つくねのゆくえ

今福シノ

前篇

「最近、つくねの売り上げが合わないんだよなあ」


 夜勤の人と交代してバックヤードに戻ると、店長が頭を悩ましていた。


「つくねって、あのレジ横のやつですよね」

「ああ、秋本あきもとさん。そうなんだよ」


 私の質問に首肯してから、再びタブレットに目を落としてうんうんと唸り始める。私に向けられる40代半ばの頭頂部は、バイトを始めたときよりも薄毛が目立つようになっていた。


「そんなに合わないんですか? 売り上げ」

「いや、1本だけなんだけどね」店長は答える。うーん、1本かあ。

「1本くらいならいいんじゃないですか? ほら、からあげだってたまに調理のときに失敗して無駄になっちゃったりしてますし」

「でもここ最近、毎日のように合わないんだよ。さすがに変じゃないかなあ」

「たしかに……毎日はちょっと変ですね」

「それに焼き鳥は人気商品で本部からも注目されてるんだ。今はぼくが補てんしてるけど、もしエリアマネージャーにバレたらどうなることか……」

「店長、前も発注ミスですごい怒られてましたもんね」


 プリン10個を間違えて1,000個注文したときはすごく大変だった。

 閑話休題。

 店長の言うとおり、うちの焼き鳥はほかのコンビニチェーンと比べて人気だった。店で串にさして直火じかび焼きしているのが本格的だ、と。店長自身は焼く手間があって面倒だとぼやいていたけど。

 そしてつくねは女性人気もあってか、焼き鳥の中でもひと際人気だった。いつもは1本の串に3個だけど、1個増量キャンペーンを展開したりするくらいには。


「困ったなあ、ほんと」

「つくね、おいしいですよねえ」


 遅れてバックヤードに入ってきた後輩の前田さんが話に加わってくる。


「それにしても、これは事件ですねえ」

「前田さんもそう思うかい?」

「はい。でも先輩なら、犯人を突き止められるんじゃないですか?」

「え、私?」


 なんで私?


「先輩、この間も万引きの常習犯を見つけてつかまえてたじゃないですか。その推理力があればこの難事件も楽勝ですよお」

「おお。そういえばそうだったね」


 前田さんの提案を、店長は名案とばかりに目を輝かせる。


「秋本さん。頼めるかい?」

「ええ……」

「このとおり。ぼくを、この店を助けると思ってさ」


 ぱん、と手を合わせて拝んでくる。涼しげな頭が見える。それが余計に訴えかけてきているようで、この問題が解決しなかったらさらに悲しいことになるのかなと思えてきてしまう。

 なので、私は渋々だがうなずくしかなかった。


「わかりました、考えてみます。でもその代わり、犯人がわかったら今度の飲み会、店長のおごりですからね?」

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