そしてボー然とする。【KAC2022第7回】

はるにひかる

 


 また1つ、好きだった飲食店が潰れた。

 締め切られたガラス扉に貼られている、『閉店』のお知らせ。

 分かってはいる。

 そうは言っても毎日通っていた訳でも無く、色々なお店で食べるので、自分の所為でも有ると。

 その店は駅とうちとの丁度中間辺りに有るので、駅付近で手頃な店に入って食べてしまって、その店の前を通り過ぎるだけと云う事の何と多かった事か。



 ただこのコロナ禍、中途半端な人流規制の為の時短営業要請と、いつ支払われるか分からない、そして店を続けるには到底足りない補助金制度の所為で、多くの店が潰れて行った。

 勿論、デリバリーFC契約をする等して、如何にか生き延びる事が出来ている店も多いが、それにしても限界が有る。

 コロナが蔓延し出して早2年、蔓延と収縮、緊張と緩和を繰り返して来た結果、体力の無い個人経営の店から潰れて行っているのだろう。

 大手でさえ、幾つもの店舗を潰して行っているのだから。

 そして、仕事を無くす人が居る。売り上げが減る。潰れる。

 『聞く力』が売りの首相は、本当にそうなのか疑いたくなる政策を打ち出しては、経済不興を招く。

 そして、景気が悪化する。売り上げが減る。潰れる。

 緊張と緩和を繰り返した結果、多くの人が伸び切ったゴムの様に、何が有っても緊張する事が出来なくなっていた。

「自分が行かないと潰れるから」

 誰も否定出来ない事を大義名分に、大勢で4人席を幾つか占拠してマスクを外して騒ぐ人々も居た。

 ほんの少し、人通りが減るだけだった。



 この店に出会ったのは、引っ越して来て近隣の店を開拓している時だった。

 昔ながらの歯触りの確りしたオムレツが好きだった。


 『閉店します』の張り紙の前で、ボー然とする。

 ――何か、自分に出来た事は無いのかと――。


 駅前の飲食店は、どれも大手ファストフードチェーン。

 また、新しい店を探さないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そしてボー然とする。【KAC2022第7回】 はるにひかる @Hika_Ru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ