1話の次
まさかこんなことになるなんて微塵も思わなかった。聞いたところ、亜人を主体とした暴動が国で始まり大規模なクビ切りが始まった。らしい。
こんなことはここ数十年でも珍しいことで、自分が被害を受けるなんて思いもしなかった。
「はぁ、何だって俺が…」
悪態をついたところで結局は職無しだ。
しかし、他のことばかり考えていると前方不注意になってしまうものだ。明らかに不良的な見た目の男がいても、うっかり肩がぶつかってしまう事もある。
「あーあー兄ちゃん、これ骨折れちゃったわー」
「とりあえず金目の物置いてってくんね?」
男は軽い衝撃に似つかわしくない脅し文句を放ってくるが、こんなこと日常茶飯事だ。
「何?」
少し語気を強めて話せばちっぽけな虚栄心は音を立てて崩れる。それに…
「あ? よく見たらお前、亜人かよ!」
男の下卑た笑いが、あからさまな嫌悪の感情に変わり、そそくさと俺の元を離れていく。そう、俺は亜人だ。額から生えた角は注視しなければ認識できないが、確かに違和感を放っている。こんな生い立ちのせいで冒険者ランクは低級止まり、おまけに住まいは貧民街だ。
亜人の方が基礎的なステータスが高いことからくるコンプレックスからか、頭数の多い人族は亜人に対する差別を長年続けてきた。件の暴動も長年の扱いに耐えかねた亜人達による物だろう。
気持ちはわかる。しかし、あの暴動のせいで亜人への悪感情は加速することだろう。
被差別種族でありながら職を失うなんて、これ以上悪くなる未来が見えないが、良くなる未来も見えない。憂鬱な気分のまま、一日が終わった。
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