第25話 だって誉めるとこしかないじゃない?
さて、あれからどうなったかと言うと……。
まずルーちゃんとお昼ご飯を食べてから、先生方に簡単に事情を説明して謝罪し、「責任とって退学します☆」と言っておいたんだけど先生方に慌てて止められてしまった。
大事な隣国王子の怒りを買った女生徒なんてさっさと処分してしまった方が学園も安泰だと思ったのだが「それはそれでこの国が荒れてしまうから!」と必死だ。とりあえずこの件は保留になった。
まぁそのうち色黒王子が怒って色々と言ってくるだろうからそれからのようだ。
真っ先に会いに行ったルーちゃんは私が無事に帰還したと喜んでくれて、お昼ご飯(ちなみにセバスチャンお手製のお弁当)を食べながら「いざとなったら私が退学すれば平和条例も大丈夫だと思うんだ~」と話していたら急に真顔で席を立ち「急用を思い出しましたので、少し待っていて下さいませ?」といなくなりすぐ戻ってきた。
きっとお花摘みね。ご飯食べてるときに急にってなることあるもんね。でも私にだってそんなことをわざわざ言わないデリカシーくらいある。
ルーちゃんがいない間にセバスチャンに頼んで用意してもらったお腹に優しい特製ジュースをそっと差し出す。
「このジュースはゴロゴロならないよ!」
「まぁ、よくわからないけど嬉しいですわ」
私はやたらとお腹が丈夫なのだが(昔、毒キノコを間違えて食べたけど平気だった)、私の可愛い天使のような弟はお腹の弱い子だった。すぐにゴロゴロなっちゃって冷たいジュースなど飲んだらひと口目から大変だったんだけど、セバスチャンが我が家にやって来た翌日このジュースを作ってくれて恐る恐る飲んだ弟は「美味しい!ゴロゴロならないです!」と喜んで飲み干したのだ。なぜかお腹も前より丈夫になり食べれるものも増えたと両親が喜んでいた。(セバスチャンにこのジュースのレシピを伝授された料理長が「おぉう、まさかこの材料でこんな、まさか」と何度も呟いたとか呟かなかったとか)
よくわからないけど、お腹に優しい特製ジュースなのだ!
とにかく2人で楽しくご飯を食べたあと私は先生方に会いに行ったのだが処分は保留にされたので、それをルーちゃんに言いに行くと「あんな筋肉のせいでアイリちゃんが退学になる必要ありませんわ」と笑顔で私の手を握ってくれた。
それから1週間程たっても色黒王子の方からは何も言ってこなかったのだが、風の噂によると「まさか、すでに大人に」とかなんとかいつもぶつぶつ言って、顔を赤くしたり青くしたりしているらしく他の女生徒たちからもだいぶ気持ち悪がられているようだ。うん、よくわからないが気持ち悪い。
あの翌日からセバスチャンは私の髪をポニーテールにしたりお団子ヘアにしたりと上にまとめる髪型にするのが多くなった。
たまにすれ違う上級生がチラチラと私のことを見ては、ほっとしたりガッカリしたりと変な反応をしてくるのだがそれを見たセバスチャンがにっこりと視線を向けると上級生たちはそそくさと立ち去っていった。(それが女生徒の場合「やっぱり絶対そうよーっ」と顔を赤くしながら去っていく)
もしやセバスチャンが素敵すぎるから狙われているのだろうか?確かにセバスチャンは格好いいし綺麗だし、細身だけど意外とたくましい体つきしてるし、抱きつくとひんやり気持ちいいし、なんかいい匂いがするし、流し目とか唇とかセクシーだし、色っぽいし、肌はスベスベだったし、手つきがなんかこうゾクゾクするし、とにかくいい匂いがするけど!モガッ
「アイリ様、誉めて下さるのは嬉しいのですが、せめて心の中だけにしてください」
セバスチャンが私の口を手のひらで塞いでいた。しまった、心の声が口から漏れていたようだ。
私を遠目に見ていた生徒たちが顔を真っ赤にしてこちらを凝視してくる。
「私、何か変なことを言ったかしら?」
セバスチャンは本当に格好いいのだ。
「否定はしませんが、お口は閉じましょうね?」
セバスチャンはにーっこりと微笑んで、人差し指を私の唇に当てる。こくこくと私が頷くと、なぜか周りから黄色い声が上がった。
たぶん誰かがセバスチャンを見て興奮してしまったのだろう。私の執事は世界一素敵だからしょうがないか。
******
「ドレス?」
いつものようにセバスチャンに3秒で身支度をされながら聞き返す。
「はい、もうすぐ全生徒交流会ダンスパーティーがあるそうなのでご実家に連絡したところ新しいドレスを届けて下さるそうです」
そうだった、この間思い出したのにまた忘れてたわ。色黒王子のダンスパーティーフラグは木っ端微塵にしたけど、他の攻略対象者たちはまだ残ってたんだった。
それぞれフラグがらあったはずよね。確か、ドS王子はパーティーまでにどれだけドSに泣かされてドSを満足させるかで決まる。どこかのタイミングで「あなただけが私のすべてを縛り付ける」とかなんとか言う選択肢を選べばドSの奴隷の称号を得てダンスパーティーの相手に選ばれるはずだ(攻略サイト情報より)。
ちなみにドM王子はこれまたどれだけドMを満足させるかによる。「私の足はあなたを踏みつけるためだけに存在するの」とか言う選択肢でヒールの女王の称号を得るのだ。
うん、気持ち悪い。
「あれ……?」
「どうかされましたか?」
身支度も終わり紅茶の準備をしていたセバスチャンが振り向く。
「うーん、何か忘れているような気がするのよ」
ダンスパーティーイベントで、なんかこう重要な事があったような無かったような……?
「思い出せないなら、さほど重要でもないのでは?」
「……そうよね、そのうち思い出すかもしれないし」
まぁ、いいか。と、私は美味しい紅茶を飲みながらポジティブに考えることにした。
そう、すっかり忘れていたのだ。まだ目の前に現れていないもう一人の攻略対象者の存在を。(夢には出てきてたがそのあとの“もしかして事件”の衝撃で欠片も覚えていないのは致し方無いのである)
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