#55 バッキーの謝罪と涙の握手



「う、うん・・・あのね!ケンピくん! 陸上部でのこと、本当にごめんなさい!」


「むむ」


 ワラシと八田さんは、頭を下げているバッキーを見てから俺に視線を向けて来た。



「私、ずっと自分のことしか考えてなかった。 1年の時だって、陸上部でマネージャーしながら自分のことばかり」


「ちょっと待って。 俺は別に謝って欲しくて今日誘った訳じゃないぞ? ただ仲直りしたかっただけなんだ」


 俺がバッキーを止めようとすると、八田さんとワラシが俺を宥めるように話してくれた。


「ケンピくん。ここはアキちゃんの話聞いてあげよ? アキちゃんだってこれからケンピくんと仲良くするのにケジメ付けたいと思うし、ね?」


「うん、まぁそう言われればそうかもしれんけど」


「ケンピくん大丈夫。ケンピくんの気持ちを分かった上でバッキーは謝りたいんだよ」


「ワラシまでそう言うなら、ちゃんと聞くけど」



「みんな、ありがと。 それでね、陸上部の事が問題になって、私たちが退部処分になってね、独りぼっちになるまで全然分かってなかったの。 私、ずっと周りからチヤホヤされてて、何かあっても周りはみんな私の味方になってくれる。私が嫌われることなんて無いって勘違いしてたの。 当たり前の様にそう思ってたから、教室で真中くんに「性格悪い」って言われても、私のドコが?って全然理解出来なくて。 でもそれからすぐに周りからハブられるようになって、教室で誰かに話かけてもみんな無視するし、初めて不味いことになったって分かって」


「その辺りは、俺も真中から聞いてるよ」


「うん、それでなんとか元通りに戻したくて、ケンピくんを頼ろうとしたの。 ケンピくんが真中くんに注意してくれたら元に戻るって思ってたの。 それもケンピくんに拒絶されて、そのあと陸上部の事が問題になって、先生に呼び出されて調査されて退部になって、クラスだけじゃなくて学校中からハブられて、それでようやく気が付けたの。 私は調子に乗り過ぎてたんだって。こういうところが性格悪いって言われるだって」


「先生からも「人を見下したり馬鹿にしたりするな」って何度も注意されて、そんなつもりじゃなかったって言っても、私がそう思ってても周りからはそう見えてたんだって気づかされて。 でも気が付いた時には手遅れで、クラスじゃもう誰も私の相手してくれないし、諦めるしかないって思ってイジけてて」


「でも、キャンプの時にシズカちゃんが声掛けてくれて、ボランティアの時は3人が私を輪に入れてくれて、最初は何か言われるのかな、怒られるのかなって怖かったけど、3人とも全然そんなこと無くて、特にケンピくんなんて私のこと嫌いなハズなのに、仕事中とか気を使ってくれてるのが分かって、今日誘ってくれたのも、ケンピくんが言い出したことだってシズカちゃんから聞いて、嬉しかったけど、申し訳ない気持ちもあって、ホントに私行ってもいいのかな?って迷ってて」


「そうだったのか。もっと軽い気持ちで誘ったつもりだったんだけどな。プレッシャー与えちゃってたか」


「ううん、そんなことないよ。私が卑屈になってただけなの。 それでシズカちゃんに電話で相談したりして、シズカちゃんから全部聞いたの。 陸上部退部した時のケンピくんの気持ちとか、真中くんに怒られた後、私がケンピくんに縋ろうとしてた時のこととか、キャンプの時もケンピくんから頼まれて声掛けてくれたとか、ケンピくんは私が独りぼっちで寂しい気持ちが分かるからほっとけないって言ってくれてるとか」


 八田さん、マジで全部バラしてんのかよ。

 ギロリと八田さん睨むと、下手くそな口笛吹く真似して惚けてる。


「だからちゃんと謝って、それとお礼が言いたかったの。 今までごめんなさい。それと今日はありがとう。シズカちゃんもフミコちゃんも、私のこと仲間に入れてくれて、ありがとう」


「まあ、うん。そうだな。 こういう時、なんて答えればいいんだ? ブサイク人生でこんな経験が無いから、俺にはわからんぞ?」


「もう!ケンピくんらしくない! こういう時は、気にすんな!これからは仲良くしよーぜ!でしょ?」


「だそうだ。よろしくな?」


「うん・・・」


 俺が右手を差し出して握手を求めると、バッキーは両手で俺の手を握り、涙をボロボロ零しだした。


「ぐ、またこのパターンか!? 女の子に泣かれるの困る! 頼むから泣かないで?」


「うん・・・」


「よかったねアキちゃん! これで本当に仲直りだね!」


「うん」


「相変わらずのケンピくんのイケメン対応に私はすでにビチョビチョ」




 バッキーと仲直り出来たことは、やっぱり嬉しかった。


 それに、今回も裏で八田さんに助けられてたし、ワラシがバッキーと俺の背中を押してくれた。

 俺は一人だったらこうはなれなかったと思う。

 やっぱりワラシと八田さんが居たからこそだろう。



「バッキーもビチョビチョでしょ? ケンピくんイケメン過ぎて私もう我慢できない」


「え?ビチョビチョ?何の話?」


「アキちゃんダメ!フミコちゃんのシモネタに惑わされちゃ!」





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