たのである。それに……僕の持っている防御系の技を使えばダメージをほぼ抑えることが可能だったのだ。ただ……魔王の攻撃の方が速かったため、僕は何度も吹き飛ばされたりもしたが、それでも立ち上がる事が出来たのである。そんな感じで、戦闘を続けてしばらく経つと、ついに魔王の体に大きな傷を付けることに成功したのだった。

「ぐぅっ!?我が体にこんな傷を付けおった奴など初めて見たぞ?貴様は何者だ?」と……魔王が言ってきた。

「僕の名を知りたいのか?なら……教えてやろうじゃないか……。」僕はそう言いながら構えを取ると、「僕はシンだ!」と言うと、「我を追い詰めるとはこの程度の強さとは思わなかったな……。だが……この程度で倒せると思うな!!」と

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