鶏(ニワトリ)転生
四藤 奏人
鶏(ニワトリ)転生
一生を終えて、次の生へと向かう。
転生の回廊は、そんな忙しない魂たちが羽休めをする、唯一にして絶対の安息地である。
輪廻転生を司る神のお膝元にて、この地は時間の流れに縛られず。
全うした生を振り返る者、次の生へと期待馳せる者の、二者が混在していた。
「では、次の方」
次の生へと向かう魂は、白衣の使徒から新しい役割を伝えられる。
ここで伝え聞いたことは、生を受けたと同時に忘れてしまうが、魂が形を成す為には必要な手順であった。
魂には己の形を理解させ、転生先の世界との適合率を限りなく百に近づける必要がある。
それは、あまりに適合率が低いと、闇へと落ちてしまうからだ。
ここにいる使徒たちは、無垢な魂たちが闇へと下らぬように、サポートするのが仕事である。
「我であろうか」
前世への未練を断ち切り、新しい生を望む魂が、使徒の呼びかけに答えた。
「転生をお望みですか」
「ああ。我もそろそろ新たな門出を迎えようと思ってな」
白く輝く光球が言葉に合わせ、発光に強弱をつける。
「では、さっそく手続きに入らせて頂きます。こちらへどうぞ」
使徒に魂が案内されたのは、転生の間と呼ばれる場所だった。
転生の回廊とそう変わらなく見える所だが、一つ大きく違うのは、最奥に大きな扉があることか。
「発表します。あなたの来世は――」
新しい生を目前に、魂はもう一度前世を振り返る。
ここへ来る前は、鳳凰として一国を守護し、世界の邪悪にも打ち勝ち、世界の平和に一躍買った神獣であった。
かの世界に鳳凰の名を知らぬ者はおらず、その名を聞けば、そんな悪も尻尾を巻いて逃げていく。
来世はどんな生を受けるのか。
魂が脈打つように点滅する。
「
言い渡されると同時に、魂の点滅は、強と弱の丁度中間で停止した。
「鶏とな。あの赤い鶏冠と白い羽毛の鳥か?」
「はい。その赤い鶏冠と白い羽毛の鳥です。ちなみに、あなたは雄鶏ですので卵は産みません」
「そうか。我も雌鶏ではないような気はしておったぞ」
「相違が無くてよかったです。それでは早速、あちらのゲートをくぐって転生を行いましょう」
使徒が先行し歩き始める。
「待つのだ」
それを、来世鶏の魂が制止する。
使徒は魂に背を向けたまま、あからさまに面倒臭そうな顔をしたかと思えば、振り返った時には満面の笑みを浮かべていた。
「どうしましたか?」
「前世の我は、鳳凰であったのだぞ」
来世鶏の魂は、寝室を仄かに照らすダウンライトのような、暗めの落ち着きのある光度で語り始めた。
「我は、かの世界で神獣と呼ばれておった。災厄を退け、世界に繁栄をもたらしたた後も、その名に恥じぬよう尽力し続けて来たつもりだったがな。来世が家畜とはあまりに酷ではないか」
「その節は、多くの闇を払い魂の帰還にご協力してくださったこと、本当に感謝しております。お上も大変喜ばれておられましたよ」
「であろう。ということは……のう?」
来世鶏の魂は、使徒のすぐ傍まで詰め寄ると、含みのあるぼんやりとした発光で迫った。
使徒は、表情を変えず笑顔のまま、口角の両端をさらに上げた。
「そうですね。では一つ情けとして、転生後の近い未来をお教えしましょう」
「まあ、よい。申してみよ」
来世鶏の魂は使徒から少し離れ、先の言葉を待つ。
使徒は、一度息を溜めてから。
「焼き鳥です」
一語一句、丁寧に発した。
「……なんと?」
「ですから、焼き鳥です。あなたは近い未来、焼き鳥になります」
来世鶏の魂の光が、消えかかった蝋燭のように弱々しいものになる。
「や、焼き鳥とは、あの……、あのあれなのか!?」
「もも、むね、ささみ――」
「や、止めないか!」
「ねぎま、つくね、手羽――」
「止めろと言っておるぞ!!」
叫び声を上げながら強弱に激しく点滅する魂は、その余波で今にもバラバラになりそうな危うさだった。
使徒はそれをなだめながら、転生の間の最奥へと誘う。
「大丈夫ですよ。ここでのお話は、転生すればすべて忘れますから」
最奥へとたどり着いた使徒は、来世鶏の魂をゲートの前へと招き、少々強めに押し――送り出した。
「あ、でもたまに覚えてる人もいるんですよね。あなたはどうか知りませんけど、それはそれで幸運なことなんですよ。もしそうなったら、前世の知識が役立つと良いですね、鶏さん」
ゲートを見つめながら、使徒は今日一番の笑みを浮かべていた。
次回予告
「転生したら近い未来焼き鳥になる予定の
お楽しみに!
※上記の内容は執筆いたしません
鶏(ニワトリ)転生 四藤 奏人 @Sidou_Kanato
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