第14話

 父上が先程から──


「アーク、あれは何だ?」


 魔術の件で我を問い詰めてくるのでたまらぬ。


「この間、散策してた時に拾った魔道具がどうやら魂を呼ぶ機能があったみたいですね。私にスキルが無いのは知っているでしょう?」


 少し無理がある気がするが適当に話を逸らしている。


 少し迂闊うかつだったが、後悔はしていない。


 ちなみにジョイとソラは捕まっていた者達を運ぶ馬車を用意しに行っていて、ここにはいない。



「はぁ……もういい。とりあえずお前のお陰で彼女達は生きて行けるだろう。ありがとうな?」


 父上はやっと諦めてくれたようだ。


「いいえ、これも貴族の務めです」


 我はその他大勢に認められなくても構わない。こうやって身近な人がわかってくれているならそれで良い。


 しかし、疲れたな……完全に魔力切れである。

 ……確かに少しずつは能力が向上しておるが、やはり不便極まりない。


 しばらくは今回みたいに魔力の補充用魔道具と攻撃系魔道具を使って温存して凌ぐしかあるまい。


 また何か作るか──と思っておると父上が問いかけてくる。


「そういえば、魔道具と言えば──魔道具は作ったと言っていたが量産出来るのか? 魔石を使った物よりも威力が高い」


 あの魔道具とは盗賊を木っ端微塵にした物だ。

 あれはネット検索で見つけた爆弾という物を真似した物だったが、試作品の割に良く出来ておったな。本来は火薬とかいう物を使うらしいが、そんな物はこの世界で今の所、見た事も聞いた事も無い。


 父上の発言から一応、この世界にも似たような魔道具があるみたいだな。


「あぁ、出来ない事は無いですが──基本的にですね。私の魔力にしか反応しませんので、他の人が使う場合は一手間要ります」


 あの爆弾という物は我専用に作っておる。何せ魔力を込めて投げるだけな上に殺傷力も高く、使い捨ての魔道具など危険極まりないからな。


 おそらく、父上は魔物の討伐用に欲しいのであろう。わざわざ作るのに時間を割きたくはないのである。


「兵士用にいくつか作れないか?」


 ほれ、来た。


「……面倒臭いです。それにあれは試作品です」


「あれで試作品か……そこをなんとか出来ないか? あれがあれば兵士の死亡率も下がる」


 食い下がるな……確かに手軽に魔物を撃退出来る魔道具は有用ではあるが──どうしたものか……。


「──条件があります」

「……なんだ?」

「まず、人に使わない事です。魔物のみに使用するのであればある程度の数は揃えます。こんな試作品ではなく──もっと破壊力のある物を」

「──本当か!? 助かるッ! 約束は守る──「まだですよ」──なんだ?」


 父上が言い切る前に口を挟む。

 こういう風に勢いで話をまとめられると条件が一つだけになってしまうからな。


「──複製もしない事です」

「……わ、わかった」


 父上よ……その反応は解析して複製するつもりだったな?


「念の為に解析が不可能になるように作っておきます。それと?」


 どうせ、王にバレたら献上させられて解析されるであろうからな。解析不可能になるように対処した上に偽装しまくっておくか。


 それにタダ働きとか死んでも嫌なのである。我はまだ領主ではないのだ。報酬はしっかり頂く。


 一般人のように買い物とか我はしてみたいのだ。それには親の金より、自分の金の方が我は使いやすい。


「……わかった──「それと」──まだあるのか?」


「当然でしょう? 兵士の死亡率が圧倒的に低くなる魔道具なんですよ? 他は思い浮かばないので──後は貸しにしておきます」


「……高くつきそうだな……」


「いいえ、領民の為なら安いもんですよ?」


「そう、だな。わかった! 帰ったら早速頼むッ!」


 良し、これで我、損しないッ!

 


 しかし、盗賊が弱くて対人戦の練習にならんかったな……もう少し強い方が嬉しかったのだが……不完全燃焼だし、暇見つけてソラと模擬戦でもするか?


 そんな事を考えておると声をかけられる。


「あの……」


 この声は──


「フィーリアか」

「先程は──申し訳ありませんでした。私、頭に血が昇ったとはいえ、領主様の息子であるアーク様を殴ってしまいました……どんな罰も受けます……」


 フィーリアは震えながらそう言う。


 正直、今の我は魔力切れのせいで頭が働かぬ……父上との交渉で燃え尽きた。


 罰か……罰な……確かに平手打ちされたが、他の者からは石を投げられておったしなぁ……。


 まぁ、通常なら貴族に手を上げた時点で死刑だし……気持ちはわからんでもない。


 我的には別に罰など必要無いんだが……。

 フィーリアは真面目な感じがするから、何か罰を与えんと引く気配が無さそうだ……。


 そもそも、罰と言っても十分に不幸な目に合っておるしな……せめて働く場所ぐらい斡旋してやるか……。


「罰ね……なら屋敷で働くか? 父上、よろしいですか?」

「ん? あぁ、構わんぞ。お前付きのメイドにでもするか?」


 おぉ、それは良いアイデアである。

 我付きのメイドは怖がると思って付けないように手配しておったのだったな。


 うむ、呪いの効果もあるし、我付きになれば十分本人が求めておる罰になるな。ある程度したら普通のメイドになってもらえば良かろう。


「父上、そうします。ありがとうございます」


 父上に礼を告げると、疑問符を浮かべるフィーリア。


「え? えぇ?! それは罰ではないのでは!?」

「──罰だよ……君の家族を守れなかった無能な領主の家で働くんだ……かたきの所で働くのは罰であろう?」


 父上の顔が引き攣っておるが、無視だ。

 実際、父上が村の配慮を元からしておれば迅速に動けた可能性もある。しっかり統治していなかった父上の責任であろう。責任を取るのが上の役目だ。これぐらい言われても当然だ。


かたきなんて思ってません! 弟が言ってました……村の人達の為に怒ってくれて盗賊を討伐してくれたと……私は貴方に感謝しています……」


 ん? そんな会話などしておったのか……まぁ、感謝されるのは悪くない。

 しかし、弟と会えたなら──もう、屋敷にある魔道具は必要無くなったな。


「そうか……ありがとう。その言葉だけでも頑張った甲斐がある。では街に戻ったらメイドとして頼む」

「はい……」

「最後に聞いていいか?」

「なんなりと」

「我が──怖いか?」

怖くありません」


 笑顔でそう答えてくれるフィーリア。


「そうか……下がってくれていい」


 フィーリアは村の女性達の元へ戻る。


 今は怖くない──か……まぁ、一時的な物かもしれぬが、嬉しいものだな……。



 これでフィーリアが我を襲うフラグは折れたであろうか?


 まぁ、またフラグが立てば何度でもへし折るがな……それに専属メイドになる間は十分対処可能であろう。たぶん。


 物語のフィーリアはを相当恨んでいたはずだ。

 確か黒幕がそうなるように洗脳して暗殺者として育てたはず。

 フィーリアは元々が暗殺に特化したスキル構成で更に才能を伸ばした結果、かなりの猛者になっていた記憶がある。


 学園の長期休暇中にアークの元へ行き──


 暗殺に失敗して戦闘になるが、かなりなスキルがあり、アークは少し苦戦したはずだ。


 そして最後は洗脳が解けて己の間違いに気付き──改心してアークが他国へ逃したが、その道中に殺されてしまった。


 奴隷になる事もないであろうし、そのフラグは確実に折った事になる。たぶん。



 我は父上を見詰める──


「父上──私は、私を慕う者達や領民を守る為なら。よろしいですか?」


「──構わん。俺が許す」



 さて、許可も降りたし──


 どう料理するか考えるか──


 よ。学園まで会う事は無いであろうが、この借りは高くつくぞ?



 しばらくして、ジョイ達が大きめの荷馬車を調達してきたのでのんびり街に戻る事になった。

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