第10話 小学校
「な、なぜだ? どうして俺が住んでいる街が、雑共和国の首都になっているんだ?」
俺は第一声でそう言った。一目見て本当かと疑ったが、やはり間違いない。やはり俺の住んでいる
「む、そしてここは……
首都機能が置かれているのは、俺のよく知る小学校である。残念ながら母校ではないが、それでも隣の小学校だ。俺はこの小学校を見て、ここが豊岡市とわかったのだ。
見ると、校舎の正門のところに、『新入国希望者はこちら』と張り紙がしてある。俺はとりあえずアバターをそっちに向かわせることにした。係らしき人が受付をしている。
「あのー、大統領のラムなのですが……」
「ひゃっ!?」
途端に受付さんの態度が一変した。
「これはこれは、さすが大統領、早いですね! まだここにはリーザ副大統領とカッシーニ大将軍しか来ていませんよ。まだそんなに遠くには行っていないはずですから、急げば追いつけますよ」
どのくらい遠くなのかはともかく、ここが首都なのなら、二人は校舎の中にいるだろう。そう思って俺が校舎に入り、角を曲がると、廊下の向こうに今にも階段を上ろうとしているリーザとカッシーニが見えた。
「おーい! 俺だ、ラムが後ろにいるぞ!」
俺は二人にこう声をかけた。
ところで、さっきの受付さんとの会話を含め、このゲーム内の会話は全てチャットによる文字で行われる。会話相手を決めて文字を打ち込むと、それが相手にリアルタイムに表示される。送信ボタンはなく、俺の一文字ずつの打ち込みが、すぐに相手に伝わる。
「おー、大統領、早いね!」
「さては12時になるのを待ってましたね?」
上がカッシーニ、下がリーザの応答だ。
ところで、俺は一つ疑問がある。
「カッシーニ、なぜお前の肩書きは『大将軍』になっているんだ? もう少し言いようがあるだろう。『総司令官』とか。大将軍だなんて、中世かよ」
俺が見ているのはあくまでアバターなので、二人がどんな表情を画面の向こうでしているのかはわからないが、とにかくカッシーニはこう返してきた。
「私は別に何も言っていないけど。リーザが大将軍がいいって言ったのよ」
やはりそうだったか。
「うるさいですわね! この近世文学者が!」
確かにカッシーニの職業はそう表すこともできそうだが。こう言われると悪人のように聞こえるから不思議なものだ。
「それより俺はリーザの中世文学を読みたいんだが」
もしかするとリーザも小説家なのかもしれない。
「やめたほうがいいかもね。こいつの作品には面白いものがないから」
「な、何を言っているのですか! 面白いです! 面白いんです!」
この一幕を見る限り、面白くはなさそうだ。
それはともかく、俺たちは小説が面白いかで戦っているのではない。もしそうなら、俺は絶対に大統領になれなかっただろう。
「えーと、それで、本題はここに雑共和国の首都を置くという話だったはずだが……。これから俺たちはどうする予定なんだ?」
ひとまず俺はそう聞いた。
「今はまだ人を集めている段階だわ。もう続々と、受付に人が集まってきているはずよ。その間に私たちは本部を設営しましょう」
カッシーニがなかなか計画的な返答をした。本部とは本格的だ。それにしても、このゲーム上では、物はどうやって動かすんだろう?
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