ヘラヘラと

定食亭定吉

1

 ヤスノリは、輸出車販売会社の事務員として再就職した。しかし、様子がここ数日おかしかった。

ハローワークや各求人会社から問い合わせが多発した。そして、予感は的中する。試用期間十四日内の解雇となる。上司に呼び出され、今日は定時の十七時までつけるからと、十三時に強制退勤させられたヤスノリ。

 会社に持ち込んだ、私物で重くなったリュックを背負ったが、心は軽くなる。玄関を出て、こ会社に永遠の別れを告げる。未練はない。

「お疲れ様です。残念でしたね」

声の主はヤスノリの近くの座席にいた、いつもヘラヘラしていた小西。その言葉に不快感を感じるヤスノリ。

「良かったら、一緒に飯でも行きませんか?おごりますし」

一瞬、迷ったが快諾するヤスノリ。会社の近所には、個人経営の食堂が何件かある。

「ここでいいですか?」

小西は聞く。

「はい」

食べ物の好き嫌いは少ないヤスノリ。そこはハンバーグ屋だ。入店する二人。

「ハンバーグが好きでしてね。子供みたいですね」

恥ずかしがる小西。社内でヘラヘラした様子は感じられない。

「趣味嗜好は変化するでしょうが、僕は未だにカードゲームが好きですし」

「大人になったから止めるとか、変な話ですし」

メニューと水が配膳される。小西への気遣いから、最安値メニューを注文するヤスノリ。

「いいですよ。ご遠慮なさらず」

「いいえ、これでいいです」

メニューを指さすヤスノリ。

「僕も多分、定年までいないでしょうし。解雇されて良かったと思います」

小西は本心だ。

 メニューは配膳される。鉄板ハンバーグがにおいを出す。

食べ始める二人。休憩時間は限りあるので黙々と食す小西。

その時、別客が入店。解雇となった会社の元上司、高田だ。

素早く目を反らし、他人を装う二人。食べる速度をアップ。そして、食べ終え、会計を済ませ退店する。

「これであの人とも、あの会社とも、おさらばですね」

ハツラツとした小西。

「どういう意味ですか?」

「鈍いですね。だからクビになるのですよ!今から逃亡です」

ムッとしたヤスノリだが図星だった。

「否定はしませんが、別の方法がいいですよ」

親心なヤスノリ。

「後先は決めません。社保もないような会社ですから」

「それならいいでしょう」

勝手にさせるヤスノリ。小西とも今後、他人となる。

「連絡先、交換しませんか?」

小西は聞く。不審に感じたが、場合により連絡を無視すればといいと思ったヤスノリ。

「また同じ職場になるかもですね!」

その言葉は的中する。今日も文句を言いながら。

「また、逃亡したいですよ!」

切れない縁はある。

 トラック運転手は、入庫在庫を全て降ろしきり、

 



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ヘラヘラと 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi

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