第45話

 私とフィーリアで道化の相手をしていますが、キリが無い──


 この道化は私達をもてあそぶように消えては現れての繰り返し。


 なにより──


「ほらほら、攻撃の手を緩めたらミラちゃんをさらっちゃうよん♪」

「「させるかッ!」」


 隙を見てはミラに手を出そうとするからタチが悪い。


 何より、私達は疲労困憊なのにこいつは動きが鈍る事がない──


「全く、思いの外頑張るね……が来ると厄介だし──さっさと終わらそう──」


 道化は──



 馬鹿な……血を操る事が出来るのはレイモンド家の当主のみ──


 そんな事を思っていると、道化は仮面を外す。


「この顔──だ〜れだぁ?」


 そこには──


「お義父様……」

「「「ジュダ様……」」」


 目の前には死んだはずのお義父ジュダ様がいました。


 私達を見ても目は虚で反応は無い──


 まさに動く屍。


 おそらく、道化は死者を操るスキルでも持っているのかもしれない。


 道化の動きが鈍くならない理由がわかった。


 そうなると──本体は目の前の奴なのか? それとも別にいるのか?



「さぁ、僕の最強の手駒だよん♪ レイモンド家──歴代最強に勝てるかな♪」


 おそらく言葉から目の前の道化は本体ではない。


 ミラを気にかけながら歴代最強のお義父様を相手に勝てるかどうかもわからない。


 かなり拙い──



 道化の仮面を装着し、お義父様は血を操り出します──


「全員ッ! 気を引き締めなさいッ!」

「「「はいッ!」」」


「真剣になった僕ちゃんを相手にするには少し力が足りてないよん♪」


 お義父様──いえ、道化は血をばら撒いていく──


 もし、お義父様と同じ戦い方をするのなら拙い──


「──!? 全員避けなさいッ!」


 私は連接剣で血を触れないように立ち回ります──


「遅いよん♪ それ『爆血ブラッドエクスプロード』♪」


「え?! ──きゃッ──……」


 近くにいたフィーリアは血を避けきれずに付着し、その瞬間、爆発が起きる。


 やはり血には『火魔法』が付与されていたか……。


 フィーリアは死んではいない。おそらく気絶したのでしょう。


 それに他の使用人とミラも衝撃波でダメージを負っています。



「ちッ! 死者を弄ぶような真似をしてッ! 許さないッ!」


「だって僕──死霊使いだし? 弄んでなんぼでしょ♪ ほらドンドン行くよん♪」


 道化は血を鎧のように纏っていく──


「この外道がッ!」


 この場で相手を出来るのは私のみ──


 なんとかしなければ──



 ◆



「あれれぇ? もう終わりかな? 終わりなのかな♪ これ貰っちゃうよん?」

「…………」


 ミリア様は力尽き、道化に顔を踏まれています。


 あの後、善戦するも──なす術無く、血と魔法スキルの組み合わせに翻弄され一方的な展開になりました。


 ミリア様の攻撃は当たっても、血の鎧は防御力が高く破る事は出来ずに致命傷を与えられない。


 それどころか攻撃を当てても鎧の血にも魔法を付与してカウンターを仕掛けてくるからどうにもならない。


 既にアーク様より渡された連接剣はボロボロになっています。


 それにミラ様も既に道化に抱えられている……。



 ジュダ様は確かに強かった。しかしここまではなかったはず。


 まさか──


 死体故に血を使い放題だから?



 そうだとしたら拙い、私も動かなければ──


 どうせ長くは生きれないのです。


 ここで散ろうとも構わない──



「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたのかなぁ?」

「ぐッ──」


 ミリア様は蹴り飛ばされます。


「──離してッ! お母さんッ! もうやめてよッ!」

「うるさいな〜とりあえず黙ってね♪」

「きゃ──」


 ミラ様は気絶させられます。


 周りも戦える者達も善戦していますが、デーモンに押され始めている。フィーリアも死んではいませんが、意識が戻りません。


 このままでは──ミラ様は攫われ、全滅してしまう。


「ごほッ……」


 私は、奮起し──立ち上がり、白い毛玉が施してくれた魔法陣から出ると血を吐き出します。


 もう少し──


 もう少しだけ私に時間を──


 せめて足止めが出来る力を──


「もきゅ」


 止血してくれていた白い毛玉が私の中に入ってくると──


「シロちゃんでしたか? ありがとうございます……血の流れが緩やかになりました」


 本当にこの毛玉は不思議な生物です。


 これなら動けそうです──


 私はミリア様に声をかけます。


「ミリア様ッ! 足止めをしますのでトドメは任せますね?」


「マリア──すいません」


 私は笑いかけて応えます。


「いいんです。ジュダ様を眠らせてあげましょう」


 ミリア様とはそれなりの付き合いです。私が何をするかぐらいわかっているでしょう。



 最後の力を振り絞り、駆け出す──


 私の速度は屋敷では一番──


 道化の背後に一瞬にして回り込み、羽交締めにします。


「──?! 中々やるじゃん♪ だけど──甘いね♪ 『氷血ブラッドコキュートス』──」


 鎧に触れると氷魔法により凍っていく──


「ふふふ」

「死にかけの癖して、何がおかしいんだ?」

「──私の役目は終わりです──吹き飛びなさい────」


 あぁ、ジュダ様──


 あの世でお会いしましょう──


 私は懐にある数本のアーク棒に魔力を通して起動させます──


 ミリア様、後は任せましたよ?




 ──しかし、爆発は起こりませんでした。


 何故?


 そんな事を思っていると──


「──ぶふぇ──」


 道化は殴り飛ばされます──



「──全く……ここにも自爆するような馬鹿者がおるとはな……」


 顔を上げて声の主を確認すると、若かりし頃のジュダ様がおられました──


 その人はミラ様を抱き抱えながら私の方に向かって来られます。


「ジュダ様?」


 その言葉に苦笑いを浮かべる、若かりし頃のジュダ様。


「我はアークだ。理由わけあって、今はこの姿だがな。お主も呪詛にやられておるのか……シロ丸がとりあえず止血する為に入っておるな? うむうむ、よくやった。マリアよ──とりあえず傷口を塞ぐぞ?」


「え?!」


 私は驚き顔を見詰めます──



 え? アーク様?!


 アーク様が私の傷口に触れると──回復魔法も薬も効かなかった傷口が塞がっていきます。


「──こっちに来るのが早いね♪」

「──邪魔だ──」


 アーク様はを杭の形にして道化に向かって放ち串刺しにします──


 まさかあの鎧を簡単に貫くとは……。



 それに、よく見ればデーモンが一体もいない?! まさかこれもアーク様が!?


「本当にアーク様なのですか?」

「そうだが?」


 それがどうしたと言わんばかりの態度に私は笑ってしまいます。


 この方がいればなんとかなる──


 そんな気持ちになりました。


「群がっていたデーモンも討伐されたのですか?」


「そうだぞ? 死にかけたおるのに何を笑っておるのだ? 我が皆を守ってやるから大人しくしておれ。シロ丸──ミラとマリアを守れ」

「もきゅ」


 アーク様の命令通りに私とミラ様を中心にシロちゃんは結界を張ります──



 アーク様は再度こちらに向かってくる道化に向き合う──


「全く──予定が狂っちゃったよん♪」

「──ちッ、核のある場所は貫いたはずだが──本体は既におらぬか」

「正解♪ 本体は既に安全な場所さ♪ さぁ、歴代最強の力を見せてあげようか?」

「ふん、歴代最強は我だ。既に祖父は歴代最強だからな」


 お互いに血を操り出します──



 アーク様が血を操っておられるという事は──


 クレイ様は継承を済ませられたのですね……。


 ミリア様を見ると、その事を悟ったようで頬には涙が流れていました──

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