第6話 魔法少女名
「決めました! 魔法少女の名前! あたしの魔法少女名マジカルネームは……」
「え? ちょっと、待って?」
「は、はい?」
それは…………。
口に出す前に、またしてもあっさり
何やら微妙そうな困惑顔をしている月下さんに、あたしは首を傾げる。
どうして、止められたんだろう?
「えーと、つまり、魔法少女になるって決めたってことでいいのかしら?」
「はい! ………………あ!」
困惑顔のまま尋ねてくる月下さんに元気よく答えてから、唐突に思い出した。
そう言えば、あたし。
魔法少女のなるのを考えさせてくださいって言って、ここに連れてこられたんだった。
血の契約とか、下僕とか言う単語にビビって答えを保留にしてもらったのに、自己紹介してもらっただけで、その辺全然確認してないのに…………っていうか! そもそも、まだ魔法少女になってないし! それ以前に、魔法少女になるかどうかの返事もしていないよ!
なのに、いきなり魔法少女名を名乗ろうとしてるとか…………。
うわ。冷静に考えるとかなり恥ずかしい。
そりゃ、月下さんも戸惑うわけだよね?
え、えーと。
この後、あたしはどうしたら…………?
オロオロ。
「まあ、いいんじゃない? 決心したなら、気が変わらないうちに契約しちゃえば」
興味なさそうな顔であたしを見ている月華の肩の上で、鳥さんが真っ白い羽をバサリとさせた。
う。
そういう言い方をされると、なんか騙されているみたいで、何かためらわれるんですケド。
あと、月華は、なんでそんなに関心がなさそうなの?
あたしを魔法少女に勧誘してきたのは、月華の方だよね?
オロオロしているあたしと、まるで興味なさそうな月華を余所に、月下さんと鳥さんのやり取りは続く。
「そんな、悪徳商法みたいな…………。一応、ちゃんと魔法少女になることのメリットとデメリットを聞いた上で決めた方がいいと思うのよね。自分の現状をよく理解できていなくて、軽く考えているのなら、尚更。一度契約をしたら、もう元の人間には戻れないのだもの。まあ、ここで生きていくつもりなら、力が必要なのは確かだけれど、ね」
「…………何の力もないただの少女は、すぐに妖魔に食べられて死んじゃうんだから、出来れば名前は知りたくない…………だっけ? それだったら、せっかく本人がその気なんだし、気が変わらないうちに契約をした方がいいと思うけど。魔法少女になれば、生存確率は格段に跳ね上がるわけだし。まあ、その後なんかあったとしても、魔法少女になった後なら、それはほら。自己責任ってやつじゃない?」
「ゆ・き・し・ろ?」
「あー、分かったわよ。大人しく鳥に徹してるから、あとはあんたの好きにしてちょーだい」
お花の代わりにブリザードを背負った月下さんの微笑みにたじろいで、鳥さんはすごすごと引き下がった。
………………って、いや?
今はまだ名前を聞かないって。魔法少女になってから名前を聞かせてって。
さっきのアレって、そういう意味なの!?
あとあとあと。
一度契約したらもう元の人間には戻れないとか。
でも、魔法少女にならないと、生存確率がどうとか。
え? ええ?
なんか、混乱してきた。
魔法少女になった方がいいの?
ならない方がいいの?
どっち?
「まあ、こんなところで立ち話もなんだから。どうぞ、上がってちょうだい。大事な話だし、続きは座ってしましょう?」
「は、はい…………。お邪魔します」
月下さんに促されたので、靴を脱いで板の間に上がろうとしたら、その脇を月華がすり抜けようとして、月下さんに止められた。板の間の上から月下さんが、鳥さんが止まっていない方の月華の肩をがっしりと掴んだのだ。
「何処に行くのかしら? 月華?」
「ん? いや、話が長くなりそうだし、少し外へ出ようと思ってな」
「たぶん、そんなにはかからないと思うから、ここにいてちょうだい」
「……………………」
ほんのり冷気を含ませた月下さんの微笑みを、月華は無言で見上げる。
「一度出かけたら、いつ戻ってくるか分からないんだから。ここにいてちょうだい?」
「………………分かった」
静かだけれど押しの強い月下さんの言葉に、月華は渋々、といった感じに頷いた。相変わらずの無表情だけど、何となくそんな感じっぽかった。超然とした美貌で、近寄りがたいところのある月華だけど、月下さんの前だと妹っぽい感じで何だか可愛い気がする。
うーん、しかし。
魔法少女は、月華の下僕…………って、言ってたような気がするんだけど。ここの力関係は、どうなっているんだろう?
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