知人以上友人未満

知人以上友人未満

志波しば。あのさ…」

「何?」

 俺のこと好きになった。付き合って?とか言わないでね?

 自意識過剰ではなく、俺にはよくある展開なので先読みしてしまう…。

「どうも好きになったっぽい」

「は?」

「付き合ってくんない?」

「ヤダ」

 同性に興味ないんだよなぁ。わりぃ。

「可能性もない?」

「ないね」

 ない。ない。

 そう言って、去る予定だった…。

「俺達、結構いい仲だったじゃん」

「友達として、だろ?」

「下心もありき、じゃない?」

「ねぇわ」

 何で、こんなに勘違いされるのだろう。

 この状況も腐女子にはオイシイ展開なのだろうか…。あえて状況説明はするまい。

 俺の身長が低いからって上から目線はムカつくんだよ。いや、これはひがみだ…。

「俺だって初めてなんだよ」

「知るか」

「少しくらい考えてくれてもよくない?」

「無理。だから、無理だって」

 友達以外考えられねぇって言ってるのに、迫って来るし…。必死で抵抗してたら、急に体が自由になった…。

「少しくらい考えてあげたら…?」

「あ。あのバー…」

「初めまして」

 初対面なんかじゃない。これは再会なのに彼はそう言う…。

「知り合いに似てるんですけど」

「気のせいじゃないですか?」

 知らないフリするって、酷くない?

「志波は俺のっ」

「誰のモノでもない」

「誰のモノでもねぇ」

 シンクロした俺達は、お互いに顔を合わせて笑った。

 それから、いつも行きつけのバーに彼は居なくなっていた…。名前が今も思い出せないまま、数年後。

「あ。あのバー…」

「初めまして」

 だから、初対面ではない。

波須はすくん、新卒でとる予定のコなの。ちょっとの間だけど指導してあげてね?」

「はぁい」

 波須って言うのか…。

志波しばくん、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ…」

 何で俺の名前…、って名札、か。

 でも、ストレートに読まれたことないんだよな…。

「成長しなかったのな…」

 波須さんが耳元で囁いた言葉に、グーパンで答えようとしたら宙を舞った。

「暴力はよくない」

「言葉の暴力もよくない」

「だな」

「ですねっ」

 いつかのようにまた顔を合わせて笑った。

 青ざめた顔の社員さんに波須さんが、

「実は知り合いで…」

「あぁ、そういうこと…」

 ようやく認めた。

 それが少し嬉しくてニヤニヤした。笑みが止まらん…。

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知人以上友人未満 @tamaki_1130_2020

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