生に縋る彼女
徳田雄一
出会いと別れ
私はある日、お仕事の関係で取引先の会社まで出向いていた。
そこにはセクハラをしてくる受付嬢の方や、パワハラで有名な部長さんが居座る会社で、私はどうにも行く気が出なかったが、この会社から取引を辞めると言われてしまえば、私の働く会社は倒産一直線まで追い込まれていた。
取引先の会社に行くのは数ヶ月ぶりで、またあのセクハラやパワハラを受けるのかとドキドキ、そして不安でいっぱいだった。
だけど久しぶりに入った会社内はとても綺麗に清掃されており、今まで居たはずの受付嬢は人員入れ替えでも行われたのか居なくなっていた。
私はキョロキョロとしていると、ある1人の男性に出逢う。
「御足労いただき誠にありがとうございます。私ここの取締役を務めています、滝沢と申します」
「ご、ご丁寧にありがとうございます。私は」
「大丈夫です。存じております。では私の部屋まで行きましょう」
「へ、部屋?」
「あ、はい。本日の取引の件は私に任されておりますので」
「は、はい!」
私は滝沢社長の後ろをびくびくしながら歩いていると、滝沢社長は私の目を見ながら言った。
「貴方の心配する要素は消し去りましたよ。セクハラ受付嬢はクビに、パワハラ部長はアメリカへ事実上のクビとして飛ばされましたから」
「え?」
「ふふっ。そんなに怖がらないでください」
「す、すみません」
「トラウマは消えないですから」
滝沢社長の笑みに惹かれ、滝沢社長の優しさに、そして滝沢社長のかっこよさに私は一目惚れしてしまった。
そこから数ヶ月が経ち、私は滝沢社長に猛アタックして、付き合うことになった。
「た、滝沢さんっ!」
「俺の名前言ってませんでしたね。
滝沢龍司と言います」
「りゅうじさん……」
「貴方の下の名前伺ってなかったですね」
「あ、えっと、あの、ゆ、ユカです」
「分かりました。ユカさん」
あまり男性と付き合った経験のない私からすれば、この会話だけでもきゅんきゅんして半端なかった。だけど、きゅんきゅんの他に何故か胃がムカムカしたり、心臓がギュッと痛む時が増えてきていた。
「どうしました?」
「い、いえすみません!」
「どこか体調が悪かったり?」
「大丈夫です。デート楽しみましょうっ!」
私は龍司さんがかっこよすぎてきゅんきゅんしすぎて具合が悪いんだと、病気なんかじゃないと勝手に決めつけて、放置していた。
そのツケが来たのが、龍司さんと付き合って半年の頃。互いに大人だということもあって、同棲をしようと、2人でマンションの一室を借りて暮らし始めた付き合って半年記念の日。
私は倒れた。龍司さんの声が届かなくなった。
悲しかった。苦しかった。生きたいと心で叫んだ。
☆☆☆
「ユカさん。ユカ!」
「こ、ここは……?」
「ユカ……!」
「りゅーじさん?」
「良かった。目を覚ました……」
身体が重く、息苦しかった。ちらっと腕を見ると点滴が繋がれていて、私はわかった。病院に来たんだと。
私が起きて、龍司さんが医者に呼ばれた数時間後のこと、龍司さんは目の下を赤くして戻ってきていた。
「龍司さん?」
「……ユカ聞いて」
「ん?」
「き、君は余命3ヶ月。末期ガンだ」
「へ?」
「……」
病室に沈黙が、重苦しく辛い空気が流れる。
私は悲しそうな顔をする龍司さんの頬に手を当てた。
「龍司さん。わたしは大丈夫だよ」
「ユカ」
「龍司さん。愛してる。私は死なない。死にたくない。龍司さんとお爺さんお婆さんになるまで生きるの。大丈夫だから」
「ユカ……」
「だ、だいじょうぶだからね?」
私は心の中では無理だとわかっていた。
余命3ヶ月なんて生きれるわけないって。
出逢いがあれば別れもある。
だけどこんな別れってないじゃん。
だから龍司さんと生きている間にできることをした。死ぬ前に龍司さんと結婚がしたかったから結婚式を病院の一室を借りて行った。
龍司さんとやりたいことを過ごして2ヶ月が経った頃、私は命が終わる音が脳に響いた。
「ユカ!!!」
「龍司さん。いままでありがと」
「ユカぁぁあ!!」
「泣かないで。最後だけは笑顔で見送って?」
「ユカ……!」
「龍司さん。私は死ぬ。けど私の心はずっと貴方のもの」
「俺もだ。俺もずっと愛す!」
龍司さんの真剣な眼差し、龍司さんの涙を堪え、男の顔に戻った瞬間、私は本当に龍司さんに愛されたんだと分かった。そして、私は死にたくないと気持ちが動いた。
「死にたくなあああい!!」
「ユカ……」
最後の一言は龍司さんと一緒に生きたかった気持ちを込めた【死にたくない】というもので終わった。
〜END〜
生に縋る彼女 徳田雄一 @kumosaki
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