4.30.和気あいあいと
応錬さんに持ち上げられたまま、僕はグルグルと振り回される。
さっきの雰囲気が霧散したと思ったら急に愉快な人になった!?
何この人!
情緒不安定過ぎない!?
だがそこで、違和感が脇に走った。
応錬が脇を抱えて持ち上げ、楽しそうに振り回しているのではあるが……。
そこに、感じたことのない感触が伝わって来ていた。
「わっ!? わわわわっ!!? な、なになに!?」
「最後に見たのは赤ん坊の頃だったからぁー! いやぁー零漸に似た黒い髪! 格好がいいじゃないかー!」
「うわああああなんか変な感じがする!!」
「お、あいつの口調は引き継がなかったみたいだな」
ようやく満足したのか、すとんっと僕を降ろしてくれる。
だが脇に何やら変な感触が残ったままだ。
ぞわわっとして身を守る様に腕を体に巻き付け、応錬から数歩後退する。
なにこれ気持ち悪い!!
じ、自分で触ってもなんともないのに……!
これ……ぎ、技能なの!?
凄い地味な技能持ってるこの人!!
初めて体に伝わってきた“感触”は想像を絶するほど気持ち悪かった。
一体なんなのか、と困惑している僕をよそ目に、応錬は次にアマリアズの頭を撫でる。
「アマリアズはどうして天使に追われてるんだ?」
「頭を撫でるな……! なんか変な感じする!」
「んー? 魔力が多いからかな。そんで? なんで追われてるんだ?」
「技能を持ってるからだよ」
「へぇ?」
いまいちよく分かっていなさそうな返答をした後、ウチカゲを見る。
どうやら説明を求めている様だ。
その視線の意味に気付いたらしく、咳払いをして説明する。
「今は技能は失われ、魔法がこの時代の主流です」
「なくなったのか」
「はい。なので鬼たちも、人間も、悪魔も……あの戦い以降に生まれた子供たちは技能を持っておりませぬ。技能を持っているのは、四百年前の者たちと、アマリアズの様に特殊な者だけです」
「あれ、でも宥漸はあの後に生まれたよな?」
「零漸殿のお子ですぞ。防御面に優れ、更に今もなお技能を発現し続けております」
「そりゃすごい」
応錬さんがこちらを見る。
感心したような目線を送っているのではあるが、なんか不気味!
うわあああさっき触られたところが変な感じするぅう!!
脇をさすっていると、お母さんが近づいてきてくれた。
どうしたのだろうと首を傾げていたが、何かを思い出したらしく、小さく笑う。
「ああ、なるほど。応錬さんの『防御貫通』で触られたところに違和感があるのね」
「ぼ、ぼうぎょかんつう……?」
なにそれ……。
確かにお母さんの言う通り変な感触が今もあるけど……。
すると、応錬さんが意外そうな表情をしてこちらを振り向いた。
「あえ? てことは宥漸って、今まで何かに“触った”とか“触られた”とかいう感触知らないのか?」
「私の全力にも耐えますな」
「えっ」
ウチカゲお爺ちゃんの言葉に素で驚く応錬さんだったが、その話は聞き捨てならない。
「えっ!? ウチカゲお爺ちゃん本気で僕に修行つけてたの!?」
「何をしても大丈夫そうだったからな」
「聞いてない!」
「言ってないからな」
く、くそう……。
淡々と返されるとなんか何も言えなくなるんですけど……!
と、いうか。
僕ってウチカゲお爺ちゃんの全力にも耐えられるくらい硬かったのかぁ……。
ナイフ突き立ててみても傷一つ付かなかったし。
それを知っててウチカゲお爺ちゃんも力入れて修行させることができたんだろうな。
すると、応錬さんが近づいてきた。
なんか嫌な予感がすると思ったけど、予想とは裏腹に優しく手を取った。
「うわああああ気持ち悪い!!!!」
「酷いな!! つっても、感触を知らないんだったらそれも無理はないか。この調子だと、痛覚も知らなさそうだしな」
「つ、痛覚?」
「そう。痛覚」
応錬さんが僕の額の前に、指を弾く構えを取った。
「『波拳・衝撃波』」
パコンッ!
良い音がしたと思った瞬間、僕はひっくり返って地面に頭を打ち付けていた。
だがそこはまるでなんともない。
しかし……指で弾かれた額がじんじんとしている。
手加減をしてくれたようではあったが、次第に痺れる様な感触が額に走っていく。
「なあああにこれ!!?」
「それが痛覚。咄嗟に『痛い』って口にしないのも、それを知らなかったからだろう。だが痛覚は覚えておいた方がいい。俺みたいな奴に遭遇するかもしれないからな」
お母さんもアマリアズも、僕を助けることなく神妙に頷いている。
アマリアズは分かるけどお母さんには少しくらい心配して欲しかった。
ようやく痛みが引いてきたので、とりあえず立ち上がる。
まだ少し……痛い? けど。
ていうか何で痛覚って必要なの?
体張って理解する必要なかったと思うんだけど。
「むぅ……」
「あら、納得してなさそうね」
「だって、僕は基本的に攻撃効かないし……。応錬さんみたいな変な人が出てくる事もないんじゃないかなって」
「まぁ確かにそうなんだけどね」
「おいこら誰が変な人だ。カルナも肯定すんな」
いや、変な人には変わりないような……。
あ、変わり者って言った方が優しいかな。
「でもね宥漸。本来あるべき感覚が一つないっていうのは、危機察知能力に影響が出るの」
「そうなの?」
「そうよ。気配だけじゃ分からないことも多いからね」
「おーい無視するなー?」
なるほど……お母さんの言っていることはなんとなく分かる。
でも今までそんな感覚とは無縁だったんだもん。
すぐにできるようにはならないかな……。
でも要するに、攻撃を避ければいいってことだよね。
当たらなければ問題ないだろうし。
「……おい、ウチカゲ」
「どうされました?」
先ほどの朗らかとした雰囲気から一変。
応錬は真剣な顔つきになり、洞窟の出口へと顔を向けている。
僕たちもその変化に気付いて彼の方へと視線を向けていたのだが、次の瞬間地面を強く蹴って走り出した。
「行くぞ!」
「お、応錬様!?」
ウチカゲお爺ちゃんはいつもの俊足でその場から消えてしまう。
残された僕たちも顔を見合わせ、その後ろを追っていった。
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