序章②
漂う。
自分がどこにいるかも、なにをしているかもわからないし、いつからそうしているか、それを疑問に思うこともなくただ存在していたと今なら自覚できた。
きっかけは目の前に‟存在„している〝何か〟に声(?)をかけられたからだった。
―君、私のことによく気付いたね?―
気づいた?
僕は声(?)をかけられるまで何もわかっていなかったんだけど……?
―いや、気づいていたよ。と言っても〝無意識で〟だけどね。ここは魂の拠より所。私そのものだ。だから多くの魂たちはみんな私が見ても気づきもしない。そんな中、私に気づいてくれた魂にはご褒美をあげることにしている。退屈に刺激をくれたお礼ともいえるね。―
そんなことでご褒美をもらえるんだ…。
―そうだよ。君の生きていたときの知識でいうと何十兆年も何も変化がないようなものなんだ。とはいえこんなことを説明するのは初めてだけどね。―
えっ、ご褒美あげてたんですよね?いつもは説明せずにあげてたんですか?
―だって、君みたいに自我がある魂に気づいてもらえたのは初めてだからね。君は本能で動く魂、要するに君たちの言うところの動物や虫とかと、君たちみたいな思考ができる魂、どっちが多いと思う?本能で動くものの中には目に見えないくらい小さな生物とかだっているからね?―
あ、そういう魂もあるならなるほどです。
―しかも本能で動くだけあって勘も鋭いのがいるからねぇ。そういう子たちには、自分たちが恐れを抱いていた生き物の中からランダムで転生させてあげるようにしている。―
恐れですか?
―恐れを抱いた相手っていうのは自分が勝てないと思ったものだったりする。ものによっては恐れを抱いたというのは憧れと言い換えることもある。それにこれは私の考えだけど、どうせならいろんな体験をしてほしいと思うんだ。だから違った生き物に転生できればまた違った生き方ができると思ってね。―
それは人間だったりするんですか?正直、動物が人間に転生してもどうなるか想像もつかないです…。
―人間なこともあるね。転生とは赤子として誕生するからね。動物でも人間に転生したら赤子から始まる以上、自然と知能を得て育っていくものだよ。君は死んだときの成長した自分にあてはめているからわからないのさ。―
そっか…そうですね。自然と知能が育つのなら問題ないのか。
―そそ、そういうわけで君はどうしようか?すでに知能がある以上、私のことを忘れられるのは正直悲しいし、君の記憶を持ったまま転生してもらおうかな?そうすれば、また君が死んだときは私に気づいてくれる可能性が高そうだし、それなら私は君とまた話ができて楽しめるかもしれない。―
えっ、そんなことしていいんですか?
―ん?問題ないよ。ただし今までと違ったことはしてほしいからね。何か工夫をしよう。そうだね…。まず人間には転生させないよ!―
えっ、むしろそこが一番欲しいんですが…(涙)。 ―いやいや、だってそれじゃあ違うことが経験できないじゃないか。―
違うことって人生(ひとせい)から変えないとダメなんですか?(涙)
―うん、まるっきり変えてくれると私がうれしいね(笑)。 まぁ、それだけじゃあ君が記憶を持つ意味がないからね。それを活かせるように人としての将来もプレゼントしよう。―
え?それってどういうことですか?
―簡単に言えば君の生きてきた世界とは違う特殊な世界で、将来的には人になるみたいな感じだね。―
えっと、よくわかりませんが、よかった…のかな?今、知能持った虫とか想像して鬱な未来しか見えなくて、転生前から絶望を感じてました。
―はは、別に君に絶望をプレゼントしたいわけじゃないよ(笑)。 君は進化すれば人のようになれるようにしてあげる。―
進化ですか?成長じゃなくて?
―うん、そうだよ。君は今カブトムシの成長を想像しているようだけど、そうじゃない。まず世界が違う。君が今までいた世界とは違う魔法がある世界だ。そこには魔物もいるといえばわかるかな?君のお兄さんからライトノベルというものをもらって読んでいたみたいだし、それで伝わるんじゃないかな?―
あ、それならわかります!入院してた時に想像するのが楽しくて、魔法を使ったりしてみたいなって思ってました!
―まぁ、転生は人間ではないけどね(笑)。 話を進めようか。その世界の魔物には進化という能力をもつものもいる。魔物の多くは知性といったものがないから、獣型の魔物が進化しても獣型の魔物になるだけだけど、君には思考ができるように記憶を持ったまま転生してもらうから、違う進化ができる。―
つまり進化して人を目指すということですね?僕が生まれ変わるのは魔物ということですか?
―生まれ変わるのは魔物ではないけど進化できるようにしてあげよう。あと正確には人型を目指すというところだね。―
人型ですか?
―うん、まぁ転生したのが虫なら虫人ちゅうじん、魚なら魚人、獣なら獣人って感じだね。―
えっ、虫人に魚人ですか?(涙)
―嫌かい?―
ごめんなさい、せめて哺乳類にしてください。もし進化できなかった場合、虫や魚との間に子供を作ろうとするところは想像できないですし、想像したくないです(涙)。それに、虫人や魚人といった種族も想像できなくて…。獣人とかも僕が想像しているような感じかもわからないから何とも言えないんですけど…。
―ははは、獣人は見た目ほとんど君の前世のような人間と変わらないから大丈夫だと思うよ(笑)。うーん、確かに虫や魚を忌避するのは記憶を持っている以上は仕方ないかなぁ。よし、じゃあ今回は獣にしておいてあげよう。君は気づいてないかもしれないけど、哺乳類だとイルカとかだっているけど、そこまでの意地悪はしないであげるね(笑)。―
あっ、ありがとうございます!マジで忘れてました!あと、今回はって…?
―もし、次に転生する機会があったときは…どうなるんだろうね?(笑) まぁそれはいいとして…―
いや、良くないですよ!
―まぁまぁ、獣生は経験するんだし、その次は他のことを経験してほしいからね。それは次の機会に、だよ。―
それは…せめてその時に相談させてください(涙)。
―話が進まないから、そうしておこうかね。じゃあ、あとは必要なものを考えよう。進化の能力以外だと…知能があるんだから、それを活かさなきゃね。そうだ、まずは言語が分かるようにしよう。―
言語が分かるのは助かります!…あれ?そういえば、進化ってどうやってするんですか?
―うん、そこの説明をしないとね。君の転生する世界では〝レベル〟というものがある。魔物を殺すとレベルが上がるんだ。―
魔物を…。そもそも魔物って何なんですか?
―魔物は魔石を持つものをいうんだ。だから人が人を殺してもレベルは上がらない。単なる虫を殺しても同じだね。魔物は空気中の魔素から生まれるものと、魔物が親となって生まれるものがいる。どっちから生まれたら強いとかは言えないからね。ああ、魔素っていうのは空気中にあるもので、別に人類に害はないよ。むしろ魔素は必要なものだね。魔素を体の中に取り込んだものが魔力だからね。基本的な違いはないんだけどそれを感じ取る能力だと、微妙に感覚が違うんだ。で、進化だけどレベルをその時の限界まで高めたときにできるようになるんだ。―
その時の、ですか?
―うん、生きているものや魔物には限界となるレベルが存在する。ただ進化できるのは魔物だけなんだ。―
つまり魔石を持たないものは進化できない…。じゃあ僕が転生するのは獣型の魔物ということ…って、さっき魔物じゃないけど進化できるようにしてくれるって言ってましたね?
―そうだよ。君はいずれ獣人になって人の世界で生活するだろうからね。だから君には魔物の進化に近いけど、異なる進化能力を上げようと思ってる。君には単なる動物に転生してもらって、まずは人の世界というものに触れられるようなところに転生してもらおうかな。―
なるほど…。そうしてもらえるなら助かります!
―だよね。だから君は獣人になるまでは魔物じゃなくても進化できるようにしてあげる。あと、レベルがわからないと進化できるかわからないだろうから、ライトノベルにあったステータスがわかる能力もあげる。でも鑑定やアイテムボックスなんかは便利すぎるからあげないよ?(笑)―
あ、それは先に釘を刺されるんですね(苦笑)。
―君の考えてることがわかるというか、その考えていることこそがここでの会話だからね。君が気になったものが伝わってくるのさ!―
ですよね~。
―あとはそうだね、赤子の時から思考ができるように魂を強化しておこう。そのままだと赤子のときには何もできなくなってしまうだろうからね。よし、私からあげられるものはこれくらいだね。あとは自分で学んで。せっかく知能があるんだから。あとはもう1つくらいプレゼントを上げてもいいかな?じゃあ、転生させるよ!―
プレゼント?
って、えっ、もうですか!?待ってください!えっと、まずはありがとうございました!あと今更ですが、名前を教えてください!
―本当に今更だね(苦笑)。名前はないし、君たちで言うところの神様なんだろうけど、そんな偉ぶりたくもないしね…。そうだね、魂の管理人ってことで管理人さんとでも呼んでよ。―
管理人さんですか?なんか予想外な呼び方ですが…。じゃあ改めて管理人さん、ありがとうございました。精一杯生きてまた会いに来ますね!
―うん、私も初めて魂と会話できて楽しかったよ。早々に戻ってこないでがんばっておいで。―
はい!
―1つだけアドバイスをあげよう。魔石を食べるといいよ。じゃあいってらっしゃい。―
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