第29話

「フィーリア、早く準備をしなさい」

「はいッ!」


 マリア様の声に私は返事をします。


 今日は王太子殿下が来られるので、屋敷は朝からバタバタしています。


 アーク様は今日の事をかなりご心配されていましたが、こちらよりもご自身の心配をしてほしいです。


 危険度が高いダンジョンを潰す為に国は今回かなりの戦力を投入しているとお聞きしています。


 国最強であるクレイ様がいる以上は大丈夫だとは思うのですが……やはり心配なものは心配です。


 まぁ、アーク様はかなりお強いのですが……。


「もきゅ?」

「心配してくれているのですか?」

「もきゅ」


 クロちゃんが心配そうにしている私に顔を擦り寄せてくれます。

 とても可愛いです。仕事中も今みたいにニヤけていると、同僚に「顔が怖い」と言われましたが……。


 このクロちゃんはアーク様の眷属とお聞きしていますが、ふわふわ浮いてる不思議な生き物です。


 いったい、なんなんでしょうか?


 そういえば、実はアーク様が出発される前に髪飾りを頂きました! その他になんと──


 魔力を込めたら手元に戻ってくるナイフも頂けたんです!


 とても嬉しいです!


 一生の宝物にします!


 私のコレクションがこれでまた



 王太子殿下が暴れたら容赦なく、頂いたナイフで攻撃するように言われてます。


 アーク様からマリア様は魔力で武器を作る魔道具、ミリア様も何か受け取っていました。


 しかし、ミラ様と婚約する為に会いに来るのに暴れるなんて事はないと思うのですが、ミリア様やマリア様はピリピリしています。



 そろそろご到着される頃だと、門付近を見ていると豪華な馬車が一台止まります。



 中から煌びやかな服装の男の人が金色の髪の毛をなびかせながら降りてきます。


 あの方がおそらく王太子殿下レオン様でしょう。護衛の方々と一緒にこちらへ向かって来られます。


「「「格好良い〜」」」


 女性使用人の人達はそう呟いています。

 確かにとても整った顔です。ですが、私の中ではアーク様が1番です。


 クロちゃんは何やら唸っていますね。



「ようこそ、レイモンド家へ。大したおもてなしは出来ませんが、ゆっくりとして行って下さいませ」


 現在、当主であるクレイ様はいませんので、ミリア様が家の代表として挨拶をして下さいます。


「こちらこそ、急な訪問申し訳ありません。それで早速なのですが、ミラ令嬢とお会いしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「わかりました──しかし、夫より『2人きりにさせないように』と伝言があります。これが守れない場合はお帰り頂くようにと申しつかっております」


 んん? アーク様がミリア様にそんな事を言っていましたが、クレイ様も??


「──貴様ッ! 王太子の言葉を守れんのか!? 生意気なッ! ──ぐ……」


 1人の護衛が怒鳴りながら剣を抜こうとします。


 ですが、私を含めここの使用人はではありません。


 いっせいに隠しナイフを取り出した執事数人は剣を抜こうとした護衛を床に転ばし、他の護衛にも背後に回り込みナイフを首に当てて無力化します。


 そして、私を含めたメイドはミリア様が前に瞬時に立ちます。


 正直、ミリア様には。後片付けが大変ですからね……。


 クレイ様との夫婦喧嘩で嫌という程身に染みています。


 しかし、この状況なのに王太子はかなり余裕な態度です。


「くっくっく──これは中々面白い。さすがはレイモンド家ですね」

「さて、いかがなさいますか? レイモンド家は王家であってもよ?」


 働いて知ったのですが……レイモンド家は昔から危険な任務を行っている為、いつの間にか王家であっても他の貴族のように簡単に命令出来る立場ではなくなったそうです。


 しかし、ここまでとは思いませんでしたが……王太子であってもそこらの人と扱いは変わらないのですね。


「わかった──2人きりでは会わない事にする。しかし、さすがは不可侵とされる貴族だな。ここまでとは──!? 君は──」


 私の方を見た瞬間に王太子は固まります。


「どうかなされましたか?」

「──いや、何でもない。(なるほどな……)」


 王太子が最後に何か呟きますが聞こえません。


「では、了承頂けたようなので部屋まで案内させて頂きます。フィーリア、ミラを呼びなさい」

「はッ」


 私はミラ様をお呼びする為に、その場から離れます。


 しかし、ミリア様……さっき絶対攻撃しようとしましたよね!?


 我々が出ていかなければ──護衛を殺していたでしょう……。


 これがレイモンド家……怖いですね……。


 私も強くならないと──



 ◇◇◇



「ミラ様をお連れしました」

「入りなさい」

「はい」


 私はミラ様と一緒に中に入ります。


「君がミラだね? 私は王太子のレオンだ。よろしく」


 レオン様はソファーから立ち上がり、ミラ様に自己紹介をします。


「ミラです。よろしくお願いします」


 レオン様の挨拶に対して、スカートの裾を摘みながら一礼するミラ様。


 私はいつと違うミラ様に驚愕します。


 こんなお姿初めてです!


 それにヒラヒラしたフリルの白を基調としたワンピースがとても似合っています。


 可愛いなぁ。


「ミラはこちらへ座りなさい」

「はい、お母様」


 ミリア様は隣に座るように促し、ミラ様は横に座ります。


 机を挟んだ対面には王太子であるレオン様がおられます。


 シーンッ、となりますが、レオン様が沈黙を破ります。


「既に先触れにてご存知かと思いますので、単刀直入に言います。そこにおられるミラ殿と婚約する為に本日参りました。?」


 やけに強気ですね……。


 ──!? ミリア様から凄い殺気が!?


 え!? まさか暴れるの!?


 使用人全員に緊張が走ります。


 この中、口を開いたのはミラ様でした。


「お断り致します」

「──!? え?!」


 ミラ様は予定通りに断られます。

 レオン様はその返答に驚いておられます。断られるとは思っていなかった感じですね……。


「ですから、お断りします」

「ミラもそう言っておりますのでお帰り頂きましょうか」


 ミリア様がミラ様に続けて冷たく言います。

 その言葉は刺々しく、道の端っこにある石ころを見るような目をされています。


 いったい何が?


「……(2人ともに──効果が無い? そんな事が……それにが違う……何故……)」


 またもや何やら王太子は呟いていますが、聞こえません。


「では、お話はこれで終わりという事でよろしいですか?」


 ミリア様は畳み掛けるように話を終わらせようとしますが──


「──いえ、前もってクレイ殿に父上が頼んでいたはずなので断られるとは思わず……とりあえず、一旦保留して頂いてもよろしいでしょうか? 私達はまだ知り合ったばかりですので、お友達からというのはいかがでしょう? そうそう、実は──プレゼントがあるんですよ。是非お受け取り下さい」


 レオン様も引き下がる事なく、捲し立てるように言いながら懐から出したのは紫色の水晶のネックレスでした。


「別にいりませんし、お友達も結構です」


 一切寄せ付ける隙を見せないミラ様にレオン様は歯噛みします。


 それにアーク様から、「ネックレスのプレゼントを贈ってきた時点で敵認定して良い」と言われています。


 ネックレスを見た瞬間にマリア様は手で指示を出し、全員がいつでも動けるように臨戦態勢になります。


「ミラ殿は確か──剣を嗜むとお聞きしています。実は私も剣には少々自信がありましてね。どうでしょう? 親交を深める為に一戦?」


 引く気配のないレオン様はミラ様に模擬戦の相手を願い出ます。


「──お断り──「まさか──国最強と名高いレイモンド家のご令嬢は戦えないのですか?」──?!」


 断られると察したレオン様はミラ様の言葉に被せて挑発してきます。


 今度はミラ様が歯噛みされています。勝手に返事をしていいかわからず、ミリア様を見ます──


「──良いでしょう。殿下は相当自信がおありのようです。ミラ──叩き潰しなさい」


 ──ゔッ!? こ、これは!?


 ミリア様から凄まじい威圧と、先程よりも強い殺気が放たれます。


「はい──お母様」


「くくっ、さすがは騎士団長の妹であるミリア様です。場所は中庭でよろしいですか?」

「えぇ、模擬戦はで行いますが──よろしいですね?」

「構いません。そうでなくては面白くありませんからね」


 軽口を叩く王太子と私達は中庭まで移動します──







────────

王太子レオンと対面した時の社交辞令のミラのイラストを近況にて上げていますので良ければイメージ補完して頂けると幸いです。


https://kakuyomu.jp/users/tonarinotororo/news/16817139555073494176

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