4.1.逃走先
夜の森は恐ろしく暗い。
人の手が入っていない自然林は木々が好き放題伸びており、大量の草が進行を妨げる。
うんざりなほど生い茂っている草たちは身を隠すのにはちょうどいい隠れ蓑になるだろうが、それ以外だと邪魔でしかない。
がっさがっさと搔き分けて進んで行くと、ようやく開けた場所に出た。
この辺は大木の葉が日光を遮って地面に光が届かない場所らしい。
しかしそういう場所は大木の根がうねうねと地面から飛び出しており、今度はそれが進行を妨げた。
とはいえ背の高い草よりは幾分かマシだ。
体についた汚れを軽く払いながら、根に腰かける。
ずいぶんと移動してきたがここはどこだろうか。
空を見上げて星の位置を確認しようとしたが、完全に樹木の枝や葉で空が覆われており眺めることは叶わなかった。
「……はぁ~~~~……」
「大きなため息もつきたくなる気持ちは分かるけど、私まで気が滅入るんだが」
「なんかもうよく分かんない」
「それはそうだろう」
僕の隣りに、アマリアズが腰かける。
草で切ってしまったであろう傷を見て、手をぶらぶらさせた。
掠り傷なのでどうってことはないのだが、小さな傷というものは目につくと痛みが出る。
……前鬼の里を出て、どうすればいいのかな。
僕、帰れるのかな?
……なにを達成したら帰れるとか、そういう指標が一切ないから、そう考えるだけで気が遠くなりそう。
今何をすればいいかもわかってない。
とにかく前鬼の里から離れることに集中したけど、一日で移動できる距離なんてたかがしれている。
サバイバル生活は……まぁウチカゲお爺ちゃんが教えてくれたし、アマリアズもいるから何とかなるとは思うけど……。
ああー!
もうこんな事ばっか考えてると頭変になりそう!
いや必要なことだけど!
そうなった理由が理由だからもやもやする!
「はぁ~~~~!」
「悩んでるねぇ」
「悩むよそりゃ。これからどうしたらいいのさ」
「そうだね……」
アマリアズが見えない空を仰ぐ。
足をぶらぶらと揺らしながら、今やらなければならないことを頭の中で整理する。
「まずは生きる事。んでもって、前鬼の里からさらに離れる。とにかくガロット王国の目の届かない所に行かないとね」
「徒歩の旅で行けるところとか限られてるよね? どうするの」
「街道に出て御者を見つけるしかないかな。技能を応用して空は飛べるけど、長距離移動はできないし」
ああ、あの『空圧剣』を使った移動方法ね。
僕のも長距離移動はできないかな。
崖を登るのに使える程度の技能だし。
……ガロット王国の目の届かない所、かぁ。
そんなところあるのかな?
ていうかキュリィが本当に技能を持ってて、それでタタレバが言っていたことをガロット王国の国民たちに植え付けられるんだったら、他の人にもできるよね。
それって……僕たちがこれから出会う可能性のある人たちも、その情報を知っている可能性があるって事……だよなぁ……。
えー、誰も信じられないじゃん。
キュリィは空を飛ぶみたいだし、僕たちより移動速度は全然速い。
先回りして他の国にも技能を使って人々に教えている可能性もある……。
「……顔、隠さないとなぁ……」
「そうだね。多分私も同じようにした方がいいかな。顔さえ見られなければ何とかなるかもしれないし」
「アマリアズ目立つもんね。僕もだけど。でもローブなんて持って来てないよ」
「誰かから買うか、奪うかしないとね」
「犯罪に手を染めるのは止めようよ……」
「けどさ、私たち今、無一文だよ?」
「むぅ……」
すぐに前鬼の里を出たから何も持って来ていない。
準備くらいして来ればよかったな……。
アマリアズが急かすから……って思ったけど急だったし、そんな時間なかったか。
「……どこかお金稼げるところも探した方がいいよね」
「そうだねぇ~。大抵のことはお金で何とかなるから、あって損はない。ま、一番近い街でも徒歩で二週間かかるし、道中獣の皮とか素材とか集めていけば、何とかなるんじゃないかなぁ~」
「本当に?」
「キュリィのくそ野郎がその街に君のことをばらしてなければ」
「はぁ~~~~……」
結局そこに逆戻りかぁ……。
いやだなぁ。
「……ねぇ、アマリアズ」
「なんだい?」
「そろそろ本当のこと話してよ」
その言葉を聞いて、アマリアズから笑顔が消えた。
だがすぐに小さく笑い、足をぶらぶらとさせる。
アマリアズは何か知ってる。
それは昔から分かってたけど、アマリアズ自身何か抱えてると思って誰も聞かなかったことだ。
だけど、ここまで来たならもう話してもらいたい。
天使を知ってたんだ。
技能のことにも詳しいし、魔物のことにも詳しい。
ていうかアマリアズが昔嘘をついていたということは既に知っている。
当時の僕でもさすがにあの嘘には騙されないよ。
「……いいけど、信じられる?」
「それは分かんない」
「んー、そうだな。あ! これを信じられたら他のことも全部信じられる事実が一つあるけど」
「それは?」
にこりと笑ったアマリアズは、根から腰を下ろして立ち上がる。
僕の前にひょうひょうとした足取りでやって来て、空を指さした。
「私は元神様です」
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