第122話 悪役令嬢(Ⅲ)

▽▲▽


「皆さん、おはようございましてッ!!!!」


 教室へ到着した瞬間、開口一番にどデカい挨拶をかまします。

 悪しき噂が蔓延している現在、ソレを払拭するにはやっぱりまずは正しい態度で挑まなければいけない。

 悪い事してる奴は悪い事してる風を出してしまうもの。

 故に、逆に!!

 めちゃくちゃ堂々としてればそれだけで悪い奴には見えなくなる説!

 信じて貰える根拠も証拠も未だナッシングなわたくしとしましては取り敢えず態度だけは信じてもらうに足るように振る舞わなくては。

 ──でも特に悪い事してなくてもオドオドしちゃう時ってあるよね。

 前世の私も、悪い事したことないけど万年オドオド族キョドキョド科の女の子だったし。

 それでもやるしかないならやりますわ!!

 さぁ、教室の皆様方のリアクションは──!?


「あ、紫波さんおはよー」


「あ、はい」


「紫波ちゃんオハー、朝から元気だねー」


「あ、ありがとうございますわ」


「はよーッス」


「はよーッスです、わ?」


 ──リアクション薄っ。

 なんかこう、教室中から突き刺さる疑惑の視線で針のむしろみたいなのを想定してたのだけれど。

 あれあれ、全然普通。

 何事もなかった感?

 いや、誘拐事件なにごとはあったんですわよ。


「あ、あの皆様、何か私にあったりなかったりします?」


 恐る恐る教室全体にそう呼びかけてみる。

 すると教室全体から伝わる「何の話?」的な空気。

 ──ん、んんん?


「そう言えば、隣のクラスの遠野さんが誘拐されたみたいだけど紫波さんは大丈夫?」


 たまたま近くにいた委員長ちゃんが心配するようにそう言って来た。

 友達の友達が事件に巻き込まれた時の模範解答みたいな心配のされ方されましたわ。

 いや、全然ありがたいんですけどちょっと待って下さいまし。

 私は、私が遠野さん誘拐の犯人的な噂が流れてて皆様に敵対される感じの流れを想像してました。


 ──なんか、流れ違くない?


 もしかして、このクラスまで噂届いてない?

 月乃さん近辺のみの超限定範囲でしか蔓延してない噂だったとか?


「私は大丈夫なんですが、あの、それで何かが流れているとか、なんとか?」


 恐る恐る、直で聞いてみる。

 すると委員長ちゃんはキョトンとした顔でこう言った。


「知ってるけど」


「知ってるんかい」


 前言撤回。

 ちゃんと届いてた、蔓延してた。

 じゃあ何故皆様こんな平然と私に接してるのかしら。


「だって、紫波さんがそんな事する訳ないじゃない」


「ねー」


「紫波さんって変な子だけど、良い子だもんねー」


 皆様、口々にそんなことを話し始める。

 その様子をしばらく眺めて、私はこう思いました。





 ──私、悪役令嬢なんだけど???

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