料理名の境界線
熊坂藤茉
焼き鳥の境界線
「ふざっけんなそれは焼き鳥とは言わねえ!」
「焼いた鳥を焼き鳥って言うんだから間違ってはねーでしょ何言ってんの!」
「いや何言ってんのはこっちの台詞だが!?」
リビングに響く諍いの声。なんだなんだと見に行けば、いつもの通りに姉二人がやんややんやと揉めていた。大変見慣れた光景なのでココアでも飲みつつ仲裁するとしよう。
「今日は何で揉めてるのさー」
「「こいつの料理の定義!!!」」
きしゃーと吠える二人をどうどうと宥めつつ、レンジで温めたミルクにココアの粉を投入する。本当は練りココアした方がおいしいんだけど、楽な方を使っちゃうよね。だって人間だもの。
「では言い分を聞こう。まずはそっちから」
ココア片手に姉そのいちの発言を促す。さて一体何があったのやら。
「焼き鳥は串打ちして直火焼きしたもんにタレとか付けるもんだからそうじゃねえ焼き鳥は認めねえ!」
存外くっだらねえ火種であった。
「はい次こっち」
というわけで姉そのにの言い分はこうだ。
「焼き鳥は焼いた鳥を指すんであって焼き鳥のタレ付けて焼いた鳥なら普通に焼き鳥ですぅー!」
煽るな煽るな血を見るぞ。前々回だったかに、かき氷の定義で揉めて終いにゃ氷で殴り合い始めてマジでアレだったの忘れたのかこの人ら。
「うーん平行線。そもそもなんでそんな話に?」
「夕飯は焼き鳥が食べたかったのに、焼き鳥のタレ掛けたフライパン調理の奴出された」
「焼き鳥買うより安くていっぱい食べれるから喜ぶと思ったのに、なんでかめちゃめちゃ文句を言われた」
こいつら部屋で仕事してた自分抜きで夕飯喰ってやがる。見れば皿の上には数切れの肉が載っていて。え、これこっちが怒っていい奴では? いやでもめんどくさいことになるからいいか……畜生秘蔵のカスタードベイクドモチョモチョ喰ってやる……。
「うーん。所でこの焼き鳥(仮称)だけどさあ、綺麗に照りが出てておいしそうだよね」
「でしょー!?」
指摘すれば姉そのいちが鬼の首を取ったかのようなテンションで笑顔を見せる。うんうん、事実は事実として伝えた方がいいからね。
「それは認める。実際美味かった。けど焼き鳥食べたい欲が満たされるワケじゃねぇー!」
喰ってから文句言うのずるくない? 知らんけど。こっち食べてないし。
「なるほどなるほど」
「だから私はこんな上手く作れたのを認めないなんて許さ」
「つまり鳥の照り焼きでは?」
「…………」
「…………」
「鳥の、照り焼きなのでは?」
広義では焼き鳥でいいとは思うけど、これ絵面的にどう見ても照り焼きなんだよなあ。作ってる時に気付かなかったのか。気付かなかったからこうなんだろうな、可哀想に……。
「……う、嘘だぁー!」
くずおれる姉。ガッツポーズを取ったのちにコンビニに焼き鳥を買いに走って行った姉。ココアを飲む自分。
ある意味日常風景なそれを、穏やかに受け入れる。
うん、我が家は今日も平和なようだ。
料理名の境界線 熊坂藤茉 @tohma_k
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