インスタントフィクション
阿布岐
『失物』
「失物出でず」
吉のおみくじにはそう書かれていた。
他にも何かと書かれていたが、私の眼はその5文字に集中していた。
隣の女性が大きな口を開けて
「大吉だ!!」
と喜んでいる。
後ろの子どもは口をぎゅっと結び、そのあと
「末吉・・・」
とつぶやき悲しんでいる。
前にいる男性は口を半開きにし
「まじで凶だ」
と驚きを隠せずにいる。
それを見た男女が右の口角をあげ
「なにあれ~」
とこそこそ悪い笑顔でさげすんでいる。
私はその場にたたずみ、おみくじを見ている。
「まぁいいか」
と我に返り、おみくじを丸めてポケットにしまう。
私はまっすぐ前を向き、きれいな顔でその場を離れる。
山から吹く冷たい風が体温を奪う。
私はそのことに気づかない。気づけない。
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