第40話 マーメイドがビッチビチ
びちゃん!
青く煌めく鱗に包まれた尾ヒレを激しく水面に叩きつけられ、水飛沫が砂浜を濡らした。
「ちょっと、聞こえてるのぉ?人間なのぉ?違うのぉ?なんか色んな臭いがプンプンしてるからよくわからないんだけどぉ……あ、それとも魔物のハーフかしらぁ……。ねぇ、どうなのぉ?」
人魚がイライラしだしたようで再び尾ヒレで激しく水面をびちゃん!と叩く。
「に、人間、ですけど……」
「……やっぱり人間なんだぁ。なんでそんなに吸血鬼臭いのよぉ?しかも妖精の臭いもかすかにするしぃ。あたし、あの変態大嫌いなんだけどぉ」
え?吸血鬼臭いってどんな匂いなんだろう?それに妖精の臭いってなんでそんなものがついてるのよ?
私が戸惑っていると人魚はうーん?と首を捻りチラリと私の首もとを見つめた。
「あぁ、なるほどぉ。吸血鬼の獲物だったのねぇ。しかも祝福までかけられてるしぃ……いつも側に吸血鬼がいる臭い……、もしかして家畜なのぉ?でもそろそろ食べ頃なはずなのに、まだ生きてるのってまだ美味しくないから熟成中ぅ?それともぉ……」
人魚はなにやらブツブツと言いながら鼻をすんすんと動かした。なんで人魚がそんなに臭いに敏感なのか知らないけど、臭いの情報えげつない。
まぁ確かに獲物でもあるから間違ってはいないけど、えらい言われようである。
「わかったぁ!あなた吸血鬼の夜用の玩具なんでしょおぉ」
「な、え、はぁ?!」
人魚は得意気にふふんっと鼻を鳴らした。
「だってぇ、綺麗でもないしスタイルも悪いし眷属にもされないで血も吸われてないってことは美味しくもないんだろうしぃ。
だったら玩具としての感度がいいんでしょぉ?玩具くらいにしか使い道ないなんて可哀想ねぇ。
でも、どんな特殊プレイしたって交わればすぐ治るんだし便利よねぇ。こんなに臭いがついてるってことは相当開発されちゃってるだぁ」
人魚の綺麗な顔からは想像できないようなとんでも、ない発言がぽんぽん出てくる。
私は許容範囲をはるかに越えてしまい発言すら出来ず真っ赤になってしまった。
セバスチャンに……いや吸血鬼様に……か、感度、かか、開発……とととと、とくしゅプ、プレ……。
ダメだ、私の想像範囲をとっくに越えて地球1週回っちゃう!
吸血鬼様に
「でもなんで妖精の臭いまでするのぉ?もしかして妖精にも玩具にされてるのぉ?」
「妖精は知りません!」
はっと我に返り、そこは断固否定する。だってそれってあの妖精王に色々されたのか聞いてるんでしょ?
指一本触られてませんから!
「私は吸血鬼様だけ(を観賞用ペットか結婚したいくらい好き)です!」
「そう、吸血鬼だけ(に開発されてる玩具)なのぉ」
これだけは譲れないんだからぁ!
「ふぅーん」
人魚はジロジロと私を上から下まで値踏みするように見ると、ニヤリと笑った。
「まぁいいわぁ。どのみちここにいるってことはもう要らないんだろうし、あたしがもらってあげるわぁ」
するとバシャッと海から這い出し、手を伸ばしたかと思うと私の足首を掴んだ。そしてそのままズルズルと私の足を海の中へと引きずり込もうとしだしたのだ。
「なにを……!」
「だって勿体ないじゃないぃ。たとえ純潔じゃなくても、若い人間の娘の新鮮な肉なんだものぉ。吸血鬼に常に回復されてたなら多少魔力も含まれているだろうし……。
あたしが残さず食べてあげるわぁ」
水面に一度沈み、再び現れた人魚の顔は先程までの綺麗な顔ではなかった。肌は鱗に覆われ、瞳は濁り、唇が耳まで裂けていた。まるで鮫のような歯をガチガチと鳴らし、やたらと長い舌でペロリと舌なめずりをする。
「や、やめ……っ!いやぁっ!!」
ザラザラとする舌で私の太ももを舐めると、ケタケタと笑いだした。
「なかなか美味しそうだわぁ。こんな新鮮な肉を生きたまま捨てるなんて、吸血鬼は他にもっといい獲物でも見つけたのかしらねぇ?
大丈夫よ、あたしが骨の髄まで綺麗に食べてあげるわぁ。まずは内臓を食べて、血を全部浴びてあげるぅ。肉は柔らかそうな乳房から千切りとって、そうねぇ海の魔物たちにも少しくらいお裾分けしてあげなきゃ」
ケタケタと笑い続けながら凄い力で私の体を海の中へと引っ張り、私は完全に海に沈んだ。
「がぼっ!」
肺の中の空気が押し出され、息が出来ず意識が朦朧としてくる。私の体は人魚に掴まれたままどんどん下へと沈んでいった。
視界のうつる人魚の指先が変形し、鋭いナイフのようになっていく。そしてそのナイフを私の腹部に撫でるように押し当てた。
水着と薄皮が切れて、水の中に赤い血が漂ったのが見えると一気に血の気が引いた気がした。
私が朦朧とした意識の中でその苦痛に顔を歪めると、人魚は楽しそうにニヤリと笑い、さらに私の体を切り刻み出す。身体中から血が漂い、その痛みと呼吸の出来ない苦しさで私は完全に意識を手放そうとした。
その時。
「??!」
ずっとニヤニヤと笑っていた人魚の顔が驚愕に変わる。そして人魚は私の体を掴んだまま、ものすごい勢いで水面へと上がっていったのだ。
ざばぁっ!と音を立て水面から顔が出ると、私は貪るように酸素を吸った。
「げぼっ!げほげほっ!!」
だいぶ飲んでいた海水を吐き出し、何度か深呼吸するといくぶんか意識がはっきりしてくる。しかし私の体はそのまま海の上へと引き上げられ、人魚に掴まれたまま宙ぶらりんの状態になったのだ。
「ちょっと!なにするのよぉ?!」
上の方で人魚の声が聞こえてくる。かなり怒ってるようだが、それに返事をしたのは、黒髪の執事服を着た男だった。
「人魚の一本釣りです」
いつものにっこり執事スマイル。でもその目は笑っていない。
「……セバスチャン!?」
崖の上に釣竿を持って片手で人魚を釣り上げたのは、私の執事だったのだ。
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