第44話 奇跡はエステで起きている

 ルーちゃんと秘密の女子会をした翌朝、起きたらなぜかルーちゃんの母親であるおば様がいた。


 そう、たくさんの荷物とたくさんの侍女を連れて。


「わたくしが助っ人に呼びましたのよ」


 ルーちゃんがにっこりと笑顔で教えてくれた。そしてルーちゃんとそっくりなおば様はルーちゃんにそっくりな笑顔で私の肩をがっちり掴んだのだ。


「お、おばさま?」


「わたくしが最高の女の子にして差し上げますわ」


 声までそっくりなルーちゃん親子は「「うふふふふふ」」と二重音声で微笑みながら私を奥の部屋へと連れていったのだった……。






「あぁ、腕がなりますわ。我が一族の女神であるアイリちゃんを世界一可愛くいたしますわよ」


「あら、お母様。アイリちゃんはすでに世界一可愛いですから、銀河一可愛くするんですわよ」


「まぁ、そうでしたわね」


「「おほほほほほ」」


 ルーちゃんの家に遊びに行く度によくこの二重音声を聞いたものだ。そしてなぜかルーちゃんの家族は私のことを女神と呼ぶのである。なんで?


 ルーちゃんの一族は子沢山で大家族なのだが女の子がルーちゃんしかいないから女の子が珍しいのかもしれないと思った。(親戚の赤ちゃんは可愛かったが、でも男の子ばかりだったからやっぱり年頃の女の子が珍しいんだろうなぁ)


「よ、よろしくお願いします……」


 おば様と侍女さん達が腕捲りをすると、にっこり笑顔を見せた。


「さぁ、皆のもの取りかかるわよ!」


「「「畏まりました!奥様!」」」


「お、お手柔らかにお願いします……」


 そして、朝から夕方まで男子禁制の部屋の中。私はお風呂で全身磨かれたり、オイルマッサージで全身揉みほぐされたり、デトックスされたり、とにかくありとあらゆる美容方法を髪の毛1本から爪先まで施されたのだった。







 ******







「完璧ですわ!」


 おば様が達成感に感激してる中、ルーちゃんがうっとりした顔で私を見つめる。


「アイリちゃん、なんて素敵……」


 私も大きな鏡の前でくるりと1回転してみる。すごいことになってしまった。

 髪の毛はいつもより艶々のさらさらだし、少し日焼けしていたはずの肌は白く張りのある滑らかな肌に生まれ変わっていた。

 腕も腰も足も、昨日よりなんとなく細くなってる気がする。何よりもいつも手のひらにおさまるくらいのささやかしかない胸がちょっと大きくなっているではないか……!これは奇跡か!


 下着はいつもの白レースだけど、胸が大きくなったせいか、人生初の谷間が存在している!


 ……やはり奇跡か!


 洋服は白レースのキャミソールワンピースだ。清楚風だが肩はちょっと露出多目の大胆なワンピースなのである。

 お化粧はしなくても大丈夫だろうと言われたが、唇にだけ少し艶のあるピンクローズのリップを塗ってもらい、香水はセバスチャンが嫌がるからやめたが、ほんのりと石鹸の匂いがしていた。

 髪の毛も緩く巻いてもらったのでふんわりとしている。


「「やりましたわ!もうこの可愛さは歴史に残るべき可愛さですわよ!」」


 ルーちゃんとおば様が固く握手をして、その横で侍女さん達が涙を流しながらなぜか万歳をしていた。


「これなら、セバスチャンはデートしてくれるかな……?」


「今のアイリちゃんからデートに誘われて断る男なんて、それは男ではありませんわ」


「もしそのようなことになれば、……切り落としましょう」


 おば様の顔から笑顔が消える。え?どこからそんな大きな裁ち鋏を出したんですか?そしてなにを切り落とすつもりなのか……。


「お母様落ち着いて下さいませ。もしもの時はお手伝いいたしますから」


 ルーちゃんとおば様が「「うふふ……」」と二重音声で微笑むが、ふたりとも目が笑っていなくて怖い。とにかく、セバスチャンのところへ行くことにした。




 セバスチャンが泊まる用の部屋の前に行き、深呼吸する。私とルーちゃんの立てた作戦は、とにかく魅力的に変身してデートに誘おう!だ。

 三回扉をノックしてうわずりそうな声をなるべく抑えて声を出した。


「せ、セバスチャン、ちょっといい?」


 すぐに扉が開き、セバスチャンが顔を出した。


「アイリ様、今までなにを…………」


 何か言おうとしていたみたいだが、私を見た途端黙ってしまった。どこか変だろうか?ちなみにナイトには部屋で留守番してもらっている。


「セバスチャン?」


「……あ、いえ、――――なんでしょう?」


 すぐさまいつもの無表情に戻った。これはどっちだ?どっちの反応なんだろう?


「あ、あのね。お願いがあるの。これから私とデートしてほしいの!」


「…………」


「セバスチャン……?」


 あまりの無反応に心配になり、1歩近づいてセバスチャンの顔を見上げた。


「…………デート、ですか。もう夕方ですし、海辺を歩くくらいならかまいませんが……」


 なんで無表情なのに、絞り出すように声を出しているのか?もしかして笑いだしそうになって我慢してる?

 やっぱり変だったのだろうか。でも、とりあえず断られなかったからよしとしよう。


「うん、それでいいよ!海辺をお散歩デートしたい!」


「承知いたしました」


 そうしてルーちゃんたちに影から見送られて、私はセバスチャンと念願の初デートに向かうのだった。





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