2章 数少ない力

 「うるせー!!!」


 俺が嘆きたかったその一心で叫んだはず、いや、叫んだのだが、誰かに怒鳴られたのだ。

 あの三人のうちの誰かなのか?

 そう思い、三人に視線を向けようとしたが。


 見る事ができなかった。

 何も見えなかった訳ではない。そう、羽だけは見えたのだ。羽だけが....。


 バッゴォォォン!!


 俺は、その羽に勢い良くぶん殴られた。

 「く....。ル....ル。何....で?」

 羽を持つのはこの三人ではルルしかいないのはわかっていたので、その言葉はすんなり出てきた。


 「叫んだからじゃねーか!!!」

 そして、もう一度羽が振り上がったので。

 「あわわわ!わかった!ごめんなさいー!ルルさん!」

 「よし!!」

 謝ったら機嫌を恐ろしい速さで取り戻した。さっきのは何?ルルさん....恐ろしい....。

 その様子を見ていたレイリとアリーシャはどう言葉をかければいいかわからないといった表情を出していた。


 「んでよ....。俺は、どうすればいいんだ?」

 今まで話している中でレイリが物知りな気がしたため、レイリに頼ってみる事にした。


 「何で、それを私に?」

 「だって、俺、この世界の事、何も知らないもん」

 「そんな事言われてもー....」


 マジかよ....。でも、無理はない。レイリ達は元々、この世界に生きているからどうしろというのは無いのかもしれない。一様と思い、アリーシャとルルに聞いてみるか。そう思い、二人に目を向けると....。


 「....」

 目を合わせるどころか背を向けられた。嫌われてんのか?


 その間にもレイリは考えていたみたいだ。そして、

 「もしかすると....」

 「ん?」

 「兄が何か言ってくれるかも!!」

 「お、おう」

 もっと良い事を言ってくれると思っていたのに....。


 「それで?そのお兄さんはどこに?」

 まあ、どこかに出かけていない限り、同じ家にいるはずだろう。そう思い、聞いてみたが....。


 「ん?そこにいるよ」

 俺の後ろを指差した。

 「は?俺の後ろには誰もいるわけ....」

 振り返ってみると....。

 いなかったはずなのに、一瞬、波打つかのように時空が歪むと、姿を現した。


 「はー!!?」

 「レイリ....。人に頼りすぎじゃないか?」

 「だって、わかんないもん!」

 俺の驚きを無視して、話が進む。辛い。


 「それで?何か思い付いた?ゼル兄」


 そう言われると思い出したかのように、慌てて俺の方に話しかけてきた。


 「今まで話しかけてなくてすまない。私の名はゼルリス。ショウと言ったか?よろしく頼む」


 名前が違うんだけど....。まあ、それが呼びやすいのならそれでいいか。


 「よろしく、ゼルリス。それで、無理な事を言うつもりだけど何か思い付いたりする?」

 「是非、ショウもゼル兄よ呼んでくれると助かる」

 「それで、一つだけ思い付いたのだが....」

 「お!それは聞かせてくれ!」

 さすが兄といったところだ。頼もしい。どんな事を言ってくるのかわからないが....。


 「この町のはずれにギルドがある」

 「ギルド?何をする所だ?」

 「基本的には冒険者が依頼を受ける時の場所なのだが、実はもう一つできることがあってだな....」


 冒険者という言葉に少し心をゆさぶられる所があった。俺自身、ゲームは趣味でよくしていたし、その中でもRPGとかは結構、熱中していたものだ。一度は冒険者だの、勇者だの、輝ける職になってみたいものだな....。


 さてさて、話を戻すか。


 「それで?何ができるんだ?」

 「そこでその人が一体、どのような能力を持っているかを確認することができる」


 なるほど....。ステータスといったところか。


 「それを見てからどうするか決めるべきと言う事か?」

 「だと思っているのだがどうする?行くというのなら案内するぞ」


 今の状況でこの判断は最もかもしれない。


 「行ってみるとするか。ゼル兄、よろしく頼む」

 「おう」


 よし、やる事が決まったな。と思っていると....。


 「ギルド行くの?私も連れて行かせて!!」


 興味津々な顔をして、勢い良くそう言ったのはレイリだった。


 「レイリ....。行ってどうするんだ?」

 「私もどんな能力を持ってるか見てみたい!」


 そして、レイリはアリーシャとルルの方を見て、


 「気になるよね?」


 おいおい、誘うなよ。気になっているのならしょうがないけど....。


 「た、確かに私も気になるかな....」


 そう言ったのは意外な事にアリーシャだった。初めて声を聞いたから少し驚いた。見た目に限らず、声も穏やかだ。


 「私もとんでもない力を持ってそうだし、気になるね!」

 一方のルルは、根拠の無い自信を持っているらしい。

 こうなってしまうと止められないと悟ったゼル兄は、ここにいる全員でギルドへ行くことにした。


 四人に誘われて行こうとしたところで、俺は、ふと、思った。


 「何気にこの世界の外をまともに見てないな」


 ギルドに行くまでの道中で少しでも眺めておくとするか。


 そう言って、外へ出てみた。


 「おー....」

 「どうしたの?」

 「あ、いや外はこんな風になってたんだな」

 「ショウは本当に何も知らないんだなー。どうやって今まで過ごしてたのよ?」

 ルルにそう言われながら、肩を叩かれた。


 「痛!」

 

 結果としては、俺の想定外だった。大体、こういう転生して最初の場所は大きな町で、賑やかで、何があるのかも分からないほど色々な店が点在しているものだと思っていた。しかし、実際は違った。


 確かにレイリからべスティルという国のはずれとは聞いていたが、こんなにもとは....。


 見る限り、家しかない。しかも殺風景で、どれくらいの人が住んでいるのかと思わせるほどの静けさだった。しかし、それと正反対に俺らは、騒がしかった。


 道中、俺とレイリら三人はそれぞれが一体、どんな力を持っているかが楽しみでしょうがなくて、あれやこれやと想像してはお互いに話していた。そのおかげで、ギルドにはあっという間に着いた。


 ゼル兄からは小規模とは聞いていたが、確かに入ってみると嘘みたいに人が少なすぎて閑散としていた。でも大人数でパーティーでもできるのではと思わせる広さである。そして、見回していると左手に依頼の受付ができるのだろか。そのような場がある。すると、奥に何だろう。機械なのだろうかよく分からない。だが、おそらく俺らはあの機械もどきに用があると思う。あくまでも勘だが、他に何かできるような物が無さそうに見えた。


 「あそこだ」

 そう言って、ゼル兄は俺の予想した通りにその機械もどきがある奥の方へ向かっていった。


 「あのー....」

 真っ先に奥へと進んで行くのを見て、話しかけてきたのは受付の人だろうか。メイドのような格好をしたネコのように見えて、語尾にニャンとか付けそうな雰囲気を出していたが....。


 「能力の確認をしに来たのでしょうか?」

 全くもって普通の語尾であった。


 「ああ。その通りだ。やり方はわかっているから大丈夫だ」

 ゼル兄が頼りのある発言をしたおかげで、その受付の人は、一瞬、驚いたが、自分のやる事が無くなったと察してなのか、静かにお辞儀をして先ほど居た受付所に戻っていった。


 「さてと、この操作をする前にショウには説明しないとけないな....。本当に何も知らなそうだしな」

 「は、はい....。よろしくお願いします」


 ゼル兄から言われた事はどれ一つも否定できなかったので、なぜかかしこまったような返し方をしてしまった。


 「能力は、大きく六つに分けられていて、この装置によって、一体、どの能力に振られているかを確認することができる。六つの能力は、主に、頑強、体力、俊敏、攻撃、知能、運に分けられている」

 「ほうほう。て、え?」

 「どうした?」


 聞きづてならぬ事を聞いた気がする。確認のため。


 「運といった能力もあるのか?}

 「ああ。能力とは言っても、実際は他の五つの能力とは違い、その場においてどれほど良い方向に持っていってくれるかという所だな」


 まさしく、運じゃねーか。いや、でもここは俺がいた世界とは違うんだ。だから、この世界においても不運とは限らないしな....。


 「それに、運が特に酷いという事でなくても、他の能力でカバーできる事だってあるのだから。そう気にする程でもないぞ」


 納得できる事を言われてしまったな。俺も、一体、どんな能力を持っているか気になるので早速やってみる事にした。

 機械と思われる物を目の前にして見ると、石でできた円板と思われるのが置いてあり、正面にモニターのような物がある。

 じっと見つめていると....。


 「やり方はこうやるんだ」

 そう言って、ゼル兄は俺と三人に見せる様にして、まず、円板の端をなぞるように人差し指で二周したら、勢い良くなぞったその右手を円板に置いた。すると、モニターと思われた所から何か文字が出てきた。


 頑強 二九、体力 四一、俊敏 三三、攻撃 五八、知能 四九、運 二〇


 「こんな風に表示されるんだ。これで能力が確定とかじゃなくて鍛錬とかすれば、この値は上がる。でも、逆に、怠けていたら下がることだってあるんだ」


 いや、良くできてるなー。ゲームの世界でも入ったんじゃないかと思わせる。でも、それは間違ってないか....。


 「このポイントで、技とかを覚える事もできるんだ」


 ゲームやん!


 「ほう。面白そうだな」

 興奮してきて、強者のような発言をしたが、気になってしまい体がうずうずしている。


 「ショウ!早速、やってみるか?」

 

 おそらく、その仕草を見られたのだろう。まあ、そう言われてしまってはやるしかない。


 「おう!やらせてくれ!」


 台の前に立つ。少し落ち着かせるため、深呼吸をした。


 「えーと....」

 ゼル兄がした事を思い出す様に、人差し指で二周なぞった。後は手を置くだけだ。


 「頼む....!」


 勢い良く置いたゼル兄とは違い、そっと置いた。


 「....」

 ん?反応しなかったか?


 バン!バン!

 まさに、壊れかけの機械を強引に叩くように叩いた。すると....。


 キュイーン。

 音とともに文字が出てきた。


 「お!」


 ゼル兄とレイリ、アリーシャとルルも俺がどんな能力を持っているのかを気になったのか覗いてきた。


 俺の能力は....。


 頑強 五三、体力 五二、俊敏 四七、攻撃 二〇、知能 六〇


 攻撃が低い....。でも、頑強と体力が高いから、役には立つか....。てか、なんで、こんなに知能が高いの!!


 「知能、高いねー」


 レイリが思った事をそのまま言った。なんでだろう....。


 「あ....」


 もしかしてと思い、ゼル兄に聞いてみることにした。


 「言語習得ももしかして、この能力に入ったりするのか?」

 「あー....。詳しくはわからないけど、入っててもおかしくないな」


 なるほどね....。


 さて、まだ能力の全部を見てない。

 運は....どうだ?


 おそるおそる見ると....。



 運 〇(計測不能)


 は?

 ゼル兄の方を見て、聞いてみようとしたが、ゼル兄どころか皆、この数値が何を意味しているのかわからなかった。


 「も、もう一回しようよ」


 ルルが提案してくれたのでやってみた。二回、三回。


 結果は....。


 〇(計測不能)


 〇(計測不能)


 何が起きている?ゼル兄ではこんな事無かったじゃないか!


 そう慌ただしくしていると、不審に思った先ほどの受付の人が慌てて来た。そして、正面を見る。


 「あの....。これはどういったことですか?」


 つい、敬語で聞いてしまった。すると....。


 「え....。初めて見た。噂には聞いた事があるけど、凄い!」


 興奮した受付の人を見て、期待をしながら詳しく聞いてみることにした。


 「これは....」


 すると、申し訳ないように、モゾモゾしながら受付の人が、


 「これは、聞いた話なのですが....本当に稀に〇の値を下回る時に表示されるらしく....」

 「つまり....」


 「運が最低値を振り切れています....」



 もう!ここでも不運なのかよ、俺は!

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