第27話 再戦の行方(Ⅳ)

 ▽▲▽


 モブ雄先輩の一本先取で迎えた、中堅戦仕切り直し後二本目。

 先程まで聴こえていた嬌声を幻聴だと割り切ったのか、猛然と攻勢をかける江釣子選手。

 ーーいやコレ割り切れてないな。

 割り切るっていうか、振り切ろうとしてる。

 遮二無二に竹刀振り回して不安と雑念を頭から追い出そうとしてるんだな。

 わかるなぁ、その気持ち。

 ボクも前世かつては男子だったから、もし自分が同じ立場だったら気が気じゃないってのは、非常によくわかる。

 だからこんな作戦思いつくんだけど。

 異性の気持ちがよくわかる、心の解像度が高い系女子って怖いよね。


 閑話休題。


 だが実際、めちゃくちゃで精彩を欠いた、それこそ勢い任せての攻撃ではあるが、彼の姿勢は今のモブ先輩には非常に有効と言わざるを得ない。

 むちゃくちゃな戦い方でも受ける側は相当体力を消耗する。

 平常時なら簡単に隙を突いて戦えるかもしれないが、モブ先輩は既に体力限界に近い。

 まだなんとか持ち堪えているが、いつ耐えられなくなっても不思議ではない。

 剣道は二点先取。

 今限界を迎えた場合、すぐ次の戦いが勝負になる筈がない。

 だからこそ、今点を取ってカタをつけなければ。


「くっ、今度は狙いが!」


 更によくない事が一つ。

 相手もモブ先輩も割と動きが激しい。

 立ち位置が頻繁に動き、入れ替わる。

 これでは、指向性音声の狙いが定まらない。

 外れるだけならまだいいが、誤射なんてしたら目も当てられない。

 ひとりだけがアレを聴いていたのならまだ誤魔化しようはあるが、ふたり以上が聴いていたら不正が一発でバレる。

 バレる危険性が激増する。

 こうなっては。

 そう思い、スマホを更に操作し、遠隔で音声トラックを変更する。

 今度のは、より瞬間的な刺激が強い音声だ。

 これをピンポイントで、一瞬のチャンスにかけてぶちかます。

 ボクはその機会を伺う為、試合の様子を注意深く観察する。

 一瞬だけでも、音声が届く位置に江釣子選手が立てば!

 そして、恰好のチャンスが訪れた。

 次の一刀に勢いをつける為、江釣子選手が僅かに後ろに下がる。

 下がった位置は、指向性音声が届くポイント!

 更に対角線上にいるモブ先輩に誤射してしまうの可能性は低い。


 今だ!


 そう思い、とびきり過激なトラックを再生する。








 ーーこれがいけなかった。


 勢いをつけ振り下ろす瞬間に、その集中力を根こそぎ削る妨害を受けた結果。

 竹刀は勢いよく彼の手から抜けた。


 その竹刀は、あろうことかキノの方へ思い切り飛びーー。



「ーーキノ!?」

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