第38話 なんでこんなのを攻略せねばならないのか
嬉し楽しい夏休みになりました!
私は現在実家に帰ってきて、久しぶりの自分の部屋でのんびりしております。
「えーと、このへんに……」
引き出しの奥を探り、1冊のノートを取り出す。これは5歳の時からゲームの事を思い出しては書き綴っていたノートだ。
新しいページを捲り、すっかり忘れていた妖精王の事を書き出した。
あのダンスパーティーで妖精王の存在を思い出したが、よくよく考えれば妖精王にもダンスイベントがあったのだ。しかしゲームでの妖精王はもっと早くヒロインの前に姿を現していたはずだが、なにか変わってきてるのだろうか?
まず攻略対象者に妖精王を選ぶと、ヒロインはいつも身近に誰かの視線を感じるようになる。
最初は吸血鬼の呪いだと怯えていたが、学園に入るとなぜかその視線のことを「きっとこれは、私を守ってくれる王子様だわ」とかトチ狂ったことをほざき出すのだ。(ヒロインは病んでいるのかもしれない)
それからも他の誰かからアプローチされても「私の運命の人は他にいる」とか、悪役令嬢に虐められても「きっと王子様が迎えに来てくれる」とか、まるでシンデレラのように耐えて耐えて耐えまくるのである。そして周りから浮いた存在になるまでぼっちを目指してるのかっていうような選択肢ばかり選んで見事ぼっちになると、満月の夜に妖精王が現れて愛を確かめ合うのだ。
「あなたが私の王子様なのね」の選択肢を選ぶと、妖精王がプロポーズしてくる。妖精王から「我の愛の妖精になっておくれ」と言われ、イエスを選ぶとヒロインの体にキラキラとエフェクトがかかり、妖精王の寵愛の称号を得るのだ。
その後もシンデレラも真っ青並みの虐めや孤独を選び続け、ダンスパーティーでは妖精王が人間に擬態して仮面をつけてダンスしに姿を現す。仮面をつけていれば誰にも疑われないというご都合主義満載のイベントなのだ。
ここでダンスをして好感度を上げれば愛の妖精ルート確定となる。まあその後もイベントではぼっちの所に妖精王が現れて2人の愛を育み、最終的にヒロインは人間を辞めるのだがぼっち過ぎて誰にも気付かれない。そして人間をやめたことで吸血鬼の呪いから解放されてしまう。
ヒロインを得た妖精王は「よくも我が花嫁を苦しめたな」とか言って吸血鬼を倒して、2人はハッピーエンド。パラメーターにもよるが、全てMAXだった場合は吸血鬼はこの世に恐怖をもたらしていた存在だったことになりそれを倒した聖女だと崇められ、妖精世界となぜな人間世界からまで崇められてしまう。とネタバレサイトには書かれていた。(その時の妖精王のスチルが素晴らしいと妖精王推しの人が熱く綴っていたいたのを思い出す)
いやいや、ぼっちだったじゃん?友達もいなくて、家族からも忘れられて人間辞めたんじゃん?なんでそこで急に聖女なわけ?
わけわからん。
まぁ、そんな訳で妖精王はもっと早く姿を現していたはずなのだ。しかし私はあのダンスパーティーの時まで見ていない。(忘れてたけど)だから、このゲームは強制力が半端ないと思っていたけどもしかして変わってきてるのか?と思ったわけだ。
っていうか、自らさらにぼっちになってドM並みにシンデレラも上回る虐めを受けて、さらに人間辞めてまで妖精王と結婚とかあり得ない。
しかしヒロインは一体どうやって人間を辞めたんだろう?確か妖精王と結婚したあとのヒロインの姿はずっとキラキラしていたんだよねぇ。
妖精王もダンスパーティーには現れたけど、結局吸血鬼様に喧嘩売ってきゅっぽんされてたしなぁ。
「……結論。気持ち悪かった……と」
妖精王は気持ち悪かった。と書いておいた。ついでに色黒王子についても書き出す。
例の色黒王子の悪事暴露事件だが、もしかしなくてもあれもイベントだった。
でも乙女ゲームの恋愛イベントがまさかあんな恐怖の追いかけ回され事件だとはわからないからしょうがないと思う。ゲームでは、夏休み前に色黒王子に人気のない所で迫られて気持ちを確かめられるのだ。隣国の王子相手におそれ多くて本当の気持ちを言えないヒロインは、色黒王子にたくさんの女の子が言い寄ってるのも知っていた。それにはあの名家の子女もいて、悪役令嬢にもちょっかいをかけていたというプレイボーイだったことが判明する。
でもそこで色黒王子が「オレの心を満たすことが出来るのはお前だけだ」みたいなことをほざく。おいおい、ただの浮気ヤローじゃないか?!
しかも他国の王子の婚約者にまで手を出すなんて何事だ!(ゲームの中では悪役令嬢は双子王子のどちらかの婚約者になっている)
しかもヒロインには怒ることも呆れることも無く色黒王子を受け入れてしまう選択肢しか現れない。
そしてその選択肢の中で「今すぐここで、あなたのものに……」を選べば好感度は急上昇。私とルーちゃんが隠れていたあの階段の影でホニャララされてしまうのだ。(色黒王子推しのネタバレサイトにはそのホニャララが良いとマニアックなことが書かれていたが)
いや、ダメでしょ!絶対ダメでしょ!どこまでどうしたとかまでは描かれていなかったけど、どこまでだったとしてもやっぱりダメでしょ?!
最後のセリフに「あ……」とかだけ書かれてあとは反転して真っ暗になるとか、ほんとにダメでしょ!!
自分が色黒王子にされてるのを想像して気持ち悪くなった。私は寒気を感じながらペンを動かす。
「……結論。気持ち悪かった……と」
うん、やっぱりどいつもこいつも気持ち悪い。隣国に帰ってくれて本当に良かった。セバスチャンには感謝してもしきれないわ。
私はノートを閉じ再び引き出しのに隠した。とりあえずこれで攻略対象者を2人撃破できたのだし、よしとするか。(しかし、ゲームでも実際でもどのみち気持ち悪いって最悪なんだけど)
このあとも夏休みイベントがあるのだが、攻略対象者がいなくなればそれだけイベントも起こらなくてすむだろう。せっかくの夏休みだもん、不安材料は少ない方がいいもんね!
ちなみにナイトはコウモリの姿に戻って散歩に行っている。(セバスチャンいわく屋根裏がお気に入りらしい)セバスチャンも今はウィリーの相手をしているはずだ。(なんかものすごくなつかれている)
「私もウィリーと遊ぼうっと」
これから始まる楽しい夏休みにちょっと浮かれるのであった。
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