ヒロインの隣の席の男子に転生してしまった。

福神漬け

プロローグ

急な話だけど俺は転生者であり心の声が聞こえる。

別に厨二病とか、精神病を患っているとかではない。

話は俺が生まれる前に遡る。


「ごめーん♪間違えて殺しちゃった〜

 許して、テヘペロン♪」


――この人は大丈夫なのか?


 頭のネジが1、2本外れていると思わなければ理解できない。

 


 今の時代頭がおかしいとか言ったら怒られそうだな。


 個性的な人と言う程でいこう。


  改めて目の前の人物を見ると今の時代、それどころかどの時代の人も着たいとは思わないような、絶望的なファッションセンスをしている。


――随分と個性的な透け透けの謎のうっすい服着ているな。


 もうこれは着ても着ていなくても同じなのではないかとこの世の誰もが思うことだろう。

 だが、この人物にそのことに対して触れたところで、改善するどころか面倒なぐらい絡んできそうな嫌な予感がする。



 服から胸が見えているし、服の機能を成していない。


――警察に捕まらないのだろうか?


 こんな服装で出歩いてる男がいたら真っ先に警察に通報されるはず…。


 おまけに前髪だけワックスでガチガチに固め、某アニメのスネ○のようなヘアスタイルときた。


 「お巡りさんー!!

 ここに不審者いますよ!

 早く捕まえてくださーい」

 と言われること間違いなし、たとえ警察が出す不審者の模範解答として掲載されても弁解はできない。


 普通の感性を持ち合わせている人ならばこんな格好はまずしない。


 これは確定、絶対に頭のおかしい人だ。

こういう人は相手をせず無視するのが一番の得策。

 下手に刺激して刺されたりしたら困る。



――キーン――


突然頭の中に鈍い金属音が鳴り響き、頭痛を起こす。


うっ  刺される?

…そうだ俺は…刺されたんだ。

じゃあなぜ俺はここにいる。


「黙って聞いてれば、

 私のこの服とヘアスタイルは最先端だ!

 私がおかしいのではない!

 お前がまだ私の領域に到達できていないだけだ!

 馬鹿にするのも大概にしろ!」


――やっぱり、頭のおかしい人だ。


「そんな憐れんだ目で私を見るな!」


変な人に構ってる場合ではないことを思い出し、自分の現状を聞こうと口を開く。


「そんなことより、僕は刺された後なのだが。

 ここは病院かどこかか?

 病院ならば、精神科ではなく診療科の方に行きたいのだが…」



「ここは病院じゃないよ。

 君は死んで死後の世界に来たのさ。」


 さも当然とばかりに言う男。

 だが、初めて会った。

 しかも変な人にそんなことを言われようと信じられるわけがない。

 むしろこの男への疑念の目が強くなる。


――こいつ話が通じないな。

 おそらくこいつより宇宙人の方が100倍いや、2000倍会話ができるはずだ。

 はぁ、他にもっと会話ができる人はいないのか?



変な男が心外だと言わんばかりに言い返してくる。



「だ か らー!

ここは死後の世界だつーの!

どこ探したって君と私以外人なんていないから!

そんなに信じられないなら周りを見てみろよ!」



 周りを見渡すと辺りがモヤのように霧がかっていて、足元を見ると雲のようなふわふわなものの上に立っていることに気がつく。


――なんで今まで俺はこのことに気が付かなかったんだ?


 変な人に目線が行き全くこの自分がいる場所を把握できていなかった自分の視野の狭さに、驚く。


 この状況を理解しようと突っ立ったまま考えていると、どこからかうるさく泣き喚く男の声が聞こえてくる。

 


 どこから聞こえてくるのか耳を澄ませていると、雲の下から聞こえていることに気がつく。



――泣き喚いてる男の声どっかで聞いたことあるな。

 だが聞きづらくて誰だかわからない。


 よく聞こえるように雲に耳を近づける。



――ああ、あいつ俺の部下か。

 あいつを庇って俺刺されたんだっけ。

 そういえばあいつ仕事で失敗した時もビービーうるさかったな。

 黙らせようと叩いたら余計泣いたっけな。

 懐かしいなぁ。


 懐かしい部下の世話係時代の思い出にほのぼのとした気持ちになる。


「うわっ君そんなことしたの?さいてー」


 懐かしい気持ちに浸っていたのに水を差してくる男。


――お前の方がよっぽど最低な人間だ。

 せっかく俺がほのぼのとコーヒーを飲みたい気持ちになっていたのに…。

 でも、俺が死んだことは理解した。


「理解早すぎでしょうが!

もっとびっくりしたり、死にたくないって泣きつかれるの期待してたのに!

つまらないじゃないか!

ぷんぷん」


 何こいつは4歳児の女児がしても痛いことを平然としているんだ?

 普通に感性を疑う。



 それに俺は自分の人生に未練なんてない。

 いつも後悔がないように、全身全霊自分のためだけに生きているからな。

 だから泣きつく必要性を感じない。

 確かに普通の人間なら泣きついてもおかしくはないのかもしれないが、俺は普通の人間じゃない。



 生まれながらに完璧に完成された素晴らしい人間だ!


 あと、泣くのを期待してるとかこの男悪趣味すぎるだろ。



「………。」


さっきまでの五月蝿さが嘘のように黙りこむ男。


「私は…。

君に普通の人の心を持って欲しいよ。」


男の言葉の意図を理解できず、頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。



――どういう意味だ?

 完璧の何が悪いのだろうか。

 俺への妬みか?

 そうだよな、そんな格好をしてるぐらいだもんな。

 俺みたいな完全無欠な人間がいたら妬んでしまうよな。

 うんうん、下々の気持ちはわかるよ。



――だいたいこの男が言う『普通』とはなんだ?



 社畜時代に上司に反抗して争うことで強固となった自分の考えをここぞとばかりに言う。


 なぜ俺がこの男の『普通』にとらわれないといけないんだ。

 俺のことを決められるのは俺以外いやしない。

 いや、作らせはしない!

 俺以外の人間が俺を動かそうと思うな。

 俺を変える前に先にお前が変るべきだ。

 俺よりも優れていると思い勝手踏ん反り返るな、見下すな。



「君は随分と捻くれているんだね。」



――なんなんだこの男は。

 ここで俺の心を聞いて何になる?

 この男になんのメリットがある。

 俺は死んだのだろう?

 ならノロノロと話なんてしていないでささっと終わらせるべきだ、仕事が滞るだろう?



「それは無理な話だ。」


――この男、俺のアドバイスを無下にしやがった。


 そうか、わかったよ。

 そんな権限は持っていないんだな。

 この頭のおかしい男はひら社員あたり、いやひら社員でももっと仕事ができるな。

 この男はポンコツって言う役職か?

 とりあえず、もっとしっかりした人「呼んで来い。


「私はポンコツでもないし

 ひらでもない!」


 そうかポンコツですらなかったんだな。

 もっと下の階級…。

 名前はゴミ、塵あたりか。


「ちがーう!

私は神様です!

ふふん。崇め奉っても良いのだぞ?」


 胸を張り、全身から褒めろと言わんばかりの態度に神々しさを一切感じられない。


――けっ、こんな神様いてたまるか。



「ごめんね〜

 君にはどうしようもできないと思うけど、神様なんだ〜

 何の力もない君じゃ私のこと非難するだけで何もできないよねwww」


 ここぞとばかりに煽ってくる男の話し方が鼻につき俺の苛立ちを募らせる。


――よし、呪おう。



「ちょっと止めろよ!

 神様は呪いとかには弱いんだよ!

 てか、何でお前の心を読んでるのに驚かないんだよ!

 もっと私のことを畏怖して尊敬しろよ。

 あと、ちゃんと口に出して話せよ!」


 随分と我儘な事象神だな。

 それに俺は話さなくても通じるのであれば話さなくてもいいと思ってる。

 話すだけでも人間はカロリーを消費するのだ。

 すなわち疲れる。

 俺は無駄な消費と疲れること及び面倒なことが大嫌いだ。




――…ちょっと待てよ?

 こいつ「間違えて殺しちゃった♪」って言ってなかったか?


 ツッコミを入れるのが忙しすぎて流してしまったが、決して流してはいけない言葉を男の胸ぐらを掴みながら問いただす。


「それは…。

 なんか世界つまらないなって思って

 ちょっとしたアクシデント?みたいなことがあったら面白いかなぁみないな。

 …別に人を殺そうとしてたわけではないんだよ。

 ただ偶然君が刺されちゃって勝手に死んじゃったってだけで…。」


――どうしようもないゴミだ。

 こいつをゴミと呼ぶにはゴミに失礼だと思えてくる。

 てか、ゴミはゴミ箱に入るって習っただろ。

 習ってないんだったら今、俺が教えてやるからゴミ箱に入れ。

 そしてそのままゴミとして焼かれろ!



「ゴミじゃない!

 それにわざとじゃないもん!」


 わざとじゃなくても警察に捕まるのが普通だろ。

 そんなこともわからないのかこのゴミ。

 それに勝手に人の心読むとか気持ち悪いのだが。


「勝手に聞こえてくるんです〜

 私だって聞きたくないわ!

 まあ、君にはこの苦しみは一生わからないだろうけどね!!」


――聞いといて被害者面か?

随分と気色が悪いですね!


「だいたい!

 君が話さないのが悪いんじゃないか?」


 自分の非を認めることができない人間は成長できないぞ。

 ふっゴミに成長なんてなかったな。

 まあ強いて言うなら塵…あたりか?

 ああ、これは成長ではなくて後退だったかw


「私をおちょくるのもいい加減にしろ!!」


男がした口調と真似て男を全力で煽る。


おちょくったように聞こえたんですか?

これでおちょくったように聞こえたのなら随分と最近のゴミは単細胞ですねー


「そうだ。

 そんなに言うなら君にも心の声が読めるようにしてあげるよ。」


 ゴミがそう言いながら気持ちの悪い声を出す。

 絶対にいいことを考えていない筈だ。

 悪い予感しかしない。


「そんなこともないさ。

 良いか悪いかは君次第だよ。

 もう…時間がないな。」


 塵が時計を見る仕草をする。

 その時計の文字盤にはよくわからない白い生命体が描かれている。

 異様に目はでかくて青く光る生命体の時計は改めて塵のセンスのなさを表しているようだ。


――これまた奇抜な時計だな

 自分で絵を描いたのか?

 相変わらずセンスが悪い。



「元々私はつまらなかったから事件を起こしたんだ。

 ただ君はそれに巻き込まれただけの人間。

 だけど、このまま君が死んでしまったら勿体無いじゃないか?

 せっかく私がわざわざ事件を起こしたのに、エコじゃない。

 だから君には転生をしてもらおうと思うんだ。

 最後まで私を楽しませてくれよ?」


 塵が自分の謎理論を俺に半ば押し付けるように話す。


 ちゃんと声を出さないと塵には届かない気がして塵と今会ってから初めて声を出す。


「おい、待て!」


「君…初めて話したね。

 その方がいいと思うよ。」


 意識が途切れる前、塵が少し喜んでいるような気がした。


 僕は転生してすぐに捨てられて孤児になった。


 名前も付けられていない孤児に。

 だが、ひとつだけ能力がある。


(空からカッコいい騎士様降ってこないかな〜)


( 妻に愛妾の子どもがいるってバレた。

 どうしよう、抹殺される。)


(みんな死ねばいいんだ。

 なんで俺そんなことも気が付かなかったんだろ)


(今通った男の子タイプだな〜ちょっと遊んでやるか)


「ねぇ君、ちょっとお姉さんと遊ばな〜い?」


いきなり話しかけてくる、馴れ馴れしい女性の横をスッと通り抜ける。



(チッ 無視かよ。

 ちょっと顔が良いくらいで調子乗ってんじゃねーよ!

 貴族でもないドブのガキが!!!)


 そう、人の心の声が聞こえるというなんとも使えない能力だ。

 こんな声が聞こえて普通に生きろとは無理な話だ。

 あの自称神(塵)は言うこととやることが全く違う。

 アイツ絶対仕事できない。

 そしてもし今度アイツに会う機会があったら5.6発殴る。


 俺は一生許さないし、ずっと覚えて粘着してやるからな!








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