第9話

 どれどれ、手紙の内容は──


『拝啓、アーク様へ


 いかが、お過ごしでしょうか? 私は来る日も来る日も貴方様の事が頭から離れません。


 会えない日が続くと日に日に不安に駆られてしまいます。


 直接お声を聞ける日を待ち遠しく思います。


 少しでも憂鬱な気分を晴らす為に──


 実は魔法を使って発散しております。


 とても魔法は上達しています。魔物だって倒しています。


 まずは土魔法で地面から魔物を串刺しにした後は、そのまま風魔法で細切れにしたりしています。あっ、ちゃんと最後は火魔法で消し炭にしていますから死体は残っていません。燃え広がったら水魔法で消化もしていますのでご安心下さい。


 最近では近隣の魔物は私を見ると直ぐに逃げてしまうのが悩みです。後の悩みはが中々習得出来ない事です。これからも精進しますね。


 そういえば、最近と言えば──


 王太子から再度、婚約を持ち掛けられました。


 当然直ぐにお断りしました。

 傷が治ったから嫁にしてやる、なんて失礼な話ですよね?


 そう思いませんか?


 そういえば王太子と話をしている時に髪飾りが光っていたように思います。アーク様の温もりを凄く感じました。


 私が愛しているのはアーク様だけです。私は貴方様以外に嫁ぐ事はありません。


 あぁ、早くアーク様と会いたい──


 会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたいです。


 アーク様をこの世で1番愛しているソアラより。


 追伸:



 ……最初は普通かと思いきや……また今回も闇の深い内容であったな……愛が重いとはこういう事を言うのであろうか?


 それより、王太子か……物語の開始前だというのに関与してくるでないわ!


 今後、王太子がNTRをしてくる可能性もあるかもしれぬな……。

 一応、髪飾りに異常耐性系の魔術式を組み込んでおるから大丈夫だったみたいだが……。ちなみにミラにも同じ髪飾りを渡しているので『魅力』スキルはレジストしてくれるはず。


 しかし、会いたいとあれだけ書かれると気持ちは凄く伝わるのだが、それ以上に何か違う意味で怖いのである。


 いや、我を好きと言ってくれるというのはありがたい事だな。


 一先ず安心なのは呪魔法とやらの習得がまだな事ぐらいか……他の魔法はかなり上手くなってるようなので何よりではあるが……。


 まぁ、それより最後の一文の方が1番気になってはいる。


 我は任務に行く事など知らせておらんからな……どこから情報を得たのやら……怪しいのは──


「父上、私が今日盗賊を討伐する事はソアラに告げましたか?」


 通信用の魔道具などもあると聞いておるからな。もしかしたら父上が口を滑らした可能性も──


「いや、そもそも今回は急な任務であったからな。それに基本的に任務の内容は機密だから一部しか知らんぞ?」


 ──であるな。当然か……疑ってすまぬ父上よ。


「そう、ですか……」


 ソアラは公爵家だったな……優秀な手駒でもいるのかもしれぬ。普段からはさすがに我も探知はしておらぬからわからぬが、今度調べてみるか……。


 仮に手駒がおったら──


 我、プライベートが無い件についてッ!


 その場合は、なんとか都合をつけて会うようにしなければ……それか通信魔道具を作るか?


 もんもんと考えながら馬車は進む──




 ◇◇◇




 しばらくすると馬車が停車する。


 父上と共に降りて周りを見渡すと──


「──ここまでとは……」


 さっきまでの気分とは打って変わる。


 まず、焼け落ちた家々が目に入り、地面に視線を移すと村人達であろう死体が視界に入ってきた。


 兵士数人が死体を1箇所に集めている姿も見える。


 しかし酷い……。


 大きな村ではないから戦える人数も限られるし、兵士がいない時を狙われたのであれば自衛が出来ないのも仕方がない。だが、これでは虐殺ではないか……。


 それに何故か──若い女性の死体は無い。


 ほとんどの死体が、老人と男性──そして幼い子供か……。


 女性が居ない事から盗賊共の目的は奴隷目的だろう。


 我もかつては魔王として歯向かう者は殺してきたが、無抵抗な者や戦闘をする意思がない者は殺さなかった。


 それは何故か?


 長年に渡り、国を統治した結果だ。


 子供は未来を作る。そして大きくなり──次の世代に託していく。


 これが世のことわりだからだ。


 その子供を殺す──


 その行為は許せる事ではない。


 それにどんな者であっても何かしら長所はある。


 ネットの友も普段から掲示板におるみたいだが、我にアドバイスをくれる良い奴らであるからな。


 命は尊いものである。


「アーク、ここは兵士に任せる。任務をこなす仲間と合流するから行くぞ」

「はい」


 父上から怒りを感じるな……まぁ、それも当然か……。


 我も赤子を抱きしめながら死んでいる親を見ると怒りが込み上がる──


 親は──


 こんな所で死ぬのは悲しかろう……悔しかろう……子供を死なせて無念であろう。


 我には聞こえて来る──怨嗟えんさの声が──


 だから──


 お主らの無念はこの領土を預かる者の責務として我らが晴らしてやる。そして、捕まっている者達を解放する──


 それしか、もう我らには出来ぬからな。


 すまぬな……。



 命は尊いと言ったが──盗賊は生かしておいてろくな事がないから殺す。


 我は正義の味方ではない。無闇矢鱈むやみやたらに殺したりはせぬが、殺す事に躊躇いは無い。


 目を瞑り、黙祷を捧げながら誓い──


 そして、目を開けて父上の後を追う。



 レイモンド領土に虐殺と盗賊か……物語でそんな過去のキャラがいたな。


 もし、ここにいるのであれば──


 屋敷からを持ってこれば良かったかもしれぬな。──いや、あれは1人用であったな……最悪は我がなんとかするか──



 さぁ、仕事の時間だ。余計な事は考えずに気合いを入れよう──

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