魔王様は初恋を手に入れたい
水鳥ざくろ
第1話プロローグ
ただいま。
その言葉を口にすることなく、風原遥はそっと玄関のドアを開けて安アパートの自分の部屋に入った。時刻は午前六時半を回っている。深夜のコンビニのアルバイトを終えて、朝食の焼きそばパンと牛乳を買って徒歩で帰ったら、だいたいいつもこんな時間帯になる。
「……ふぁ」
遥は欠伸をひとつ零すと、敷きっぱなしの布団の上に腰掛けた。そして、焼きそばパンと牛乳を交互に口に運ぶ。生姜が嫌いな遥だが、不思議と焼きそばパンの紅生姜は無理無く食べることが出来る。人間の好みって良く分からないや、と焼きそばパンを食べる度に遥は頭の片隅でそんなことをいつもぼんやりと思っている。
食事を終えて布団に寝転ぶと、自然と瞼が重くなった。この場に祖母がいたら「食べてすぐに寝たら牛になるよ!」と叱られるだろう。想像した遥の口元が少し歪んだ。
「けど、おばあちゃん、今日は眠すぎるよ……」
ちらりと枕元の目覚まし時計を見れば、あと三時間もすれば次の職場に行かなければならない時刻だった。今、眠ってしまえば確実に爆睡してしまうだろう。けれど、眠って体力を回復させなければ次の仕事に支障が出るに違いない。どちらを取るべきか、ふわふわとする頭で考えて遥が出した答えは――。
「……二時間だけ、寝よう」
そう呟いて、遥は目覚まし時計とスマートフォンのアラームをオンにして瞼を閉じた。同時に全身が布団に沈むような感覚に飲み込まれる。
――なんだか今日は良い夢が見られそう。
そんなことを思いながら、遥は意識を手放した。
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