シャルドネと焼き鳥

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

粋な計らい

「機嫌悪そうだね」

 

 今日もサユキは、サーロインを切り刻んでは、わっしわっしと口の中へ詰め込む。

 夜景がキレイなレストランに誘ったんだけど、彼女の気分がこうだと盛り上がらないな。


「あんた、残業を押し付けられてさ。せっかくのデートなのに、ショッピングをするヒマがなかった。ホワイトデーよ!? おねだりしたっていいじゃん」

「悪かったって。だからこうして、ディナーは豪勢にしたんだよ」

「『思い出のお店に行こう』ってなっても、もう潰れていたし」

 


 埋め合わせをしても、サユキの機嫌は直らない。

 これはもう、こうするしかないかな?


「もうお腹いっぱい?」

「全然足りない。今日はヤケ食いしてやるんだから」


 よかった。

 ならば。

 

「すいません、シャルドネを。あとは……」

「かしこまりました」


 ボクは、ウェイターに注文をした。

 白ワインの王様の異名を持つ、シャルドネを。


「シャルドネ? お肉には赤でしょ? なんで白なんて」


 たしかに、「肉には赤ワイン、白には魚」というのがワインの一般常識となっている。


「今日はお魚って気分じゃ、ないんだけど?」


 また、サユキはミシミシと肉を噛み砕く。

 ドリンクは、赤のボルドーだ。


「まあまあ」


 シャルドネが来た。他にも。


「焼き鳥?」


 サユキの前に置かれたのは、串に刺さった「ささみ」と「ムネ肉」だ。

 きれいなお皿に盛り付けられているが、焼き鳥といえば串に刺さっている。

 

「ふざけないでよ。おしゃれなフレンチで焼き鳥って」

「いいからいいから」

 


 渋々、サユキは焼き鳥をムシャッと頬張った。

 ワインをクイッと。


「……うま」

「でしょ? ここは一応フレンチだけど、実は焼き鳥屋さんなんだ」


 フレンチ出身のシェフが、「女性でも入りやすい焼き鳥屋」というコンセプトでオープンしたという。


「で、白ワインって、どういうワケよ?」

「白ワインってね、セロトニンの分解を妨げてくれるんだ。リラックス効果が期待できる」

「へえ」

「また、シャルドネは白の中でも、肉料理に合うって言わているんだよ。鶏肉がオススメなんだって」

「だから、焼き鳥屋ってわけなのね?」


 

 リラックス効果をさらに高めようとしたのか、サユキは思い切りグラスの香りをかぐ。


 店を出て夜の街を歩きながら、サユキが微笑む。

 

「あんたにしては、粋な計らいをするじゃない?」

「そりゃそうだよ。ホワイトデーなんだから」

「でもちょっとがっかりだな」


 まだ、なにか足りなかっただろうか?


「てっきり、プロポーズしてくれるんだと思ってた」

「いるかい? もう結婚して十年目じゃないか」

「してないじゃん。授かり婚だったから」


 子どもたちは、ご両親が見てくださっている。



「まだ時間はあるね。新しい家電を見に行かなくちゃ。まだ家電量販店はやってるよね?」


 ここでブランド品といかないところが、サユキらしい。

 だから、好きになったんだ。

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シャルドネと焼き鳥 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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