#08 二人のハグ



 結局このあとは、勉強らしいことは何もしないままワラシとお喋りして過ごした。


 気が付くと、外がそろそろ暗くなり始めた6時頃、ワラシのお母さんが「ケンピくん、夕飯食べて行ったら?」と声を掛けてくれたけど、「すみません、もう帰ります」と慌てて帰る支度を始めた。


 ワラシは「えー食べて行ったらいいのに」と残念そうに言ってくれたけど、流石にお付き合いして日が浅いのにそこまで図々しいことは出来ない。 そもそも、ご近所と言えなくもない地元同士なので、親同士も名前くらいはお互い知っているだろうから、親御さんに悪いイメージもたれない様にこういう時は遠慮しておくべきだろう。


 因みに、後で聞いた話では、お母さんは俺の事を嫌っていた訳じゃなくて、ワラシが男の子を連れて帰ってきたことにビックリしすぎただけらしい。 後で夕飯のお誘いしてくれた時は、とてもニコニコして優しかったし。



 上着を着て帰り支度を終えて「んじゃ帰るな。今日はありがとうな」と言って帰ろうとすると、ワラシも「外まで見送る」と言って一緒に外まで付いて来た。



「じゃあな、また明日学校でな」と行って帰ろうとすると


「――フミコハハグノスキルヲシュトクシタ――」


 むむ

 また始まったぞ、と思ってワラシの方へ振り向くと、ガシっと抱き着いて来た。




 すげぇ

 人生で初めてだ、女の子に抱き着かれたの

 コレは感動するな



 抱きしめ返したいけど、自分から女の子の体(特に胴体とか)に触れるのが怖くて、ドキドキしながらもいつもの様に頭だけナデナデした。



「ワラシ、大胆だな。でも離してくれないと帰れないんだけど」


「だってぇ」


「ワラシって甘えん坊だね。そういうところ可愛くて好きだよ」


「ケンピくんがまたイケメン発言・・・余計放したくなくなる・・・」


 更にぎゅうっと抱きしめる腕に力を込めて来た。



 ブサイクと地味子のしっとりとしたラブシーン。

 ハタから見たら、滑稽かもしれない。


 でも、俺もワラシも大真面目だ。

 お互いが好きで愛おしいっていう気持ちは本物だろう。



 そうだ

 俺はもう既にワラシのことを愛おしくなっているんだ。



 愛おしいワラシの体を抱きしめ返そうかどうしようか悩んでいると、二階の窓から「ひゅ~ひゅ~!熱いねお二人さん!」とお姉ちゃんの揶揄う声が聞こえた。



 サチコ、糞うぜぇ



「ん~~もう!」


 ワラシは怒りながらもようやく俺の体から離れた。



 辺りはもう真っ暗になっていたので「じゃあな、また明日な。 おやすみ」と言って慌てて帰った。










 翌日も、給食の後のお昼時間に図書室で待ち合わせて、今後の勉強会のことを相談した。


 この日になると、昨日までの彼女が出来た喜びとか興奮は少し落ち着いてて、冷静に今後のことを考えられるようになっていた。



「ワラシの家は、サチコが居るからしばらく止めてたほうがいいかもな」


「うん、昨日もケンピくん帰ったあと散々文句言って怒ったんだけど1ミクロンも反省してなかったよ。 お姉ちゃん自分が恋人出来たことないから私のことが羨ましくて僻んでるんだと思う」


「サチコ、空気読まなくて超ウザいもんな。モテないブサイクな俺でも流石にサチコはノーサンキューだわ」


「とりあえずテスト勉強は、放課後図書室でする?」


「う~ん、だったら俺んちに来てみる? ウチも弟居るけど、サチコに比べれば大したことないし」


「ケンピくんのお家!行く行く!」


「んじゃ決定な。 学校から直接行く?それとも一度帰る?」


「一回お家に寄って貰ってもいい?」


「おっけ。じゃあ今日も一緒に帰るか」







 そして放課後



 HRが終わりワラシに視線を向けると、ワラシは俺に向かって無言で頷いて先に教室を出て行く。


 後を追い駆けようと少し遅れて教室を出ようとすると、友達の石垣に「一緒に帰ろうぜ」と誘われてしまう。


 が「用事あるから今日はスマン」と断って、そそくさと教室を出てワラシを追い駆ける。



 下駄箱で慌てて靴を履き替えて玄関口を飛び出すと、先を歩くワラシを見つけホッとする。


 そのまま距離を取るように校門まで歩いて行くと、ワラシは校門の外で待っていてくれた。


「お待たせ」の意味を込めて片手を挙げてワラシの所に行くと、ワラシも歩き出した。




 昨日も一緒に帰ったが、色々話し合って、一緒に帰る時は今日みたいに教室を出るのを少しズラそうってことになった。


 やはりワラシは周りから注目されるのが怖いらしい。

 俺は昨日までは彼女出来て嬉しくて浮かれていたけど、やっぱりワラシのそういう気持ち聞くと冷静になれて、あからさまな行動は慎もうってことになった。 まあ、交際してるのを隠すというよりも、自分たちから進んでオープンにすることもないよねって感じ。


 それでも、こうやって帰り道を一緒に歩けるのは、俺は嬉しい。


 もし知ってる誰かに見られても「家が同じ方向だからたまたまだよ」っていう言い訳も出来るし、問題ないだろう。



「ケンピくん、いつもは友達と帰ってるよね」


「ああ、今日も石垣に誘われたけど断った」


「昨日も今日も私とで良かったの?」


「そりゃワラシのが先に約束してたし。それに先じゃなくても石垣よりワラシのが最優先だし」


「もう!またイケメン発言!」


「コウカンド上げて早く俺もハグのスキル使えるようになりたいしな」


 ワラシは、ぐふふふってやらしい笑みを浮かべた後、歩きながら目を瞑って

「――ケンピノコウカンドガ10アガッタ。ケンピハアラタナスキル”ハグ”ヲシュトクシタ―—」と教えてくれた。


 しかし、ワラシは目を瞑っていたせいで、電柱にぶつかりそうになり、慌てて俺が抱きしめて回避した。



 早速ハグのスキルが役に立った。



_________________


いつもご贔屓にして頂きまして、ありがとうございます。

ストックに余裕が出来てきましたので、少しだけ更新ペースを上げようと思います。


毎週土曜と水曜日は1日2話(7時と17時)更新します。

他の曜日は今まで通り1日1話(7時)の更新となります。









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