第29話 ロリコンとボインちゃん
もう一人の攻略対象者、妖精王。
脳内お花畑で、時分がこうと決めたんだからその通りになるのが当たり前!な思考の持ち主だ。ヒロインちゃんのことも、可愛くて気に入ったからお嫁さんにしちゃお☆みたいな。
自分はこんなに格好いいからヒロインちゃんも自分を好きになって当たり前!自分に選ばれて喜ばないわけないしー☆
な、感じのキャラだったはずなのだが、今目の前にいる妖精王はゲームの設定キャラと少し違って見えた。もっとこう、アホっぽいイケメンだったと思ってたけど……。
せっかくのイケメンフェイスを歪め、吸血鬼様をこれでもかと睨んでいる。
「吸血鬼め……滅びる寸前の種族の分際で、我が花嫁を汚した罰を受けるがいい」
『花嫁とはアイリのことか?』
「そうだ!我が幼い頃よりずっと見守って育てて来たその高貴な果実を熟す前にお前がもぎ取ったのだ!全てはアイリという未熟な果実を我が手で熟すためだけに、風呂もトイレも眠る姿もずっと見守って来たというのに!」
ふ、風呂?トイレ?!眠る姿を見守る?!未熟な果実を熟すためって……。
ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!なんか気持ち悪い!!
『……』
「アイリを吸血鬼の呪いから救うため女王の花の妖精に生まれ変わらそうとしたのに、お前がその種を殺しアイリの純潔を奪った!このような罪は八つ裂きにしても足りぬわ!」
女王の種?なんだそれは。え?じゅ……純潔?!純潔ってもしかしなくてもアレですか?!
「吸血鬼様!私の純潔ってすでに奪われていたんですか?!やっぱり、もしかしてたんですね!」
『……そんなもの、奪ってない』
吸血鬼様が私の体をちょっと離した。どうやら違うようだ、残念。
「もう純潔では無いアイリを正妃として花嫁には出来ないが、こうなったらせめて下級妖精に生まれ変わらせて我の手元で愛でてあげよう。側妃なら問題ないからな」
妖精王は私と吸血鬼様のやり取りなどまったく聞いておらず、勝手に語って勝手に納得している。
「さぁ、アイリよ。我の元へきて人間としての死を受け入れ、そして妖精に生まれ変わるのだ。そうすれば我の愛は永遠にお前の物だぞ」
私が自分の元へ来るのが当然!当たり前!みたいな顔で妖精王が悦に入って語りだし、私に手を差し出した。
『……と、言っているがどうする?』
吸血鬼様が妖精王を軽く睨み返しながら私に聞く。
「どうするもなにも、私は人間やめる気なんてありません」
しかも側妃って愛人ってことでしょ?なんで妖精王の愛人になるために1回死んで生まれ変わらなきゃいけないんだ。
しかもなんかヤンデレが入ってて気持ち悪いし!
『と、言っているぞ?』
今度は妖精王に向かって言った。
「アイリ!なぜだ?!」
「そんなの!トイレを覗く変態なんかお断りよ!」
吸血鬼様を舐め回すくらい見続けたい私ですら、さすがに吸血鬼様のトイレまで覗きたいとは思わない。
お風呂……吸血鬼様の入浴シーン……は、うん、ギリギリセーフだ。シャワーシーン希望。
「そんな……我の愛しい花嫁……。くっ、これもすべて吸血鬼のせいだ!
お前が、お前が……っ!!!」
妖精王の体がブルブルと震えだし、どす黒いオーラがあふれでてくる。なんかヤバそうなんだけど。
『うるさい。アイリは今、俺様の加護の元にあるんだ。手出しは許さん!』
吸血鬼様は私の手を離すと、ひゅっと風を切る音と共に妖精王の前まで高速で移動した。
「なん……っ?!」
そして右手で妖精王の顔面を掴み、指に力を入れた。
「んぎぃ、ぎゃ、ぎっ」
『俺様に喧嘩を売って、無事でいられると思うな』
妖精王の顔面が物理的に歪む。そして、吸血鬼様の手のひらが淡く輝いた。
「んぎゃあ、ぎぉぃぃぃっ」
まるで顔面が掃除機に吸い込まれてるかのように、妖精王の顔が変形して細くなっていく。(ホラー)どんどん妖精王の姿は吸血鬼様の手の中に吸い込まれていき、最後にきゅぽんっと音を立てて消えた。
吸血鬼様はその手をぐーぱーしたあと、なにかボールでも投げるような手つきでぶん!と振り切る。すると、ぽんっと丸い小さな光の玉が出てきたのだ。
『ちっ、妖精王のエネルギーとはくそ不味いな。おい、そこで見てる妖精!早くこれを持って帰れ!』
吸血鬼様がその光の玉を指差し、空中に向かって叫ぶ。
「……お気づきでしたか」
透き通るような声が聞こえたと思ったら、ぼんやりとした光が現れ、そこからナイスバディの緑色の髪をした美女が姿を見せたのだ。
私は思わずごくりと息を飲み込む。その美女は、ばいんばいんのぼいんだった!何をどうしたらそこだけそんなに育つのか?!
ルーちゃんも実は素晴らしいばいんばいんの持ち主なのだが、さらにその上を行くばいんばいんが現れた。さすが人外のばいんばいんはかなりのばいんばいんだ!
おっといけない、ばいんばいんの美女がなんか私を見ている。
私は見てないフリをした。
「……なにか不穏な視線を感じましたが、まぁいいです。この度は我らが妖精王が大変失礼をいたしました。そして妖精王の命を助けて下さり感謝いたします」
そう言ってぼいんちゃんは光の玉を両手に包み込んだ。
「……あの光の玉が、妖精王なの?」
『そうだ。俺様が妖精王としての膨大なエネルギーを全部吸いとってやったから、妖精として産まれる寸前の魂だけの存在になったんだ。
再び妖精王までに育つには数百年はかかるだろう』
「それでも、妖精王の器となれる魂はなかなか現れません。……いくらロリコンの変態の馬鹿でも」
ぼいんちゃんの額に青筋が浮かぶ。なんか苦労してたようだと感じ取れる。
「このアホは人間の娘を気に入ったからと仕事もせずに花園に通い、その娘のストーカーをし、さらには貴重な女王の花の種まで勝手に持ち出して消滅させてしまいました。
そして大勢の人間の前に姿を現し、まさか古代種族として格上の吸血鬼様に喧嘩を売る始末。本当なら妖精世界で裁判にかけて魂の存在まで戻すはずでしたが、おかげで手間が省けました」
『妖精王は思い込みが激しくてしつこいって、闇の世界では噂になっていた。一度絡まれると厄介だってな。しつこいから』
吸血鬼様が辟易した顔で、しつこいって2回言った。相当しつこいらしい。
「この魂は、一から教育し直して今度こそちゃんとした妖精王に育てます。ご迷惑をお掛け致しました」
ぼいんちゃんは光の玉をすっとポケットにしまう。貴重な魂の割には元妖精王の魂の扱いがぞんざいだ。
ところで。と、ぼいんちゃんは吸血鬼様に近寄り、吸血鬼様の腕にすり寄り始めた。
「吸血鬼様は動物しか眷属がおらずお一人だとか。このままでは種が残せずお困りでは?妖精は吸血鬼種族にはなれませんが、種を残すことは可能でございますよ?
……どうぞ、今回のお詫びに我が体をお好きになさって下さい」
ぼいんちゃんは吸血鬼様の手を掴むと、自分のぼいんにその手を押し付ける。弾力でぼいんがばいんっと揺れた。
頬を赤く染め、舌で自分の唇をつぃと舐める姿が妖艶な魅力を出していた。
吸血鬼様は無表情だが抵抗もせずにされるがままだ。もしかして、吸血鬼様の好みはぼいんちゃんみたいなのなんだろうか。私が色仕掛けで迫った時はにっこり笑顔で毒舌でスルーして、触ろうともしなかったのに。
ぼいんちゃんはナイスバディで色っぽくて、それに比べて私は幼児体型って言われるし、色気もないし、いつもメリケンサック振り回してるし……。
だめだ、比べれば比べる程に落ち込みそうだ。
『……離せ』
「え?なにかおっしゃ……」
吸血鬼様がぼいんに押し付けられてる指に力を込める。ぼいんが指の形が食い込みギチギチと音を立てた。
「ひぃっ!痛い!お止めください!!」
『俺様は妖精に種を増やしてもらう気など無い。早く妖精世界に帰れ』
吸血鬼様は無表情のまま、吐き捨てるように言うと手を振り払う。その拍子に吸血鬼様の手首を掴んでいたぼいんちゃんの手が外れた。
「お、女に恥をかかせるなんて!このまま種族が滅んでもしりませんからね!」
ぼいんちゃんは胸を押さえて捨て台詞を吐くと、光となってその場から消えてしまった。
『ふん、やっと帰ったな』
そして私に視線をうつすと、ため息をついて私の手を握る。
『他の人間どもが目を覚ます前に部屋に帰るぞ。ちょっと力を使いすぎたみたいで、瞳の色が変えられない。……吸血鬼だとバレたら大変だろう』
「え、あ、はい……」
気絶している生徒たちを踏まないように避けながら講堂からでる。途中で倒れてるルーちゃんを見つけたが心のなかでひたすら謝った。(後で助けにくるからね!)
今は吸血鬼様を人目につかないうちに部屋に隠さねばいけない。ほとんどの生徒が講堂にいたので廊下には人気はなかった。たまに倒れてる護衛の人がいたが怪我などはしてないようだ。
そして無事に部屋に戻り、安堵から床にへなへなと座り込んでしまった。
「誰にも見つからなくて良かった……」
吸血鬼様は金髪のウィッグとタキシードの上着を脱ぎ捨て、ベッドに寝転がった。
『俺様は疲れたから寝る。しばらく人間の姿に擬態出来ないから、部屋から出るならナイトを忘れるなよ』
ナイトがぽんっと音を立ててピンキーリングからバレッタの姿になった。私はかみかざりを外し、そこにナイトのバレッタをつける。
「あの、着替えてルーちゃんを助けに行ってきます」
吸血鬼様はチラリと私を見てから壁際に顔を向けた。セバスチャンだったら着替えを手伝ってくれるけど、吸血鬼様は我関せず状態である。
悪戦苦闘しながらドレスを脱ぎ、ハンガーにかけてあったシンプルなワンピースを着る。これなら動きやすそうだ。そして、部屋を出ようとしたとき、吸血鬼様が『あぁ、それと』と声をかけてきた。
「え?」
『さっきのお前は、不細工な顔をしていたぞ』
こっちを見ずにそれだけ言うと、布団をかぶって寝てしまったのだ。
今まで散々、幼児体型だとか色気がないとか下着の色から勉強してこいとか言われ続けたが、不細工と言われたのは初めてだった。ぼいんちゃんは確かに絶世の美女だったが、それに比べてってこと?
「そう、ですか。…………いってきます」
私はやっとそう返事をして、部屋から静かに出ていった。
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