#09 井上家の血筋



 ワラシの家に着き、昨日と同じようにお店に顔を出してお母さんに挨拶すると、ワラシは「着替えて来るからケンピくんココで待ってて」と。



 くっ、一人で置いて行くなよ

 お母さんと何喋ればいいんだよ

 これは後で抗議しなくては



 そんなことを考えていると、お母さんから


「いつもフミコと仲良くしてくれてありがとうね。ケンピくん小学校のころからフミコのこと助けてくれてたんだよね。あの子、自分じゃ言わないけどずっとケンピくんのこと好きだったのよ。バレンタインとかもチョコ用意してたのに毎年渡せなくていつも落ち込んでたの。でも来年のバレンタインは大丈夫そうね。うふふふ」


「え?あの・・・その・・・」


「あら、ごめんなさい。おばさん嬉しくてついついお喋りしすぎちゃった。ケンピくん座って座って。飲み物コーラでいい?」


「あ、お構いなく。フミコさん待ってるだけなんで」


「いーからいーから」


 そう言って、カウンター席に無理矢理座らされた。


 もちろんバレンタインの話とか初耳で、しかもそれをカノジョのお母さんから聞かされている状況は滅茶苦茶恥ずかしくて落ち着かなくて、ずっと「ワラシ早く戻って来てくれ!」と念じていた。


 お母さんから出されたコーラには、バニラのアイスが乗ってるコーラフロートで、ちょっと待ってるだけの間に飲み切れる量じゃなくて、給食でワラシが盛り付けた大盛り焼きそばの再来の様だった。



 うむむ

 なんだかんだと色々と親子で似ているな。

 これが井上家の血筋か。


 実はお喋りだったり、食べ物とかサービスしたがったりと、髪型だけじゃなくて行動も似ている。





 カウンターに座ってからもお母さんは俺に話しかけてくるから、俺はコーラを飲みながらひたすら相槌を打っていた。


 すると、奥の厨房の様なとこからひょっこりとワラシのお父さんが顔を出した。



「お!昨日サチコが言ってたフミコのカレシか!」



 え?ナニナニ、サチコなに言ったの?

 俺、今から「ウチの娘をキズものにしやがって!」とか怒られちゃうの???



 とりあえず印象良くしないとって思い、慌ててイスから立って直立気を付けの姿勢で「お邪魔してます!コーラご馳走様です!」とお礼を言ってから自己紹介もすると、「いや~、フミコには恋愛とかずっと無理だと思ってたからな~、ケンピくんのお陰でフミコも楽しそうだよ!ありがとうな!あ、そうだ!ホットケーキ食べるか?若いお客さんに一番人気なんだよ!すぐ焼くから待ってて!」


「いえフミコさんが戻ったら直ぐ出ますのでお構いなく」って言う間も無く、お父さんは奥に引っ込んでしまい、直ぐにホットケーキを焼く甘い香りがしてきた。


 やたらと食べ物をサービスしようとするところ、やはりお父さんも井上家の血筋か


 こういうのって、一応お金払った方がいいよな。

 飲み物だけならまだしも、これ以上お店の商品頂くのって、カレシの立場利用してタダメシ強請ってるみたいで図々しくてなんか嫌だし。


 生徒手帳に何かあった時用に千円札入れてたから、それで何とか払えるかな・・・


 こういう時、毅然とお断り出来る鋼のハートが欲しい。




 結局ワラシが下に戻って来る頃には、俺の前にはコーラフロートとホットケーキ以外にもお母さんが剥いてくれたリンゴとお父さんが追加サービスしてくれたコーヒーゼリーが並んでいた。



「ケンピくん、お待たせ!カレシのお家に遊びに行くからにはちゃんとシャワーも浴びた方が良いかなって思ってお風呂入って来ちゃった。下着も上下お揃いの特別な時用のなんだよ。ぐふふふ」


 戻って来たワラシはお風呂上りだからか良い匂いがしていた。

 そんなワラシが色々話していたがスルーして、縋りつく様に助けを求めた。



「ワラシ、助けてくれ。俺こんなに食べきれないよ」


「へ?こんなに注文したの?」


「いや、注文してないし。お母さんとお父さんが出してくれた。俺お金少ししか持ってないから、あとでウチで渡すよ」


「いーよいーよお金は! もうママもパパも出し過ぎ!今から出かけるところなのにこれじゃあ出かけられないじゃん!」


「男の子だしいっぱい食べると思ったのよ~」


「もう! ケンピくんお金はいいからね?ママとパパが勝手に出したんだから」


「いや、そういう訳には・・・」


「それより早く食べて行こ?」



 結局、ホットケーキはワラシがほとんど食べた。

 俺はコーラフロートとコーヒーゼリーでもうお腹いっぱいだった。

 リンゴはワラシがお母さんに無理矢理食べさせていた。


 俺が使ったフォークやストローをなんの躊躇もせずに口を付けるワラシに、ちょっと嬉しかったけど、恥ずかしいから口では何も言わずに頭をナデナデしておいた。

 俺みたいなブサイクが使ったフォークとか、普通の女子ならバイ菌扱いだしな。気にしないで使ってくれるのなんてワラシだけだと思う。


 そんな俺たちを見たお母さんは、「ホント仲良しなのね。うふふふ」と嬉しそうにニコニコ笑っていた。




 結局、ワラシの家に来てから1時間以上経過してしまい、今日は俺んち行くと遅くなるから止めておこうかってなった。


 代わりに、明日は土曜日だから明日俺んちで勉強会をすることにして、この日はお店の席を借りてこのままココで勉強をすることにした。




 しばらくカウンター席で並んで座り肩寄せ合って宿題をしていると、サチコが帰って来た。



「あ!ケンピくん今日も来てるじゃん!二人ともそんなにいちゃいちゃしたいの?若いなぁ~」



 サチコ、一言目からうぜぇ



「こらサチコ!フミコたちは真面目にお勉強してるんだから邪魔するな!」


 お? お父さん、ナイス!



 この日はお父さんがサチコを追い払ってくれたお陰で、ワラシもサチコとケンカすることなく平和に勉強が出来た。





 6時を過ぎると外も暗くなったので、帰ることにした。


 お店の外に出ると、ワラシの服装を褒めた。

 今更だけど、お店の中だとお母さんとお父さん居るから恥ずかしくて言えなかったんだよ。


 ワラシの服装は、ブラウンのノースリーブのワンピースで、髪型はヘアピンで留めておでこと耳を出していた。



「今日のワラシ、可愛い。やっぱりオシャレした方が良いと思うぞ」


「ほ、ホント!?社交辞令とかじゃない???」


「うん、本音だよ」



 俺がそう答えると、ワラシはこの日も俺に抱き着いて来た。


 俺の胸に顔を埋めながら「ぐふふふ」と相変わらずいやらしい笑い声を零すワラシの頭をナデナデしてから、「明日10時に迎えにくるな。今日はご馳走様」と言うと、ワラシは俺から離れてくれて「また後でメッセージ送るね。おやすみなさい」と言うのを聞いてから、「おやすみ」と言って俺は帰った。






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