バイバイからの出会い

里岡依蕗

KAC20227



 「嫌だぁああ! みーちゃんがいいのぉお! 」


 店で大の字でバタついたり、地団駄を踏む子供を見て、大変だなぁと思っていたが、どうやら、うちの子もそういうタイプらしい。

 地団駄だけでなく、ギィイヤァアと奇声も発して顔を真っ赤にして、怪獣よろしく、その場で嫌だと暴れている。聞く耳など持ちやしない。


 「さっき売り場でバイバイしたじゃん。何でまた持ってきたわけ? 」

 「さっきバイバイしたのはカレーなの! これはお菓子のやつなの! 」

 「は? ……い、いつの間に持ってきたの……」


 みーちゃんとは、友達でも動物でもない。アニメのキャラクターで、うちの子のお気に入りだ。いろんな商品に彼らは印刷されている。お菓子コーナーは勿論、レトルト、冷蔵コーナー、いたる所にニコニコ笑顔でいらっしゃる。

 テレビの時は、その間は大人しくしてくれるからありがたい。ただ、毎回買い物の度に待ち受けて、この地団駄を引き起こすのだけは勘弁してほしい……

 「この前も買ったでしょ? みーちゃんだってそれに一緒に写ってたから、それでいいじゃん。第一、買っても必ずみーちゃん出るか分からないしさ」

 収集癖があるのまで遺伝してほしくなかったなぁ、絶対推しが出るまで買わなきゃいけない奴じゃないか、これは。

 「嫌っ! みーちゃんだけのがいいの! 」

 ……まぁな、分かるよ? 推しが写ってるだけでもいいけど、単体があるなら欲しいよな……ただな、貴方が欲しいのはおまけで、お菓子は親が食べる羽目になる。毎日同じお菓子を食べ続けるのは苦痛だぞ? いくら美味しくてもな。

 「……じゃあ、一つだけだよ? 今日こそはみーちゃん当ててね、そろそろ味飽きてきたから」

 こちらが白旗をあげたのを確認するや否や、イヤイヤをやめた。もう何回目だろう。こうやって我儘になっていくのだろうなぁ……

 「んー……じゃあこれ! 」



 家に帰って、真っ先に包装を開封しようとしたので、注意して手を洗いに行かせた。推しに触る前には手を洗うのは基本だ、まず帰ってから洗うのが当たり前だけど。

 「洗った! みーちゃん開けよう! 」

 不器用ながらも、顔を切らないように、ゆっくり封を切るあたり、流石だ。

 「……どう? ……みーちゃん出た? 」

 「違う……けど、この子、可愛い……! お名前、なぁに? 」

 危ない、目が輝いている。これはあれだ、推しを見つけた目だ。

 「んー……あ、あれだ! みーちゃんの友達のちーちゃんだよ」

 「ちーちゃん……ちーちゃん可愛い! 」


 ……新たな推しに出会ってしまったらしい。嗚呼、また買い物時間が長くなるな……

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