小鳥遊つぐみの受難?

霧ヶ原 悠

小鳥遊つぐみの受難?


 (助けてください、神様)


 相手に悟られないように小鳥遊つぐみは全力で神様に助けを求めた。


 (つぐみは何かしてしまったんでしょうか。いや、きっと何かをしてしまったからこんなことになっているのであって、でも何をしてしまったか分からなくて、つぐみは何をしてしまったのでしょうか)

 「食わねーの?」

 「ぴゃっ!」


 いきなり顔を覗き込まれたのと、それが存外近かったことに驚いて、小鳥遊は三十センチぐらい飛び上がると、変な動きで後ずさった。


 「おい、なんだその反応」

 「ご、ごめ......」

 「まー、お前がビビリのヘタレなのは知ってっからいいけどよ。ほら、美味いぜ。新しくできた焼き鳥屋の焼き鳥。昨日母さんが買ってきてくれたんだけど、これは当たりだぜ」


 小さい頃から一緒にいて、ずっと大切で大好きな幼馴染、犬井千和。

 学校帰りの今、その手に握られた袋にはたくさんの焼き鳥が入っている。さっきからむしゃむしゃと無言で食べていた。


 (取りやすいようにこっちに袋の口を向けてくれるけど、つぐみには分かる。これはものすごく怒っている。でも何で怒っているのか分からない......)


 涙目でぷるぷる震えて、何も言わない小鳥遊に焦れたのか、犬井がついに吠えた。


 「お前マジでさっきからなんなんだよ! 黙ってちゃ分かんねーっていつも言ってんだろーが!」

 「ぴゃあああああ! ご、ごめんなさい! だ、だってチワちゃんが怒ってるから! でもなんで怒ってるか分かんなくて! ご、ごめんなさいつぐみ何しちゃったー!?」

 「はっ!? なんでそんなことになんだよ!? 普通に買い食いしようぜって言っただけじゃねえか!?」

 「だ、だって、焼き鳥食べてるから! つぐみのことも焼いて食べちゃうぐらい怒ってるんでしょー!?」


 ついに限界が来たのか、つぐみはポンっと白い煙を立てて鳥に化けると、泣きながら空へと飛んでいってしまった。


 「ばっ! おま、なんでそうなるんだっつーか! お前、鳥になんのやめろって言ってんだろーが! アタシは犬なんだから追いつけねーだろーが!」


 犬井の声はよく通るが、半分パニックを起こしていた小鳥遊には届かなかった。

 彼を見送るしかなかった犬井は、がっくりと肩を落とした。


 「学校帰りに好きな人と買い食いって、憧れのシチュエーションだったのに...やっぱりクレープとか可愛いのがつぐみもよかったのかな...」



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